銀ちゃんの愛する女の子
おいしい牛乳(恋人)
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【(14)銀のたま】
時刻は朝9時、牛乳配達を終えた***が万事屋の引き戸を開けたと同時に、事務所の電話が鳴った。
最近の万事屋は何かと忙しい。新八と神楽は、以前からストーカーに付きまとわれて困っている依頼人の警護に出払っていた。銀時と***だけの万事屋で2回電話が鳴り、2本の依頼が立て続けに入った。ひとつは迷い猫を探してほしいという依頼で、もうひとつはパチンコ屋の新装開店に代行で並んで台を確保してほしいというものだった。
「へ~い、了~解~。報酬は後払いっつーことで、よろしく頼むわ」
どちらの電話にも、銀時は気の抜けた声で同じ返事をした。いま万事屋には銀時しかいないのに、ふたつの仕事を引き受けているのを見て、***は首をかしげた。
「いや~、今日はめっさツイてんなぁ~。金もらって新台打てるなんて最高だろ。あそこのパチ屋の新装開店、前から気になってたんだよねぇ。あぁ~、なぁんか今日の銀さん結構いいかんじだわ。こりゃこないだよりもでっけぇのが来ちまうかもなぁ。結野アナの限定フィギュア、保存用と観賞用どっちも買えちまうかもなぁぁぁ。じゃ、***、俺ちょっとパチンコ…じゃねぇや仕事行ってくっから、留守番たのんだぞ」
「ちょちょちょちょっと銀ちゃん、待ってください!猫は!?猫を探す方が優先でしょ!?まさか先にパチンコに行くつもり!?」
「はぁ?何言ってんだよ***、パチ屋が先に決まってんだろ!新台の数は限りがあんだ。今すぐ行って並ばねぇと他のヤツらに取られちまうっつーの!猫なんか後だ後!どーせ報酬は後払いなんだし、玉打ってから探したって遅かねぇだろ。ったく、そんな焦んなよ***~。ギャンブルの神様が銀さんを呼んでんだから、お前も彼女なら‟頑張ってね銀ちゃん”くらい言って、笑顔で見送ってもいいんじゃねぇの~?」
「見送れるかぁぁぁ!パチンコの台はいくつもあるけど、猫の命はひとつですよ!?今まさに危険な目にあってるかもしれないし、飼い主さんはすごく心配してます!それでも猫より、パチンコの方が大切だって言うの!?」
言っている合間にも銀時は歩きはじめ、廊下を進んでいく。背中に垂れた右袖を後ろからつかんで、***は必死で引き留めた。しかし全体重をかけて引っ張っても、まるで子供が大人にすがりつくように、ずるずると引きずられる一方だ。肩越しにちらりと振り返った銀時は笑っていて、見下されたような気がした***はカチンときた。
引き留める***の力なんて無いも同然のように、玄関に辿り着きブーツを履いた銀時が引き戸に手をかける。裸足のままで***はたたきに降りると、後ろから銀時の腰に両腕を回してしがみついた。
「銀ちゃん!本当にパチンコに行くんですか!?じゃあ私が猫を見つけて、報酬横取りしちゃうからね!?それでもいいんですか!!?」
「はぁぁぁ!?な~に馬鹿なこと言ってんだお前はぁ!こないだまで入院してた病み上がりが、猫探しなんざできるわけねぇって!またお前にぶっ倒れられたら、猫さがしどころか***さがしで大騒ぎするハメになるっつーの!」
「じゃ、じゃぁ、私がパチンコ屋さんに並ぶから、銀ちゃんがさがしに行ってくださいよぉ!!」
「オイオイオイオイ***ちゃぁ~ん……自分の彼氏の気持ちぐらい、もうちょっと分かってくれる~?この銀さんが自分の彼女をパチ屋になんて並ばせるわけねーだろ。いいか***~、朝っぱらから玉打ちに行くような奴っつーのは、ロリコンで欲求不満のクソ野郎なんだよ。んなところにお前が行ってみろ。やらしい男どもに舐めまわすみてぇにジロジロ見られて、今夜のズリネタにされるに決まってんだろ。銀さんだってしたことねぇのに、他の男に***で視姦プレイさせてたまるかよ!!」
「し、しかっ………!!!」
下世話な理由を聞かされた***は、絶句して顔を真っ赤に染めた。両腕を銀時につかまれ、いとも簡単に引き離されてしまう。そのまま両脇に手をさし込まれ、抵抗もできないまま玄関の段差の上にひょいと戻された。
「んだよ***~、そんなに俺が仕事に行くのがさみしいのかよ~。ガキみてぇにひっついちゃってさぁ~。っとにお前はしょうがねぇな。可愛い***のためにチャチャッと玉出してくっから。パパッと猫見つけて帰ってくっからぁ。いい子で待ってろってぇ。銀さんはちゃぁ~んと***のとこに帰ってくるから、心配すんなってぇぇぇ」
目尻をデレデレと下げ、にやけた顔でそう言うと、銀時は***の頭を乱暴になでた。「やめてよ!」と***が言うのも聞かずに、銀時はぐしゃぐしゃになった前髪をかきあげて、露わになったおでこに唇を寄せた。
「わわっ、なっ……や、やめっ!」
ちゅぅっと音を立てておでこに吸い付いた銀時の唇が、すぐに離れたかと思うと右のほほへ、そして左のほほへ、鼻の頭へと矢継ぎ早に移動していく。ちゅっちゅっと音を立てて顔中に口づけられた。あまりの恥ずかしさに***の顔は湯気が出そうなほど赤く染まり、身動きも取れずに目をぎゅっとつむるしかできない。
「ぎ、銀ちゃんっ、ちょっ、やめてってば!」
「ぶぶっ!!!***さぁ……そーんな真っ赤な顔じゃ、パチ屋に並ぶどころか猫さがしだって無理に決まってんだろ。人間の男だけじゃなくてオス猫だって、そんな顔見たら盛っちまうって。っつーことで、***ちゃんはおとなしくお留守番してなさい!!」
口をぱくぱくとさせて言葉も出ない***を残し、銀時は片手をひらひらと振ると出て行ってしまった。ようやく***が動けるようになったのは、走り去る原付の音が遠ざかってからだった。にぎりしめたこぶしがブルブルと震える。恥ずかしさで朱色に染まっていた顔が、今度は怒りで赤くなっていく。
―――おとなしくお留守番してろ?いい子で待ってろ?なにそれ、ムカつくッ!私に猫さがしは無理って、なんで銀ちゃんが決めるの!?朝からパチンコ屋に行くのはクソ野郎って言ってたけど、銀ちゃんだって朝から行ってるじゃん!私にはあれはダメこれはダメって子供扱いするくせに、銀ちゃんは自由にやりたいことやってる!そんなのズルイよ!私だって立派な大人なのに!悔しい!悔しいぃぃぃ!!!
踵を返して居間へ戻った***は、電話機の横のメモを見る。銀時は取ったメモすら持って行かなかった。猫をさがす気なんてさらさら無いのだ。
「えーとオス猫、名前はタマ、色はグレー、鈴の着いた赤い首輪をしてる……えっ!?せ、生後2か月!?子猫じゃない!!もぉぉぉ~!銀ちゃんの馬鹿ぁぁぁ!」
そう叫びながら***は、万事屋を飛び出した。
午前中いっぱい探しても、猫は見つからなかった。野良猫の多い路地裏や広場を***はねり歩いた。すれ違う人に「こういう猫を見なかったか」と聞き込みをしたが、どれも空振りだった。
「タマちゃ~ん、いませんか~?」
野良猫が集まる神社で呼びかけてみたが、目当ての子猫はいなかった。
「う~ん、やっぱりこの辺じゃないのかなぁ……」
気付けば昼を過ぎていて、昼飯用に買ったパンを食べながら神社で休憩する。社殿の階段に座って眺めた野良猫たちは、日向ぼっこをしたり、遊んだりしている。きっとタマちゃんもかぶき町のどこかで元気でいるはずと、***は自分に言い聞かせた。
「まさか……ひどい目にあったりしてないよね」
コッペパンをかじりながら、ふと不安になる。いたいけな子猫が傷つけられている姿が浮かんで、慌てて頭をぶんぶんと振った。
「タマちゃぁ~ん……どこにいるのぉぉぉ?」
空を仰いで***がなげいた直後、頭上でガサガサと音がした。階段の横の大木の枝が揺れ、枯葉が落ちてくる。それに続いてかすかに鳴き声が聞こえた。
「ニャァァ~ン、ミャァァン……」
「えっ!!?」
ぱっと立ち上がった***は木を見上げた。耳をすますと確かに子猫の鳴き声する。駆け寄ってみたが枝葉に隠れて猫の姿は見えない。
「タマちゃん!?タマちゃん、そこにいるの!?もしかして……降りられなくなっちゃったの!?」
「ニャア!ニャァァァン!」
「ちょっと待ってね!いま助けるから!ひ、人を呼んでくるから……あっ!!」
助けを呼ぼうと木から少し離れたところで、***の目が子猫の姿をとらえた。その瞬間、一歩も動けなくなった。
片手で持てそうなほど小さな子猫だった。赤い首輪の鈴がリンと鳴る。毛色はグレーよりも白に近かった。揺れる枝の上で震えてる子猫に木漏れ日が降りそそいでいた。ふわふわの毛並みがキラキラと光り、***には銀色に見えた。
「タ、タマちゃん……」
小さくつぶやいた***は、自分でも無意識に木に足をかけていた。自分が高所恐怖症だということは、その時の***の頭からはすっかり抜け落ちていた。
一方銀時は、自分でも無意識に玉を打ち続けていた。賭け事の才能がないことは、いつもどおり銀時の頭からはすっかり抜け落ちていた。朝から並んで打ちはじめたが大した成果もなく、昼には手持ちの金は全てなくなっていた。
「っんだよ~、ちっきしょぉぉぉ!!!」
有り金をつぎ込み、代行の報酬まで使い果たした。無一文になりぼーっと目の前の台を見つめていると、隣の台の親父が銀時に声をかけた。
「なんだ銀さんも来てたのか。この店は前もシケてたが新装しても変わんねぇなぁ~……あ、そういや、ここに来る途中、お前さんの彼女に声かけられたぜ。***ちゃんっつったか。猫を探してるとかなんとか言ってたが、お前さんは手伝わなくていいのかい?」
「あ゙ぁ゙っ!!?***が!!?くそっ……おとなしく待ってろっつったのによぉ~。オイ、ジジイ、どこで見た?アイツ病み上がりなんだよ。ぶっ倒れそうな顔してなかったか?」
出がけに自分を引き留めていた***の顔が、銀時の脳裏に浮かんでくる。躍起になって「猫を探して」と言っていたっけ。廊下を引きずりながら歩いていた時、さながら子猫のようにすがりつく***が可愛くて、顔がにやけるのをこらえるのに必死だった。
―――正直、あんな顔してすがりつかれたら、パチ屋の代行だって行くのやめよっかなって思ったっつーの。でも仕事だし?玉打てるし?なんなら金が増えるしぃ?俺だって大人として、公私混同しねぇように必死なんですよ。苦渋の決断でパチンコ…じゃねぇや仕事に来たっつーのに、アイツは勝手な事しやがって。またぶっ倒れたらどーすんだよコノヤロー!!!
ため息をついて、最後の玉が空振りに終わった台から立ち上がる。財布も軽くなったし、そろそろ潮時だ。
「さぁて……***さがしと行きますか」
大木から伸びた太い枝に膝をついた***は、途方にくれていた。片手を幹につき、もう一方の手で頭上の細い枝をつかんだら、枝先から枯葉がパラパラと舞った。落ちる葉っぱを目で追っていたら、あまりの地面の遠さに眩暈がした。登っている時は必死で、まさかこんなに高い所だとは思わなかった。
―――こ、こんなことなら銀ちゃんの言うとおり、大人しく待ってればよかった……いや、猫を見つけた時点で銀ちゃんを呼びに行けばよかったんだ。自分で登るなんて馬鹿なことしないで……でも、でもぉ~~……
後悔の念にかられながら、胸元を見下ろす。少し緩めた襟の合わせ目の中で、子猫は***の胸にすり寄って眠っていた。猫はよほど空腹だったのか、***があげたパンをぺろりと食べた。食べ終わった途端ウトウトしはじめたので胸の中に抱いたのだ。そしてその時になってようやく***は、自分が木の降り方を知らないことに気付いた。
「お姉さん、そんなところでどうしたんですか?危ないから降りてきなさい」
「あっ、神主さん!あ、あの、猫を助けようと思って登ったんですけど、私、降り方が分からなくって……」
気が付くと木の下に神主が来ており、心配そうに***を見上げていた。初老の神社の主は***を見て困った顔をしたが、しょうがないといった風に腕まくりをして、木の幹に近づいてきた。
「では私が下で抱き留めますから、猫と一緒に飛び降りてきなさい」
「そっ、そんなの駄目です!ケガをさせたら大変なんで、私、自分で降りますから!大丈夫です!」
「お~、***、本当に大丈夫かよ。お前ひとりで本当に降りられんの~?銀さんは無理だと思うなぁ~」
「えっ!!!?」
突然、聞こえた銀時の声に***は驚いた。神主の肩に乗った大きな手が、木から離すように後ろに引いた。
「オイ、オッサン、親切には感謝すっけど、あの馬鹿は俺んだから」
シッシッと神主を追いやって木の下に立った銀時と、***は見つめ合う。銀時の顔に「お前は馬鹿か」と書いてあって、恥ずかしさに***の顔は真っ赤になった。
「銀ちゃん、ね、猫を、木の上に猫を見つけたからっ、その、つい勢いで登っちゃったんです……」
「はぁぁぁ?降りられねぇのになんで登るんだよ***~!猫見つけたんなら誰か呼べばよかっただろうが!そもそも銀さん言ったよね?病み上がりが猫さがしなんかすんなって!俺の言うこと大人しく聞いときゃこんなことにならなかっただろーがぁぁぁ!」
「だ、だってぇ~~~悔しかったんだもん!銀ちゃんが子供扱いするから!猫さがしくらい、私にだってできます!現にタマちゃんは見つけたもん!もぉ~銀ちゃんの馬鹿ぁぁぁ!!!」
「あぁぁぁ!?馬鹿はお前だろ!なに怒ってんだよ!オイ、***、そんなに意地張ってっと銀さん帰っちゃうよ?いいの?お前一生そこから降りられねぇぞ?さっさと謝って“銀ちゃん助けて”って言えよ!」
銀時の顔が怒っている。その顔を見て***はぐっと唇を噛んだ。きっと謝った方がいい。でも、銀ちゃんだって謝ってほしい。たった一度謝ってくれればそれで納得できる。意地の張り合いのように、にらみ合った銀時と***が口を閉ざしていると、突然***の胸元から子猫が顔を出した。
「ミャァァ~ン……」
「なっ!?***、それが猫かよ!?っんなちっせぇ猫だったの!?」
驚いて目を見開いた銀時が、襟元からちょこんと顔を出した猫をじっと見つめた。
「そ、そうだよ銀ちゃん、これがタマちゃんです……まだ子猫だもん、そりゃ小さいよ。それに、ほら見て下さいこの毛の色……」
胸元から取り出した子猫を両手で持ち、銀時にその全身を見せた。ふわふわとした灰色がかった白い毛が、陽に照らされて輝いた。
「銀ちゃんの髪の色とそっくりでしょ?この姿見ちゃったら、ほっとけなくなって、思わず登っちゃったんです……」
「っ……!!!!」
下に立っていた銀時が***の言葉を聞いて息を飲んだ。驚いた表情のまま銀時が何も言わなくなって、無言で見つめ合う。いつまでも意地を張ってはいけないと思い、***は眉を八の字に下げる。小さくため息をついて「ごめんね」と言おうと口を開いたが、それを言う前に銀時の声に遮られた。
「悪かった。***、俺が悪かったよ」
「えっ、」
無駄なところでプライドの高い銀時が、謝る姿をはじめて見た。***は驚いて、木の上で動きを止めた。口をぽかんと開けて固まっていると、真下に立った銀時が両手を広げて***に声をかけた。
「***、俺が悪かったから、さっさと降りてこいよ。銀さんが受け止めてやっから、飛び降りろ」
「そ、そんなっ……」
予想してなかった出来事に***は慌ててしまう。自分を見つめる銀時の表情や声が、さっきと打って変わって優しくなったせいで、***は混乱する。それに飛び降りるなんて怖くて、とてもできない。恐怖に足が震えて、身体はぐらぐらする。
「銀ちゃんっ、飛ぶなんて無理です!怖いよ!!」
泣きそうになりながら叫んだ***を見て、銀時は柔らかく「ふっ」と笑った。銀時は慌てもせず焦りもせず、いつものようにベラベラ喋りもしない。普段からは想像できないほど静かな声で、銀時は***に語り掛けてくる。
「大丈夫だ***、俺を信じろ。ぜってぇ受け止める。俺のことだけ見て、飛べよ」
「っ………!!!」
優しく細められた赤い瞳でじっと見つめられて、***は言葉を失う。大人が子供をなだめているような銀時の声に、身体が勝手に安心していく。大丈夫、銀ちゃんは絶対に受け止めてくれる、全然怖くない。信じるまでもなく分かってる。
声もなく***の足は木を蹴った。猫を胸に抱きしめて、銀時の瞳をまっすぐに見つめて、大きな腕の中へと飛んだ。
ドサッ―――
背中と膝裏に銀時の太い腕が回って、***は横抱きに受け止められた。顔を寄せた硬い胸から銀時の香りがしてホッとする。
「っとぉ~……はぁーい、***、よく出来ましたぁ。ったく、心配ばっかかけやがってお前はぁ……」
「うぅっ……ぎ、銀ちゃん、ごめんなさい……」
急に優しくなった銀時になだめられて、意地を張っていた自分が***は恥ずかしい。ちらっと上目遣いに見上げた銀時は、ご機嫌で嬉しそうに笑っていた。ついさっきまで怒っていたのに、***には不思議でならない。
「あ、あの銀ちゃん、タマちゃんが見つかったのがそんなに嬉しかったんですか?」
「あぁ?……まぁ、そーだな……パチ屋で玉は全部持ってかれたが、こっちにもっといいタマがあったっつーの?でかしたぞ***、ご褒美なにがいい?銀さんからのチュー?ギュー?それともスリスリがいい?」
「はぁっ!?外でそんなこと言うのやめてくださいよ!!」
顔を真っ赤にして嫌がる***を見て、銀時はゲラゲラと笑った。地面に***を下ろすと、胸に抱かれた子猫をしげしげと眺めた。
「オイィィィ!コイツ子猫とは言えオスじゃねぇか!コラァ!銀さんの彼女のおっぱいで寝てんじゃねぇよ、コノヤロー!!オイ!***、猫に触らせたんだから、俺にもおっぱい触らせろ」
突然大きな手で両肩をつかまれて、猫を追いやるように近づいてきた銀時が、***の胸に顔をすりよせた。緩んだ襟元にほほをよせると、***の胸の真ん中にスリスリと顔を押し付ける。
「なっ……!!!!!」
何やってるんですか!と***が叫ぶよりも早く、子猫が銀時の顔に飛び掛かった。急に「ニャァッ!」と鳴いたタマは、まるで銀時から***を守るみたいに、その顔に爪を立ててガリガリと引っかいた。
「イデデデデデッ!イッテェェェ!なにコイツ!?えっ!?***お前、こんな短時間でコイツとそんな仲良くなったの!?銀さん以上のことをする仲になってたのぉぉぉ!?」
「あはっ……あははははっ!そうですよ銀ちゃん、タマちゃんと私はとっても仲良くなったんです!」
思わず笑いだした***から、銀時はばっと離れた。その顔にぷらーんと子猫がぶら下がる。威嚇するように白い毛を逆立てて、銀時の顔にしがみついて引っかき続けた。午後の日差しが降りそそいで、銀時の髪と子猫の毛並みは同じようにキラキラと光っていた。それはまぶしいほど綺麗な銀色だった。
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【(14)銀のたま】end
((その手をすり抜けていくもの その手で抱きとめるもの))
時刻は朝9時、牛乳配達を終えた***が万事屋の引き戸を開けたと同時に、事務所の電話が鳴った。
最近の万事屋は何かと忙しい。新八と神楽は、以前からストーカーに付きまとわれて困っている依頼人の警護に出払っていた。銀時と***だけの万事屋で2回電話が鳴り、2本の依頼が立て続けに入った。ひとつは迷い猫を探してほしいという依頼で、もうひとつはパチンコ屋の新装開店に代行で並んで台を確保してほしいというものだった。
「へ~い、了~解~。報酬は後払いっつーことで、よろしく頼むわ」
どちらの電話にも、銀時は気の抜けた声で同じ返事をした。いま万事屋には銀時しかいないのに、ふたつの仕事を引き受けているのを見て、***は首をかしげた。
「いや~、今日はめっさツイてんなぁ~。金もらって新台打てるなんて最高だろ。あそこのパチ屋の新装開店、前から気になってたんだよねぇ。あぁ~、なぁんか今日の銀さん結構いいかんじだわ。こりゃこないだよりもでっけぇのが来ちまうかもなぁ。結野アナの限定フィギュア、保存用と観賞用どっちも買えちまうかもなぁぁぁ。じゃ、***、俺ちょっとパチンコ…じゃねぇや仕事行ってくっから、留守番たのんだぞ」
「ちょちょちょちょっと銀ちゃん、待ってください!猫は!?猫を探す方が優先でしょ!?まさか先にパチンコに行くつもり!?」
「はぁ?何言ってんだよ***、パチ屋が先に決まってんだろ!新台の数は限りがあんだ。今すぐ行って並ばねぇと他のヤツらに取られちまうっつーの!猫なんか後だ後!どーせ報酬は後払いなんだし、玉打ってから探したって遅かねぇだろ。ったく、そんな焦んなよ***~。ギャンブルの神様が銀さんを呼んでんだから、お前も彼女なら‟頑張ってね銀ちゃん”くらい言って、笑顔で見送ってもいいんじゃねぇの~?」
「見送れるかぁぁぁ!パチンコの台はいくつもあるけど、猫の命はひとつですよ!?今まさに危険な目にあってるかもしれないし、飼い主さんはすごく心配してます!それでも猫より、パチンコの方が大切だって言うの!?」
言っている合間にも銀時は歩きはじめ、廊下を進んでいく。背中に垂れた右袖を後ろからつかんで、***は必死で引き留めた。しかし全体重をかけて引っ張っても、まるで子供が大人にすがりつくように、ずるずると引きずられる一方だ。肩越しにちらりと振り返った銀時は笑っていて、見下されたような気がした***はカチンときた。
引き留める***の力なんて無いも同然のように、玄関に辿り着きブーツを履いた銀時が引き戸に手をかける。裸足のままで***はたたきに降りると、後ろから銀時の腰に両腕を回してしがみついた。
「銀ちゃん!本当にパチンコに行くんですか!?じゃあ私が猫を見つけて、報酬横取りしちゃうからね!?それでもいいんですか!!?」
「はぁぁぁ!?な~に馬鹿なこと言ってんだお前はぁ!こないだまで入院してた病み上がりが、猫探しなんざできるわけねぇって!またお前にぶっ倒れられたら、猫さがしどころか***さがしで大騒ぎするハメになるっつーの!」
「じゃ、じゃぁ、私がパチンコ屋さんに並ぶから、銀ちゃんがさがしに行ってくださいよぉ!!」
「オイオイオイオイ***ちゃぁ~ん……自分の彼氏の気持ちぐらい、もうちょっと分かってくれる~?この銀さんが自分の彼女をパチ屋になんて並ばせるわけねーだろ。いいか***~、朝っぱらから玉打ちに行くような奴っつーのは、ロリコンで欲求不満のクソ野郎なんだよ。んなところにお前が行ってみろ。やらしい男どもに舐めまわすみてぇにジロジロ見られて、今夜のズリネタにされるに決まってんだろ。銀さんだってしたことねぇのに、他の男に***で視姦プレイさせてたまるかよ!!」
「し、しかっ………!!!」
下世話な理由を聞かされた***は、絶句して顔を真っ赤に染めた。両腕を銀時につかまれ、いとも簡単に引き離されてしまう。そのまま両脇に手をさし込まれ、抵抗もできないまま玄関の段差の上にひょいと戻された。
「んだよ***~、そんなに俺が仕事に行くのがさみしいのかよ~。ガキみてぇにひっついちゃってさぁ~。っとにお前はしょうがねぇな。可愛い***のためにチャチャッと玉出してくっから。パパッと猫見つけて帰ってくっからぁ。いい子で待ってろってぇ。銀さんはちゃぁ~んと***のとこに帰ってくるから、心配すんなってぇぇぇ」
目尻をデレデレと下げ、にやけた顔でそう言うと、銀時は***の頭を乱暴になでた。「やめてよ!」と***が言うのも聞かずに、銀時はぐしゃぐしゃになった前髪をかきあげて、露わになったおでこに唇を寄せた。
「わわっ、なっ……や、やめっ!」
ちゅぅっと音を立てておでこに吸い付いた銀時の唇が、すぐに離れたかと思うと右のほほへ、そして左のほほへ、鼻の頭へと矢継ぎ早に移動していく。ちゅっちゅっと音を立てて顔中に口づけられた。あまりの恥ずかしさに***の顔は湯気が出そうなほど赤く染まり、身動きも取れずに目をぎゅっとつむるしかできない。
「ぎ、銀ちゃんっ、ちょっ、やめてってば!」
「ぶぶっ!!!***さぁ……そーんな真っ赤な顔じゃ、パチ屋に並ぶどころか猫さがしだって無理に決まってんだろ。人間の男だけじゃなくてオス猫だって、そんな顔見たら盛っちまうって。っつーことで、***ちゃんはおとなしくお留守番してなさい!!」
口をぱくぱくとさせて言葉も出ない***を残し、銀時は片手をひらひらと振ると出て行ってしまった。ようやく***が動けるようになったのは、走り去る原付の音が遠ざかってからだった。にぎりしめたこぶしがブルブルと震える。恥ずかしさで朱色に染まっていた顔が、今度は怒りで赤くなっていく。
―――おとなしくお留守番してろ?いい子で待ってろ?なにそれ、ムカつくッ!私に猫さがしは無理って、なんで銀ちゃんが決めるの!?朝からパチンコ屋に行くのはクソ野郎って言ってたけど、銀ちゃんだって朝から行ってるじゃん!私にはあれはダメこれはダメって子供扱いするくせに、銀ちゃんは自由にやりたいことやってる!そんなのズルイよ!私だって立派な大人なのに!悔しい!悔しいぃぃぃ!!!
踵を返して居間へ戻った***は、電話機の横のメモを見る。銀時は取ったメモすら持って行かなかった。猫をさがす気なんてさらさら無いのだ。
「えーとオス猫、名前はタマ、色はグレー、鈴の着いた赤い首輪をしてる……えっ!?せ、生後2か月!?子猫じゃない!!もぉぉぉ~!銀ちゃんの馬鹿ぁぁぁ!」
そう叫びながら***は、万事屋を飛び出した。
午前中いっぱい探しても、猫は見つからなかった。野良猫の多い路地裏や広場を***はねり歩いた。すれ違う人に「こういう猫を見なかったか」と聞き込みをしたが、どれも空振りだった。
「タマちゃ~ん、いませんか~?」
野良猫が集まる神社で呼びかけてみたが、目当ての子猫はいなかった。
「う~ん、やっぱりこの辺じゃないのかなぁ……」
気付けば昼を過ぎていて、昼飯用に買ったパンを食べながら神社で休憩する。社殿の階段に座って眺めた野良猫たちは、日向ぼっこをしたり、遊んだりしている。きっとタマちゃんもかぶき町のどこかで元気でいるはずと、***は自分に言い聞かせた。
「まさか……ひどい目にあったりしてないよね」
コッペパンをかじりながら、ふと不安になる。いたいけな子猫が傷つけられている姿が浮かんで、慌てて頭をぶんぶんと振った。
「タマちゃぁ~ん……どこにいるのぉぉぉ?」
空を仰いで***がなげいた直後、頭上でガサガサと音がした。階段の横の大木の枝が揺れ、枯葉が落ちてくる。それに続いてかすかに鳴き声が聞こえた。
「ニャァァ~ン、ミャァァン……」
「えっ!!?」
ぱっと立ち上がった***は木を見上げた。耳をすますと確かに子猫の鳴き声する。駆け寄ってみたが枝葉に隠れて猫の姿は見えない。
「タマちゃん!?タマちゃん、そこにいるの!?もしかして……降りられなくなっちゃったの!?」
「ニャア!ニャァァァン!」
「ちょっと待ってね!いま助けるから!ひ、人を呼んでくるから……あっ!!」
助けを呼ぼうと木から少し離れたところで、***の目が子猫の姿をとらえた。その瞬間、一歩も動けなくなった。
片手で持てそうなほど小さな子猫だった。赤い首輪の鈴がリンと鳴る。毛色はグレーよりも白に近かった。揺れる枝の上で震えてる子猫に木漏れ日が降りそそいでいた。ふわふわの毛並みがキラキラと光り、***には銀色に見えた。
「タ、タマちゃん……」
小さくつぶやいた***は、自分でも無意識に木に足をかけていた。自分が高所恐怖症だということは、その時の***の頭からはすっかり抜け落ちていた。
一方銀時は、自分でも無意識に玉を打ち続けていた。賭け事の才能がないことは、いつもどおり銀時の頭からはすっかり抜け落ちていた。朝から並んで打ちはじめたが大した成果もなく、昼には手持ちの金は全てなくなっていた。
「っんだよ~、ちっきしょぉぉぉ!!!」
有り金をつぎ込み、代行の報酬まで使い果たした。無一文になりぼーっと目の前の台を見つめていると、隣の台の親父が銀時に声をかけた。
「なんだ銀さんも来てたのか。この店は前もシケてたが新装しても変わんねぇなぁ~……あ、そういや、ここに来る途中、お前さんの彼女に声かけられたぜ。***ちゃんっつったか。猫を探してるとかなんとか言ってたが、お前さんは手伝わなくていいのかい?」
「あ゙ぁ゙っ!!?***が!!?くそっ……おとなしく待ってろっつったのによぉ~。オイ、ジジイ、どこで見た?アイツ病み上がりなんだよ。ぶっ倒れそうな顔してなかったか?」
出がけに自分を引き留めていた***の顔が、銀時の脳裏に浮かんでくる。躍起になって「猫を探して」と言っていたっけ。廊下を引きずりながら歩いていた時、さながら子猫のようにすがりつく***が可愛くて、顔がにやけるのをこらえるのに必死だった。
―――正直、あんな顔してすがりつかれたら、パチ屋の代行だって行くのやめよっかなって思ったっつーの。でも仕事だし?玉打てるし?なんなら金が増えるしぃ?俺だって大人として、公私混同しねぇように必死なんですよ。苦渋の決断でパチンコ…じゃねぇや仕事に来たっつーのに、アイツは勝手な事しやがって。またぶっ倒れたらどーすんだよコノヤロー!!!
ため息をついて、最後の玉が空振りに終わった台から立ち上がる。財布も軽くなったし、そろそろ潮時だ。
「さぁて……***さがしと行きますか」
大木から伸びた太い枝に膝をついた***は、途方にくれていた。片手を幹につき、もう一方の手で頭上の細い枝をつかんだら、枝先から枯葉がパラパラと舞った。落ちる葉っぱを目で追っていたら、あまりの地面の遠さに眩暈がした。登っている時は必死で、まさかこんなに高い所だとは思わなかった。
―――こ、こんなことなら銀ちゃんの言うとおり、大人しく待ってればよかった……いや、猫を見つけた時点で銀ちゃんを呼びに行けばよかったんだ。自分で登るなんて馬鹿なことしないで……でも、でもぉ~~……
後悔の念にかられながら、胸元を見下ろす。少し緩めた襟の合わせ目の中で、子猫は***の胸にすり寄って眠っていた。猫はよほど空腹だったのか、***があげたパンをぺろりと食べた。食べ終わった途端ウトウトしはじめたので胸の中に抱いたのだ。そしてその時になってようやく***は、自分が木の降り方を知らないことに気付いた。
「お姉さん、そんなところでどうしたんですか?危ないから降りてきなさい」
「あっ、神主さん!あ、あの、猫を助けようと思って登ったんですけど、私、降り方が分からなくって……」
気が付くと木の下に神主が来ており、心配そうに***を見上げていた。初老の神社の主は***を見て困った顔をしたが、しょうがないといった風に腕まくりをして、木の幹に近づいてきた。
「では私が下で抱き留めますから、猫と一緒に飛び降りてきなさい」
「そっ、そんなの駄目です!ケガをさせたら大変なんで、私、自分で降りますから!大丈夫です!」
「お~、***、本当に大丈夫かよ。お前ひとりで本当に降りられんの~?銀さんは無理だと思うなぁ~」
「えっ!!!?」
突然、聞こえた銀時の声に***は驚いた。神主の肩に乗った大きな手が、木から離すように後ろに引いた。
「オイ、オッサン、親切には感謝すっけど、あの馬鹿は俺んだから」
シッシッと神主を追いやって木の下に立った銀時と、***は見つめ合う。銀時の顔に「お前は馬鹿か」と書いてあって、恥ずかしさに***の顔は真っ赤になった。
「銀ちゃん、ね、猫を、木の上に猫を見つけたからっ、その、つい勢いで登っちゃったんです……」
「はぁぁぁ?降りられねぇのになんで登るんだよ***~!猫見つけたんなら誰か呼べばよかっただろうが!そもそも銀さん言ったよね?病み上がりが猫さがしなんかすんなって!俺の言うこと大人しく聞いときゃこんなことにならなかっただろーがぁぁぁ!」
「だ、だってぇ~~~悔しかったんだもん!銀ちゃんが子供扱いするから!猫さがしくらい、私にだってできます!現にタマちゃんは見つけたもん!もぉ~銀ちゃんの馬鹿ぁぁぁ!!!」
「あぁぁぁ!?馬鹿はお前だろ!なに怒ってんだよ!オイ、***、そんなに意地張ってっと銀さん帰っちゃうよ?いいの?お前一生そこから降りられねぇぞ?さっさと謝って“銀ちゃん助けて”って言えよ!」
銀時の顔が怒っている。その顔を見て***はぐっと唇を噛んだ。きっと謝った方がいい。でも、銀ちゃんだって謝ってほしい。たった一度謝ってくれればそれで納得できる。意地の張り合いのように、にらみ合った銀時と***が口を閉ざしていると、突然***の胸元から子猫が顔を出した。
「ミャァァ~ン……」
「なっ!?***、それが猫かよ!?っんなちっせぇ猫だったの!?」
驚いて目を見開いた銀時が、襟元からちょこんと顔を出した猫をじっと見つめた。
「そ、そうだよ銀ちゃん、これがタマちゃんです……まだ子猫だもん、そりゃ小さいよ。それに、ほら見て下さいこの毛の色……」
胸元から取り出した子猫を両手で持ち、銀時にその全身を見せた。ふわふわとした灰色がかった白い毛が、陽に照らされて輝いた。
「銀ちゃんの髪の色とそっくりでしょ?この姿見ちゃったら、ほっとけなくなって、思わず登っちゃったんです……」
「っ……!!!!」
下に立っていた銀時が***の言葉を聞いて息を飲んだ。驚いた表情のまま銀時が何も言わなくなって、無言で見つめ合う。いつまでも意地を張ってはいけないと思い、***は眉を八の字に下げる。小さくため息をついて「ごめんね」と言おうと口を開いたが、それを言う前に銀時の声に遮られた。
「悪かった。***、俺が悪かったよ」
「えっ、」
無駄なところでプライドの高い銀時が、謝る姿をはじめて見た。***は驚いて、木の上で動きを止めた。口をぽかんと開けて固まっていると、真下に立った銀時が両手を広げて***に声をかけた。
「***、俺が悪かったから、さっさと降りてこいよ。銀さんが受け止めてやっから、飛び降りろ」
「そ、そんなっ……」
予想してなかった出来事に***は慌ててしまう。自分を見つめる銀時の表情や声が、さっきと打って変わって優しくなったせいで、***は混乱する。それに飛び降りるなんて怖くて、とてもできない。恐怖に足が震えて、身体はぐらぐらする。
「銀ちゃんっ、飛ぶなんて無理です!怖いよ!!」
泣きそうになりながら叫んだ***を見て、銀時は柔らかく「ふっ」と笑った。銀時は慌てもせず焦りもせず、いつものようにベラベラ喋りもしない。普段からは想像できないほど静かな声で、銀時は***に語り掛けてくる。
「大丈夫だ***、俺を信じろ。ぜってぇ受け止める。俺のことだけ見て、飛べよ」
「っ………!!!」
優しく細められた赤い瞳でじっと見つめられて、***は言葉を失う。大人が子供をなだめているような銀時の声に、身体が勝手に安心していく。大丈夫、銀ちゃんは絶対に受け止めてくれる、全然怖くない。信じるまでもなく分かってる。
声もなく***の足は木を蹴った。猫を胸に抱きしめて、銀時の瞳をまっすぐに見つめて、大きな腕の中へと飛んだ。
ドサッ―――
背中と膝裏に銀時の太い腕が回って、***は横抱きに受け止められた。顔を寄せた硬い胸から銀時の香りがしてホッとする。
「っとぉ~……はぁーい、***、よく出来ましたぁ。ったく、心配ばっかかけやがってお前はぁ……」
「うぅっ……ぎ、銀ちゃん、ごめんなさい……」
急に優しくなった銀時になだめられて、意地を張っていた自分が***は恥ずかしい。ちらっと上目遣いに見上げた銀時は、ご機嫌で嬉しそうに笑っていた。ついさっきまで怒っていたのに、***には不思議でならない。
「あ、あの銀ちゃん、タマちゃんが見つかったのがそんなに嬉しかったんですか?」
「あぁ?……まぁ、そーだな……パチ屋で玉は全部持ってかれたが、こっちにもっといいタマがあったっつーの?でかしたぞ***、ご褒美なにがいい?銀さんからのチュー?ギュー?それともスリスリがいい?」
「はぁっ!?外でそんなこと言うのやめてくださいよ!!」
顔を真っ赤にして嫌がる***を見て、銀時はゲラゲラと笑った。地面に***を下ろすと、胸に抱かれた子猫をしげしげと眺めた。
「オイィィィ!コイツ子猫とは言えオスじゃねぇか!コラァ!銀さんの彼女のおっぱいで寝てんじゃねぇよ、コノヤロー!!オイ!***、猫に触らせたんだから、俺にもおっぱい触らせろ」
突然大きな手で両肩をつかまれて、猫を追いやるように近づいてきた銀時が、***の胸に顔をすりよせた。緩んだ襟元にほほをよせると、***の胸の真ん中にスリスリと顔を押し付ける。
「なっ……!!!!!」
何やってるんですか!と***が叫ぶよりも早く、子猫が銀時の顔に飛び掛かった。急に「ニャァッ!」と鳴いたタマは、まるで銀時から***を守るみたいに、その顔に爪を立ててガリガリと引っかいた。
「イデデデデデッ!イッテェェェ!なにコイツ!?えっ!?***お前、こんな短時間でコイツとそんな仲良くなったの!?銀さん以上のことをする仲になってたのぉぉぉ!?」
「あはっ……あははははっ!そうですよ銀ちゃん、タマちゃんと私はとっても仲良くなったんです!」
思わず笑いだした***から、銀時はばっと離れた。その顔にぷらーんと子猫がぶら下がる。威嚇するように白い毛を逆立てて、銀時の顔にしがみついて引っかき続けた。午後の日差しが降りそそいで、銀時の髪と子猫の毛並みは同じようにキラキラと光っていた。それはまぶしいほど綺麗な銀色だった。
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【(14)銀のたま】end
((その手をすり抜けていくもの その手で抱きとめるもの))