銀ちゃんの愛する女の子
おいしい牛乳(恋人)
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【(11)じれったい水滴】
個室の部屋の静かさが耳に痛い。自分が喋らなければいけないことは分かっている。見上げた赤い瞳は無感情で、特にこれといった表情を浮かべてなかった。***がなにを言うのか、銀時は黙って待っている。言いたいことがあるなら早く言えと、その瞳が***を急かしているように思えた。
「銀ちゃん、心配かけてごめんね……それに、」
それに傷つけてごめんね、と言おうとした言葉はノドでつかえて出てこない。銀時とそういうことをするのが嫌なわけじゃないと言うべきなのに、恥ずかしくて口にする勇気が出ない。
唇をきゅっと噛んで、目の前にある着物の袖の、水色の渦巻き模様の上を指先でつまんだ。どうしようと悩んでいると、銀時の右手が動いて、ゆっくりと頭を撫でられた。その手の動きはすこぶる優しいのに、頭上から発せられた声はふて腐れた子供のように不機嫌だった。
「それになに?他にも謝ることあんだろ***」
驚いた***は目を見開いて銀時を見つめた。
「え?……あ、あの銀ちゃん、その……」
気まずくなって目が泳ぐ。逃げるようにうつむこうとした顔を、銀時が両手でつかんだ。ぐいっと引っ張られて強制的に目を合わせられる。
「***、銀さんさぁ、すっげぇ心配したんだけど。それとさぁ……すっっっげぇぇぇ傷ついたんだけど。お前、どーしてくれんのコレ?」
「っ、ごめっ……あ、っっ!!!」
何も言い返すことができないうちに、つかまれた顔を引っ張るように上を向かされる。銀時の長い指が髪の中に入り込んで、後頭部の頭皮をこするザラリという音がした。顔を落として近づいてきた銀時に一瞬で唇を奪われていた。
「ぅんんっ……!!!」
いつもみたいに柔らかく触れ合って、少しずつ開いていくような優しいキスじゃなかった。勢いよくぶつけるみたいに唇同士がくっつけられて、きつく結んだ***の口を、銀時の舌があっという間にこじ開けた。頭の角度を変えて口づけを深める銀時に、唇ごと噛まれて、食べられてしまいそうな気がする。
「っんぁ……ふっ、ぅあっ……んっ」
顔も胸も、互いにぴたりとくっついて息さえできない。目をつむっているのに、くらくらと眩暈がする。両ほほを抑える大きな手の手首を、両手できゅっとつかんだ。
「っぅく、……んぅ~~~っ!」
悲鳴のような声がノドの奥で鳴って、しばらくしてようやく銀時が***から離れた。
うつむいて浅い呼吸を繰り返していたら、アゴを持ち上げられて、銀時の熱い親指で唇をなぞられた。かさついた指が上唇と下唇を何度も行ったり来たりする。こするように強く触られた唇には、ぴりぴりとした痛みが走った。
「んっ……ちょ、ぎ、ぎんちゃ、痛ぃ、やっ」
「っんだよこれぇ……さっさと赤くなりやがれ」
「なっ、なに?……ん、よく、わからなっ……」
じっと***の唇を見つめ続ける銀時の顔は、痛みに耐えているかのように苦しそうだった。その顔を見て***はハッとする。
―――そうだ、私、銀ちゃんを傷つけちゃったんだ……それで、銀ちゃんは怒ってるんだ……
つかんだ太い手首を押し返して、銀時の手を唇から離すと、***は必死で弁解しようとした。
「銀ちゃんっ!わたし、銀ちゃんを傷つけるつもりはなかったんです!ただ偶然、そ、そういう話をしてる時に、お腹が痛くなっちゃっただけで……その、最近ちょっとお仕事が忙しくて、それで疲れて身体の調子が悪かったから。だから銀ちゃんのことが嫌とか、そんなんじゃないの。本当に銀ちゃんは全然悪くないんです……だから、ご、ごめんね……」
すがるように銀時の手首を両手でつかんだまま、***は必死で説明した。しかし言葉を重ねれば重ねるほど、自分を見下ろす赤い瞳の中には、怪訝な色が濃くなっていく。気づけば銀時は、まるで疑うような表情を浮かべて***を見ていた。
その顔を見ているだけで、冷や汗がどっと吹き出した。どうしようどうしようと思考が空回りして、声すらうまく出てこなくなる。
そんななかで銀時が言い放った言葉は、さらに***を混乱させるようなものだった。
「それ、どーやって証明できんの?」
「えっ!?」
「俺のことが嫌じゃないって、どーやって証明できんの***。お前さぁ、俺をこんだけ傷つけといて、ごめんで済むと思ってんの?言っとくけど銀さん、疑り深いからね?ちゃんと行動で見せてもらわないと全然納得しないからね?なぁ、どーすんの。よく考えろよ***。どーやったら許してもらえると思う?どうしたら銀さんの心の傷を治せると思う?」
「ど、どうしたらって言われても……そんな」
そんなこと、どうやったらいいんだろう。言葉で謝ることは何度でもできるけど、その気持ちを見せるってどうやって?何も浮かばずにぽかんとしていたら、銀時の大きな手が***の胸の真ん中に伸びてきて、ぐっと後ろへ押した。ベッドに手を着いて、***の身体は倒れなかったが、それでも後ろに大きく傾いた。
わっ、と声を上げているうちに銀時の顔が、***の首筋に近づいてきた。ぬるっとした舌の這う感触が、耳のすぐ下を走る。
「ひぁ……や、やめっ……銀ちゃん!!」
ぞくりとした感覚に***が飛び跳ねる。それと同時にギシッと揺れたベッドの震動が、サイドテーブルの洗面器に伝わって、ぴちゃぴちゃと水の跳ねる音がした。
耳のすぐ下や裏を何度も舐められたので、「やめて」と言いながら肩を両手で押したら、首から顔を上げた銀時とすぐ近くで目が合った。傷ついた赤い瞳が***をじっと見ていた。何も言わない銀時の唇がわずかに尖っていて、怒っていることを雄弁に語っていた。その顔を見た瞬間に、今いちばん言ってはいけない言葉が「やめて」だということに***は気付いた。
「あっ……ぎ、銀ちゃん……」
受け入れるしかない。銀時が求めていることを全て受け入れるしか、許してもらう方法は無い。そう思ったら手足が小刻みに震えはじめた。ふたりとも押し黙った静かな部屋に、洗面器の水がひたひたと揺れる音だけが響く。その音を聞きながら***は、「やめて」という言葉はもう言わないと覚悟を決めた。
病室に入ってすぐ、目が合った瞬間に駆け出してきた***が、心底愛おしかった。力の入らない足でよろよろと立ち、細い腕で必死にすがりつかれて、それだけで銀時は安心していた。条件反射のように***が抱き着いてきたことが、自分を嫌がってたわけじゃないという十分すぎるほどの証明だ。と、銀時のなかの理性的で大人な部分は理解していた。
でもまだだ、まだ満足できない。もっと見たい。銀時が傷ついていると***が思っているうちに。その傷を癒すために、***が自分にどこまで許すかを、銀時はその目で確かめたかった。
底意地の悪い考えだと思ったが、銀時のなかの欲張りで幼稚な部分が、たまらなくそれを求めていた。
泣きそうな顔で弁解の言葉を考えている***を見ていたら、その欲求が溢れ出して気付けば口づけていた。寝ていた時とはちがって、はっきりとした反応が唇に返ってきたのが嬉しい。このままキスをし続けて、血の気のない唇を桃色に染めて、元通りにしたくなった。
耳や首筋を舐めたら、***が抵抗したので、銀時はわざと傷ついた瞳をした。震えはじめた小さな手が、肩を弱々しくつかんだ。もうやめてほしいと言わんばかりの怯えた表情なのに、***の口からは正反対の言葉が出た。
「あっ、ぁ、汗を、かいたから……その、せめて、身体を拭かせてください……」
「あ゙ぁ?汗だぁ?」
サイドテーブルの洗面器を***が指さす。しょうがねぇなと言って銀時は、手ぬぐいを水に浸してから絞った。水滴が落ちる音を聞いていたら、新しい試みを思いついて口元がにやけそうになった。
「ほれ***、身体、拭くんだろ」
「えっと、銀ちゃんは……す、少しだけ後ろ向いて、待っててください……すぐに終わるから」
手ぬぐいを受け取ろうとした***の手は、空を切った。ただ銀時に見下ろされて、ぽかんとした表情を浮かべた***は、所在なくベッドのふちに座っていた。
「あ、あの……?」
不安げにかしげた***の首元に、濡れた手ぬぐいをいきなり置いた。軽く絞っただけの布は水を多く含んでいて、ひたっという音を立てて***の肌に張り付いた。
「ひぁっ!!……え、ちょっ、銀ちゃんっ!?」
「ったく、しょうがねぇな***。オラ、拭いてやるから大人しくしろ」
「ええぇっ!?い、いやいやいやっ!!大丈夫!!自分で、自分で拭きますからっ!!」
濡れた布の冷たさに肩をすくめて、ぎゅっと***は身体を固くした。いつもなら赤くなるはずの顔はまだ血の気がなくて白いまま。それでも恥ずかし気な表情を浮かべて、口をあわあわとさせると、必死で銀時から手ぬぐいを奪おうとした。
「っんだよ、やっぱり俺に触られんのが、嫌なんじゃねぇか***」
「っっっ!!!」
拗ねた声で銀時がそう言っただけで、***は動きを止めた。眉を八の字に下げて抵抗しなくなる。その隙に長い髪を後ろへと払うと、露わになった首筋に手ぬぐいを走らせた。
鎖骨から首の横をのぼってうなじへ、耳の後ろを通ってアゴの下まで、わざとらしいほどゆっくりと丁寧に拭いていく。
「んんっ……!」
布からはみ出た銀時の指が、首元の濡れた肌に触れると、***はびくりと肩を揺らした。それも恥ずかしいのかうつむいて、膝の上で両手をぎゅっと握りしめた。そのしおらしさが可愛くて仕方がなくて、底知れぬ優越感が、銀時の背筋をはい上がってきた。
「なぁ、コレ、邪魔だから脱がしていい」
「へっ!?あ、えぇっと……わわわっ!」
プチンッ―――
大きめの病院着の襟元に、銀時のひとさし指が掛かる。大して力も入れてないのに、長い指で押されて一番上の金具のボタンが外れた。襟が開いた服の中に、ブラジャーの白いレースがちらりと見えた。
「あっ、あのっ、ぎ、んちゃん……っ」
「あんだよ、なんか文句あんのかよぉ」
「なっ……!も、文句ってそんなっ、あっ」
下着を見られたことに慌てた***が、思わず両手で胸元を抑える。瞳を潤ませて銀時を見上げたが、何の言葉を出ずにただ唇を開いたり閉じたりしている。
―――あぁ~あ~……まぁーた、こいつは……そーゆー顔がダメなんだって、まだ分かってねぇのかよ。そんな泣きそうな顔されたら、もっといじめたくなるに決まってんだろーが……
「汗かいたんだろ***。せっかく銀さんが優しく拭いてやってんだから、嫌がってんじゃねぇよ」
「っ……、い、嫌がってなんか、ないよ……」
そう言って***は、ぎゅっと唇を噛むと胸元から手を離す。よろよろと動いた小さな手は、服の合わせ目に指をさし込む銀時の手首にそっと置かれた。
プチンッ、プチンッ―――
ふたつ、みっつとボタンが外れていく音が、静かな病室に響いた。ボタンが外れるほどに***の身体はこわばり、銀時の手首をつかむ小さな手にも力が入った。
長い指たった一本、力もなく腕を下ろしただけで、あっけなく***の病院着の前は全部開いた。日が暮れた部屋の蛍光灯の明かりが、白いブラをより白く照らしていた。
「ぎ、銀ちゃん……あんまり、見ないでくださっ」
「はぁ?今さら何言ってんだよ***〜。もう見えちまってるから諦めろって。丸見えだから。下着もばっちり見えてっから。それともなに?お前、銀さんに見られんのヤだった?」
「ちがっ、や、やじゃない!~~~~っ!」
声にならない悲鳴を上げて、***は必死で銀時を受け入れた。震えて涙をこらえながらも、健気に恋人のワガママを許し続ける。声も無く銀時は笑って、服の中に両手を差し入れた。脱げた病衣が肩を滑り、震える細い腕から抜けて、***の背後にぱさりと落ちた。
「っっ、あ、あ、ぎ、銀ちゃんっ!」
「んー?大丈夫だって***。いい子だから、そんな硬くなんなよ。これじゃ俺が悪いことしてるみてぇじゃん」
困った表情を浮かべた銀時を見て、***は首を横にふるふると振った。
左手で***の腕を取ると、右手に持った手ぬぐいで手首から二の腕までを拭いていった。細い腕の真ん中、点滴が刺されていたテープを避けて、腕の内側の柔らかい肌を繊細に撫で上げたら、***は「ぁうっ」と泣きそうな声を上げた。
「ぶはっ、なにお前、脚だけじゃなくて、腕も感じんの?」
「そ、んなのっ……わ、わかんないよぉ……」
ふ~ん、と言ってニヤつきながら***を見つめた。銀時につかまれてない方の手で口を押さえて、うつむいた瞳からは今にも涙が落ちそうだった。
「あっそ。じゃ、ゆ~っくり拭いてやるから、脚と腕どっちが感じるか、よ~く考えろよ」
「うぅっ、そんなっ……ひぁっ……」
手ぬぐい越しの指は、***の二の腕をやさしく滑り、肩の上で円を描いた。まるで子猫を撫でているような自分の手の動きに、銀時は思わず声もなく笑った。刀や工具ばかりにぎってきた自分の手が、こんな風に何かを大切に扱っているのを見たのは初めてで。
気が遠くなるほどゆっくりと、白い胸元へと手を下ろしていく。濡れた布を通してさえ、ひかえめな***の胸が下着の中で小さく震えているのが分かった。
「***、そんな震えんなって……なぁ、ヤだ?銀さんにこうやって触られんの」
「やっ、やじゃない……やじゃないよ、銀ちゃん」
嫌だなんて言わせるつもりもない。それを言ったら銀時が傷つくと思って、必死でこらえる***の姿を見るのが、楽しくて仕方がない。こうやって何度もいじめるような問いかけをして、***の気持ちを確かめるのが、銀時の歪んだ性癖を喜ばせてやまない。
新八の言う通り、銀時は***に対してはすぐ弱気になる。来るもの拒まず、去る者追わずの精神で、テキトーに生きてきたこの男が、***だけはどうしても自分のもとへ置いておきたいと躍起になる。そのために***の気持ちを何度確かめても、繋ぎ止めるには足りない気がしてくる。
鎖骨の端から端までを撫でて、ブラの上のつつましい胸の膨らみを拭く。胸の真ん中に手を置いたら、布越しでも***の心臓がバクバクと打っているのが分かった。その鼓動は薄い肌を突き破って、銀時の手を直接叩いてきそうなほど強い。
―――普通の女なんだこいつは。新八や神楽のように強くもねぇ、少しひねれば、すぐに大ケガを負うような、ひ弱な女なんだ。そのくせ俺みたいなヤツにすがりついて、必死んなって「家族になりたい」なんて言うんだから、どうしようもねぇだろ……
普通だからこそ、***が愛おしい。そのひ弱さゆえに大切にしたい。でも普通だから、銀時の手をすり抜けて、離れていってしまいそうで恐ろしい。
ものすごい速さでドクドクと跳ね続ける心臓の鼓動を、手のひらに感じてようやく、***が自分のそばにいることに銀時は安心できた。
「銀ちゃん……私、本当にヤじゃないです。銀ちゃんに身体を触られるの、全然嫌じゃないよ。ただ、は、恥ずかしいだけで……」
そんなこと分かっている。十分すぎるほど。恥ずかしがりながらも自分を見上げる***と、じっと見つめ合っていたら、幸福感が溢れてきて笑いそうになった。それがバレないように、さっきよりも強く手に力を入れて、***の身体を後ろへと押した。
「きゃぁっ!!!」
手ぬぐいの上から胸を強く押されて、そのまま***はベッドに仰向けに倒れた。すかさず馬乗りになった銀時が、顔の横に両手をつくと、腹から下がぴたりと重なった。
「銀ちゃん、な、なにっ!?」
「はぁぁぁ~……んなこと言って***さぁ、ほんとは嫌なんだろ?さっきからずっとガクガク震えてるし、今にも泣きそうな顔してんじゃねぇか……無理しないで言えよ、銀ちゃんやめてって。嫌だったらイヤって言えばいいじゃねぇか」
―――お前が好きな相手は、こういう意地の悪い男だ。お前が身体を壊すほど必死に働いて支えようとしても、ソイツはそんなことよりお前の身体を欲しがってんだ。お前が家族になりたいと思ってる俺は、この先もずっとこうやってお前をいじめ続けるぞ。それを分かってんのかよ、***……
内心そう問いかけながらも銀時は、***が自分の期待する答えを必ず返すと分かっている。分かっているのに、何度も確かめずにいられない。
それは***が必死で万事屋を守って、銀時の近くにいようとするのと同じことだ。同じように銀時も、***を自分の近くに引き留めておきたい。その為になら大切にしてきた***の身体を、今ここで乱暴に抱いてしまってもいいとすら思えた。
血の繋がった家族が、どんなに離れても家族なように、自分たちの関係が未来永劫変わらないことを、銀時と***は方法は違えどそれぞれに確かめようとしていた。
「なぁ、言えよ***、嫌だって」
「ち、ちがうっ、あっ……ひゃぁ!!」
震える声で***が答えるのを遮って、銀時の手が胸の間から下りていく。手ぬぐいさえ置き去りにして、湿った長い指で直接わき腹を撫でた。初めて触られた感覚に鳥肌を立てた***の、薄い腰が反り返りって、白い肌が銀時の腹を押した。
片手をベッドについた銀時は、未知の感覚に耐える***の顔をまじまじと見つめた。
「あ、く、くすぐったい……ぎ、んちゃ、もぉ……」
「もうなに?もうやめてほしい?やっぱり嫌なんだろ***?触られたくねぇんだろ?さっさと言えよ、ホラ」
頭をふるふると横に振る***の、わき腹から手を動かして、病院着のズボンにかかるあたりの下腹部を撫でた。へその上を通ってみぞおちへ、水気を帯びた銀時の手が、***の震える肌を濡らしていく。
銀時の手の温度で温められた水滴が、血の気の失せた***の上半身に広がった。もう一度わき腹に戻した手で、胸の横までくびれをなぞったら、***が「っっ!!!」と息を飲んだ。
「なぁ……***、我慢しねぇで言えよ。銀ちゃん、触んないでって。もうこれ以上無理って。言ったらやめてやっから」
「でもっ……それじゃ、銀ちゃんがっ」
そう、それじゃ俺は傷ついたまんまだけど。
***にとって人生初の出来事で、未知の感覚や最大の羞恥心に耐えている。全身を震わせて瞳に涙を溜めながら、それでも***は銀時のことを考えている。
―――***、お前が繋ぎとめようとしてる男が、必死で引き留めようとしてる奴が、どんなろくでなしでも、お前は家族になりたいって思うのかよ……もしそうなら、俺は何度もお前をこうしていじめてやらぁ。だからお前は何度でも俺を受け入れてみせろよ。手ひどくされても、すがりつく無様な姿を何度でも俺に見せろよ。そうじゃなきゃ、俺たちは家族にはなれねぇんだぞ、***……―――
最低だと思うほど、自己中心的で身勝手な要求だ。しかし***の身体に触れれば触れるほど、そう求めずにはいられなくなっていく。それは銀時自身がいちばんよく分かっていた。
濡れた手ぬぐいが***の胸から腹を伝ってベッドに落ち、銀時の動きに追いやられて、床に落ちた。濡れた布が床を打つピシャッという小さな音が、静かな部屋にうるさいほど響いた。
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【(11)じれったい水滴】end
"家族になろうよ(4)"
約束は不安にさせるから願いを口にしたいだけ
個室の部屋の静かさが耳に痛い。自分が喋らなければいけないことは分かっている。見上げた赤い瞳は無感情で、特にこれといった表情を浮かべてなかった。***がなにを言うのか、銀時は黙って待っている。言いたいことがあるなら早く言えと、その瞳が***を急かしているように思えた。
「銀ちゃん、心配かけてごめんね……それに、」
それに傷つけてごめんね、と言おうとした言葉はノドでつかえて出てこない。銀時とそういうことをするのが嫌なわけじゃないと言うべきなのに、恥ずかしくて口にする勇気が出ない。
唇をきゅっと噛んで、目の前にある着物の袖の、水色の渦巻き模様の上を指先でつまんだ。どうしようと悩んでいると、銀時の右手が動いて、ゆっくりと頭を撫でられた。その手の動きはすこぶる優しいのに、頭上から発せられた声はふて腐れた子供のように不機嫌だった。
「それになに?他にも謝ることあんだろ***」
驚いた***は目を見開いて銀時を見つめた。
「え?……あ、あの銀ちゃん、その……」
気まずくなって目が泳ぐ。逃げるようにうつむこうとした顔を、銀時が両手でつかんだ。ぐいっと引っ張られて強制的に目を合わせられる。
「***、銀さんさぁ、すっげぇ心配したんだけど。それとさぁ……すっっっげぇぇぇ傷ついたんだけど。お前、どーしてくれんのコレ?」
「っ、ごめっ……あ、っっ!!!」
何も言い返すことができないうちに、つかまれた顔を引っ張るように上を向かされる。銀時の長い指が髪の中に入り込んで、後頭部の頭皮をこするザラリという音がした。顔を落として近づいてきた銀時に一瞬で唇を奪われていた。
「ぅんんっ……!!!」
いつもみたいに柔らかく触れ合って、少しずつ開いていくような優しいキスじゃなかった。勢いよくぶつけるみたいに唇同士がくっつけられて、きつく結んだ***の口を、銀時の舌があっという間にこじ開けた。頭の角度を変えて口づけを深める銀時に、唇ごと噛まれて、食べられてしまいそうな気がする。
「っんぁ……ふっ、ぅあっ……んっ」
顔も胸も、互いにぴたりとくっついて息さえできない。目をつむっているのに、くらくらと眩暈がする。両ほほを抑える大きな手の手首を、両手できゅっとつかんだ。
「っぅく、……んぅ~~~っ!」
悲鳴のような声がノドの奥で鳴って、しばらくしてようやく銀時が***から離れた。
うつむいて浅い呼吸を繰り返していたら、アゴを持ち上げられて、銀時の熱い親指で唇をなぞられた。かさついた指が上唇と下唇を何度も行ったり来たりする。こするように強く触られた唇には、ぴりぴりとした痛みが走った。
「んっ……ちょ、ぎ、ぎんちゃ、痛ぃ、やっ」
「っんだよこれぇ……さっさと赤くなりやがれ」
「なっ、なに?……ん、よく、わからなっ……」
じっと***の唇を見つめ続ける銀時の顔は、痛みに耐えているかのように苦しそうだった。その顔を見て***はハッとする。
―――そうだ、私、銀ちゃんを傷つけちゃったんだ……それで、銀ちゃんは怒ってるんだ……
つかんだ太い手首を押し返して、銀時の手を唇から離すと、***は必死で弁解しようとした。
「銀ちゃんっ!わたし、銀ちゃんを傷つけるつもりはなかったんです!ただ偶然、そ、そういう話をしてる時に、お腹が痛くなっちゃっただけで……その、最近ちょっとお仕事が忙しくて、それで疲れて身体の調子が悪かったから。だから銀ちゃんのことが嫌とか、そんなんじゃないの。本当に銀ちゃんは全然悪くないんです……だから、ご、ごめんね……」
すがるように銀時の手首を両手でつかんだまま、***は必死で説明した。しかし言葉を重ねれば重ねるほど、自分を見下ろす赤い瞳の中には、怪訝な色が濃くなっていく。気づけば銀時は、まるで疑うような表情を浮かべて***を見ていた。
その顔を見ているだけで、冷や汗がどっと吹き出した。どうしようどうしようと思考が空回りして、声すらうまく出てこなくなる。
そんななかで銀時が言い放った言葉は、さらに***を混乱させるようなものだった。
「それ、どーやって証明できんの?」
「えっ!?」
「俺のことが嫌じゃないって、どーやって証明できんの***。お前さぁ、俺をこんだけ傷つけといて、ごめんで済むと思ってんの?言っとくけど銀さん、疑り深いからね?ちゃんと行動で見せてもらわないと全然納得しないからね?なぁ、どーすんの。よく考えろよ***。どーやったら許してもらえると思う?どうしたら銀さんの心の傷を治せると思う?」
「ど、どうしたらって言われても……そんな」
そんなこと、どうやったらいいんだろう。言葉で謝ることは何度でもできるけど、その気持ちを見せるってどうやって?何も浮かばずにぽかんとしていたら、銀時の大きな手が***の胸の真ん中に伸びてきて、ぐっと後ろへ押した。ベッドに手を着いて、***の身体は倒れなかったが、それでも後ろに大きく傾いた。
わっ、と声を上げているうちに銀時の顔が、***の首筋に近づいてきた。ぬるっとした舌の這う感触が、耳のすぐ下を走る。
「ひぁ……や、やめっ……銀ちゃん!!」
ぞくりとした感覚に***が飛び跳ねる。それと同時にギシッと揺れたベッドの震動が、サイドテーブルの洗面器に伝わって、ぴちゃぴちゃと水の跳ねる音がした。
耳のすぐ下や裏を何度も舐められたので、「やめて」と言いながら肩を両手で押したら、首から顔を上げた銀時とすぐ近くで目が合った。傷ついた赤い瞳が***をじっと見ていた。何も言わない銀時の唇がわずかに尖っていて、怒っていることを雄弁に語っていた。その顔を見た瞬間に、今いちばん言ってはいけない言葉が「やめて」だということに***は気付いた。
「あっ……ぎ、銀ちゃん……」
受け入れるしかない。銀時が求めていることを全て受け入れるしか、許してもらう方法は無い。そう思ったら手足が小刻みに震えはじめた。ふたりとも押し黙った静かな部屋に、洗面器の水がひたひたと揺れる音だけが響く。その音を聞きながら***は、「やめて」という言葉はもう言わないと覚悟を決めた。
病室に入ってすぐ、目が合った瞬間に駆け出してきた***が、心底愛おしかった。力の入らない足でよろよろと立ち、細い腕で必死にすがりつかれて、それだけで銀時は安心していた。条件反射のように***が抱き着いてきたことが、自分を嫌がってたわけじゃないという十分すぎるほどの証明だ。と、銀時のなかの理性的で大人な部分は理解していた。
でもまだだ、まだ満足できない。もっと見たい。銀時が傷ついていると***が思っているうちに。その傷を癒すために、***が自分にどこまで許すかを、銀時はその目で確かめたかった。
底意地の悪い考えだと思ったが、銀時のなかの欲張りで幼稚な部分が、たまらなくそれを求めていた。
泣きそうな顔で弁解の言葉を考えている***を見ていたら、その欲求が溢れ出して気付けば口づけていた。寝ていた時とはちがって、はっきりとした反応が唇に返ってきたのが嬉しい。このままキスをし続けて、血の気のない唇を桃色に染めて、元通りにしたくなった。
耳や首筋を舐めたら、***が抵抗したので、銀時はわざと傷ついた瞳をした。震えはじめた小さな手が、肩を弱々しくつかんだ。もうやめてほしいと言わんばかりの怯えた表情なのに、***の口からは正反対の言葉が出た。
「あっ、ぁ、汗を、かいたから……その、せめて、身体を拭かせてください……」
「あ゙ぁ?汗だぁ?」
サイドテーブルの洗面器を***が指さす。しょうがねぇなと言って銀時は、手ぬぐいを水に浸してから絞った。水滴が落ちる音を聞いていたら、新しい試みを思いついて口元がにやけそうになった。
「ほれ***、身体、拭くんだろ」
「えっと、銀ちゃんは……す、少しだけ後ろ向いて、待っててください……すぐに終わるから」
手ぬぐいを受け取ろうとした***の手は、空を切った。ただ銀時に見下ろされて、ぽかんとした表情を浮かべた***は、所在なくベッドのふちに座っていた。
「あ、あの……?」
不安げにかしげた***の首元に、濡れた手ぬぐいをいきなり置いた。軽く絞っただけの布は水を多く含んでいて、ひたっという音を立てて***の肌に張り付いた。
「ひぁっ!!……え、ちょっ、銀ちゃんっ!?」
「ったく、しょうがねぇな***。オラ、拭いてやるから大人しくしろ」
「ええぇっ!?い、いやいやいやっ!!大丈夫!!自分で、自分で拭きますからっ!!」
濡れた布の冷たさに肩をすくめて、ぎゅっと***は身体を固くした。いつもなら赤くなるはずの顔はまだ血の気がなくて白いまま。それでも恥ずかし気な表情を浮かべて、口をあわあわとさせると、必死で銀時から手ぬぐいを奪おうとした。
「っんだよ、やっぱり俺に触られんのが、嫌なんじゃねぇか***」
「っっっ!!!」
拗ねた声で銀時がそう言っただけで、***は動きを止めた。眉を八の字に下げて抵抗しなくなる。その隙に長い髪を後ろへと払うと、露わになった首筋に手ぬぐいを走らせた。
鎖骨から首の横をのぼってうなじへ、耳の後ろを通ってアゴの下まで、わざとらしいほどゆっくりと丁寧に拭いていく。
「んんっ……!」
布からはみ出た銀時の指が、首元の濡れた肌に触れると、***はびくりと肩を揺らした。それも恥ずかしいのかうつむいて、膝の上で両手をぎゅっと握りしめた。そのしおらしさが可愛くて仕方がなくて、底知れぬ優越感が、銀時の背筋をはい上がってきた。
「なぁ、コレ、邪魔だから脱がしていい」
「へっ!?あ、えぇっと……わわわっ!」
プチンッ―――
大きめの病院着の襟元に、銀時のひとさし指が掛かる。大して力も入れてないのに、長い指で押されて一番上の金具のボタンが外れた。襟が開いた服の中に、ブラジャーの白いレースがちらりと見えた。
「あっ、あのっ、ぎ、んちゃん……っ」
「あんだよ、なんか文句あんのかよぉ」
「なっ……!も、文句ってそんなっ、あっ」
下着を見られたことに慌てた***が、思わず両手で胸元を抑える。瞳を潤ませて銀時を見上げたが、何の言葉を出ずにただ唇を開いたり閉じたりしている。
―――あぁ~あ~……まぁーた、こいつは……そーゆー顔がダメなんだって、まだ分かってねぇのかよ。そんな泣きそうな顔されたら、もっといじめたくなるに決まってんだろーが……
「汗かいたんだろ***。せっかく銀さんが優しく拭いてやってんだから、嫌がってんじゃねぇよ」
「っ……、い、嫌がってなんか、ないよ……」
そう言って***は、ぎゅっと唇を噛むと胸元から手を離す。よろよろと動いた小さな手は、服の合わせ目に指をさし込む銀時の手首にそっと置かれた。
プチンッ、プチンッ―――
ふたつ、みっつとボタンが外れていく音が、静かな病室に響いた。ボタンが外れるほどに***の身体はこわばり、銀時の手首をつかむ小さな手にも力が入った。
長い指たった一本、力もなく腕を下ろしただけで、あっけなく***の病院着の前は全部開いた。日が暮れた部屋の蛍光灯の明かりが、白いブラをより白く照らしていた。
「ぎ、銀ちゃん……あんまり、見ないでくださっ」
「はぁ?今さら何言ってんだよ***〜。もう見えちまってるから諦めろって。丸見えだから。下着もばっちり見えてっから。それともなに?お前、銀さんに見られんのヤだった?」
「ちがっ、や、やじゃない!~~~~っ!」
声にならない悲鳴を上げて、***は必死で銀時を受け入れた。震えて涙をこらえながらも、健気に恋人のワガママを許し続ける。声も無く銀時は笑って、服の中に両手を差し入れた。脱げた病衣が肩を滑り、震える細い腕から抜けて、***の背後にぱさりと落ちた。
「っっ、あ、あ、ぎ、銀ちゃんっ!」
「んー?大丈夫だって***。いい子だから、そんな硬くなんなよ。これじゃ俺が悪いことしてるみてぇじゃん」
困った表情を浮かべた銀時を見て、***は首を横にふるふると振った。
左手で***の腕を取ると、右手に持った手ぬぐいで手首から二の腕までを拭いていった。細い腕の真ん中、点滴が刺されていたテープを避けて、腕の内側の柔らかい肌を繊細に撫で上げたら、***は「ぁうっ」と泣きそうな声を上げた。
「ぶはっ、なにお前、脚だけじゃなくて、腕も感じんの?」
「そ、んなのっ……わ、わかんないよぉ……」
ふ~ん、と言ってニヤつきながら***を見つめた。銀時につかまれてない方の手で口を押さえて、うつむいた瞳からは今にも涙が落ちそうだった。
「あっそ。じゃ、ゆ~っくり拭いてやるから、脚と腕どっちが感じるか、よ~く考えろよ」
「うぅっ、そんなっ……ひぁっ……」
手ぬぐい越しの指は、***の二の腕をやさしく滑り、肩の上で円を描いた。まるで子猫を撫でているような自分の手の動きに、銀時は思わず声もなく笑った。刀や工具ばかりにぎってきた自分の手が、こんな風に何かを大切に扱っているのを見たのは初めてで。
気が遠くなるほどゆっくりと、白い胸元へと手を下ろしていく。濡れた布を通してさえ、ひかえめな***の胸が下着の中で小さく震えているのが分かった。
「***、そんな震えんなって……なぁ、ヤだ?銀さんにこうやって触られんの」
「やっ、やじゃない……やじゃないよ、銀ちゃん」
嫌だなんて言わせるつもりもない。それを言ったら銀時が傷つくと思って、必死でこらえる***の姿を見るのが、楽しくて仕方がない。こうやって何度もいじめるような問いかけをして、***の気持ちを確かめるのが、銀時の歪んだ性癖を喜ばせてやまない。
新八の言う通り、銀時は***に対してはすぐ弱気になる。来るもの拒まず、去る者追わずの精神で、テキトーに生きてきたこの男が、***だけはどうしても自分のもとへ置いておきたいと躍起になる。そのために***の気持ちを何度確かめても、繋ぎ止めるには足りない気がしてくる。
鎖骨の端から端までを撫でて、ブラの上のつつましい胸の膨らみを拭く。胸の真ん中に手を置いたら、布越しでも***の心臓がバクバクと打っているのが分かった。その鼓動は薄い肌を突き破って、銀時の手を直接叩いてきそうなほど強い。
―――普通の女なんだこいつは。新八や神楽のように強くもねぇ、少しひねれば、すぐに大ケガを負うような、ひ弱な女なんだ。そのくせ俺みたいなヤツにすがりついて、必死んなって「家族になりたい」なんて言うんだから、どうしようもねぇだろ……
普通だからこそ、***が愛おしい。そのひ弱さゆえに大切にしたい。でも普通だから、銀時の手をすり抜けて、離れていってしまいそうで恐ろしい。
ものすごい速さでドクドクと跳ね続ける心臓の鼓動を、手のひらに感じてようやく、***が自分のそばにいることに銀時は安心できた。
「銀ちゃん……私、本当にヤじゃないです。銀ちゃんに身体を触られるの、全然嫌じゃないよ。ただ、は、恥ずかしいだけで……」
そんなこと分かっている。十分すぎるほど。恥ずかしがりながらも自分を見上げる***と、じっと見つめ合っていたら、幸福感が溢れてきて笑いそうになった。それがバレないように、さっきよりも強く手に力を入れて、***の身体を後ろへと押した。
「きゃぁっ!!!」
手ぬぐいの上から胸を強く押されて、そのまま***はベッドに仰向けに倒れた。すかさず馬乗りになった銀時が、顔の横に両手をつくと、腹から下がぴたりと重なった。
「銀ちゃん、な、なにっ!?」
「はぁぁぁ~……んなこと言って***さぁ、ほんとは嫌なんだろ?さっきからずっとガクガク震えてるし、今にも泣きそうな顔してんじゃねぇか……無理しないで言えよ、銀ちゃんやめてって。嫌だったらイヤって言えばいいじゃねぇか」
―――お前が好きな相手は、こういう意地の悪い男だ。お前が身体を壊すほど必死に働いて支えようとしても、ソイツはそんなことよりお前の身体を欲しがってんだ。お前が家族になりたいと思ってる俺は、この先もずっとこうやってお前をいじめ続けるぞ。それを分かってんのかよ、***……
内心そう問いかけながらも銀時は、***が自分の期待する答えを必ず返すと分かっている。分かっているのに、何度も確かめずにいられない。
それは***が必死で万事屋を守って、銀時の近くにいようとするのと同じことだ。同じように銀時も、***を自分の近くに引き留めておきたい。その為になら大切にしてきた***の身体を、今ここで乱暴に抱いてしまってもいいとすら思えた。
血の繋がった家族が、どんなに離れても家族なように、自分たちの関係が未来永劫変わらないことを、銀時と***は方法は違えどそれぞれに確かめようとしていた。
「なぁ、言えよ***、嫌だって」
「ち、ちがうっ、あっ……ひゃぁ!!」
震える声で***が答えるのを遮って、銀時の手が胸の間から下りていく。手ぬぐいさえ置き去りにして、湿った長い指で直接わき腹を撫でた。初めて触られた感覚に鳥肌を立てた***の、薄い腰が反り返りって、白い肌が銀時の腹を押した。
片手をベッドについた銀時は、未知の感覚に耐える***の顔をまじまじと見つめた。
「あ、く、くすぐったい……ぎ、んちゃ、もぉ……」
「もうなに?もうやめてほしい?やっぱり嫌なんだろ***?触られたくねぇんだろ?さっさと言えよ、ホラ」
頭をふるふると横に振る***の、わき腹から手を動かして、病院着のズボンにかかるあたりの下腹部を撫でた。へその上を通ってみぞおちへ、水気を帯びた銀時の手が、***の震える肌を濡らしていく。
銀時の手の温度で温められた水滴が、血の気の失せた***の上半身に広がった。もう一度わき腹に戻した手で、胸の横までくびれをなぞったら、***が「っっ!!!」と息を飲んだ。
「なぁ……***、我慢しねぇで言えよ。銀ちゃん、触んないでって。もうこれ以上無理って。言ったらやめてやっから」
「でもっ……それじゃ、銀ちゃんがっ」
そう、それじゃ俺は傷ついたまんまだけど。
***にとって人生初の出来事で、未知の感覚や最大の羞恥心に耐えている。全身を震わせて瞳に涙を溜めながら、それでも***は銀時のことを考えている。
―――***、お前が繋ぎとめようとしてる男が、必死で引き留めようとしてる奴が、どんなろくでなしでも、お前は家族になりたいって思うのかよ……もしそうなら、俺は何度もお前をこうしていじめてやらぁ。だからお前は何度でも俺を受け入れてみせろよ。手ひどくされても、すがりつく無様な姿を何度でも俺に見せろよ。そうじゃなきゃ、俺たちは家族にはなれねぇんだぞ、***……―――
最低だと思うほど、自己中心的で身勝手な要求だ。しかし***の身体に触れれば触れるほど、そう求めずにはいられなくなっていく。それは銀時自身がいちばんよく分かっていた。
濡れた手ぬぐいが***の胸から腹を伝ってベッドに落ち、銀時の動きに追いやられて、床に落ちた。濡れた布が床を打つピシャッという小さな音が、静かな部屋にうるさいほど響いた。
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【(11)じれったい水滴】end
"家族になろうよ(4)"
約束は不安にさせるから願いを口にしたいだけ