銀ちゃんに恋する女の子
鼻から牛乳(純情)
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【第6話 友情と努力で勝利】
「銀ちゃんばっかりズルいネェェェェェ!!!!!」
「わぁっ!神楽ちゃん、ごめんごめん!本当に今日は約束守るから!いちにちずっと一緒にいるから!なんでも食べていいし、どこにでも一緒に行くから!」
「酢昆布1年分持ってくるネ!それに白米食べ放題!あとゲームセンターでプリクラ撮って、駄菓子屋行って、一緒に銭湯でお風呂に入って、夜は***の家にお泊りするアル!!!!!」
牛乳配達を終えて、昼ご飯を一緒に食べようと万事屋へやってきた。今日もみんなリビングでだらけてるかなと思いながら、***が階段を上っていくと、階段のいちばん上に仁王立ちした神楽がいた。腰に手をあてて、怒った顔で***を見下ろしていた。
花火大会の時に、***と一緒に回れなかったことを、神楽はずっと根に持っていた。
クレープを買う約束をしてたのに!おそろいのかんざしをつけて歩くのを楽しみにしてたのに!銀ちゃんが迎えに行って、そのままふたりでいなくなってしまった。***の馬鹿!友達の私より、腐った天然パーマのほうが大切だというの!!
花火大会以降、会うたび神楽にそう追及されて、***は平謝りするしかできない。祭りの翌日に万事屋へ行くと、つかみかからんばかりの勢いで神楽に怒られて、大汗をかいた。
「銀ちゃんも一緒に謝ってください」と言ったが、銀時は鼻をほじって相手にしようとしない。それどころか神楽を蔑むような目で見て言い放った。
「いつまでもギャーギャーうるせぇんだよ。だいたいあの人ごみんなかでお前らを見つけろっつーほうが無理だろーが。んなもん、馬の群れからク〇ス見つけるくらい無理だろ。お〇ぎとピ〇コ見分けんのくらい無理だろ。オイ、神楽、お前のかわりに***のかわいい浴衣姿は銀さんがたんまり堪能してやっといたから、もうあきらめろよ。あぁ~それにしても美味かったなぁ、***に買ってもらった練乳イチゴかき氷ぃ~」
火に油を注ぐようなことばかり言って、神経を逆なでする銀時に、神楽の怒りはたやすく沸点を超えた。今日は土曜日で、***は明日いちにち休み。それなら今日は***を独占してやろう。お泊りして夜もずっと一緒にいて、銀時には一瞬も触らせないのだ。
そう決意した神楽が、怒りの形相で階段の上から***を見下ろしていた。
「***はおかしいネ、いくらでも男はいるのに、どうして銀ちゃんなんか好きアルか。もしかしてもう襲われて、身体をモノにされたから、無理やり好きになろうとしてるアルか?」
「ぶっっっっっ!!!ゲホッ、ゴホゴホッ…~~~ッ!か、神楽ちゃん、なに言ってるの!そんなわけないでしょ!!」
ふたりでファミレスに行き、昼食を食べていた。白米をかきこみながら、顔中米粒だらけにした神楽の言い放った言葉に、***はアイスティーを吹き出してしまう。
「だってそうアル、***なら他にいくらでも良い人がいるはずヨ。もっと高みを目指すヨロシ。***なら小栗旬之助だっていけるネ!」
「た、高みって……いやいや、私には無理だよ。それに他の人なんてヤダよ。その、私はやっぱり、ぎ、銀ちゃんのことが、好きだから……他の人より全然、銀ちゃんがいちばん、その……」
こぼれたアイスティーを布巾で拭きながら、顔を真っ赤にした***がもごもごと答える。神楽は既に6皿目の白米の皿を空にすると、テーブルにドンと置いた。
「どこがネ!?あんなマダオ!あんなオッサン!給料も払わないし、ろくに働かないし、足も臭いアル!あんなのに***はもったいないヨ、銀ちゃんなんかのどこがいいネ!?」
「ど、どこがって……」
この質問をされるたび、***はひどく戸惑ってしまう。
銀時のどこが好きなのかという質問は、今までさんざん色んなひとから受けてきた。街の人、スーパーの同僚、牛乳屋の夫婦……、事情を知った人が「まぁ頑張って」と応援した後で、二言目には「で、あの人のどこがそんなに好きなの?」と聞いてくる。
好きなところはいくらでもある。口では嫌味や不満を言いながらも、困っている人がいたら助けずにいられないところとか。そしてそういう時ほど、死んだ魚のような目が輝くところとか。不器用なくせに底なしに優しいところとか。
でもそれを言葉にしようとすると、うまく言えない。無理に言葉に当てはめるとそれは薄っぺらくて、全然足りない気がするのだ。***の銀時を思う気持ちは、もっと大きくて強くて、全てを包み込むようなもののはずなのに、その一部分だけしか伝えられないのは、間違っている気がする。
だから「銀時のどこが好きか?」と質問されると、言葉がつまってしまって、***はとても胸が苦しい。
「なんていうのかなぁ……その、銀ちゃんって、神楽ちゃんや新八くんに対して、口では悪く言っても結局優しいでしょ?そういうところ、かなぁ……」
「全然優しくないアル!ムカつくことばっか言うし、親父臭いし、意地悪ばっかするし、マダオ中のマダオネ!***は優しすぎるのヨ!!」
「う、う~ん、そういう外から見て分かるところじゃなくて、包み込むような、そういう大きな力みたいな、銀ちゃんなら大丈夫って思うところがあるでしょう?例えば神楽ちゃんだって、銀ちゃん以外の人が万事屋をやってたとしたら、一緒に働こうってならなかったでしょ?」
「当たり前ネ!万事屋銀ちゃんって名前なんだから、万事屋は銀ちゃんしかいないヨ。でももっと給料くれて酢昆布もくれる金持ちの社長がいるんなら、話は別アル!!」
***をひとりじめされたことへの不満が残っていて、神楽の銀時への怒りはまだ収まらない。新たな白米のおかわりを頼み、ぷんぷんとした顔で食べ続ける神楽を見て、***は小さくため息をついた。
銀時の好きなところを言おうと必死に努力しているのに、やっぱりまた、うまく伝わらなかった。
約束どおり駄菓子屋へ行き、大量の酢昆布やお菓子を神楽に買ってあげた。ゲームセンターでプリクラを撮る。***が止めるのも聞かず、神楽は「天パ死ね、って書くアル!」とタッチペンをゆずらなかった。呆れた***はもらったプリクラを、ろくに見もせずにそそくさと手提げに押し込んだ。
公園で他の子どもたちも交えて一緒に鬼ごっこや缶蹴りをして遊んだ。次第に神楽の機嫌も直り、夕方になる頃にはいつも通りの弾ける笑顔に戻っていた。***の家に泊まるなら、着替えや歯ブラシが必要だと言って、荷物を取りに万事屋へと戻る。
「ただいまヨ~」
「おじゃましまぁす」
「わぁぁぁぁぁ!!***さん、入っちゃ駄目ですッ!」
玄関を開けて神楽と連れだって廊下を歩いていると、台所から新八が飛び出してくる。神楽と***の肩を後ろからつかんで、リビングに入らないよう足を踏ん張っている。
「え?どうしたの新八くん、ゴキブリでも出た?」
「これだから新八はヘタレ眼鏡ネ、江戸に住むってことはゴキブリと親友になることと同じヨ、私が退治するアル」
神楽が勢いよく新八を振り払うと、頭にクエスチョンマークを浮かべたままの***を伴って、リビングへと入っていく。
「………げっ」
「え?……わあっ!」
眉間にシワを寄せて不快感を露わにした神楽につられて、***もリビングへ視線を移す。いつも通りソファに横になった銀時が、ジャンプを顔にのせて居眠りをしている。
しかし、それはいつも通りではない光景だった。
「銀さぁ~ん、私が来たっていうのにいつまでも寝たふりをして、そうやって放置プレイを楽しんでるんでしょ?どこまでも私を喜ばせるのがうまいのね。いいわよ、つきあってあげるわ。ほら、こうやって銀さんの上で、さっちゃんはずぅっと待ってるんだからねー!!!」
銀時の寝ているソファの真上、天井から垂れた荒縄に、忍者の恰好をしたメガネの女がぶら下がっていた。身体を亀甲縛り、両腕と両足を後ろで結われて、背中をのけぞった状態で。
「ちょ、ちょっと銀ちゃん!!女の子になんてことしてるんですか!!!」
「***ちがうネ、あれは女の子じゃなくて、変態ストーカーのさっちゃんヨ」
「えっ……あ!さっちゃん!銀ちゃんのストーカー!!」
***も話は聞いたことがあった。銀時に彼女はいないが、付きまとったり部屋に忍び込んだりする、変わり者の忍者の女の子がいると。
これが噂の…と感心して眺めていたが、あまりに姿勢が苦しそうなので、縄をほどこうとつい手が伸びる。伸ばした手が縄に触れる寸前に、さっちゃんがぱっと振り向くと、甲高い声を上げて***を睨みつけた。
「ちょっと何するつもり!?私と銀さんが楽しんでるのを邪魔しようっていうの?ハッ……!その地味な顔、イモっぽい雰囲気、あなたが最近銀さんの周りを彼女ヅラでうろちょろしてる田舎女ね!噂では告白までしたっていうじゃない。でもぜ~んぜん大丈夫!私はぜ~んぜん気にしてないから!全然興味ないから!だって私と銀さんはとっくの昔に結ばれてて、あんなことやこんなことまでした仲なんだから!!」
「あんなこと!?……ど、どんなことですか!?」
「まぁ~大人しい顔してそういうことは知りたがるのね!いいわ、私と銀さんのめくるめく濃密な愛の交わりを教えてあげる。だって私は銀さんの下着のな、グハァッ!!!!」
真下から銀時が放ったジャンプが飛んできて、固い背表紙がさっちゃんの顔面に当たった。
「おい、***、そいつと喋ると変態と納豆くせぇのがうつるぞ、やめとけー」
「銀さぁ~ん、そうやって他の女の前で私を蔑むなんて、そんな酷いことするなんて……こ、興奮するじゃないのぉぉぉ!そこの田舎女、銀さんのドSと私のドMはね、磁石が引き合うようにピタリとくっついてるの。あなたの入り込む余地なんて髪の毛一本分も無いのよ!私の興奮するポイントを全て押さえている銀さんのことを、私は心から愛しているから!銀さんの全てを受け入れて愛してるの!それに比べてあなたは一体銀さんの何に応えられるっていうの?どこを愛してるっていうのよ!?」
「あーマジでこいつうるせぇな、新八ィ粗大ごみで捨てとけよ」という銀時の声が遠くで聞こえるが、***は微動だにできなかった。
「あ、あの、***さん、大丈夫ですか?」
心配した新八が声をかける。銀時を軽蔑しているか、さっちゃんに引いているかと思いきや、***は瞳を見開いて、新しい世界を見つけた子供のように、嬉しそうな顔でさっちゃんを見つめていた。
「す、すごい……すごいです、さっちゃん!私、感動しました!!」
「「「「は?」」」」
銀時を好きな理由を、はっきりと具体的に言葉にしたさっちゃんに、***は心底感動していた。
そうか、こうやって心のままに言葉にすればいいんだ。薄っぺらいのは嫌だとか、うまく伝わらないとか、そんなことを気にする前に、思ったとおりに銀ちゃんを好きな理由を言ってみればいいんだ!
「なんなのあなた!?馬鹿にしてるの!?私を侮辱していいのは銀さんだけよ!」
「うんうん、そうですよね!なんてったって、さっちゃんも銀ちゃんのことが好きなんですもんね!すごいです、そんな風にはっきり好きな理由が言えるの、尊敬します。だって私も、その……銀ちゃんのことが、す、好きだから、分かります!」
「………っ!い、意味わかんない!私の方があなたよりずっと銀さんのことが好きなの!私の全てを理解してる銀さんのことを愛してるの!これ以上の理由なんてある!?あるなら言ってみなさいよ!!」
「え、えーっと、わた、私は!私が銀ちゃんを好きな理由は……か、神楽ちゃんと新八くんです!!!」
神楽と新八が「私?」「僕?」とぽかんとする。銀時もソファの上に起き上がると、必死に何かを言おうとしている***を見つめた。
「は?***お前何言ってんの?俺を好きな理由がコイツらって変じゃね?」
はっとした***が銀時を見下ろすと、ふるふると小さく首を横に振った。ぐっと手をにぎりしめると、おずおずと口を開く。
「へ、変じゃないです。全然変じゃなくって、その、つまり……銀ちゃんが今まで出会ってきた人とか、歩んできた人生とか……そういう銀ちゃんを銀ちゃんたらしめているものの全てが、私が銀ちゃんを好きな理由っていうか……私が知らない昔に、お友達とかお師匠さんとか、神楽ちゃんや新八くんに、そういう人たちに出会ってきてくれて、それで今の銀ちゃんがあるんだって思うと、そういうことの全てが、私が銀ちゃんを好きな理由ですって言いたいんですけど………」
さっちゃんは絶句、新八は呆れてため息をつく、銀時は驚きで目を見開いていた。当の***は銀時を目の前にして、恥ずかしいことをぺらぺらと喋っていたことに気付いて、ぱっと赤面して押し黙る。
そんななかで唯一、神楽だけが口を大きく横に開いて、弾けるように笑った。
「***!それすごいネ!それって、私がいるから銀ちゃんのことが好きってことアル!」
そう言って嬉しそうに飛び跳ねると、勢いよく***に抱き着いた。
「わわっ!神楽ちゃん、そう、そうだよ!神楽ちゃんと一緒にいる銀ちゃんのことが、私はすごく好きだよ」
「私も***大好きネ!!」
神楽をぎゅっと抱きしめると、その肩越しに呆れた顔をした銀時と目があった。真っ赤な顔のまま「えへへ」と笑いかけると、銀時は頭をかきながら、「お前よくそんな恥ずかしいこと言えるな」と言って、声も無く笑った。
「キィ―――!そうやってかまととぶって、周りから固めていこうって戦法ね!負けないんだから、あんたみたいなぼけっとした顔のあざとい女には負けないんだから!」
「わ、私だって負けませんけど……でもさっちゃん、今度お茶でもしながらお話しませんか?今日は私ばっかり喋っちゃったけど、さっちゃんが銀ちゃんを好きな理由も、もっと聞きたいです。あ!これから神楽ちゃんと銭湯に行くんですけど、もしよかったら一緒に行きませんか?」
「~~~っ!なんなのよ!もう!あんたなんて大嫌い!!」
そう叫ぶとさっちゃんは、目にも止まらぬ速さでいなくなってしまった。唖然とする***と、喜ぶ銀時と新八、神楽は***に抱き着いたまま「すごいネ、***!あの変態ネバネバ女を退治したアル!」と叫んだ。
完全に機嫌の直った神楽が、うきうきしながら泊りの準備をする間、リビングで銀時と向かい合って座る。
鼻をほじりながらジャンプを読んでいる銀時を、ちらりと見る。目の前で好きな理由を言った後で、気まずさと恥ずかしさで耳が焼けるように熱い。何か喋らなければと思った時、急に銀時が「なぁ」と声をかけてきた。
「アイツにさぁ、さんざんなこと言われてたけど、お前へーきなの」
「へ?アイツ?……さっちゃんのこと?」
「田舎っぺとかイモくせぇとか、かまととぶっていやらしい女とか、ぼけっと鼻水垂らしたガキとか、ものっそい馬鹿にされてたけど、お前全然言い返さねぇし。普通あんなこと言われたら怒んだろ」
「なにいやらしいって、なに鼻水垂らしたガキって。そんなことさっちゃん言ってなかったです!銀ちゃんに言われると、さすがの私も怒りますよ!」
「なんで銀さんは怒られて、あの変態は許されんだよ、おかしくねそれ?」
「だってさっちゃんは……私が好きな銀ちゃんを好きな人ですよ?そんなの絶対良い人だもん。なんか色々言ってたけど、悪気がないのなんて明らかだし、怒るどころか嫌な気持ちにすらならないです……さっちゃんのような人に好かれるところも含めて、私は銀ちゃんのことが好きなんです」
そう言って***はへらりと笑った。耳が赤くなって恥ずかしい。けれど銀時を好きな理由を、はじめてはっきり言葉にできたことが、嬉しくてしょうがない。顔が自然とほころんで、へらへらとした笑いが漏れてしまう。
ジャンプを読んでいた銀時は、***の返答を聞き、その笑顔を見て、口をぽかんと開けるとそのままソファからずり落ちた。
「***!準備できたネ!銭湯行って背中洗いっこするアル!」
「うん、行こう!じゃぁ銀ちゃん、今夜は神楽ちゃんをお借りしますね」
「銀ちゃんになんて断らなくていいアル!どーせいつも通りの寂しい独り寝ヨ。ほら、むっつり天パ、これでも見て孤独を癒せばいいネ!!」
パタパタと出ていく***と神楽の足音が遠ざかる。ずりおちたソファの下で、尻餅をつくように座っていた銀時の前に、神楽が渡していったプリクラのシールがぺらりと落ちた。
拾って見ると、そこには神楽と***が投げキスをするようなポーズをとって笑っている姿が写っていた。
さらにその上を神楽が書いたと思わしき平仮名で「ぎんちゃんだいすき」の文字が大きく覆っていた。
ぱっと口元を手で覆った銀時の顔が赤くなる。もう一度、写真の中の***の顔を見て、小さな声でつぶやいた。
「なんだこいつ、最強じゃねぇか……」
(全然、勝てる気がしねぇ!!!)
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【第6話 友情と努力で勝利】end
「銀ちゃんばっかりズルいネェェェェェ!!!!!」
「わぁっ!神楽ちゃん、ごめんごめん!本当に今日は約束守るから!いちにちずっと一緒にいるから!なんでも食べていいし、どこにでも一緒に行くから!」
「酢昆布1年分持ってくるネ!それに白米食べ放題!あとゲームセンターでプリクラ撮って、駄菓子屋行って、一緒に銭湯でお風呂に入って、夜は***の家にお泊りするアル!!!!!」
牛乳配達を終えて、昼ご飯を一緒に食べようと万事屋へやってきた。今日もみんなリビングでだらけてるかなと思いながら、***が階段を上っていくと、階段のいちばん上に仁王立ちした神楽がいた。腰に手をあてて、怒った顔で***を見下ろしていた。
花火大会の時に、***と一緒に回れなかったことを、神楽はずっと根に持っていた。
クレープを買う約束をしてたのに!おそろいのかんざしをつけて歩くのを楽しみにしてたのに!銀ちゃんが迎えに行って、そのままふたりでいなくなってしまった。***の馬鹿!友達の私より、腐った天然パーマのほうが大切だというの!!
花火大会以降、会うたび神楽にそう追及されて、***は平謝りするしかできない。祭りの翌日に万事屋へ行くと、つかみかからんばかりの勢いで神楽に怒られて、大汗をかいた。
「銀ちゃんも一緒に謝ってください」と言ったが、銀時は鼻をほじって相手にしようとしない。それどころか神楽を蔑むような目で見て言い放った。
「いつまでもギャーギャーうるせぇんだよ。だいたいあの人ごみんなかでお前らを見つけろっつーほうが無理だろーが。んなもん、馬の群れからク〇ス見つけるくらい無理だろ。お〇ぎとピ〇コ見分けんのくらい無理だろ。オイ、神楽、お前のかわりに***のかわいい浴衣姿は銀さんがたんまり堪能してやっといたから、もうあきらめろよ。あぁ~それにしても美味かったなぁ、***に買ってもらった練乳イチゴかき氷ぃ~」
火に油を注ぐようなことばかり言って、神経を逆なでする銀時に、神楽の怒りはたやすく沸点を超えた。今日は土曜日で、***は明日いちにち休み。それなら今日は***を独占してやろう。お泊りして夜もずっと一緒にいて、銀時には一瞬も触らせないのだ。
そう決意した神楽が、怒りの形相で階段の上から***を見下ろしていた。
「***はおかしいネ、いくらでも男はいるのに、どうして銀ちゃんなんか好きアルか。もしかしてもう襲われて、身体をモノにされたから、無理やり好きになろうとしてるアルか?」
「ぶっっっっっ!!!ゲホッ、ゴホゴホッ…~~~ッ!か、神楽ちゃん、なに言ってるの!そんなわけないでしょ!!」
ふたりでファミレスに行き、昼食を食べていた。白米をかきこみながら、顔中米粒だらけにした神楽の言い放った言葉に、***はアイスティーを吹き出してしまう。
「だってそうアル、***なら他にいくらでも良い人がいるはずヨ。もっと高みを目指すヨロシ。***なら小栗旬之助だっていけるネ!」
「た、高みって……いやいや、私には無理だよ。それに他の人なんてヤダよ。その、私はやっぱり、ぎ、銀ちゃんのことが、好きだから……他の人より全然、銀ちゃんがいちばん、その……」
こぼれたアイスティーを布巾で拭きながら、顔を真っ赤にした***がもごもごと答える。神楽は既に6皿目の白米の皿を空にすると、テーブルにドンと置いた。
「どこがネ!?あんなマダオ!あんなオッサン!給料も払わないし、ろくに働かないし、足も臭いアル!あんなのに***はもったいないヨ、銀ちゃんなんかのどこがいいネ!?」
「ど、どこがって……」
この質問をされるたび、***はひどく戸惑ってしまう。
銀時のどこが好きなのかという質問は、今までさんざん色んなひとから受けてきた。街の人、スーパーの同僚、牛乳屋の夫婦……、事情を知った人が「まぁ頑張って」と応援した後で、二言目には「で、あの人のどこがそんなに好きなの?」と聞いてくる。
好きなところはいくらでもある。口では嫌味や不満を言いながらも、困っている人がいたら助けずにいられないところとか。そしてそういう時ほど、死んだ魚のような目が輝くところとか。不器用なくせに底なしに優しいところとか。
でもそれを言葉にしようとすると、うまく言えない。無理に言葉に当てはめるとそれは薄っぺらくて、全然足りない気がするのだ。***の銀時を思う気持ちは、もっと大きくて強くて、全てを包み込むようなもののはずなのに、その一部分だけしか伝えられないのは、間違っている気がする。
だから「銀時のどこが好きか?」と質問されると、言葉がつまってしまって、***はとても胸が苦しい。
「なんていうのかなぁ……その、銀ちゃんって、神楽ちゃんや新八くんに対して、口では悪く言っても結局優しいでしょ?そういうところ、かなぁ……」
「全然優しくないアル!ムカつくことばっか言うし、親父臭いし、意地悪ばっかするし、マダオ中のマダオネ!***は優しすぎるのヨ!!」
「う、う~ん、そういう外から見て分かるところじゃなくて、包み込むような、そういう大きな力みたいな、銀ちゃんなら大丈夫って思うところがあるでしょう?例えば神楽ちゃんだって、銀ちゃん以外の人が万事屋をやってたとしたら、一緒に働こうってならなかったでしょ?」
「当たり前ネ!万事屋銀ちゃんって名前なんだから、万事屋は銀ちゃんしかいないヨ。でももっと給料くれて酢昆布もくれる金持ちの社長がいるんなら、話は別アル!!」
***をひとりじめされたことへの不満が残っていて、神楽の銀時への怒りはまだ収まらない。新たな白米のおかわりを頼み、ぷんぷんとした顔で食べ続ける神楽を見て、***は小さくため息をついた。
銀時の好きなところを言おうと必死に努力しているのに、やっぱりまた、うまく伝わらなかった。
約束どおり駄菓子屋へ行き、大量の酢昆布やお菓子を神楽に買ってあげた。ゲームセンターでプリクラを撮る。***が止めるのも聞かず、神楽は「天パ死ね、って書くアル!」とタッチペンをゆずらなかった。呆れた***はもらったプリクラを、ろくに見もせずにそそくさと手提げに押し込んだ。
公園で他の子どもたちも交えて一緒に鬼ごっこや缶蹴りをして遊んだ。次第に神楽の機嫌も直り、夕方になる頃にはいつも通りの弾ける笑顔に戻っていた。***の家に泊まるなら、着替えや歯ブラシが必要だと言って、荷物を取りに万事屋へと戻る。
「ただいまヨ~」
「おじゃましまぁす」
「わぁぁぁぁぁ!!***さん、入っちゃ駄目ですッ!」
玄関を開けて神楽と連れだって廊下を歩いていると、台所から新八が飛び出してくる。神楽と***の肩を後ろからつかんで、リビングに入らないよう足を踏ん張っている。
「え?どうしたの新八くん、ゴキブリでも出た?」
「これだから新八はヘタレ眼鏡ネ、江戸に住むってことはゴキブリと親友になることと同じヨ、私が退治するアル」
神楽が勢いよく新八を振り払うと、頭にクエスチョンマークを浮かべたままの***を伴って、リビングへと入っていく。
「………げっ」
「え?……わあっ!」
眉間にシワを寄せて不快感を露わにした神楽につられて、***もリビングへ視線を移す。いつも通りソファに横になった銀時が、ジャンプを顔にのせて居眠りをしている。
しかし、それはいつも通りではない光景だった。
「銀さぁ~ん、私が来たっていうのにいつまでも寝たふりをして、そうやって放置プレイを楽しんでるんでしょ?どこまでも私を喜ばせるのがうまいのね。いいわよ、つきあってあげるわ。ほら、こうやって銀さんの上で、さっちゃんはずぅっと待ってるんだからねー!!!」
銀時の寝ているソファの真上、天井から垂れた荒縄に、忍者の恰好をしたメガネの女がぶら下がっていた。身体を亀甲縛り、両腕と両足を後ろで結われて、背中をのけぞった状態で。
「ちょ、ちょっと銀ちゃん!!女の子になんてことしてるんですか!!!」
「***ちがうネ、あれは女の子じゃなくて、変態ストーカーのさっちゃんヨ」
「えっ……あ!さっちゃん!銀ちゃんのストーカー!!」
***も話は聞いたことがあった。銀時に彼女はいないが、付きまとったり部屋に忍び込んだりする、変わり者の忍者の女の子がいると。
これが噂の…と感心して眺めていたが、あまりに姿勢が苦しそうなので、縄をほどこうとつい手が伸びる。伸ばした手が縄に触れる寸前に、さっちゃんがぱっと振り向くと、甲高い声を上げて***を睨みつけた。
「ちょっと何するつもり!?私と銀さんが楽しんでるのを邪魔しようっていうの?ハッ……!その地味な顔、イモっぽい雰囲気、あなたが最近銀さんの周りを彼女ヅラでうろちょろしてる田舎女ね!噂では告白までしたっていうじゃない。でもぜ~んぜん大丈夫!私はぜ~んぜん気にしてないから!全然興味ないから!だって私と銀さんはとっくの昔に結ばれてて、あんなことやこんなことまでした仲なんだから!!」
「あんなこと!?……ど、どんなことですか!?」
「まぁ~大人しい顔してそういうことは知りたがるのね!いいわ、私と銀さんのめくるめく濃密な愛の交わりを教えてあげる。だって私は銀さんの下着のな、グハァッ!!!!」
真下から銀時が放ったジャンプが飛んできて、固い背表紙がさっちゃんの顔面に当たった。
「おい、***、そいつと喋ると変態と納豆くせぇのがうつるぞ、やめとけー」
「銀さぁ~ん、そうやって他の女の前で私を蔑むなんて、そんな酷いことするなんて……こ、興奮するじゃないのぉぉぉ!そこの田舎女、銀さんのドSと私のドMはね、磁石が引き合うようにピタリとくっついてるの。あなたの入り込む余地なんて髪の毛一本分も無いのよ!私の興奮するポイントを全て押さえている銀さんのことを、私は心から愛しているから!銀さんの全てを受け入れて愛してるの!それに比べてあなたは一体銀さんの何に応えられるっていうの?どこを愛してるっていうのよ!?」
「あーマジでこいつうるせぇな、新八ィ粗大ごみで捨てとけよ」という銀時の声が遠くで聞こえるが、***は微動だにできなかった。
「あ、あの、***さん、大丈夫ですか?」
心配した新八が声をかける。銀時を軽蔑しているか、さっちゃんに引いているかと思いきや、***は瞳を見開いて、新しい世界を見つけた子供のように、嬉しそうな顔でさっちゃんを見つめていた。
「す、すごい……すごいです、さっちゃん!私、感動しました!!」
「「「「は?」」」」
銀時を好きな理由を、はっきりと具体的に言葉にしたさっちゃんに、***は心底感動していた。
そうか、こうやって心のままに言葉にすればいいんだ。薄っぺらいのは嫌だとか、うまく伝わらないとか、そんなことを気にする前に、思ったとおりに銀ちゃんを好きな理由を言ってみればいいんだ!
「なんなのあなた!?馬鹿にしてるの!?私を侮辱していいのは銀さんだけよ!」
「うんうん、そうですよね!なんてったって、さっちゃんも銀ちゃんのことが好きなんですもんね!すごいです、そんな風にはっきり好きな理由が言えるの、尊敬します。だって私も、その……銀ちゃんのことが、す、好きだから、分かります!」
「………っ!い、意味わかんない!私の方があなたよりずっと銀さんのことが好きなの!私の全てを理解してる銀さんのことを愛してるの!これ以上の理由なんてある!?あるなら言ってみなさいよ!!」
「え、えーっと、わた、私は!私が銀ちゃんを好きな理由は……か、神楽ちゃんと新八くんです!!!」
神楽と新八が「私?」「僕?」とぽかんとする。銀時もソファの上に起き上がると、必死に何かを言おうとしている***を見つめた。
「は?***お前何言ってんの?俺を好きな理由がコイツらって変じゃね?」
はっとした***が銀時を見下ろすと、ふるふると小さく首を横に振った。ぐっと手をにぎりしめると、おずおずと口を開く。
「へ、変じゃないです。全然変じゃなくって、その、つまり……銀ちゃんが今まで出会ってきた人とか、歩んできた人生とか……そういう銀ちゃんを銀ちゃんたらしめているものの全てが、私が銀ちゃんを好きな理由っていうか……私が知らない昔に、お友達とかお師匠さんとか、神楽ちゃんや新八くんに、そういう人たちに出会ってきてくれて、それで今の銀ちゃんがあるんだって思うと、そういうことの全てが、私が銀ちゃんを好きな理由ですって言いたいんですけど………」
さっちゃんは絶句、新八は呆れてため息をつく、銀時は驚きで目を見開いていた。当の***は銀時を目の前にして、恥ずかしいことをぺらぺらと喋っていたことに気付いて、ぱっと赤面して押し黙る。
そんななかで唯一、神楽だけが口を大きく横に開いて、弾けるように笑った。
「***!それすごいネ!それって、私がいるから銀ちゃんのことが好きってことアル!」
そう言って嬉しそうに飛び跳ねると、勢いよく***に抱き着いた。
「わわっ!神楽ちゃん、そう、そうだよ!神楽ちゃんと一緒にいる銀ちゃんのことが、私はすごく好きだよ」
「私も***大好きネ!!」
神楽をぎゅっと抱きしめると、その肩越しに呆れた顔をした銀時と目があった。真っ赤な顔のまま「えへへ」と笑いかけると、銀時は頭をかきながら、「お前よくそんな恥ずかしいこと言えるな」と言って、声も無く笑った。
「キィ―――!そうやってかまととぶって、周りから固めていこうって戦法ね!負けないんだから、あんたみたいなぼけっとした顔のあざとい女には負けないんだから!」
「わ、私だって負けませんけど……でもさっちゃん、今度お茶でもしながらお話しませんか?今日は私ばっかり喋っちゃったけど、さっちゃんが銀ちゃんを好きな理由も、もっと聞きたいです。あ!これから神楽ちゃんと銭湯に行くんですけど、もしよかったら一緒に行きませんか?」
「~~~っ!なんなのよ!もう!あんたなんて大嫌い!!」
そう叫ぶとさっちゃんは、目にも止まらぬ速さでいなくなってしまった。唖然とする***と、喜ぶ銀時と新八、神楽は***に抱き着いたまま「すごいネ、***!あの変態ネバネバ女を退治したアル!」と叫んだ。
完全に機嫌の直った神楽が、うきうきしながら泊りの準備をする間、リビングで銀時と向かい合って座る。
鼻をほじりながらジャンプを読んでいる銀時を、ちらりと見る。目の前で好きな理由を言った後で、気まずさと恥ずかしさで耳が焼けるように熱い。何か喋らなければと思った時、急に銀時が「なぁ」と声をかけてきた。
「アイツにさぁ、さんざんなこと言われてたけど、お前へーきなの」
「へ?アイツ?……さっちゃんのこと?」
「田舎っぺとかイモくせぇとか、かまととぶっていやらしい女とか、ぼけっと鼻水垂らしたガキとか、ものっそい馬鹿にされてたけど、お前全然言い返さねぇし。普通あんなこと言われたら怒んだろ」
「なにいやらしいって、なに鼻水垂らしたガキって。そんなことさっちゃん言ってなかったです!銀ちゃんに言われると、さすがの私も怒りますよ!」
「なんで銀さんは怒られて、あの変態は許されんだよ、おかしくねそれ?」
「だってさっちゃんは……私が好きな銀ちゃんを好きな人ですよ?そんなの絶対良い人だもん。なんか色々言ってたけど、悪気がないのなんて明らかだし、怒るどころか嫌な気持ちにすらならないです……さっちゃんのような人に好かれるところも含めて、私は銀ちゃんのことが好きなんです」
そう言って***はへらりと笑った。耳が赤くなって恥ずかしい。けれど銀時を好きな理由を、はじめてはっきり言葉にできたことが、嬉しくてしょうがない。顔が自然とほころんで、へらへらとした笑いが漏れてしまう。
ジャンプを読んでいた銀時は、***の返答を聞き、その笑顔を見て、口をぽかんと開けるとそのままソファからずり落ちた。
「***!準備できたネ!銭湯行って背中洗いっこするアル!」
「うん、行こう!じゃぁ銀ちゃん、今夜は神楽ちゃんをお借りしますね」
「銀ちゃんになんて断らなくていいアル!どーせいつも通りの寂しい独り寝ヨ。ほら、むっつり天パ、これでも見て孤独を癒せばいいネ!!」
パタパタと出ていく***と神楽の足音が遠ざかる。ずりおちたソファの下で、尻餅をつくように座っていた銀時の前に、神楽が渡していったプリクラのシールがぺらりと落ちた。
拾って見ると、そこには神楽と***が投げキスをするようなポーズをとって笑っている姿が写っていた。
さらにその上を神楽が書いたと思わしき平仮名で「ぎんちゃんだいすき」の文字が大きく覆っていた。
ぱっと口元を手で覆った銀時の顔が赤くなる。もう一度、写真の中の***の顔を見て、小さな声でつぶやいた。
「なんだこいつ、最強じゃねぇか……」
(全然、勝てる気がしねぇ!!!)
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【第6話 友情と努力で勝利】end