銀ちゃんに恋する女の子
鼻から牛乳(純情)
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【第32話 覚悟】
「いや、キスまでしろって俺言ってないんですけど」
「いいじゃない、その方がそれっぽいし、あの子も完全に騙されてたわよ。よかったね、銀さん」
傘の下で腕にまとわりついてくる女からは、甘ったるい香水の匂いがした。耳に響く甲高い声で、舌ったらずに自分の名前を呼ばれると虫唾が走った。
角を曲がった先で女の腕を振りほどいて、別れようとしたら、女はあからさまに不満げな顔をした。ピンク色の看板の立つラブホテルの前で足を止めると、ぐいっと銀時の腕を引いた。
「せっかくだし入って楽しもうよ。私、銀さんのこと結構タイプだもん」
「は?俺はお前みたいなアバズレ全然タイプじゃねぇよ。どっちにしろ今日はもう無理。銀さんもう完全オフモードなんで。バイブレーション機能も切れてるんで。そーゆーことになっても今日の銀さんの銀さんは能無しなんで。今日っつーかこの先もお前とは無理だわ。入るならひとりで入れよ」
「ラブホに女ひとりで入れっての?信じらんなぁい。協力してあげたんだから、ちょっとくらい付き合ってくれもいいじゃん。私脱ぐとすごいから、あの地味な子より銀さんのこと色々楽しませてあげられるよ」
多分、世間ではこういう女を色っぽいと言うんだろう。人工的な香りを振りまいて、長い茶髪は雨にも乱れずに綺麗に巻かれている。崩して着られた着物の襟元は深く開き、胸の谷間まで見えた。出る所の出た身体の豊満な胸が、やけにてらてら光っていた。ぐいぐいと自分の腕を引っ張る女を見て、銀時は深いため息をついた。
二時間前の居酒屋で、これから行う計画を打ち明けた時、長谷川は嫌悪感をあらわにした。
「いや~、そりゃないぜ銀さん、他の女をはべらせて***ちゃんにあきらめてもらうなんて、酷じゃねぇか。そんなことしないでさ、“俺はやめとけ”って言い聞かせてやれよ。あんないい子をわざと傷つけるような、馬鹿なことすんなって」
「馬鹿はテメーだろーが長谷川さん、アンタつくづくどうしようもねぇマダオだな。***が言い聞かせてあきらめるようなタマかよ。そんな簡単な女だったらとっくに愛想尽かしてらぁ。散々はぐらかしてきたひでぇ男に、銀ちゃん銀ちゃんっていまだにひっついてくんだぞ。もうこっちには実力行使しか残ってねぇっつーの」
「実力行使って……それでテキトーな女引っかけて、ホテル行くとこ見せつけるっていうのかよ。そんなのヒドすぎるぜ。***ちゃんが泣いてもいいのか銀さん」
泣かせたくないに決まってるだろ、という言葉は心の中でしか言えなかった。誰よりも***を守りたいと思っていたはずの自分が、実はいちばん泣かせていたことが、今では銀時にもよく分かっていたから。
―――私、こうやって抱きしめてもらえるなら、何回でも銀ちゃんのこと、助けますから―――
いつかわき腹を刺されて入院した時、病院のベッドのなかで***が、そう言った。忘れたフリをして銀時は、全然忘れられなかった。***の澄んだ瞳の奥に、強い覚悟の光があったから。
それはいつか先に逝く銀時を、見送る覚悟をした光だった。それに気づいた瞬間、鳥肌が立った。こいつは、この女は、そうまでして俺と一緒にいたいのか。そんな決意をしたって、幸せにはなれないというのに。
確かに銀時は、自分がどんなに傷ついても***には笑っていてほしいと思っていた。しかしそれがまさか、***にそんな覚悟までさせることになるとは予想もしてなかった。
***のような普通の女に、そんな思いをさせてまで一緒にいるのは間違っていると分かっていた。それでも気付かないフリを続けたのは、どうしても***と一緒にいたいと思っていたから。あの瞳で見つめられて、微笑まれたい、あの声で名前を呼ばれて、好きと言われたい。抑えようもないほど、その欲求は湧き上がってきた。
しかし、それももう終わりにしなければならないと、ようやく覚悟ができた。自分はずいぶんいい思いをした。ハタチもとうに過ぎたオッサンが、***のような若い娘に一途に慕われて、柄にもなくときめいた。新八と神楽に白い目で見られるほど、***の一挙手一投足に動揺した。誰かを大切に思う純粋さに、こそばゆい気持ちになった。欲しいがまま銀時が求める全てに、***は一生懸命答えてくれた。その時間は全て幸福だったと、迷いなく言える。もう、それだけで充分だ。これ以上はやめようと銀時は決めた。その覚悟を決めせたのは若旦那だった。
―――***ちゃんを幸せにしてやってください……何の見返りも求めずに無条件で、あなたが生きていることだけを祈ってるような女の子を、不幸になんてしちゃいけない―――
この男の言う通りだと銀時は思った。***によく似た純粋な瞳はまっすぐで、嘘ひとつなかった。そうだ、***を幸せにしてやらなければ、その責任が自分にはある、と思い出した。
その幸せが何かを考えると、顔も知らない***の故郷の家族が浮かんできた。こんな薄汚い街でいつまでも牛乳配達なんてやってないで、家族のもとへ帰してやりたいと思った。
牛乳屋夫婦のような優しい両親のもとで、若旦那のような誠実な男と所帯を持って、一郎や二郎のような子供を産んで、幸せになってほしいと心から思った。
最果ての土地で生まれ、厳しい飢饉のなか友達をたくさん失い、貧しいながらもようやく生き残ったというのに、こんな遠い土地まで出稼ぎに来た。家族と離れ離れで、たったひとりで。それが***という女だということを、今さら思い出した。
奪われ取り上げられることばかりの人生だったはずなのに、***はいつもにこにこ笑っていた。欲しがるよりも先に人に与えていた。自分だって苦しいくせに、目の前の困っている人に後先考えずに手を差し伸べていた。
あの橋の上で出会った時から、倒れた銀時の下敷きになっていた時から、***がそういう女だってことは、よく分かっていたはずなのに。
―――危ねぇ……あともう少しで、本当にアイツを俺のモンにしちまうところだった……―――
あともう少しで自分の為に、***自身の幸せや大切な家族まで犠牲にさせるところだった。そう気が付いた時に銀時は、***から離れようと覚悟を決めた。だから***が愛想を尽かさないのなら、こっちから愛想を尽かさせてやろうと思い立ったのだ。
「でも銀さんよぉ、他の女と一緒にいるところを見たとして、それで***ちゃんがあきらめなかったらどうすんだよ。それでも愛想尽かさずに、一途に銀さんのこと思って待ってたら、どうすんだよ?」
心配そうな顔で、長谷川がそう言った。
「んぁ~?そん時はそん時で考えりゃいいだろ。ま、心配しなくても長谷川さん、そんなことはありえねぇよ。***とは似ても似つかねぇようなアバズレ引っかけりゃいーだろ。例えば……」
ぐるりと飲み屋を見渡して、テキトーに目に入った女に声をかけた。「オネーサン、ちょっと協力してもらいてーことがあんだけど」と声をかけた銀時を、女は品定めをするように見てから、ふたつ返事で「いいよ、お兄さん」と答えた。
長谷川がその女を見て「げっ、銀さんそりゃねぇぜ、アバズレってのにもほどがあんだろ」とコソコソ言ったが聞こえないフリをした。
万事屋へ電話をかけて、***に電話を替わる。小さな声で『銀ちゃん?』と呼ばれた瞬間、胸が締め付けられた。あと何回、この声で自分の名前を呼ばれることがあるだろう。少なくとも今日が最後なことだけは確かだ。
『ぎ、銀ちゃんの馬鹿っ!どこですか!?どこに迎えにいけばいいのっ!!?』
いつもの銀時の冗談に、躍起になって怒る声から、電話越しでも***の赤い顔が見える気がした。恥ずかしがって真っ赤になる顔を、もう一度この目で見たかった。できることなら抱き寄せて、腕の中で紅色に染まる瞬間をもう一度見たかった。
しかし、それはもう叶わないということが、飲み屋の入り口に立ち尽くす***の顔を見た瞬間、銀時にはハッキリとわかった。
あんな***の顔ははじめて見た。たぶん一生忘れられないと思う。カチコチに固まって身動きが取れずに、銀時のことをじっと見つめていた。その黒い瞳の中に深い絶望があって、その淵から落ちないように、必死でその場に立っているように見えた。
「ぎ……ぎ、んちゃん……」
傘を取り上げた瞬間に聞こえた***の声は、今まで聞いたどの声よりもこわばり、戸惑って、震えていた。あんなに何度も、甘く可愛い声で名前を呼ばれたのに、最後がこれかと思うと、自分の行いの残酷さに反吐が出そうだった。
協力してもらった恩があるせいで、女を強く振り払うこともできずに、気が付くとラブホテルの暖簾をくぐっていた。店員不在のホテルのフロント、自動チェックイン機の前で女は慣れた手つきでタッチパネルを操作していた。
「ねぇねぇ、銀さん部屋どれがいい?このSMプレイ用の部屋とかいいんじゃない?こーゆーの好きでしょう?私、ムチで叩くのすっごく上手なの」
「いや、銀さんドSだから。叩かれんじゃなくて、ぶっ叩く方だから。ムチじゃなくてもっと固いもんで、ぶん殴ってやろーかオメーはぁぁぁ、金属バッドとかゴルフクラブとかぁ」
「やだぁ、怖ぁい。じゃぁこのフツーの部屋でいいや」
「いや、フツーの部屋にも入んねぇから。お前いい加減にしろよ。さっきから何度も言ってっけど、俺はホテルに行くフリをしろっつったただけで、マジでヤるつもりねぇんだって。オラさっさと出るぞ」
「え~、でももうチェックインしちゃったしぃ」
チェックイン機から部屋のカードキーが音もなく出てきた。女がそれを受けとって銀時に見せつける。No.1010と部屋番号が書かれたカードキーを見て、銀時は片手で顔を覆うと「はぁぁぁぁ~」とため息をついた。
キャハハッという女の甲高い笑い声は、耳障りだった。***のけらけらとした笑い声は、鈴が転がるような声で、耳に心地よかったと、ふと思い出す。
腕をつかむ女の手は、長い爪がピンク色に塗られ、手のひらが熱かった。***の手はもっと小さくて、仕事の邪魔だからと爪は短く切りそろえられていた。触るといつも冷たくて、それが体温の高い銀時には気持ちよかった。
女の巻かれた茶髪はいくら動いても乱れなかった。***の黒髪は「銀ちゃん!」と言いながら走ってくるたびに揺れて、手で撫でると柔らかく、すぐにぐしゃぐしゃになった。
てらてらとしたグロスを塗られた女の唇は、見てるのもうっとうしかった。***の桃色の小さな唇はいつもふっくらとしていて、「銀ちゃん、大好き」と動くたびに、数えきれないほど何度も、そこに触れたいと思った。
「ねぇ、早く行こうよ銀さん」
女の声にハッとするまで、ずっと記憶の中の***の姿に脳内を占められていた。自分から突き放したくせに女々しくて嫌になる。でも、もう二度と会えないと思うといつまでも、***の面影ばかりが蘇る。
だからその時、ふと聞こえた声が自分の頭の中から聞こえたのか、それとも実際にすぐ近くで聞こえたのか、銀時には咄嗟に分からなかった。
「す、すみませんっ、あの……ほんとにごめんなさい」
それは聞きなれた愛しい声だった。後ろからその声が聞こえて振り返ると、数十メートル先のホテルの自動ドアが開いていて、出て行く男女のカップルに、***が頭を下げていた。
「こんなとこに突っ立ってんじゃねぇよ!濡れちまったじゃねぇか!!」
そう怒鳴った男が***の肩を強く押す。雨の降りしきる道路に、びしょ濡れの***が膝から転んだ。
「ちょっとヤダ、この子、ひとりでこんなとこ入るの?信じらんなぁ~い」
そう言った女と、***を突き飛ばした連れの男は、下世話な笑い声をたてて去って行った。膝から倒れたままの***が顔を上げて、ホテルの中を見る。暖簾の下から、ロビーに立ち尽くす銀時と目が合った。
「なっ………!!!」
驚きで固まる銀時を見た瞬間、***は立ち上がった。よろよろと歩き出し、数歩進むとホテルの中に入ってきた。
じっと銀時を見つめる目は、泣いているように見えた。雨で濡れているせいで、涙が流れているかどうかは分からなかった。
「銀ちゃん……」
小さな声で***がつぶやいた。銀時は「お前、こんなとこに来てんじゃねぇよ」と言おうとしたが、口を開く前に既に***は走り出していた。
それはスローモーションのように見えた。銀時だけを見つめて一目散に走ってきた***が、直前で急に向きを変えた。銀時の腕をつかむ女の手の上に、濡れた手をおいて、そっと引き離そうとする。銀時の腕に触れた***の手は、信じられないくらい冷たかった。
「やっ、な、なにこの女!?ちょっとやだ!!濡れるじゃない!!触らないでよ!!」
青い顔になった女が、銀時の腕から手を離した。盾になって守るように***は銀時に背を向けて立った。おずおずと両手をつき出して、女の肩をトンと押した。九十度に頭を下げて、震える声を絞り出すように言った。
「ご、ごごごごごめんなさいっっっ、お、お姉さんにこんなことするの、間違ってるって分かってるんですけど……でも!……でもっ、ぎ、銀ちゃんは、銀ちゃんのことは、あきらめてくださいっ!!!!」
「はぁぁぁ!?あきらめるのはアンタでしょ!?ちょっと銀さん何なのよこの子、話が違うじゃない!!」
***の肩越しに女は銀時に声をかけたが、銀時は驚きで声が出せなかった。ただ茫然と立ち、目の前の***の背中を見つめるしかできない。その銀時の顔を見た瞬間、女の怒りは爆発した。
「なによ、こんな地味な女!びしょ濡れでホテルにまで追いかけてきて、ほんっと気持ち悪い!!」
バチンッッッ―――
女は右手を振り上げると思い切り、***のほほを打った。長いピンクの爪が、張り手の終わりに***のほほを引っ掻いていった。そのガリッという音まで銀時の耳には届いた。
「オイ、お前いい加減にしろって」
そう言った銀時の声は、地の底から響くように冷えていた。そして***ではなく、女の手首を折れそうなほど強くつかんでいた。
張り手の衝撃でよろけた***は、その場にぺたりと座り込んで動かない。銀時に強く手首をつかまれ、怒りのにじむ目で見下ろされた女は、顔をゆがめてひるんだ。
「いっ、いい加減にしてほしいのはこっちよ!ダサい奴らに付き合わされていい迷惑!!」
捨て台詞のようにそう言うと、女は銀時の顔に向かってカードキーを投げつけた。床にパタッとカードが落ちる時には既に、女はホテルの玄関から出て行っていた。
ほほを抑えた***が、足元に座り込んでいた。背中を向けているせいで、どんな顔をしているのか、銀時には分からない。こんなにひどい目にあったのだから、怒っているのか泣いているのか、そのどちらかだと思う。立ち上がらせて「さっさと帰れ」と言えば、それで終わる。もしかしたら去り際に「最低」とか「馬鹿」とか、罵倒されるかもしれない。でもそれでいい、それが正解だ、と銀時は自分に言い聞かせた。
「おい、***、お前さぁ、びしょ濡れになってまでこんなとこ来てんじゃねぇよ。ここラブホテルだぞ?女ひとりで入るような場所じゃねぇって分かってんの?恥ずかしくねぇのかよお前。どーすんのこれ?っつーか、どーしたいのお前は全く……」
わざと明るい声で話しかけながら、座り込んだ***の肩をつかんで自分の方を向かせる。うつむいていた***が顔をあげて目があった瞬間、銀時は息を飲んで何も言えなくなった。
怒っているか泣いているかと思った***は、眉間にシワを寄せて苦しそうに、微笑んでいた。今にも泣きそうなほど瞳を潤ませて、それでも必死に笑顔を作ろうとしていた。そして鼻にかかった涙声で、銀時が予想もしなかった言葉をつぶやいた。
「どうしたいって……帰りたいよ、銀ちゃん。万事屋に一緒に帰りましょう……もうすぐ、台風が来ちゃうから」
そう言って***は、銀時の着物の袖をぎゅっとつかんだ。雨で濡れた髪の後れ毛が、うなじに張り付いている。着物もびしょ濡れで、転んだせいで膝から下には泥までついていた。左ほほには赤い張り手の痕と、爪のひっかき傷が3本、ミミズ腫れになっている。
そんな外見でも***は必死で微笑んで、銀時を見上げていた。その潤んだ***の瞳の中に、まだ銀時を思う気持ちが宿っていた。信じられない思いで目を見開いて、銀時はその瞳を見つめ返した。
―――でも銀さんよぉ……それで***ちゃんが諦めなかったらどうすんだよ。それでも愛想尽かさずに、一途に銀さんのこと思って待ってたら、どうすんだよ?―――
長谷川の声が耳に蘇ってくる。
長谷川さん、アンタやっぱりどうしようもねぇマダオだ。***は一途に待ってるどころか、追いかけてきやがったぞ。どうすんだコレ、どうすりゃいいんだよ。俺には一体、あとどんな手が残ってるっつーんだよ。何をしたらコイツは諦めるんだよ、誰か教えてくれよ頼むから。
ふと見ると***の近くの床に、No.1010と番号の書かれたカードキーが落ちていた。「***ちゃんが泣いてもいいのかよ」という長谷川の声が再び頭に響いた。
―――泣かせたくねぇよ。でも他にどうしろってんだ。
ぎりっと奥歯を噛んだ。ちきしょう、という声が漏れそうになったがぐっとこらえた。***はまだじっと銀時を見上げている。
「………ぇよ」
「え……?ごめん、銀ちゃん、なんですか?」
「っ……、帰らねぇっつったんだよ!!!!!」
ロビー中に響く銀時の声に、驚きで***は目を見開いた。銀時はカードキーをばっと拾うと、もう片方の手で***の細い手首をぎゅっとつかんだ。
「きゃっ……!!ぎ、銀ちゃんっ!!?」
強く腕を引っ張られ、急に立たされた***が、小さく悲鳴を上げた。その悲鳴が終わる前に、すでに銀時は走り出していた。向かう先にロビー階で止まっているエレベーターがあった。
ホテルの外はもう土砂降りの雨が降っていて、稲光が走り、バリバリという大きな雷鳴が響いた。
腕を取られた***の小さな肩が、ビクリと震えた。それが雷のせいなのか、骨が折れそうなほど強く手首をつかまれたせいなのか、銀時には全然分からなかった。
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【第32話 覚悟】end
「いや、キスまでしろって俺言ってないんですけど」
「いいじゃない、その方がそれっぽいし、あの子も完全に騙されてたわよ。よかったね、銀さん」
傘の下で腕にまとわりついてくる女からは、甘ったるい香水の匂いがした。耳に響く甲高い声で、舌ったらずに自分の名前を呼ばれると虫唾が走った。
角を曲がった先で女の腕を振りほどいて、別れようとしたら、女はあからさまに不満げな顔をした。ピンク色の看板の立つラブホテルの前で足を止めると、ぐいっと銀時の腕を引いた。
「せっかくだし入って楽しもうよ。私、銀さんのこと結構タイプだもん」
「は?俺はお前みたいなアバズレ全然タイプじゃねぇよ。どっちにしろ今日はもう無理。銀さんもう完全オフモードなんで。バイブレーション機能も切れてるんで。そーゆーことになっても今日の銀さんの銀さんは能無しなんで。今日っつーかこの先もお前とは無理だわ。入るならひとりで入れよ」
「ラブホに女ひとりで入れっての?信じらんなぁい。協力してあげたんだから、ちょっとくらい付き合ってくれもいいじゃん。私脱ぐとすごいから、あの地味な子より銀さんのこと色々楽しませてあげられるよ」
多分、世間ではこういう女を色っぽいと言うんだろう。人工的な香りを振りまいて、長い茶髪は雨にも乱れずに綺麗に巻かれている。崩して着られた着物の襟元は深く開き、胸の谷間まで見えた。出る所の出た身体の豊満な胸が、やけにてらてら光っていた。ぐいぐいと自分の腕を引っ張る女を見て、銀時は深いため息をついた。
二時間前の居酒屋で、これから行う計画を打ち明けた時、長谷川は嫌悪感をあらわにした。
「いや~、そりゃないぜ銀さん、他の女をはべらせて***ちゃんにあきらめてもらうなんて、酷じゃねぇか。そんなことしないでさ、“俺はやめとけ”って言い聞かせてやれよ。あんないい子をわざと傷つけるような、馬鹿なことすんなって」
「馬鹿はテメーだろーが長谷川さん、アンタつくづくどうしようもねぇマダオだな。***が言い聞かせてあきらめるようなタマかよ。そんな簡単な女だったらとっくに愛想尽かしてらぁ。散々はぐらかしてきたひでぇ男に、銀ちゃん銀ちゃんっていまだにひっついてくんだぞ。もうこっちには実力行使しか残ってねぇっつーの」
「実力行使って……それでテキトーな女引っかけて、ホテル行くとこ見せつけるっていうのかよ。そんなのヒドすぎるぜ。***ちゃんが泣いてもいいのか銀さん」
泣かせたくないに決まってるだろ、という言葉は心の中でしか言えなかった。誰よりも***を守りたいと思っていたはずの自分が、実はいちばん泣かせていたことが、今では銀時にもよく分かっていたから。
―――私、こうやって抱きしめてもらえるなら、何回でも銀ちゃんのこと、助けますから―――
いつかわき腹を刺されて入院した時、病院のベッドのなかで***が、そう言った。忘れたフリをして銀時は、全然忘れられなかった。***の澄んだ瞳の奥に、強い覚悟の光があったから。
それはいつか先に逝く銀時を、見送る覚悟をした光だった。それに気づいた瞬間、鳥肌が立った。こいつは、この女は、そうまでして俺と一緒にいたいのか。そんな決意をしたって、幸せにはなれないというのに。
確かに銀時は、自分がどんなに傷ついても***には笑っていてほしいと思っていた。しかしそれがまさか、***にそんな覚悟までさせることになるとは予想もしてなかった。
***のような普通の女に、そんな思いをさせてまで一緒にいるのは間違っていると分かっていた。それでも気付かないフリを続けたのは、どうしても***と一緒にいたいと思っていたから。あの瞳で見つめられて、微笑まれたい、あの声で名前を呼ばれて、好きと言われたい。抑えようもないほど、その欲求は湧き上がってきた。
しかし、それももう終わりにしなければならないと、ようやく覚悟ができた。自分はずいぶんいい思いをした。ハタチもとうに過ぎたオッサンが、***のような若い娘に一途に慕われて、柄にもなくときめいた。新八と神楽に白い目で見られるほど、***の一挙手一投足に動揺した。誰かを大切に思う純粋さに、こそばゆい気持ちになった。欲しいがまま銀時が求める全てに、***は一生懸命答えてくれた。その時間は全て幸福だったと、迷いなく言える。もう、それだけで充分だ。これ以上はやめようと銀時は決めた。その覚悟を決めせたのは若旦那だった。
―――***ちゃんを幸せにしてやってください……何の見返りも求めずに無条件で、あなたが生きていることだけを祈ってるような女の子を、不幸になんてしちゃいけない―――
この男の言う通りだと銀時は思った。***によく似た純粋な瞳はまっすぐで、嘘ひとつなかった。そうだ、***を幸せにしてやらなければ、その責任が自分にはある、と思い出した。
その幸せが何かを考えると、顔も知らない***の故郷の家族が浮かんできた。こんな薄汚い街でいつまでも牛乳配達なんてやってないで、家族のもとへ帰してやりたいと思った。
牛乳屋夫婦のような優しい両親のもとで、若旦那のような誠実な男と所帯を持って、一郎や二郎のような子供を産んで、幸せになってほしいと心から思った。
最果ての土地で生まれ、厳しい飢饉のなか友達をたくさん失い、貧しいながらもようやく生き残ったというのに、こんな遠い土地まで出稼ぎに来た。家族と離れ離れで、たったひとりで。それが***という女だということを、今さら思い出した。
奪われ取り上げられることばかりの人生だったはずなのに、***はいつもにこにこ笑っていた。欲しがるよりも先に人に与えていた。自分だって苦しいくせに、目の前の困っている人に後先考えずに手を差し伸べていた。
あの橋の上で出会った時から、倒れた銀時の下敷きになっていた時から、***がそういう女だってことは、よく分かっていたはずなのに。
―――危ねぇ……あともう少しで、本当にアイツを俺のモンにしちまうところだった……―――
あともう少しで自分の為に、***自身の幸せや大切な家族まで犠牲にさせるところだった。そう気が付いた時に銀時は、***から離れようと覚悟を決めた。だから***が愛想を尽かさないのなら、こっちから愛想を尽かさせてやろうと思い立ったのだ。
「でも銀さんよぉ、他の女と一緒にいるところを見たとして、それで***ちゃんがあきらめなかったらどうすんだよ。それでも愛想尽かさずに、一途に銀さんのこと思って待ってたら、どうすんだよ?」
心配そうな顔で、長谷川がそう言った。
「んぁ~?そん時はそん時で考えりゃいいだろ。ま、心配しなくても長谷川さん、そんなことはありえねぇよ。***とは似ても似つかねぇようなアバズレ引っかけりゃいーだろ。例えば……」
ぐるりと飲み屋を見渡して、テキトーに目に入った女に声をかけた。「オネーサン、ちょっと協力してもらいてーことがあんだけど」と声をかけた銀時を、女は品定めをするように見てから、ふたつ返事で「いいよ、お兄さん」と答えた。
長谷川がその女を見て「げっ、銀さんそりゃねぇぜ、アバズレってのにもほどがあんだろ」とコソコソ言ったが聞こえないフリをした。
万事屋へ電話をかけて、***に電話を替わる。小さな声で『銀ちゃん?』と呼ばれた瞬間、胸が締め付けられた。あと何回、この声で自分の名前を呼ばれることがあるだろう。少なくとも今日が最後なことだけは確かだ。
『ぎ、銀ちゃんの馬鹿っ!どこですか!?どこに迎えにいけばいいのっ!!?』
いつもの銀時の冗談に、躍起になって怒る声から、電話越しでも***の赤い顔が見える気がした。恥ずかしがって真っ赤になる顔を、もう一度この目で見たかった。できることなら抱き寄せて、腕の中で紅色に染まる瞬間をもう一度見たかった。
しかし、それはもう叶わないということが、飲み屋の入り口に立ち尽くす***の顔を見た瞬間、銀時にはハッキリとわかった。
あんな***の顔ははじめて見た。たぶん一生忘れられないと思う。カチコチに固まって身動きが取れずに、銀時のことをじっと見つめていた。その黒い瞳の中に深い絶望があって、その淵から落ちないように、必死でその場に立っているように見えた。
「ぎ……ぎ、んちゃん……」
傘を取り上げた瞬間に聞こえた***の声は、今まで聞いたどの声よりもこわばり、戸惑って、震えていた。あんなに何度も、甘く可愛い声で名前を呼ばれたのに、最後がこれかと思うと、自分の行いの残酷さに反吐が出そうだった。
協力してもらった恩があるせいで、女を強く振り払うこともできずに、気が付くとラブホテルの暖簾をくぐっていた。店員不在のホテルのフロント、自動チェックイン機の前で女は慣れた手つきでタッチパネルを操作していた。
「ねぇねぇ、銀さん部屋どれがいい?このSMプレイ用の部屋とかいいんじゃない?こーゆーの好きでしょう?私、ムチで叩くのすっごく上手なの」
「いや、銀さんドSだから。叩かれんじゃなくて、ぶっ叩く方だから。ムチじゃなくてもっと固いもんで、ぶん殴ってやろーかオメーはぁぁぁ、金属バッドとかゴルフクラブとかぁ」
「やだぁ、怖ぁい。じゃぁこのフツーの部屋でいいや」
「いや、フツーの部屋にも入んねぇから。お前いい加減にしろよ。さっきから何度も言ってっけど、俺はホテルに行くフリをしろっつったただけで、マジでヤるつもりねぇんだって。オラさっさと出るぞ」
「え~、でももうチェックインしちゃったしぃ」
チェックイン機から部屋のカードキーが音もなく出てきた。女がそれを受けとって銀時に見せつける。No.1010と部屋番号が書かれたカードキーを見て、銀時は片手で顔を覆うと「はぁぁぁぁ~」とため息をついた。
キャハハッという女の甲高い笑い声は、耳障りだった。***のけらけらとした笑い声は、鈴が転がるような声で、耳に心地よかったと、ふと思い出す。
腕をつかむ女の手は、長い爪がピンク色に塗られ、手のひらが熱かった。***の手はもっと小さくて、仕事の邪魔だからと爪は短く切りそろえられていた。触るといつも冷たくて、それが体温の高い銀時には気持ちよかった。
女の巻かれた茶髪はいくら動いても乱れなかった。***の黒髪は「銀ちゃん!」と言いながら走ってくるたびに揺れて、手で撫でると柔らかく、すぐにぐしゃぐしゃになった。
てらてらとしたグロスを塗られた女の唇は、見てるのもうっとうしかった。***の桃色の小さな唇はいつもふっくらとしていて、「銀ちゃん、大好き」と動くたびに、数えきれないほど何度も、そこに触れたいと思った。
「ねぇ、早く行こうよ銀さん」
女の声にハッとするまで、ずっと記憶の中の***の姿に脳内を占められていた。自分から突き放したくせに女々しくて嫌になる。でも、もう二度と会えないと思うといつまでも、***の面影ばかりが蘇る。
だからその時、ふと聞こえた声が自分の頭の中から聞こえたのか、それとも実際にすぐ近くで聞こえたのか、銀時には咄嗟に分からなかった。
「す、すみませんっ、あの……ほんとにごめんなさい」
それは聞きなれた愛しい声だった。後ろからその声が聞こえて振り返ると、数十メートル先のホテルの自動ドアが開いていて、出て行く男女のカップルに、***が頭を下げていた。
「こんなとこに突っ立ってんじゃねぇよ!濡れちまったじゃねぇか!!」
そう怒鳴った男が***の肩を強く押す。雨の降りしきる道路に、びしょ濡れの***が膝から転んだ。
「ちょっとヤダ、この子、ひとりでこんなとこ入るの?信じらんなぁ~い」
そう言った女と、***を突き飛ばした連れの男は、下世話な笑い声をたてて去って行った。膝から倒れたままの***が顔を上げて、ホテルの中を見る。暖簾の下から、ロビーに立ち尽くす銀時と目が合った。
「なっ………!!!」
驚きで固まる銀時を見た瞬間、***は立ち上がった。よろよろと歩き出し、数歩進むとホテルの中に入ってきた。
じっと銀時を見つめる目は、泣いているように見えた。雨で濡れているせいで、涙が流れているかどうかは分からなかった。
「銀ちゃん……」
小さな声で***がつぶやいた。銀時は「お前、こんなとこに来てんじゃねぇよ」と言おうとしたが、口を開く前に既に***は走り出していた。
それはスローモーションのように見えた。銀時だけを見つめて一目散に走ってきた***が、直前で急に向きを変えた。銀時の腕をつかむ女の手の上に、濡れた手をおいて、そっと引き離そうとする。銀時の腕に触れた***の手は、信じられないくらい冷たかった。
「やっ、な、なにこの女!?ちょっとやだ!!濡れるじゃない!!触らないでよ!!」
青い顔になった女が、銀時の腕から手を離した。盾になって守るように***は銀時に背を向けて立った。おずおずと両手をつき出して、女の肩をトンと押した。九十度に頭を下げて、震える声を絞り出すように言った。
「ご、ごごごごごめんなさいっっっ、お、お姉さんにこんなことするの、間違ってるって分かってるんですけど……でも!……でもっ、ぎ、銀ちゃんは、銀ちゃんのことは、あきらめてくださいっ!!!!」
「はぁぁぁ!?あきらめるのはアンタでしょ!?ちょっと銀さん何なのよこの子、話が違うじゃない!!」
***の肩越しに女は銀時に声をかけたが、銀時は驚きで声が出せなかった。ただ茫然と立ち、目の前の***の背中を見つめるしかできない。その銀時の顔を見た瞬間、女の怒りは爆発した。
「なによ、こんな地味な女!びしょ濡れでホテルにまで追いかけてきて、ほんっと気持ち悪い!!」
バチンッッッ―――
女は右手を振り上げると思い切り、***のほほを打った。長いピンクの爪が、張り手の終わりに***のほほを引っ掻いていった。そのガリッという音まで銀時の耳には届いた。
「オイ、お前いい加減にしろって」
そう言った銀時の声は、地の底から響くように冷えていた。そして***ではなく、女の手首を折れそうなほど強くつかんでいた。
張り手の衝撃でよろけた***は、その場にぺたりと座り込んで動かない。銀時に強く手首をつかまれ、怒りのにじむ目で見下ろされた女は、顔をゆがめてひるんだ。
「いっ、いい加減にしてほしいのはこっちよ!ダサい奴らに付き合わされていい迷惑!!」
捨て台詞のようにそう言うと、女は銀時の顔に向かってカードキーを投げつけた。床にパタッとカードが落ちる時には既に、女はホテルの玄関から出て行っていた。
ほほを抑えた***が、足元に座り込んでいた。背中を向けているせいで、どんな顔をしているのか、銀時には分からない。こんなにひどい目にあったのだから、怒っているのか泣いているのか、そのどちらかだと思う。立ち上がらせて「さっさと帰れ」と言えば、それで終わる。もしかしたら去り際に「最低」とか「馬鹿」とか、罵倒されるかもしれない。でもそれでいい、それが正解だ、と銀時は自分に言い聞かせた。
「おい、***、お前さぁ、びしょ濡れになってまでこんなとこ来てんじゃねぇよ。ここラブホテルだぞ?女ひとりで入るような場所じゃねぇって分かってんの?恥ずかしくねぇのかよお前。どーすんのこれ?っつーか、どーしたいのお前は全く……」
わざと明るい声で話しかけながら、座り込んだ***の肩をつかんで自分の方を向かせる。うつむいていた***が顔をあげて目があった瞬間、銀時は息を飲んで何も言えなくなった。
怒っているか泣いているかと思った***は、眉間にシワを寄せて苦しそうに、微笑んでいた。今にも泣きそうなほど瞳を潤ませて、それでも必死に笑顔を作ろうとしていた。そして鼻にかかった涙声で、銀時が予想もしなかった言葉をつぶやいた。
「どうしたいって……帰りたいよ、銀ちゃん。万事屋に一緒に帰りましょう……もうすぐ、台風が来ちゃうから」
そう言って***は、銀時の着物の袖をぎゅっとつかんだ。雨で濡れた髪の後れ毛が、うなじに張り付いている。着物もびしょ濡れで、転んだせいで膝から下には泥までついていた。左ほほには赤い張り手の痕と、爪のひっかき傷が3本、ミミズ腫れになっている。
そんな外見でも***は必死で微笑んで、銀時を見上げていた。その潤んだ***の瞳の中に、まだ銀時を思う気持ちが宿っていた。信じられない思いで目を見開いて、銀時はその瞳を見つめ返した。
―――でも銀さんよぉ……それで***ちゃんが諦めなかったらどうすんだよ。それでも愛想尽かさずに、一途に銀さんのこと思って待ってたら、どうすんだよ?―――
長谷川の声が耳に蘇ってくる。
長谷川さん、アンタやっぱりどうしようもねぇマダオだ。***は一途に待ってるどころか、追いかけてきやがったぞ。どうすんだコレ、どうすりゃいいんだよ。俺には一体、あとどんな手が残ってるっつーんだよ。何をしたらコイツは諦めるんだよ、誰か教えてくれよ頼むから。
ふと見ると***の近くの床に、No.1010と番号の書かれたカードキーが落ちていた。「***ちゃんが泣いてもいいのかよ」という長谷川の声が再び頭に響いた。
―――泣かせたくねぇよ。でも他にどうしろってんだ。
ぎりっと奥歯を噛んだ。ちきしょう、という声が漏れそうになったがぐっとこらえた。***はまだじっと銀時を見上げている。
「………ぇよ」
「え……?ごめん、銀ちゃん、なんですか?」
「っ……、帰らねぇっつったんだよ!!!!!」
ロビー中に響く銀時の声に、驚きで***は目を見開いた。銀時はカードキーをばっと拾うと、もう片方の手で***の細い手首をぎゅっとつかんだ。
「きゃっ……!!ぎ、銀ちゃんっ!!?」
強く腕を引っ張られ、急に立たされた***が、小さく悲鳴を上げた。その悲鳴が終わる前に、すでに銀時は走り出していた。向かう先にロビー階で止まっているエレベーターがあった。
ホテルの外はもう土砂降りの雨が降っていて、稲光が走り、バリバリという大きな雷鳴が響いた。
腕を取られた***の小さな肩が、ビクリと震えた。それが雷のせいなのか、骨が折れそうなほど強く手首をつかまれたせいなのか、銀時には全然分からなかった。
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【第32話 覚悟】end