雑多な短篇置き場
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【路地裏の夜】
※注意※ 若干の大人向け要素あります・一瞬昔の女的なものが出ます
嫉妬、という感情は銀時に教わった。
普段は出歩かない夜のかぶき町、愛憎渦巻く大人の街に***が繰り出したのは土曜日の夜。たまには一緒に来るか?と銀時に誘われて、お酒も飲めないのに居酒屋に来たのが一時間前のことだ。
賑わう店に入ってすぐ、銀時に促されてカウンターの端の壁際の席に座った。長い付き合いだけれど二人で飲み屋に来るのは珍しくて、***は少し緊張していた。
だけど乾杯するなり銀時が、芝居がかった口調で「最近どうよ?儲かってる?」なんて聞くから、***はオレンジジュースを吹き出して笑ったのだ。
新八や神楽のこと、***の仕事のことや、銀時がパチンコでまた負けたこと、話題も笑いも絶えなかった。
一杯目のビールが無くなって、徳利を傾け始めた銀時に***は小声で言った。
「私、ジュースだけでご機嫌になってて変ですね」
「はぁ?ジュースだけでご機嫌なら安上がりでいいじゃねーか。酒飲まなきゃいけねーわけじゃあるめぇし。なにごとも勉強だって、もすこし肩の力抜けよな***」
そう言って***の頭を乱暴に撫でる。
店の大将がカウンター越しに「万事屋の旦那、今日は彼女と一緒だからご機嫌だね」と言うと、間髪入れずに「うるせぇハゲ」と返すから、***はまたジュースを吹き出してしまった。そんな和やかな雰囲気のなかに、その人は突如現れた。
「やだ、銀さんじゃない!久しぶり!」
そう言って背後から銀時に抱きついた女性はとても綺麗な人だった。***は咄嗟に隣を見たけれど、女の人の肩で銀時の顔は遮られてボソボソした声しか聞こえなかった。
「あー、アンタ誰だっけ?」
「忘れちゃったの?あんなことまでした仲だってのに!」
薄情ね、と言いながらも大して気にしていない様子が大人っぽい。また仲良くしようよ、と甘える声がすごく可愛い。
銀時が無言で身じろいでいると連れの人がやってきた。すみませんコイツ酔っ払ってて、と引き剥がされた時に初めて、その人は***の存在に気がついた。
「えっ、もしかして彼女?やだ!ごめーん!」
ごめんね銀さん、と手を振って去っていった後、またふたりきりに戻った銀時と***の間には、気まずい空気と沈黙だけが残った。困り果ててチラッと見上げた銀時の横顔はいつも通り気が抜けてて、何も無かったみたいにお猪口のお酒を飲んでいる。何か喋らなきゃと焦った***は、ぎこちない笑みを浮かべて口を開いた。
「すごく、そのっ……綺麗な人、でしたねぇ」
「あ?そうか?よく見てなかったわ」
「……知り合いなんでしょう?」
「だから、誰だか覚えてねんだって」
油断したら責めるような言葉が口をついて出そうで、***は困ってしまった。
あの人が言ってた、あんなことまでしたってどんなこと?仲良くするってどういう意味?
答えは知りたくないのに混乱した頭には質問ばかりが浮かんで、その中でも最も聞きたくないことを口が勝手に問いかけていた。
「銀ちゃんはあの人と……し、したんですか?」
「したって、何をだよ?」
「何をって、その、」
問い返されて口をつぐむと、さっきの女性の姿が***の脳裏に浮かんできた。銀時に触れる色っぽい動き、艶やかで豊満な身体と、ほろ酔いで紅くなったふくよかな胸元。ジュースなんて飲んでいる幼い自分が憐れで、俯いて見えた身体の色気のなさに***は泣きそうになった。薄っぺらな胸の奥で締め付けられた心臓がギリギリと痛い。
———これは嫉妬だ。私、あの人に嫉妬してるんだ
憧れに似ているけれど全然違う。もっと愚かで醜くて、身勝手なその感情を消し去ろうとする***の隣で、急に銀時がポツリと零した。
「まぁ多分、したわ」
「え?」
「お前が聞いてんのが、あの女と俺がセックスしたかってことなら、したと思うわ。覚えてねーけど、多分ヤッたんじゃね?つってもアレよ?***と付き合う前だよ?こう見えて銀さん浮気とかしねぇし。付き合う前どころかしっぽりとワンナイトなんざ出来たの新八がうちに来る前だから、昔過ぎて忘れちまったっつーの。アレ、何?もしかしてお前怒ってんの?***ちゃんってば、大好きな銀さんがよその女と遊んでると思って妬いちゃったんですかァ〜?」
「なっ、や、妬いてなんか、っ……、」
ない、とは言えずに唇を噛んで銀時を睨んだ。
昔のことに妬いても無意味だというのに。どんな過去でもそれが今の銀時を作ったものなら愛おしいはずなのに。なのに自分の知らない銀時を他の女性が知っているという事実に、***の胸は重たくなって張り裂けそうなほど苦しい。
「へぇぇ、お前もそんな顔すんだな」
感心したように言って、銀時の右手が***の頬を包んだ。なんだか楽しげに細められた瞳には、眉間に皺を寄せた不細工な***の顔が映る。くつくつと笑いながら顔を寄せられて、身を引いたら後頭部が背後の壁にトンと当たった。頬を包む手の親指が唇をふにっと撫でるから、あぁキスされるな、とぼんやり思う。周りに人が大勢居るのに、と慌てたら、***はまた言いたくもないことを口走ってしまった。
「こっ、こういうことも、あの人としたの?」
「は?……っだよ、だから忘れたって」
不機嫌そうに銀時はパッと離れた。面倒くさい女だと思われたくない。きっと全て忘れてしまうべきだ。でもそうしたら、この心にドロドロと澱んだ感情はどうすればいいのだろう。迷子になった気分で俯いて、膝の上で握りしめた両手を見つめながら、***は殆ど無意識に呟いていた。
「……銀ちゃん、私とも、してください」
「あ?してって、何をだよ?」
「あの人としたことを、私ともして欲しいです」
「……お前、それ本気で言ってる?」
馬鹿じゃねーの、と憐れまれると思った。もしくはいい加減にしろと怒られると思って顔を伏せて待っていたら、急に二の腕を強く掴まれてぐいっと引かれた。
「おいハゲ、ツケにしといて」
「旦那ァまたかい?次は払ってくれよ」
大将に言われながら立ち上がった銀時は、***の腕を掴んだまま店を出た。
零時を過ぎた大通りを千鳥足の酔っ払いや、くんずほぐれつする恋人達が行き交う。その道を銀時はずんずんと進み、***は「えっ、えっ」と戸惑いながら引きずられていった。強く握られた腕が少し痛くて、銀時の歩く速さに追いつかない足が何度も躓く。
角をひとつかふたつ曲って、薄暗い路地に入った後はもうそこがどこだか分からなくなった。月明かりさえ僅かにしか届かない路地裏で、いくつもの室外機や積み重なったビールケースを避けて通り過ぎ、無造作に袋の散らばるゴミ捨て場を越えていく。袋小路の突き当たりで目の前の大きな背中がいきなり立ち止まったから、***は顔面からドンッとぶつかってしまった。
「痛っ!ぎ、銀ちゃん、どこに行くんですか?」
「ここでしてやるよ」
「へっ?」
ゆっくりと振り返った銀時の髪が月明かりに鈍く光る。薄闇のなかの紅い瞳がギラついているのに気がついて、ハッと息を飲んだ時にはもう口付けられていた。いつもの始まりのキスみたいに優しく解いていくものではなくて、恥ずかしいことをしている真っ最中にするような荒々しくて深いキスだった。いきなり喉の奥まで貪られて「んんっ!」と身をよじる***の腰を、銀時が掴むから動けなくなった。
路地の壁に背中を押さえつけられて帯がズリズリッと擦れる音がした。お酒の味のする舌が口の中を這い回って、息も出来ずに身悶えているうちに、着物の裾を割って入ってきた銀時の膝で脚を開かれた。その膝に跨るように***の身体ごとずいっと持ち上げられると、両足が浮き上がって下駄が脱げる。ようやく唇が離れた後、口端から唾液を垂らしながら***は息も絶え絶えに言った。
「はっ、ぁ、ぎ、銀ちゃ……こん、な、とこじゃ」
「こんなとこでして欲しいっつったのお前だろ。そーいやあんな感じの女とこんな感じの所でヤッた気がするわ、そーだそーだ、確かそうだったわー」
ニタァと笑うのがいつにも増して意地悪だ。
そうだった、私の彼氏はSっ気が強くて私が困れば困るほど、泣けば泣くほど喜ぶような人だった。そう思い出したら不思議なことに、鉛を飲んだように重苦しかった***の胸はほんの少しだけ軽くなった。
「どーする?やっぱやめとく?俺ァ別にやめてもいーけど?そらそーだよな、いっつも家とかラブホとかの綺麗な布団の上でしかヤッたことねぇ***には、こんな汚ねぇトコですんのは怖ぇし嫌だよなぁ?」
「やっ、やだ……!やめない!」
***はたまらなくなって太い首に腕を回して抱きついた。いつも銀時にされる時を思い出しながら、真似するように口付ける。分厚い唇にかぷっと噛み付いたら、そんなもんかよと怒るみたいにがぶりと強く噛み返されて、腰から脳天までがビリビリと痺れるような刺激が走った。唇をくっつけたまま荒い息を零した銀時が「っとに、いーのかよ?」と***に尋ねる。
「な、なにごとも勉強、って、銀ちゃんが、ゆった」
「ふはっ!上等だよ」
ぐいぐいと身を寄せる銀時と壁に挟まれて、潰れた胸が窒息しそうなほど甘く苦しい。宙に浮いたままの***の両足は何度もビクンッと跳ねた。夢中でキスをしてる時の銀時の雄々しい眼差しや、身体中を這い回る大きな手の荒々しさや、そのくせ頬にかかった髪を払う指の優しさを、自分だけが知っていられたらどれほど幸福だろう、と***は思った。
こんな所でいけないと頭では分かっているのに、嫉妬にまみれて愚かになった***は、薄汚れた路地裏で銀時にいつもより乱暴にされたいと願った。そのどうしようもない心さえ、丸ごと全て包んでくれる逞しい腕や胸に、***は必死でしがみつく。
嫉妬、という感情を銀時に教わった。だからその感情をどうすればいいのかも、今夜銀時に教えてもらうつもりだ。
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【路地裏の夜】end
※注意※ 若干の大人向け要素あります・一瞬昔の女的なものが出ます
嫉妬、という感情は銀時に教わった。
普段は出歩かない夜のかぶき町、愛憎渦巻く大人の街に***が繰り出したのは土曜日の夜。たまには一緒に来るか?と銀時に誘われて、お酒も飲めないのに居酒屋に来たのが一時間前のことだ。
賑わう店に入ってすぐ、銀時に促されてカウンターの端の壁際の席に座った。長い付き合いだけれど二人で飲み屋に来るのは珍しくて、***は少し緊張していた。
だけど乾杯するなり銀時が、芝居がかった口調で「最近どうよ?儲かってる?」なんて聞くから、***はオレンジジュースを吹き出して笑ったのだ。
新八や神楽のこと、***の仕事のことや、銀時がパチンコでまた負けたこと、話題も笑いも絶えなかった。
一杯目のビールが無くなって、徳利を傾け始めた銀時に***は小声で言った。
「私、ジュースだけでご機嫌になってて変ですね」
「はぁ?ジュースだけでご機嫌なら安上がりでいいじゃねーか。酒飲まなきゃいけねーわけじゃあるめぇし。なにごとも勉強だって、もすこし肩の力抜けよな***」
そう言って***の頭を乱暴に撫でる。
店の大将がカウンター越しに「万事屋の旦那、今日は彼女と一緒だからご機嫌だね」と言うと、間髪入れずに「うるせぇハゲ」と返すから、***はまたジュースを吹き出してしまった。そんな和やかな雰囲気のなかに、その人は突如現れた。
「やだ、銀さんじゃない!久しぶり!」
そう言って背後から銀時に抱きついた女性はとても綺麗な人だった。***は咄嗟に隣を見たけれど、女の人の肩で銀時の顔は遮られてボソボソした声しか聞こえなかった。
「あー、アンタ誰だっけ?」
「忘れちゃったの?あんなことまでした仲だってのに!」
薄情ね、と言いながらも大して気にしていない様子が大人っぽい。また仲良くしようよ、と甘える声がすごく可愛い。
銀時が無言で身じろいでいると連れの人がやってきた。すみませんコイツ酔っ払ってて、と引き剥がされた時に初めて、その人は***の存在に気がついた。
「えっ、もしかして彼女?やだ!ごめーん!」
ごめんね銀さん、と手を振って去っていった後、またふたりきりに戻った銀時と***の間には、気まずい空気と沈黙だけが残った。困り果ててチラッと見上げた銀時の横顔はいつも通り気が抜けてて、何も無かったみたいにお猪口のお酒を飲んでいる。何か喋らなきゃと焦った***は、ぎこちない笑みを浮かべて口を開いた。
「すごく、そのっ……綺麗な人、でしたねぇ」
「あ?そうか?よく見てなかったわ」
「……知り合いなんでしょう?」
「だから、誰だか覚えてねんだって」
油断したら責めるような言葉が口をついて出そうで、***は困ってしまった。
あの人が言ってた、あんなことまでしたってどんなこと?仲良くするってどういう意味?
答えは知りたくないのに混乱した頭には質問ばかりが浮かんで、その中でも最も聞きたくないことを口が勝手に問いかけていた。
「銀ちゃんはあの人と……し、したんですか?」
「したって、何をだよ?」
「何をって、その、」
問い返されて口をつぐむと、さっきの女性の姿が***の脳裏に浮かんできた。銀時に触れる色っぽい動き、艶やかで豊満な身体と、ほろ酔いで紅くなったふくよかな胸元。ジュースなんて飲んでいる幼い自分が憐れで、俯いて見えた身体の色気のなさに***は泣きそうになった。薄っぺらな胸の奥で締め付けられた心臓がギリギリと痛い。
———これは嫉妬だ。私、あの人に嫉妬してるんだ
憧れに似ているけれど全然違う。もっと愚かで醜くて、身勝手なその感情を消し去ろうとする***の隣で、急に銀時がポツリと零した。
「まぁ多分、したわ」
「え?」
「お前が聞いてんのが、あの女と俺がセックスしたかってことなら、したと思うわ。覚えてねーけど、多分ヤッたんじゃね?つってもアレよ?***と付き合う前だよ?こう見えて銀さん浮気とかしねぇし。付き合う前どころかしっぽりとワンナイトなんざ出来たの新八がうちに来る前だから、昔過ぎて忘れちまったっつーの。アレ、何?もしかしてお前怒ってんの?***ちゃんってば、大好きな銀さんがよその女と遊んでると思って妬いちゃったんですかァ〜?」
「なっ、や、妬いてなんか、っ……、」
ない、とは言えずに唇を噛んで銀時を睨んだ。
昔のことに妬いても無意味だというのに。どんな過去でもそれが今の銀時を作ったものなら愛おしいはずなのに。なのに自分の知らない銀時を他の女性が知っているという事実に、***の胸は重たくなって張り裂けそうなほど苦しい。
「へぇぇ、お前もそんな顔すんだな」
感心したように言って、銀時の右手が***の頬を包んだ。なんだか楽しげに細められた瞳には、眉間に皺を寄せた不細工な***の顔が映る。くつくつと笑いながら顔を寄せられて、身を引いたら後頭部が背後の壁にトンと当たった。頬を包む手の親指が唇をふにっと撫でるから、あぁキスされるな、とぼんやり思う。周りに人が大勢居るのに、と慌てたら、***はまた言いたくもないことを口走ってしまった。
「こっ、こういうことも、あの人としたの?」
「は?……っだよ、だから忘れたって」
不機嫌そうに銀時はパッと離れた。面倒くさい女だと思われたくない。きっと全て忘れてしまうべきだ。でもそうしたら、この心にドロドロと澱んだ感情はどうすればいいのだろう。迷子になった気分で俯いて、膝の上で握りしめた両手を見つめながら、***は殆ど無意識に呟いていた。
「……銀ちゃん、私とも、してください」
「あ?してって、何をだよ?」
「あの人としたことを、私ともして欲しいです」
「……お前、それ本気で言ってる?」
馬鹿じゃねーの、と憐れまれると思った。もしくはいい加減にしろと怒られると思って顔を伏せて待っていたら、急に二の腕を強く掴まれてぐいっと引かれた。
「おいハゲ、ツケにしといて」
「旦那ァまたかい?次は払ってくれよ」
大将に言われながら立ち上がった銀時は、***の腕を掴んだまま店を出た。
零時を過ぎた大通りを千鳥足の酔っ払いや、くんずほぐれつする恋人達が行き交う。その道を銀時はずんずんと進み、***は「えっ、えっ」と戸惑いながら引きずられていった。強く握られた腕が少し痛くて、銀時の歩く速さに追いつかない足が何度も躓く。
角をひとつかふたつ曲って、薄暗い路地に入った後はもうそこがどこだか分からなくなった。月明かりさえ僅かにしか届かない路地裏で、いくつもの室外機や積み重なったビールケースを避けて通り過ぎ、無造作に袋の散らばるゴミ捨て場を越えていく。袋小路の突き当たりで目の前の大きな背中がいきなり立ち止まったから、***は顔面からドンッとぶつかってしまった。
「痛っ!ぎ、銀ちゃん、どこに行くんですか?」
「ここでしてやるよ」
「へっ?」
ゆっくりと振り返った銀時の髪が月明かりに鈍く光る。薄闇のなかの紅い瞳がギラついているのに気がついて、ハッと息を飲んだ時にはもう口付けられていた。いつもの始まりのキスみたいに優しく解いていくものではなくて、恥ずかしいことをしている真っ最中にするような荒々しくて深いキスだった。いきなり喉の奥まで貪られて「んんっ!」と身をよじる***の腰を、銀時が掴むから動けなくなった。
路地の壁に背中を押さえつけられて帯がズリズリッと擦れる音がした。お酒の味のする舌が口の中を這い回って、息も出来ずに身悶えているうちに、着物の裾を割って入ってきた銀時の膝で脚を開かれた。その膝に跨るように***の身体ごとずいっと持ち上げられると、両足が浮き上がって下駄が脱げる。ようやく唇が離れた後、口端から唾液を垂らしながら***は息も絶え絶えに言った。
「はっ、ぁ、ぎ、銀ちゃ……こん、な、とこじゃ」
「こんなとこでして欲しいっつったのお前だろ。そーいやあんな感じの女とこんな感じの所でヤッた気がするわ、そーだそーだ、確かそうだったわー」
ニタァと笑うのがいつにも増して意地悪だ。
そうだった、私の彼氏はSっ気が強くて私が困れば困るほど、泣けば泣くほど喜ぶような人だった。そう思い出したら不思議なことに、鉛を飲んだように重苦しかった***の胸はほんの少しだけ軽くなった。
「どーする?やっぱやめとく?俺ァ別にやめてもいーけど?そらそーだよな、いっつも家とかラブホとかの綺麗な布団の上でしかヤッたことねぇ***には、こんな汚ねぇトコですんのは怖ぇし嫌だよなぁ?」
「やっ、やだ……!やめない!」
***はたまらなくなって太い首に腕を回して抱きついた。いつも銀時にされる時を思い出しながら、真似するように口付ける。分厚い唇にかぷっと噛み付いたら、そんなもんかよと怒るみたいにがぶりと強く噛み返されて、腰から脳天までがビリビリと痺れるような刺激が走った。唇をくっつけたまま荒い息を零した銀時が「っとに、いーのかよ?」と***に尋ねる。
「な、なにごとも勉強、って、銀ちゃんが、ゆった」
「ふはっ!上等だよ」
ぐいぐいと身を寄せる銀時と壁に挟まれて、潰れた胸が窒息しそうなほど甘く苦しい。宙に浮いたままの***の両足は何度もビクンッと跳ねた。夢中でキスをしてる時の銀時の雄々しい眼差しや、身体中を這い回る大きな手の荒々しさや、そのくせ頬にかかった髪を払う指の優しさを、自分だけが知っていられたらどれほど幸福だろう、と***は思った。
こんな所でいけないと頭では分かっているのに、嫉妬にまみれて愚かになった***は、薄汚れた路地裏で銀時にいつもより乱暴にされたいと願った。そのどうしようもない心さえ、丸ごと全て包んでくれる逞しい腕や胸に、***は必死でしがみつく。
嫉妬、という感情を銀時に教わった。だからその感情をどうすればいいのかも、今夜銀時に教えてもらうつもりだ。
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【路地裏の夜】end