雑多な短篇置き場
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【泣けない夜】※注意※ 若干の大人向け要素あります
午前零時すぎ、アパートの扉を叩く音で***は目を覚ました。誰だろう?なんて考える余地もなく、こんな夜更けに訪ねてくる人はただひとりしかいない。
———銀ちゃんってばまた酔っ払ったの?万事屋に着く前に眠たくなっちゃったんでしょう?
そう思った***はのんきにあくびをした。でもドアを開けた途端に眠気は吹き飛んで、そこに立つ銀時の姿に腰を抜かしそうになった。
「とりあえず、医者呼んでくんね?」
とりあえずビール、みたいな軽い調子で言うけれど、その左肩から大量の血が出ていた。
病院に電話すると、***のかかりつけのお爺ちゃん先生が来てくれた。重ねた手ぬぐいで傷を抑えても血は止まらなくて、白い着物は半分真っ赤に染まり、脱がせた黒いシャツはぐっしょり重たかった。
どうしようどうしようと焦る***をよそに、銀時とお医者さんは落ちついていて、傷口を縫う間ものんびりお喋りしていた。
「飲み屋で客が喧嘩おっぱじめてよー、うるせぇから表でやれって首根っこ掴んで引きずり出したんだよ。したらヤクザみてぇにドス振りまわしやがってさ。まさか刃物なんざ持ってると思わねぇじゃん。無視してもよかったんだが通りすがりのヤツに当たりそーで、つい遮ったらこのザマよ。けどよぉ爺さん、血の割には大して深くねーだろ?」
「深くはねぇが胸から肩までずいぶん派手にやったなぁ。出血がひでぇのは酒飲んでるせいだよ」
その会話を聞きながら***は流しで着物を洗った。ざぶんと浸した水が赤く濁って出血の多さを物語っている。
包帯が筋肉質な胸を斜めに横切って、銀時の肩に幾重も巻かれた。痛み止めの薬を置いて老医師は帰っていった。
「銀ちゃん、お薬飲めますか?」
「飲む飲む。あ、イチゴ牛乳も飲みてぇ」
両足を投げ出して裸の上半身を壁にもたれているのが、やんちゃな少年のよう。イチゴ牛乳をごくごく飲む姿は、痛々しい包帯以外はいつも通りだ。それでホッとした***は急に力が抜けて、銀時の前にぺたりと座り込んだ。
「良かったです。傷が、あまり深くなくて」
「叩き起こして悪かったな。っつーか俺より***のが真っ青じゃねーか。んな死にそーな顔すんなよ、縁起でもねぇ」
「死にそうだなんて……もぉ、冗談やめて下さい」
冗談じゃねーよマジだよマジ、と笑われて泣きそうになる。潤んだ瞳を隠そうとうつむいた時、***は膝に置いた自分の両手の異変に気づいた。指先が異様に冷たくてガタガタと震えている。裏返して見た手のひらが真っ赤に濡れていたから、ハッと息を飲んだ。
「やだッ!手が……!」
「て?手がどーしたって?」
両手をすり合わせても手ぬぐいで拭いても赤い血は消えない。おかしい、さっき水で洗って綺麗にしたのに。***は冷や汗を垂らしながら寝巻きの袖で必死に擦ったけれど、汚れは薄れるどころか濃くなる一方だった。指先まで覆った血液はいま流れ出たばかりみたいにてらてらと光っている。
「お前何やってんの?なんもついてねぇじゃねーか」
「ち、血が……取れないのっ……」
嫌だ、血が消えない、銀ちゃんの血が止まらない、このままじゃ銀ちゃんが死んじゃう。さっき通りすぎたはずの恐怖が戻ってきて心臓が凍りついた。
でもふいに静かな声が***の名前を呼ぶ。震える両手を大きな手に包まれて顔を上げると、銀時は怪我人とは思えない穏やかな眼差しで***を見ていた。
「***、大丈夫だから、銀さんに手ぇ貸してみ」
「え?あっ‥…!」
銀時の口にまず運ばれたのは右手の親指だった。ぱくっと咥えられて熱い舌が指の腹をぬるりと滑れば、こびりついた血は溶けた。次に人差し指を食まれた時、手のひらの赤色がすっと薄れた。中指を付け根から吸われた時に染みが全て消えたので、ようやく***はこの染みが心の弱さで見た幻だと気づいた。
情けなくて逃げ出したくなったけれど、腰が抜けて力が入らない。***の薬指と小指を一緒に舐める銀時の口端から、唾液がたらりと垂れた。手首まで這った舌は、手のひらを下から上へ何度も舐め上げた。尖らせた舌先で指の間をチロチロとくすぐられたら「んっ」とおかしな声が漏れてしまう。とろりとした透明の雫が肘まで伝うと、銀時は満足げに言った。
「これで綺麗んなったろ?な?」
「っ……!」
子供をあやすみたいな柔らかな声に、たまらない気持ちになった。すごく怖かった、と泣けたら楽なのに。でも***が泣いたら銀時はきっと自分を責めるから、今夜だけは泣きたくなかった。
懸命に涙をこらえる間、銀時は***の左手も口に運んだ。吸われた指先から全身へ、体温が送り込まれてくるのが心地いい。指を舐める目を伏せた表情が妖艶でつい見惚れてしまう。チラッとこちらを見た赤い瞳は熱を帯びていた。あっと驚いた時にはもう後頭部を掴まれて、ぐいっと引き寄せられていた。
「だッ……だめだよ!銀ちゃん、こんなの、」
「あ?何で?」
「何でって、怪我、してるのに」
「怪我してっから、してぇんですけど?」
銀時は首を傾げて、唇をふにっと押し付けてきた。抵抗できないどころか***の唇はすぐに緩んで、イチゴ牛乳の味のする舌がたやすく入ってくる。
唇を噛まれる痛みと絡め合う舌の温度にうっとりした。どんどん欲張りになる口付けに「ん、ん、」と吐息を漏らしていると、腰を片腕で持ち上げられ、銀時の脚に跨がるように下ろされた。怪我をしてない右手が胸元をまさぐるから、***は「やだぁ」と喘いで首を振る。わずかに離れた唇の隙間から荒い息と一緒に、銀時のいらだった声が零れた。
「全然ヤじゃねぇくせに……、もっとしてって正直に言えよ***〜」
「うっ、や、でも、傷によくないから」
「こんな傷どうってことねぇって言ってるでしょーが。傷よかこの状況で我慢する方がよっぽど辛ぇんですけど?お前だって指舐められて気持ちよかったんだろ?なら銀さんのことも良くしてくれてもいーんじゃねーの?」
そう言って銀時は腰を揺すり、脚の間の熱を***のお尻に押しつけた。「へっ!?」と声を上げた***の顔が、一瞬で真っ赤になる。何も尋ねてないのに銀時は「アドレナリンが出てるからな、まぁ生きてる証拠ってヤツだろ」と答えた。
「あの、その……、肩は痛くないんですか?」
「痛ぇよ。痛ぇけど、どーでもいい。傷は放っときゃ治るけど、いますぐ***を抱かなきゃ俺ァ治まんねぇ」
熱視線を受けて心臓がドキドキと高鳴った。甘ったるい声が「なー、キスしていい」としつこくねだってくる。
負傷した肩からだらんと垂れた腕はそのままに、もう一方の手が***の頬を撫でた。その手つきの優しさに、銀時は全て分かっていると気づいた。***が怖がっていたことも、涙をこらえていたことも分かってて、銀時は知らないふりをしていた。
———やっぱりこの人には敵わないな
そう諦めた***は小さくうなずいて、銀時の首にそっと腕を回した。キスをしようと顔を寄せてる途中で銀時がずいっと身を乗り出すから、包帯の巻かれた胸に胸が強く当たって慌てた。
「わっ!銀ちゃんは動かないで、ちょっと待って」
「待たねぇ。ムリ、もぉ待てねぇ」
言うや否や唇を貪られた。もっとだ、もっとよこせと乱暴にされて眩暈がする。燃えそうなほど熱い身体に抱きすくめられると、くらくらする***の頭のなかで、銀時を求める声が祈りのように響きはじめる。
———血は唾液で流して、涙は汗に溶かして、恐怖は気持ちよさに変えてください。私の奥まで入ってきて、そこに銀ちゃんが生きている証拠を注ぎ込んでください。この泣けない夜が終わるまで、どうか何度でも……
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【泣けない夜】
2022-1-29
午前零時すぎ、アパートの扉を叩く音で***は目を覚ました。誰だろう?なんて考える余地もなく、こんな夜更けに訪ねてくる人はただひとりしかいない。
———銀ちゃんってばまた酔っ払ったの?万事屋に着く前に眠たくなっちゃったんでしょう?
そう思った***はのんきにあくびをした。でもドアを開けた途端に眠気は吹き飛んで、そこに立つ銀時の姿に腰を抜かしそうになった。
「とりあえず、医者呼んでくんね?」
とりあえずビール、みたいな軽い調子で言うけれど、その左肩から大量の血が出ていた。
病院に電話すると、***のかかりつけのお爺ちゃん先生が来てくれた。重ねた手ぬぐいで傷を抑えても血は止まらなくて、白い着物は半分真っ赤に染まり、脱がせた黒いシャツはぐっしょり重たかった。
どうしようどうしようと焦る***をよそに、銀時とお医者さんは落ちついていて、傷口を縫う間ものんびりお喋りしていた。
「飲み屋で客が喧嘩おっぱじめてよー、うるせぇから表でやれって首根っこ掴んで引きずり出したんだよ。したらヤクザみてぇにドス振りまわしやがってさ。まさか刃物なんざ持ってると思わねぇじゃん。無視してもよかったんだが通りすがりのヤツに当たりそーで、つい遮ったらこのザマよ。けどよぉ爺さん、血の割には大して深くねーだろ?」
「深くはねぇが胸から肩までずいぶん派手にやったなぁ。出血がひでぇのは酒飲んでるせいだよ」
その会話を聞きながら***は流しで着物を洗った。ざぶんと浸した水が赤く濁って出血の多さを物語っている。
包帯が筋肉質な胸を斜めに横切って、銀時の肩に幾重も巻かれた。痛み止めの薬を置いて老医師は帰っていった。
「銀ちゃん、お薬飲めますか?」
「飲む飲む。あ、イチゴ牛乳も飲みてぇ」
両足を投げ出して裸の上半身を壁にもたれているのが、やんちゃな少年のよう。イチゴ牛乳をごくごく飲む姿は、痛々しい包帯以外はいつも通りだ。それでホッとした***は急に力が抜けて、銀時の前にぺたりと座り込んだ。
「良かったです。傷が、あまり深くなくて」
「叩き起こして悪かったな。っつーか俺より***のが真っ青じゃねーか。んな死にそーな顔すんなよ、縁起でもねぇ」
「死にそうだなんて……もぉ、冗談やめて下さい」
冗談じゃねーよマジだよマジ、と笑われて泣きそうになる。潤んだ瞳を隠そうとうつむいた時、***は膝に置いた自分の両手の異変に気づいた。指先が異様に冷たくてガタガタと震えている。裏返して見た手のひらが真っ赤に濡れていたから、ハッと息を飲んだ。
「やだッ!手が……!」
「て?手がどーしたって?」
両手をすり合わせても手ぬぐいで拭いても赤い血は消えない。おかしい、さっき水で洗って綺麗にしたのに。***は冷や汗を垂らしながら寝巻きの袖で必死に擦ったけれど、汚れは薄れるどころか濃くなる一方だった。指先まで覆った血液はいま流れ出たばかりみたいにてらてらと光っている。
「お前何やってんの?なんもついてねぇじゃねーか」
「ち、血が……取れないのっ……」
嫌だ、血が消えない、銀ちゃんの血が止まらない、このままじゃ銀ちゃんが死んじゃう。さっき通りすぎたはずの恐怖が戻ってきて心臓が凍りついた。
でもふいに静かな声が***の名前を呼ぶ。震える両手を大きな手に包まれて顔を上げると、銀時は怪我人とは思えない穏やかな眼差しで***を見ていた。
「***、大丈夫だから、銀さんに手ぇ貸してみ」
「え?あっ‥…!」
銀時の口にまず運ばれたのは右手の親指だった。ぱくっと咥えられて熱い舌が指の腹をぬるりと滑れば、こびりついた血は溶けた。次に人差し指を食まれた時、手のひらの赤色がすっと薄れた。中指を付け根から吸われた時に染みが全て消えたので、ようやく***はこの染みが心の弱さで見た幻だと気づいた。
情けなくて逃げ出したくなったけれど、腰が抜けて力が入らない。***の薬指と小指を一緒に舐める銀時の口端から、唾液がたらりと垂れた。手首まで這った舌は、手のひらを下から上へ何度も舐め上げた。尖らせた舌先で指の間をチロチロとくすぐられたら「んっ」とおかしな声が漏れてしまう。とろりとした透明の雫が肘まで伝うと、銀時は満足げに言った。
「これで綺麗んなったろ?な?」
「っ……!」
子供をあやすみたいな柔らかな声に、たまらない気持ちになった。すごく怖かった、と泣けたら楽なのに。でも***が泣いたら銀時はきっと自分を責めるから、今夜だけは泣きたくなかった。
懸命に涙をこらえる間、銀時は***の左手も口に運んだ。吸われた指先から全身へ、体温が送り込まれてくるのが心地いい。指を舐める目を伏せた表情が妖艶でつい見惚れてしまう。チラッとこちらを見た赤い瞳は熱を帯びていた。あっと驚いた時にはもう後頭部を掴まれて、ぐいっと引き寄せられていた。
「だッ……だめだよ!銀ちゃん、こんなの、」
「あ?何で?」
「何でって、怪我、してるのに」
「怪我してっから、してぇんですけど?」
銀時は首を傾げて、唇をふにっと押し付けてきた。抵抗できないどころか***の唇はすぐに緩んで、イチゴ牛乳の味のする舌がたやすく入ってくる。
唇を噛まれる痛みと絡め合う舌の温度にうっとりした。どんどん欲張りになる口付けに「ん、ん、」と吐息を漏らしていると、腰を片腕で持ち上げられ、銀時の脚に跨がるように下ろされた。怪我をしてない右手が胸元をまさぐるから、***は「やだぁ」と喘いで首を振る。わずかに離れた唇の隙間から荒い息と一緒に、銀時のいらだった声が零れた。
「全然ヤじゃねぇくせに……、もっとしてって正直に言えよ***〜」
「うっ、や、でも、傷によくないから」
「こんな傷どうってことねぇって言ってるでしょーが。傷よかこの状況で我慢する方がよっぽど辛ぇんですけど?お前だって指舐められて気持ちよかったんだろ?なら銀さんのことも良くしてくれてもいーんじゃねーの?」
そう言って銀時は腰を揺すり、脚の間の熱を***のお尻に押しつけた。「へっ!?」と声を上げた***の顔が、一瞬で真っ赤になる。何も尋ねてないのに銀時は「アドレナリンが出てるからな、まぁ生きてる証拠ってヤツだろ」と答えた。
「あの、その……、肩は痛くないんですか?」
「痛ぇよ。痛ぇけど、どーでもいい。傷は放っときゃ治るけど、いますぐ***を抱かなきゃ俺ァ治まんねぇ」
熱視線を受けて心臓がドキドキと高鳴った。甘ったるい声が「なー、キスしていい」としつこくねだってくる。
負傷した肩からだらんと垂れた腕はそのままに、もう一方の手が***の頬を撫でた。その手つきの優しさに、銀時は全て分かっていると気づいた。***が怖がっていたことも、涙をこらえていたことも分かってて、銀時は知らないふりをしていた。
———やっぱりこの人には敵わないな
そう諦めた***は小さくうなずいて、銀時の首にそっと腕を回した。キスをしようと顔を寄せてる途中で銀時がずいっと身を乗り出すから、包帯の巻かれた胸に胸が強く当たって慌てた。
「わっ!銀ちゃんは動かないで、ちょっと待って」
「待たねぇ。ムリ、もぉ待てねぇ」
言うや否や唇を貪られた。もっとだ、もっとよこせと乱暴にされて眩暈がする。燃えそうなほど熱い身体に抱きすくめられると、くらくらする***の頭のなかで、銀時を求める声が祈りのように響きはじめる。
———血は唾液で流して、涙は汗に溶かして、恐怖は気持ちよさに変えてください。私の奥まで入ってきて、そこに銀ちゃんが生きている証拠を注ぎ込んでください。この泣けない夜が終わるまで、どうか何度でも……
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【泣けない夜】
2022-1-29