幸せな季節
おなまえをどうぞ
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【冬を知る人】*原作完結後・映画『銀魂THE FINAL』後を想定
溜息は白くなってすぐに消えて、その向こうの景色の眩しさに銀時は目を細めた。
かぶき町に降った雪はひと晩で積もった。朝陽のなか銀色に光る公園が眩しい。そこで新八と神楽が雪だるまを作って騒いでいるのが眩しい。
「銀ちゃんも一緒に作りましょうよ!」
はしゃいでいる***が眩しくて、返事すらすぐに出来ない。
「……やなこった。んな寒ぃこと誰がやるかよ」
大中小と並んだ雪だるまは万事屋だ。神楽が拾ってきたビニール袋を細く裂いて「銀ちゃんの髪の毛ネ」と乗せると三人はドッと笑った。離れて立つ銀時は上着のポケットに手をつっこみ、鼻を啜って眺めている。
——こんな日になんで外に出るかねぇ
冬をあまり好かないのは、記憶の中の冬が厳しい寒さと空腹に結びついているからかもしれない。いつかの冬は腹が減って死にそうで、雪の降る墓地に座り込んだ。またいつかは手負いの身体に着流し一枚羽織って、足を引きずり歩いたこともある。
戦場の冬はもっと酷かった。斬った敵の血飛沫が自分より温かいから、どちらが死んだか分からなかった。
容赦のない冬の厳しさは銀時の骨の髄まで染みこんでいる。
でも雪を喜ぶあの三人はそんな冬を知らない。この先も新八と神楽がひもじく凍えるようなことが無いと良い。平穏に生きてきた***にはずっと温かな所で暮らして欲しい。
決して口には出さないが、それは銀時の本心だ。
「あの、銀ちゃん……大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃねーよ、くそ寒いっつーの」
いつの間にか目の前にいた***が、ぼうっと突っ立っている銀時を心配そうに見ていた。
昔を振り返るなんてらしくもない。銀時は誤魔化すように***の腕を掴み、その身体をくるんと回転させながら引き寄せた。背中に寄りかかるように後ろから抱きしめて、驚いている***の胸の前で腕を組む。雪の粒だらけの頭のてっぺんに顎を乗せたら、黒髪は少し湿ってひんやりしていた。
「お前、冷え切ってんじゃねーか」
「銀ちゃんはあったかいねぇ」
「腹と背中にカイロ二十枚くらい貼ってるからな」
「え、そんなに!?」
「ったりーめだろ。寒ぃの嫌いなんだよ俺は」
そう答えて視線を下ろすと、***の真っ赤な手が見えた。手袋もせずに雪を触ったせいだ。呆れながら銀時はその手に自分の手を重ね、指を絡めて握りしめた。ひゃっこい手だと零した時、***が肩越しに振り返って言った。
「寒いと銀ちゃんの手の温かさがよく分かるから、私は冬も好きですよ。寒さを知ってる人ほど温かさを覚えていられるんです、きっと」
あっけらかんと言われて息を飲む。思わず小さな背中を胸に掻き抱いたら、何故かまた昔のできごとが蘇ってきて、銀時はなんでだよと思った。
——なんでだよ……なんであの背中なんだよ……
ふいに脳裏に浮かんだ背中はあまりにも懐かしい。
朧げな記憶しかない幼少の頃、銀時をおぶってくれた背中は広く大きくて温かかった。あの頃、屍と屍になる前の人しかいない世界でただ一人、生きている人間に出会った。
感情もそれを表す言葉も知らない鬼の子に、あの背中が初めて教えてくれたのは人間の身体の温かさだ。
「……***も、あったけぇよ」
口が勝手に呟いていた。いま胸に抱いた女の背中は細くて頼りない。あの背中とは似ても似つかないのに温もりは一緒だ。
追いかけ続け、探し続けたあの背中には二度と会えないだろう。でも誰かに触れたとき温かいと感じるのは、あの人に温もりを教えて貰ったから。
黙り込む銀時の手を握り返して、***は優しく微笑みながら顔を上げた。
「私の手の温かさも覚えててくれますか?」
「ハイハイ、覚えとくよ」
いつのまにか広場に雪だるまが四つできていた。***は眩しそうに目を細めてそれを眺めていたが、急に新八と神楽の名前を呼んだ。振り返った二人に向かって続けて叫ぶ。
「ふたりとも!銀ちゃんが湯たんぽみたいに温かいよ!こっちに来て、一緒に温まろう!」
「なっ……!?お、お前!!」
弾けるように新八と神楽が駆け出す。真っ赤な両手を前に突き出して近づいてくる。憎たらしいほどのにんまり笑顔は誰に習ったんだか。
逃げようと後ずさる銀時の両手を***が掴んで離さない。二人に飛びつかれる寸前、銀時だけに聞こえる声が呟いた。
「銀ちゃん、この温かさは絶対に忘れないでね」
神楽と新八にタックルされて、四人揃って倒れ込んだ。柔らかな雪に寝そべった銀時は、ゲラゲラと笑う三人を抱えたまま、胸の奥で***の言葉に答えた。
——忘れようとしたって、忘れられっこねぇだろーが、こんな馬鹿みてぇにあったけぇ冬は……
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【幸福な未来】冬を知る人
2022-01-09
溜息は白くなってすぐに消えて、その向こうの景色の眩しさに銀時は目を細めた。
かぶき町に降った雪はひと晩で積もった。朝陽のなか銀色に光る公園が眩しい。そこで新八と神楽が雪だるまを作って騒いでいるのが眩しい。
「銀ちゃんも一緒に作りましょうよ!」
はしゃいでいる***が眩しくて、返事すらすぐに出来ない。
「……やなこった。んな寒ぃこと誰がやるかよ」
大中小と並んだ雪だるまは万事屋だ。神楽が拾ってきたビニール袋を細く裂いて「銀ちゃんの髪の毛ネ」と乗せると三人はドッと笑った。離れて立つ銀時は上着のポケットに手をつっこみ、鼻を啜って眺めている。
——こんな日になんで外に出るかねぇ
冬をあまり好かないのは、記憶の中の冬が厳しい寒さと空腹に結びついているからかもしれない。いつかの冬は腹が減って死にそうで、雪の降る墓地に座り込んだ。またいつかは手負いの身体に着流し一枚羽織って、足を引きずり歩いたこともある。
戦場の冬はもっと酷かった。斬った敵の血飛沫が自分より温かいから、どちらが死んだか分からなかった。
容赦のない冬の厳しさは銀時の骨の髄まで染みこんでいる。
でも雪を喜ぶあの三人はそんな冬を知らない。この先も新八と神楽がひもじく凍えるようなことが無いと良い。平穏に生きてきた***にはずっと温かな所で暮らして欲しい。
決して口には出さないが、それは銀時の本心だ。
「あの、銀ちゃん……大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃねーよ、くそ寒いっつーの」
いつの間にか目の前にいた***が、ぼうっと突っ立っている銀時を心配そうに見ていた。
昔を振り返るなんてらしくもない。銀時は誤魔化すように***の腕を掴み、その身体をくるんと回転させながら引き寄せた。背中に寄りかかるように後ろから抱きしめて、驚いている***の胸の前で腕を組む。雪の粒だらけの頭のてっぺんに顎を乗せたら、黒髪は少し湿ってひんやりしていた。
「お前、冷え切ってんじゃねーか」
「銀ちゃんはあったかいねぇ」
「腹と背中にカイロ二十枚くらい貼ってるからな」
「え、そんなに!?」
「ったりーめだろ。寒ぃの嫌いなんだよ俺は」
そう答えて視線を下ろすと、***の真っ赤な手が見えた。手袋もせずに雪を触ったせいだ。呆れながら銀時はその手に自分の手を重ね、指を絡めて握りしめた。ひゃっこい手だと零した時、***が肩越しに振り返って言った。
「寒いと銀ちゃんの手の温かさがよく分かるから、私は冬も好きですよ。寒さを知ってる人ほど温かさを覚えていられるんです、きっと」
あっけらかんと言われて息を飲む。思わず小さな背中を胸に掻き抱いたら、何故かまた昔のできごとが蘇ってきて、銀時はなんでだよと思った。
——なんでだよ……なんであの背中なんだよ……
ふいに脳裏に浮かんだ背中はあまりにも懐かしい。
朧げな記憶しかない幼少の頃、銀時をおぶってくれた背中は広く大きくて温かかった。あの頃、屍と屍になる前の人しかいない世界でただ一人、生きている人間に出会った。
感情もそれを表す言葉も知らない鬼の子に、あの背中が初めて教えてくれたのは人間の身体の温かさだ。
「……***も、あったけぇよ」
口が勝手に呟いていた。いま胸に抱いた女の背中は細くて頼りない。あの背中とは似ても似つかないのに温もりは一緒だ。
追いかけ続け、探し続けたあの背中には二度と会えないだろう。でも誰かに触れたとき温かいと感じるのは、あの人に温もりを教えて貰ったから。
黙り込む銀時の手を握り返して、***は優しく微笑みながら顔を上げた。
「私の手の温かさも覚えててくれますか?」
「ハイハイ、覚えとくよ」
いつのまにか広場に雪だるまが四つできていた。***は眩しそうに目を細めてそれを眺めていたが、急に新八と神楽の名前を呼んだ。振り返った二人に向かって続けて叫ぶ。
「ふたりとも!銀ちゃんが湯たんぽみたいに温かいよ!こっちに来て、一緒に温まろう!」
「なっ……!?お、お前!!」
弾けるように新八と神楽が駆け出す。真っ赤な両手を前に突き出して近づいてくる。憎たらしいほどのにんまり笑顔は誰に習ったんだか。
逃げようと後ずさる銀時の両手を***が掴んで離さない。二人に飛びつかれる寸前、銀時だけに聞こえる声が呟いた。
「銀ちゃん、この温かさは絶対に忘れないでね」
神楽と新八にタックルされて、四人揃って倒れ込んだ。柔らかな雪に寝そべった銀時は、ゲラゲラと笑う三人を抱えたまま、胸の奥で***の言葉に答えた。
——忘れようとしたって、忘れられっこねぇだろーが、こんな馬鹿みてぇにあったけぇ冬は……
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【幸福な未来】冬を知る人
2022-01-09