幸せな季節
おなまえをどうぞ
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【春は来ている】*原作完結後・映画『銀魂THE FINAL』後を想定
春風みたいな鼻唄で目ざめて、一瞬前まで見てた夢を忘れた。頬の下の柔らかさが恋人の太腿だと気づいた時、細い指が前髪をやさしく梳いた。ぼやけた視界でとらえた眼差しが温かい。公園の芝生で寝ころぶ銀時と、膝枕をする***は木漏れ日に包まれていた。
「銀ちゃん……なにか、夢を見ていましたか?」
「いや、なんも見てねぇ。ぐっすり、よーく寝た」
覚醒しても尚、***の手を握り締めていた。思い出せない夢は多分、穏やかなものじゃなかった。その証拠に、ほどいた手のひらに銀時の爪痕がくっきりと残っている。でも***はいつも通り微笑むだけで、何も訊かない。銀髪を撫でて「おはよう」と言うのんびりした声が、銀時をホッとさせた。
「ふぁ~ぁ、こうぽかぽかあったけぇと何処でも眠くなっちまって、いけねぇや」
「ふふっ、もうすぐ春だもの。私は春、好きですよ」
田舎育ちの***は嬉しそうに自然豊かな故郷の春を語った。枝先の新芽を見つけた時の喜びや、雪の下の新緑の鮮やかさを、冬眠から覚めた動物たちの足跡の愛らしさを、桜の花びらに似た小さな唇が紡いでいく。ぼうっと見惚れる銀時には気づかず、遠くに目をやり、広場を駆け回る神楽と新八と定春を見つめて言った。
「ああして子ども達が遊んでいるのも春らしくてワクワクします……ねぇ、銀ちゃん、春って季節のことだけじゃなくて、暗くてツラい日々を乗り越えた後の、明るくて楽しい日々のことも、春と呼ぶんですよ」
だから私は、春が好きです。
そう言って花が綻ぶように笑った。その時はじめて銀時は、悪い夢を消し去った鼻唄が鼻唄にしてはやけに切実だったと気づいた。まるで「銀ちゃん、起きて」と呼び掛けているみたいだった。
起き上がった銀時が***の頭を撫でようと手を伸ばしかけた時、遠くから神楽がふたりの名を呼んだ。
「銀ちゃーん!***ー!全力鬼ごっこするアルー!」
「え、神楽ちゃーん!全力鬼ごっこってなぁにー?」
全力鬼ごっこは全力鬼ごっこネ、と返されて困惑する姿を見て、銀時は「ぶはっ」と吹き出した。
仁王立ちの神楽を銀時は遠目に眺めた。あの青い瞳に陽ざしが当たると、星屑のようにキラキラ輝くことを教えてくれたのは、いま隣に座っている***だ。
「銀さーん、不戦敗は夕飯当番ですよ!」
「ぱっつぁんまで……ったく、めんどくせーな」
新八の頭のてっぺんのつむじは左回りで、じっと覗き込むと小さな台風に見えて可愛い。いつだか***はそれを得意げに銀時に教えた。定春の肉球はお日さまの香りがすると言った時も同じ顔をしていた。
戦場での、命のとり合いの血なまぐささを、***は知らない。その平和な瞳で見る世界は、息を飲むほど美しい。きな臭い場所から遠く離れ、年相応の神楽と新八を、主人に愛された飼い犬の定春を、その透きとおる目で見た姿で教えられるたび、銀時は新しい仲間に出会うような気がする。
「銀ちゃん、行きましょうよ」
「はぁ〜……、しゃーねーな」
立ち上がった***が銀時の手を掴んで引っ張った。柔い手のひらから、爪痕はもう消えていた。
定春が弾けるようにワンッと鳴いて、神楽と新八がふたりを呼ぶ。ぐいぐいと銀時の手を引きながら、肩越しに振り返り「銀ちゃん、早く」と急かす顔からは喜びが溢れていて、満開の桜を思い出させた。
鬼ごっこなんざガキの遊びだ。それなのに足が弾むのは春のせいだ。そう銀時は心の中でひとりごちた。
ツラい日々を乗り越えた後の、楽しい日々を春と呼ぶ。***のその言葉を反芻して、銀時は思った。
———俺の春は、とっくに来てるさ。お前に……、
お前たちに出会ってから、ずっと。
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【幸福な未来】春は来ている
2021-0306
春風みたいな鼻唄で目ざめて、一瞬前まで見てた夢を忘れた。頬の下の柔らかさが恋人の太腿だと気づいた時、細い指が前髪をやさしく梳いた。ぼやけた視界でとらえた眼差しが温かい。公園の芝生で寝ころぶ銀時と、膝枕をする***は木漏れ日に包まれていた。
「銀ちゃん……なにか、夢を見ていましたか?」
「いや、なんも見てねぇ。ぐっすり、よーく寝た」
覚醒しても尚、***の手を握り締めていた。思い出せない夢は多分、穏やかなものじゃなかった。その証拠に、ほどいた手のひらに銀時の爪痕がくっきりと残っている。でも***はいつも通り微笑むだけで、何も訊かない。銀髪を撫でて「おはよう」と言うのんびりした声が、銀時をホッとさせた。
「ふぁ~ぁ、こうぽかぽかあったけぇと何処でも眠くなっちまって、いけねぇや」
「ふふっ、もうすぐ春だもの。私は春、好きですよ」
田舎育ちの***は嬉しそうに自然豊かな故郷の春を語った。枝先の新芽を見つけた時の喜びや、雪の下の新緑の鮮やかさを、冬眠から覚めた動物たちの足跡の愛らしさを、桜の花びらに似た小さな唇が紡いでいく。ぼうっと見惚れる銀時には気づかず、遠くに目をやり、広場を駆け回る神楽と新八と定春を見つめて言った。
「ああして子ども達が遊んでいるのも春らしくてワクワクします……ねぇ、銀ちゃん、春って季節のことだけじゃなくて、暗くてツラい日々を乗り越えた後の、明るくて楽しい日々のことも、春と呼ぶんですよ」
だから私は、春が好きです。
そう言って花が綻ぶように笑った。その時はじめて銀時は、悪い夢を消し去った鼻唄が鼻唄にしてはやけに切実だったと気づいた。まるで「銀ちゃん、起きて」と呼び掛けているみたいだった。
起き上がった銀時が***の頭を撫でようと手を伸ばしかけた時、遠くから神楽がふたりの名を呼んだ。
「銀ちゃーん!***ー!全力鬼ごっこするアルー!」
「え、神楽ちゃーん!全力鬼ごっこってなぁにー?」
全力鬼ごっこは全力鬼ごっこネ、と返されて困惑する姿を見て、銀時は「ぶはっ」と吹き出した。
仁王立ちの神楽を銀時は遠目に眺めた。あの青い瞳に陽ざしが当たると、星屑のようにキラキラ輝くことを教えてくれたのは、いま隣に座っている***だ。
「銀さーん、不戦敗は夕飯当番ですよ!」
「ぱっつぁんまで……ったく、めんどくせーな」
新八の頭のてっぺんのつむじは左回りで、じっと覗き込むと小さな台風に見えて可愛い。いつだか***はそれを得意げに銀時に教えた。定春の肉球はお日さまの香りがすると言った時も同じ顔をしていた。
戦場での、命のとり合いの血なまぐささを、***は知らない。その平和な瞳で見る世界は、息を飲むほど美しい。きな臭い場所から遠く離れ、年相応の神楽と新八を、主人に愛された飼い犬の定春を、その透きとおる目で見た姿で教えられるたび、銀時は新しい仲間に出会うような気がする。
「銀ちゃん、行きましょうよ」
「はぁ〜……、しゃーねーな」
立ち上がった***が銀時の手を掴んで引っ張った。柔い手のひらから、爪痕はもう消えていた。
定春が弾けるようにワンッと鳴いて、神楽と新八がふたりを呼ぶ。ぐいぐいと銀時の手を引きながら、肩越しに振り返り「銀ちゃん、早く」と急かす顔からは喜びが溢れていて、満開の桜を思い出させた。
鬼ごっこなんざガキの遊びだ。それなのに足が弾むのは春のせいだ。そう銀時は心の中でひとりごちた。
ツラい日々を乗り越えた後の、楽しい日々を春と呼ぶ。***のその言葉を反芻して、銀時は思った。
———俺の春は、とっくに来てるさ。お前に……、
お前たちに出会ってから、ずっと。
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【幸福な未来】春は来ている
2021-0306