ジューンブライド企画2021
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【(2)しあわせは朝陽色】
***が幸福と出会うのはいつも朝だ。人生を変える幸運は、いつだって朝陽と共にやってくる。数年前、仕事帰りの夜明けに、銀時と出会ったように。
初めて会った時、銀髪の酔っ払いはかぶき町の大橋でつっぷしていた。朝の光で照らされたその髪の美しさを、今でも鮮明に覚えている。
その一年後、同じ場所で***が「銀ちゃんが好き」と告げたのも、やっぱり早朝だった。何度フラれても「俺はやめておけ」と跳ねのけられても諦められなかった恋は、雨上がりの綺麗な朝にようやく実を結んだ。
三年前、銀時は江戸から旅立った。帰ってくるまでの間、毎朝あの橋で祈りを捧げた。「どうか銀ちゃんをお守り下さい」と日の出に願う日々は二年も続いた。
そして今、同じ橋の上で、ふたり並んで立っている。
「銀ちゃん、こんな朝からお散歩なんてどうしたの?」
「あー……いや、まぁ、その……」
曖昧な答えに不安になって、数十分前のことを思い出す。万事屋で眠っていた***を、真夜中の無言電話が起こした。出掛けていた銀時がちょうど帰宅し、強張った表情で玄関に立ち尽くしていた。上ずった声で「け、け、け」と言うから、首を傾げて尋ねたのだ。
「あの、けけけって、何ですか?」
「俺とけ……けっ、健康的に朝の散歩でもしねぇ!?」
「さ、散歩?今からですか!?」
なんで、と尋ねる前に銀時は踵を返して出て行ってしまう。急いで追いかけて通りに出ると、無言で手を握られた。どこへ行くのか分からないまま歩き出し、***が夜明け前の肌寒さに肩をすくめた時、チラッと振り返った銀時が「寒いか?」と聞いた。「少しだけ」と答えると、自販機で温かいおしるこを買ってくれた。
大橋の真ん中で立ち止まり、ふたりは黙って手すりにもたれた。沈黙に耐えきれず手に持った缶を開ける。着流し姿が寒そうで「銀ちゃんも飲んで」と渡したら、銀時は甘ったるいそれを一気に飲み干した。空缶を置いて溜息を吐いた横顔が悩ましげで、ますます不安になった***はわざと明るく話しかけた。
「ふたりで朝のお散歩なんて初めてだね!清々しいデートって感じで楽しいです」
「あー、確かにな……この時間にお前を呼び出すっつったら俺が酔ってゲロ吐いてる時か、歩けねぇ時か、ゲロ吐いてて歩けねぇ時だから、そりゃァ清々しさの欠片も無ぇよなぁ」
銀時は気まずそうに笑って橋の下を眺めた。つられて見下ろした川に夜明けの空が映る。ゆらゆら揺れる薄青い水面に見入っていた***の耳に、低い声の静かな呟きが届いた。
「そのうち俺はまた酔っ払って夜中にお前を起こすだろーよ。そんで背中さすってもらって、介抱させちまうだろーな。そんな情けねぇ男の面倒を、この先ずっと見るはめになっても、お前へーきか?」
ぽかんとしてしまって、その問いに答えられなかった。銀時はまっすぐ前を見たまま更に続けた。
「金は無ぇし、仕事も有ったり無かったりで、あんま良い思いさせてやれねぇけどいい?うるせぇガキふたりとデケェ犬もついてくるし、たぶん苦労させてばっかりになるけど、お前それでもいいか?」
「そ、それでもいいかって、私は別に構わないですけど……そんなこと言うなんてどうしたの?さっきから銀ちゃん、おかしいですよ?」
意図の見えない質問が恐ろしい。いつになく真剣な横顔が「また旅に出る」とでも言い出しそうに見えて、血の気が引くほど怖くなった。思わず***が白い着流しの袖をきゅっと掴んだ時、遠い川の向こうで朝日が昇った。突然ふりそそいだ琥珀色の光が眩しくて、一瞬目をつむる。そして次に瞼を開くと、銀時はこちらを向いていて顔に朝陽を浴びながら***をじっと見つめていた。
「あ、日の出が、」
「俺と結婚して」
「えっ?」
「俺と、結婚してくれ」
思いも寄らない台詞に耳を疑って、息を飲み固まってしまう。眉を寄せてしかめ面をした銀時が、言い辛そうにぽつぽつと言葉を紡いだ。
「俺と結婚してくれねぇか。夫婦が何だか知らねぇけど、しょーもないことで毎日お前と笑ったり喧嘩したりしてぇ。夜くっついて寝て、朝も一緒に起きたい。爺さんと婆さんになっても、死ぬまでずっと、この先も一生。それが夫婦ってモンなら、俺は***と夫婦になりてぇんだよ。指輪も買えねぇし、派手なドレスとか豪華な結婚式とかも準備できねぇけど……」
「それって、もしかして……プ、プロポーズ?」
震える声で尋ねたら、銀時は「ったりめーだろ、他に何があんだよ」と唇を尖らせた。それを聞いた瞬間、涙が溢れ出した。離れ離れだった二年間でさえ、こんなに泣かなかった。苦しかったあの頃、毎日こらえた涙がいま堰を切って溢れた気がする。
早く答えたいのに「ひぃっく」としゃくりあげて言葉にならない。泣き顔を隠すように、銀時の胸に頭を抱き寄せられた。あやすように背中をぽんぽんと叩かれながら泣き続ける***の耳元で、掠れた声がそっと囁いた。
「***、待たせて悪かった……頼むから結婚してくれよ、俺と」
「っ……うん、し、したいです、私もっ……!」
銀時は待たせてなんかいなくて、自分勝手に待っていただけ。指輪もドレスも結婚式も要らない。銀時さえ居ればそれで幸せ。嗚咽まじりに***はそう答えた。
困ったように笑った銀時が指先で涙を拭う。そのまま両手で頬を包まれ引き寄せられて、気づいたら唇が重なっていた。触れた温かさとおしるこの甘い香りに、ああ銀ちゃんのキスだ、と感じて***は心底ホッとした。柔らかく触れ合っていたのが、ちゅうっと吸いつくのに変わり、最後は舌と口にお砂糖みたいな味を残して離れた。首に抱きついて顔を寄せ合っていると、どちらからともなくクスクス笑い出す。
「なぁ、さっきのヤツ、もっかい言えよ」
「さっきのヤツって?」
「だからさっきの電話の"ハイ坂田です"ってヤツ」
「ああああ、あの変な電話、銀ちゃんだったの!?」
二年間、かぶき町の人が銀時を忘れないよう「坂田です」と電話に出ていたのが、知らぬ間に癖になっていた。顔を真っ赤に染めたのを見て、銀時はゲラゲラと笑った。そんなつもりはなかったと弁解しかけた***の口を、大きな手が覆って塞いだ。
「オイオイ言いわけすんなよ。俺の嫁なんだから***は坂田さんに違ぇねーだろ。それにしても……指輪のひとつも無ぇ花嫁ってのはさすがに情けねぇな」
硬い指先が左手の薬指に触れた。銀時の胸に背中を預けて寄りかかり、その手の甲に***は手のひらを乗せる。重ねた手を朝陽にかざすと、指の隙間から漏れた光が宝石のように輝いて眩しい。
「指輪よりも、毎日こうして一緒に迎える朝が嬉しいです。よぼよぼのお婆ちゃんになっても、ずっと銀ちゃんの隣で」
「ははっ……、お前ってほんと安上がりなぁ。どうせ俺ァよぼよぼのジジィんなっても金が無ぇだろうから、おあつらえ向きのぴったりな嫁さんだよ」
少し馬鹿にするように言われた言葉こそ、他のどんな称賛よりも嬉しい褒め言葉だ。寄り添って笑い合う銀時と***に、日の出は祝福のように降り注いだ。
泣きたくなるほどの喜びは、目がくらむほど眩しい幸福は、いつも朝陽と共に出会う。幸せはいつだって、銀時と一緒に***のもとへとやってくるのだ。
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【(1)プロポーズを何度でも】end
2021-06銀魂ジューンブライド企画投稿作品
当企画はこれにて完結です
***が幸福と出会うのはいつも朝だ。人生を変える幸運は、いつだって朝陽と共にやってくる。数年前、仕事帰りの夜明けに、銀時と出会ったように。
初めて会った時、銀髪の酔っ払いはかぶき町の大橋でつっぷしていた。朝の光で照らされたその髪の美しさを、今でも鮮明に覚えている。
その一年後、同じ場所で***が「銀ちゃんが好き」と告げたのも、やっぱり早朝だった。何度フラれても「俺はやめておけ」と跳ねのけられても諦められなかった恋は、雨上がりの綺麗な朝にようやく実を結んだ。
三年前、銀時は江戸から旅立った。帰ってくるまでの間、毎朝あの橋で祈りを捧げた。「どうか銀ちゃんをお守り下さい」と日の出に願う日々は二年も続いた。
そして今、同じ橋の上で、ふたり並んで立っている。
「銀ちゃん、こんな朝からお散歩なんてどうしたの?」
「あー……いや、まぁ、その……」
曖昧な答えに不安になって、数十分前のことを思い出す。万事屋で眠っていた***を、真夜中の無言電話が起こした。出掛けていた銀時がちょうど帰宅し、強張った表情で玄関に立ち尽くしていた。上ずった声で「け、け、け」と言うから、首を傾げて尋ねたのだ。
「あの、けけけって、何ですか?」
「俺とけ……けっ、健康的に朝の散歩でもしねぇ!?」
「さ、散歩?今からですか!?」
なんで、と尋ねる前に銀時は踵を返して出て行ってしまう。急いで追いかけて通りに出ると、無言で手を握られた。どこへ行くのか分からないまま歩き出し、***が夜明け前の肌寒さに肩をすくめた時、チラッと振り返った銀時が「寒いか?」と聞いた。「少しだけ」と答えると、自販機で温かいおしるこを買ってくれた。
大橋の真ん中で立ち止まり、ふたりは黙って手すりにもたれた。沈黙に耐えきれず手に持った缶を開ける。着流し姿が寒そうで「銀ちゃんも飲んで」と渡したら、銀時は甘ったるいそれを一気に飲み干した。空缶を置いて溜息を吐いた横顔が悩ましげで、ますます不安になった***はわざと明るく話しかけた。
「ふたりで朝のお散歩なんて初めてだね!清々しいデートって感じで楽しいです」
「あー、確かにな……この時間にお前を呼び出すっつったら俺が酔ってゲロ吐いてる時か、歩けねぇ時か、ゲロ吐いてて歩けねぇ時だから、そりゃァ清々しさの欠片も無ぇよなぁ」
銀時は気まずそうに笑って橋の下を眺めた。つられて見下ろした川に夜明けの空が映る。ゆらゆら揺れる薄青い水面に見入っていた***の耳に、低い声の静かな呟きが届いた。
「そのうち俺はまた酔っ払って夜中にお前を起こすだろーよ。そんで背中さすってもらって、介抱させちまうだろーな。そんな情けねぇ男の面倒を、この先ずっと見るはめになっても、お前へーきか?」
ぽかんとしてしまって、その問いに答えられなかった。銀時はまっすぐ前を見たまま更に続けた。
「金は無ぇし、仕事も有ったり無かったりで、あんま良い思いさせてやれねぇけどいい?うるせぇガキふたりとデケェ犬もついてくるし、たぶん苦労させてばっかりになるけど、お前それでもいいか?」
「そ、それでもいいかって、私は別に構わないですけど……そんなこと言うなんてどうしたの?さっきから銀ちゃん、おかしいですよ?」
意図の見えない質問が恐ろしい。いつになく真剣な横顔が「また旅に出る」とでも言い出しそうに見えて、血の気が引くほど怖くなった。思わず***が白い着流しの袖をきゅっと掴んだ時、遠い川の向こうで朝日が昇った。突然ふりそそいだ琥珀色の光が眩しくて、一瞬目をつむる。そして次に瞼を開くと、銀時はこちらを向いていて顔に朝陽を浴びながら***をじっと見つめていた。
「あ、日の出が、」
「俺と結婚して」
「えっ?」
「俺と、結婚してくれ」
思いも寄らない台詞に耳を疑って、息を飲み固まってしまう。眉を寄せてしかめ面をした銀時が、言い辛そうにぽつぽつと言葉を紡いだ。
「俺と結婚してくれねぇか。夫婦が何だか知らねぇけど、しょーもないことで毎日お前と笑ったり喧嘩したりしてぇ。夜くっついて寝て、朝も一緒に起きたい。爺さんと婆さんになっても、死ぬまでずっと、この先も一生。それが夫婦ってモンなら、俺は***と夫婦になりてぇんだよ。指輪も買えねぇし、派手なドレスとか豪華な結婚式とかも準備できねぇけど……」
「それって、もしかして……プ、プロポーズ?」
震える声で尋ねたら、銀時は「ったりめーだろ、他に何があんだよ」と唇を尖らせた。それを聞いた瞬間、涙が溢れ出した。離れ離れだった二年間でさえ、こんなに泣かなかった。苦しかったあの頃、毎日こらえた涙がいま堰を切って溢れた気がする。
早く答えたいのに「ひぃっく」としゃくりあげて言葉にならない。泣き顔を隠すように、銀時の胸に頭を抱き寄せられた。あやすように背中をぽんぽんと叩かれながら泣き続ける***の耳元で、掠れた声がそっと囁いた。
「***、待たせて悪かった……頼むから結婚してくれよ、俺と」
「っ……うん、し、したいです、私もっ……!」
銀時は待たせてなんかいなくて、自分勝手に待っていただけ。指輪もドレスも結婚式も要らない。銀時さえ居ればそれで幸せ。嗚咽まじりに***はそう答えた。
困ったように笑った銀時が指先で涙を拭う。そのまま両手で頬を包まれ引き寄せられて、気づいたら唇が重なっていた。触れた温かさとおしるこの甘い香りに、ああ銀ちゃんのキスだ、と感じて***は心底ホッとした。柔らかく触れ合っていたのが、ちゅうっと吸いつくのに変わり、最後は舌と口にお砂糖みたいな味を残して離れた。首に抱きついて顔を寄せ合っていると、どちらからともなくクスクス笑い出す。
「なぁ、さっきのヤツ、もっかい言えよ」
「さっきのヤツって?」
「だからさっきの電話の"ハイ坂田です"ってヤツ」
「ああああ、あの変な電話、銀ちゃんだったの!?」
二年間、かぶき町の人が銀時を忘れないよう「坂田です」と電話に出ていたのが、知らぬ間に癖になっていた。顔を真っ赤に染めたのを見て、銀時はゲラゲラと笑った。そんなつもりはなかったと弁解しかけた***の口を、大きな手が覆って塞いだ。
「オイオイ言いわけすんなよ。俺の嫁なんだから***は坂田さんに違ぇねーだろ。それにしても……指輪のひとつも無ぇ花嫁ってのはさすがに情けねぇな」
硬い指先が左手の薬指に触れた。銀時の胸に背中を預けて寄りかかり、その手の甲に***は手のひらを乗せる。重ねた手を朝陽にかざすと、指の隙間から漏れた光が宝石のように輝いて眩しい。
「指輪よりも、毎日こうして一緒に迎える朝が嬉しいです。よぼよぼのお婆ちゃんになっても、ずっと銀ちゃんの隣で」
「ははっ……、お前ってほんと安上がりなぁ。どうせ俺ァよぼよぼのジジィんなっても金が無ぇだろうから、おあつらえ向きのぴったりな嫁さんだよ」
少し馬鹿にするように言われた言葉こそ、他のどんな称賛よりも嬉しい褒め言葉だ。寄り添って笑い合う銀時と***に、日の出は祝福のように降り注いだ。
泣きたくなるほどの喜びは、目がくらむほど眩しい幸福は、いつも朝陽と共に出会う。幸せはいつだって、銀時と一緒に***のもとへとやってくるのだ。
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【(1)プロポーズを何度でも】end
2021-06銀魂ジューンブライド企画投稿作品
当企画はこれにて完結です