ジューンブライド企画2021
おなまえをどうぞ
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【(1)プロポーズを何度でも】
「あのさァ、俺に毎朝、みそ汁作ってくんね?」
「え、みそ汁……?うん、いいですよ。あの、具はお豆腐とワカメとか、そんなのでいいですか?」
「ちげぇよバカ!そ、そーじゃなくてだな、」
「あっ、おネギも入れますよ、もちろん」
「だから違ぇって、んがァァァ、ちきしょォォォ!」
ぽかんとする***に銀時は頭を抱えた。
鈍い女とは知っていたが、まさかこれ程とは。
長い付き合いの恋人と夫婦になろうと決めたのは、ひと月前のことだ。決めたはいいがプロポーズの経験が無いから、何をどう言うべきか分からない。映画やドラマのように高価な指輪をパカッと出来ればいいが、そんな金はない。今月の家賃さえ立て替えてもらったのに、指輪なんて買ったらさすがの***も怒りそうだ。
仕方なく知恵を絞った銀時は、プロポーズっぽい台詞をあれこれ口にして、結婚を仄めかしてみることした。だが***の頭には結婚のケの字も浮かばず、暖簾に腕押し状態だった。
ひと月前に初めて、プロポーズ(のつもりの何か)をした時のことが脳裏に蘇る。万事屋の台所で夕飯の準備をしていた。銀時の作った料理を味見した***が「銀ちゃんのご飯はすごく美味しい。毎日食べたいです」と零した。これはチャンスと思った銀時は、内心ドキドキしながら言った。
「こ、こんな飯なら……俺が毎日作ってやる」
ソワソワしながら隣を伺うと、ぱぁっと顔を輝かせた***が心底嬉しそうに答えた。
「やったぁ!いいんですか?じゃぁ毎日食べに来ちゃおうかなぁ。あ、明日はね、卵焼きがいいです。お砂糖入りの甘いヤツ!」
そう屈託なく笑うから、開いた口が塞がらなかった。
つ、伝わんねぇ、全然伝わんねぇよ!と。
だから二回目のプロポーズ(的な何か)は、もっと直接的だった。リビングのソファに並んでテレビを見ていると、結婚式場のCMが流れた。幸せそうに笑う新郎新婦が映った瞬間、今だっ!と画面を指さして銀時は言った。
「あーゆーの、俺達もそろそろじゃね?」
「えっ、あ、あーゆーのって……」
"大江戸チャペル結婚式場"の文字を見て、***が考え込んだ時間は、銀時には永遠のように思えた。伝わったな、こりゃ伝わっただろ!と唾をごくっと飲んだ途端、***は横を向いておずおずと答えた。
「銀ちゃん、その、言いにくいけど……結婚式場のアルバイトは、万事屋の皆には難しいと思います。だって銀ちゃんと神楽ちゃん絶対つまみ食いするでしょう?新八君が苦労するのが目に浮かぶもの」
それを聞いた銀時は、コントみたいにソファから転がり落ちた。そして今朝はついに、いにしえからのプロポーズの代名詞「毎朝みそ汁を作ってくれ」をくり出したが、見るも無残な結果に終わった。
「で、ここでヤケ酒飲んでるってのかい?全くアンタはほんとに情けない男だね銀時ィ」
「っせーなババァ!俺だって好きでこんな情けねぇ思いしてねーよ!ひとが死ぬ思いでクセェ台詞言ってるっつーのに全然伝わりゃしねぇ。のんきにヘラヘラしやがってアイツどんだけバカなんだよ?」
深夜3時半、閉店間際のスナックでお登勢は呆れ返っていた。カウンターにだらしなく肘をついた銀時は、何杯目か分からない酒を飲み下す。その脳内では***の無邪気な笑顔が渦巻いていて、いくら飲んでも酔えそうになかった。
「バカはアンタだよ銀時。***ちゃんに気づいて貰おうなんてセコい手ェ使ってないで、俺と結婚してくれってハッキリ言やいいじゃないさ」
「それが言えたら苦労しねぇよ!面の皮の厚い婆さんと違って俺ァ繊細なのぉ。結婚してくれ?んな、おねだりみてーなこっぱずかしい台詞、俺が言うと思ってんの?っつーかアイツの方が俺にべた惚れなんだし、***から銀ちゃん結婚して!っておねだりしてこいっつーのォ。あー、それいいな、そーしてくんねぇかなマジで」
幾度ものプロポーズ(のような行為)を無下にされて意気消沈した銀時を、お登勢は白い目で見ていた。「やれやれ」と首を振ると溜息混じりに言った。
「アンタが江戸に居なかった2年間、あの子がどんな風にアンタを待ってたか、知らないんだろう?」
「んぁ?そりゃ健気だったんだろ?新八から耳にタコができるほど聞いてらァ。休みのたんびにウチに来ては掃除して電話番して、一途に俺を待ってたって……それが何だよ?また年寄りの説教か?」
そう言った銀時をお登勢はギロリと睨んだ。怒鳴られると思ったがお登勢は予想外に静かな声で「今日は***ちゃん、来てるのかい」と尋ねた。銀時が飲み歩く夜は大抵、神楽に甘えられた***が万事屋に泊まる。恐らく今頃、和室で寝てるだろう。それを聞いたお登勢はおもむろに、店の電話を銀時に差し出した。
「電話してみな、あの子が出るから」
「は?アイツが出て、それで何が、」
「いーから早くしな。あの子がなんて出るか聞きゃ、こっぱずかしい台詞も今すぐ言いたくなるだろうよ」
ワケも分からず銀時は、自宅の番号を押した。
5コール目でガチャッと電話が繋がる。受話器の先で少し掠れた***の声がした。
『はい、もしもし……さ、坂田です』
「っ……!」
銀時が息を飲んで目を見開くと、お登勢はしてやったりという顔をした。「坂田」と名乗るのを聞いて、あまりの驚きに心臓が破裂したかと思った。銀時は息を殺して、電話の向こうにじっと耳を澄ませる。
『あれ、もしもし?あの……どちら様、ですか?』
起きたばかりの声はかさついていたが、いつも通り耳に優しく響いた。その声が自分の苗字を名乗ったことに、銀時は年甲斐もなく甘酸っぱい気持ちになった。何度も『もしもし』と言って困惑する声を聞くうち、くすぐったいような嬉しさが胸に広がった。
———もっかいさっきの、言わねぇかな……
***が遠慮がちに「坂田です」と言うのを、もう一度聞きたかった。一度どころか何度も、何百回も聞きたい。電話越しじゃなくて直接この耳で聞きたいと思ったら、勢い余って電話を切っていた。
「さっさと帰んな銀時ィ」
「言われなくてもそーすらぁ」
そう言い終わる時には既に店を出ていた。
すぐさまダッと走り出して、階段をドタバタと駆け上がる。お登勢の言っていた台詞を思い出して、口の中でぼそぼそ呟きながら練習した。
「俺と、結婚してくれ」
多分、格好よくは言えないだろう。指輪も買えない、よれよれの着流し姿で、半分酔っぱらいの男では。
でも生涯寄りそって添い遂げたい相手がいる。いつ戻るか分からない恋人の帰りを、二年も待っていた女だ。ためらいつつも坂田と名乗りながら、ずっと待っていてくれた。そのくせ帰ってきた銀時に何の見返りも求めないで、相変わらずのんきに笑っている。そんな***だからこそ、夫婦になりたかった。
見上げると空は白んで夜明けが近づいてきていた。
銀時は息を整えて玄関の引き戸に手をかける。
この夜明けの先に、この扉の先に、愛おしい***の声が当たり前のように「坂田です」と名乗る未来があると、強く信じて。
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【(1)プロポーズを何度でも】end
2021-06銀魂ジューンブライド企画投稿作品
※続きでもう1話、近々アップする予定です
「あのさァ、俺に毎朝、みそ汁作ってくんね?」
「え、みそ汁……?うん、いいですよ。あの、具はお豆腐とワカメとか、そんなのでいいですか?」
「ちげぇよバカ!そ、そーじゃなくてだな、」
「あっ、おネギも入れますよ、もちろん」
「だから違ぇって、んがァァァ、ちきしょォォォ!」
ぽかんとする***に銀時は頭を抱えた。
鈍い女とは知っていたが、まさかこれ程とは。
長い付き合いの恋人と夫婦になろうと決めたのは、ひと月前のことだ。決めたはいいがプロポーズの経験が無いから、何をどう言うべきか分からない。映画やドラマのように高価な指輪をパカッと出来ればいいが、そんな金はない。今月の家賃さえ立て替えてもらったのに、指輪なんて買ったらさすがの***も怒りそうだ。
仕方なく知恵を絞った銀時は、プロポーズっぽい台詞をあれこれ口にして、結婚を仄めかしてみることした。だが***の頭には結婚のケの字も浮かばず、暖簾に腕押し状態だった。
ひと月前に初めて、プロポーズ(のつもりの何か)をした時のことが脳裏に蘇る。万事屋の台所で夕飯の準備をしていた。銀時の作った料理を味見した***が「銀ちゃんのご飯はすごく美味しい。毎日食べたいです」と零した。これはチャンスと思った銀時は、内心ドキドキしながら言った。
「こ、こんな飯なら……俺が毎日作ってやる」
ソワソワしながら隣を伺うと、ぱぁっと顔を輝かせた***が心底嬉しそうに答えた。
「やったぁ!いいんですか?じゃぁ毎日食べに来ちゃおうかなぁ。あ、明日はね、卵焼きがいいです。お砂糖入りの甘いヤツ!」
そう屈託なく笑うから、開いた口が塞がらなかった。
つ、伝わんねぇ、全然伝わんねぇよ!と。
だから二回目のプロポーズ(的な何か)は、もっと直接的だった。リビングのソファに並んでテレビを見ていると、結婚式場のCMが流れた。幸せそうに笑う新郎新婦が映った瞬間、今だっ!と画面を指さして銀時は言った。
「あーゆーの、俺達もそろそろじゃね?」
「えっ、あ、あーゆーのって……」
"大江戸チャペル結婚式場"の文字を見て、***が考え込んだ時間は、銀時には永遠のように思えた。伝わったな、こりゃ伝わっただろ!と唾をごくっと飲んだ途端、***は横を向いておずおずと答えた。
「銀ちゃん、その、言いにくいけど……結婚式場のアルバイトは、万事屋の皆には難しいと思います。だって銀ちゃんと神楽ちゃん絶対つまみ食いするでしょう?新八君が苦労するのが目に浮かぶもの」
それを聞いた銀時は、コントみたいにソファから転がり落ちた。そして今朝はついに、いにしえからのプロポーズの代名詞「毎朝みそ汁を作ってくれ」をくり出したが、見るも無残な結果に終わった。
「で、ここでヤケ酒飲んでるってのかい?全くアンタはほんとに情けない男だね銀時ィ」
「っせーなババァ!俺だって好きでこんな情けねぇ思いしてねーよ!ひとが死ぬ思いでクセェ台詞言ってるっつーのに全然伝わりゃしねぇ。のんきにヘラヘラしやがってアイツどんだけバカなんだよ?」
深夜3時半、閉店間際のスナックでお登勢は呆れ返っていた。カウンターにだらしなく肘をついた銀時は、何杯目か分からない酒を飲み下す。その脳内では***の無邪気な笑顔が渦巻いていて、いくら飲んでも酔えそうになかった。
「バカはアンタだよ銀時。***ちゃんに気づいて貰おうなんてセコい手ェ使ってないで、俺と結婚してくれってハッキリ言やいいじゃないさ」
「それが言えたら苦労しねぇよ!面の皮の厚い婆さんと違って俺ァ繊細なのぉ。結婚してくれ?んな、おねだりみてーなこっぱずかしい台詞、俺が言うと思ってんの?っつーかアイツの方が俺にべた惚れなんだし、***から銀ちゃん結婚して!っておねだりしてこいっつーのォ。あー、それいいな、そーしてくんねぇかなマジで」
幾度ものプロポーズ(のような行為)を無下にされて意気消沈した銀時を、お登勢は白い目で見ていた。「やれやれ」と首を振ると溜息混じりに言った。
「アンタが江戸に居なかった2年間、あの子がどんな風にアンタを待ってたか、知らないんだろう?」
「んぁ?そりゃ健気だったんだろ?新八から耳にタコができるほど聞いてらァ。休みのたんびにウチに来ては掃除して電話番して、一途に俺を待ってたって……それが何だよ?また年寄りの説教か?」
そう言った銀時をお登勢はギロリと睨んだ。怒鳴られると思ったがお登勢は予想外に静かな声で「今日は***ちゃん、来てるのかい」と尋ねた。銀時が飲み歩く夜は大抵、神楽に甘えられた***が万事屋に泊まる。恐らく今頃、和室で寝てるだろう。それを聞いたお登勢はおもむろに、店の電話を銀時に差し出した。
「電話してみな、あの子が出るから」
「は?アイツが出て、それで何が、」
「いーから早くしな。あの子がなんて出るか聞きゃ、こっぱずかしい台詞も今すぐ言いたくなるだろうよ」
ワケも分からず銀時は、自宅の番号を押した。
5コール目でガチャッと電話が繋がる。受話器の先で少し掠れた***の声がした。
『はい、もしもし……さ、坂田です』
「っ……!」
銀時が息を飲んで目を見開くと、お登勢はしてやったりという顔をした。「坂田」と名乗るのを聞いて、あまりの驚きに心臓が破裂したかと思った。銀時は息を殺して、電話の向こうにじっと耳を澄ませる。
『あれ、もしもし?あの……どちら様、ですか?』
起きたばかりの声はかさついていたが、いつも通り耳に優しく響いた。その声が自分の苗字を名乗ったことに、銀時は年甲斐もなく甘酸っぱい気持ちになった。何度も『もしもし』と言って困惑する声を聞くうち、くすぐったいような嬉しさが胸に広がった。
———もっかいさっきの、言わねぇかな……
***が遠慮がちに「坂田です」と言うのを、もう一度聞きたかった。一度どころか何度も、何百回も聞きたい。電話越しじゃなくて直接この耳で聞きたいと思ったら、勢い余って電話を切っていた。
「さっさと帰んな銀時ィ」
「言われなくてもそーすらぁ」
そう言い終わる時には既に店を出ていた。
すぐさまダッと走り出して、階段をドタバタと駆け上がる。お登勢の言っていた台詞を思い出して、口の中でぼそぼそ呟きながら練習した。
「俺と、結婚してくれ」
多分、格好よくは言えないだろう。指輪も買えない、よれよれの着流し姿で、半分酔っぱらいの男では。
でも生涯寄りそって添い遂げたい相手がいる。いつ戻るか分からない恋人の帰りを、二年も待っていた女だ。ためらいつつも坂田と名乗りながら、ずっと待っていてくれた。そのくせ帰ってきた銀時に何の見返りも求めないで、相変わらずのんきに笑っている。そんな***だからこそ、夫婦になりたかった。
見上げると空は白んで夜明けが近づいてきていた。
銀時は息を整えて玄関の引き戸に手をかける。
この夜明けの先に、この扉の先に、愛おしい***の声が当たり前のように「坂田です」と名乗る未来があると、強く信じて。
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【(1)プロポーズを何度でも】end
2021-06銀魂ジューンブライド企画投稿作品
※続きでもう1話、近々アップする予定です
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