かぶき町で牛乳配達をする女の子
牛乳(人生)は噛んで飲め
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【am.9:00】
まもなく特急電車が発車致します、お乗りの方は車内にてお待ち下さい――――
駅のホームにアナウンスが流れる。目の前で電車のドアが開いている。早く乗らなければと分かっているのに、足がすくんで動かない。***どうしたネ?電車行っちゃうヨ、という神楽の声が聞こえる。
言葉も出ずに***はうつむいている。分かってる、大丈夫、私はこの街へ戻ってこれる。そう言い聞かせて笑顔を作ろうとするのに、うまくいかない。
こういう時どうしたらいいんだっけ、ねぇ銀ちゃん、どうしようと心の中でつぶやいて、すぐ横に立つ銀時にすがりたくなる。
だけどそれじゃ駄目だ。それじゃ意味がない。
この悲しい気持ちを、私は自分で乗り越えなきゃいけない―――
時は一週間前、万事屋に珍しい客が来た日にさかのぼる。インターホンが鳴り、玄関の戸を開けた銀時が見たのは、牛乳屋のおかみだった。
「なんだババァ、ついにエロジジィと離婚する気にでもなったか」
「何言ってんのよ銀さん、うちの主人のすけべにはとっくに慣れてるよ。…今日は***ちゃんのことでね、ちょっと頼みがあって来たのさ」
ソファに向かい合って座ると、おかみは懐から一通の手紙を取り出した。そこには綺麗な字で***から始まる名前が書かれていた。
「***ちゃんのお母さんからこの手紙が来てね、***ちゃんを数日帰省させてほしいって言うんだよ。私も主人もこの二年間、何度か里帰りさせようとしてるんだけど、あの子いつも帰らなくてねぇ。家族を困らせたくないって言って……親子そろって不器用なもんだから、私たち夫婦も困っててねぇ」
神楽と新八が目を丸くして銀時を見る。
「***さん、どうして帰らないんでしょう?家族に会いたいって言ってましたよね?」
「マミーとパピーも***に会いたいに決まってるアル、困らせたくないってどういうことネ」
銀時は黙って、差し出しされた手紙を読む。
「……ババァ、親子そろって不器用ってどういう意味だ。***は何度か手紙を書いたが、返事は無かったっつってたぞ」
「それがねぇ、***ちゃんのお母さんから、私たちのところに手紙はまめに来てるんだよ。里心がつくから***ちゃんには言うなって……私が返事をしてるんだけどね。***ちゃんに大変な思いをさせた上に、つらく当たってしまったってお母さんは後悔してるみたいでさ、娘に会いたいって毎回書かれててね……私も会わせてやりたいから、今回ばかりはなんとかして帰省させたいんだけど、万事屋さんたち手伝ってくれるかい」
おかみが手提げの中から手紙の束を取り出すと、机のうえにどんと置いた。100通近くの手紙だった。三人でその手紙を読むと、心配性な母親の娘への思いが綴られていた。***は元気にしているか、ご飯は食べているか、友達はできたか、寂しがっていないか……心配は尽きないようだった。
銀時が偶然手に取った手紙には、母親の悲痛な思いが書かれていた。
―――“娘と離れて暮らす寂しさは、時が経っても薄れません。***と離れる寂しさに耐えられなかった私が、大人げなくあの子を突き放したことを毎日悔やんでいます。また会えるなら、あの子の気のすむまで甘えさせてあげたい、抱きしめてあげたいと思っています。どんなに遠く離れていても、***が生きているということだけが、私の希望です”―――
眉間にシワを寄せて手紙を読む三人を見て、おかみが静かに口を開く。
「子供に会いたくない親なんていないさ。だけどそれを言ったら***ちゃんが苦しむから、お母さんは秘密にしてる。そのお母さんの気持ちも分かってて、***ちゃんは帰りたがってはいけないと思ってる。だからどんなに私たちが帰れと言っても、あの子は帰らないのさ。それで二年間も思い合いながらすれ違ってる……不器用な親子っていうのは、そういうことだよ銀さん」
二年か、と声もなく銀時はつぶやく。家族に二度と会えないと諦めて生きるには、ずいぶん長い期間だと思う。去年の秋、銀時の腕の中で「家族に会いたい」と言葉にするまで、***はずっとその気持ちを押し殺してきた。たったひとり、この街で生きていくために。自分に希望をたくした家族を、裏切らないために。
感情のほころびに気付かれないよう、家族の話をする時に不自然な笑顔を張り付けていた。銀時はその顔を見るたび、抑え付けられた***の本当の気持ちを表に出してやらなければ、いつか***の心が壊れてしまうと感じていた。
だからあの雨上がりの朝、ふざけた調子を装って、***に無理やり「会いたい」と言わせた時、***以上に銀時の方がほっとしたくらいだった。
あの日以来、***は自然な顔で田舎の話をするようになった。時々、家族に会いたいと言葉にすることもある。そのたびに銀時は、期待も諦めも与えない程度の「まぁ、そのうち会えんじゃねぇの」という返事を返してきた。
感情を抑え続けた人間が、ようやくそれを言葉にする時、その背景にはもっと切実な思いが隠れていることを、銀時は知っていたから。ごくまれに***が「家族に会いたい」と何気なく言う時、心の中でその気持ちが限界まで膨らんで、今にも泣き出しそうなほど溢れていることに、銀時はとっくに気付いていた。
そんな状態で二年間も耐えた***に、ようやく家族に会えるチャンスがめぐってきた。絶対に会わせるしかない、そう思いつつ両脇の新八と神楽を見ると、ふたりも同じように決意のまなざしを浮かべていた。
「…***を里帰りさせよう大作戦ってかぁ…で、ババァ、俺たちに何しろってんだよ」
「僕らにできることはなんでもしましょうよ、銀さん」
「そうネ!***をマミーとパピーに絶対会わせるアル!」
そして四人で検討を重ねて、計画が出来上がった。
まず第一に、帰省から逃れる為の言い訳をつくる猶予を***に与えないため、休暇と帰省の通知は前日にすることに決めた。第二に、スーパーに根回しして、内密に休暇を取っておいた。
第三に、同僚たちに協力させ、ドラマの再放送を見るため毎日スーパーへ行くよう仕向けることで、先々の予定を入れないようにした。
第四に、当日は万事屋が***を駅まで送り届け、必ず電車に乗せると約束した。
何も知らずに***はいつも通りの日常を送った。朝は牛乳配達、昼はスーパーでレジ打ちかドラマ鑑賞、夜は万事屋で夕飯を作って食べ、帰宅…という日々の繰り返し。トラブルもなく無事に前日を迎え、***に帰省休暇を告知する日の朝が来た。
その日の朝早く、万事屋の電話が鳴り、引っ越しの手伝いの依頼が入った。昼過ぎに引っ越し作業が終わり、そろそろ引き上げるかという時になって、神楽が浮かない顔をしていることに銀時は気付いた。***のことで手一杯の時に、ガキのことまで構ってられるかと知らないふりを決め込む。しかし突然の神楽の行動に、銀時も新八も度肝を抜かれることとなる。
気が付くと依頼人の若い男に、神楽がつっかかっていたのだ。おびえる男の胸倉をつかんで、何かを訴えている。慌てて止めに入り、男から話を聞くと、依頼料をまけるから運んだ荷物の中から、テレビを一台寄こせと突然神楽が言い出したという。
「だって銀ちゃん!こいつテレビ二台もあるんだヨ!ひとつくらい***にあげたっていいアル!!」
「はぁ!?お前なに言ってんの!?***がいつテレビ欲しがったよ!?」
「そうだよ神楽ちゃん、いきなりテレビ寄こせなんておかしいよ。一体どうしたの?」
「……だってぇ……***、すっごく遠い所に行くんでしょう?そしたらもう帰ってこないかもしれないネ。私、そんなの嫌アル。だって***は私の友達ネ、もっとたくさん遊びたいし、ずっと一緒にいたいネ……テレビが部屋にあったら、***きっと帰ってくると思ったヨ。小栗旬之助のドラマ、はまってたし続き見るために帰ってくるアル。そうでしょう?銀ちゃんも新八も、寂しくないアルか?***にもう会えなくても、いいアルか?」
「……確かに***さん、すごく家族に会いたがってたもんね。もしかしたらこれきり江戸へは帰らない、なんてこともありえますよね、銀さん…」
泣き出しそうな神楽と、心配そうな新八を見て、これだからガキは困る、と銀時は言ってため息をついた。テレビが有ろうが無かろうが、戻って来る時は来るし、来ない時は来ないと何度も言い聞かせたが、神楽は頑なに譲らなかった。
「っだァァァァ!めんどくせェェ!わかったよ、テレビ持ってきゃいんだろ持ってきゃ!おい、兄ちゃん、料金まけてやっからこのテレビ一台寄こせや、二台もいらねーだろ」
「えぇ!?何言ってんですか!買って一週間の新品ですよ!駄目に決まってるでしょう!?」
「よぉ~し、神楽ァ!テレビ以外のこいつの家財道具、全部粉々になるまでたたき壊せ」
「任せるネ!!」
「ちょっとぉぉぉぉ!!なんなんですかあんた達ィ!!!」
最終的には依頼人が折れる形で、依頼料を半額にまけて新品のテレビを手に入れた。今日中に***の部屋に設置してきてやると銀時が言うと、ようやく神楽と新八の顔は晴れやかになった。
テレビをめぐってそんなやり取りがあったから、***の口から「もうかぶき町に戻ってこれなくなりそうで、帰るのが怖い」という言葉を聞いた時、銀時は思わず吹き出しそうになった。
こいつ、神楽とおんなじこと言ってやがる!しょうがねぇガキがもうひとりいやがった!と馬鹿にしながらも、銀時は内心、自分がほっとしていることに気付いた。
***が帰省をためらう理由は、田舎にあると思っていた。母親に会うのが怖いとか、うしろめたいとかてっきりそんな理由だと。しかしそうではなく、この街への愛着が理由だと分かって、銀時は笑いだしたいほど嬉しかったのだ。
ああ、これならこいつは絶対にこの街へ戻ってくる。そう確信して安堵した。
その安堵感が大きかっただけに、無邪気な顔で問われた***の言葉に、銀時の胸は一気に凍り付いた。
―――銀ちゃんも私に……戻ってきてほしい?
神楽が新八が、お妙がお登勢が、真選組のやつらが…と散々言葉を重ねたうえで、いざ自分の気持ちを問われると、銀時は言葉に詰まった。
会えなくていいなんて思わない。むしろ、この街にずっといてほしい。このままの関係がずっと続いて、いつまでもつかず離れずの距離でいたいと、自分が思っていたことに、その時はじめて銀時は気付いた。ただ親しいだけの間柄で、勝手にそんな考えを持つのは、ずいぶんとワガママなことだと思う。
銀時が「戻ってこい」と言うだろうと信じて疑わない***の、無垢な澄んだ瞳で射抜かれた途端、脳裏に***の母親の手紙の文面が蘇った。
―――“どんなに遠く離れていても、***が生きているということだけが、私の希望です”―――
なんて悲しい言葉だろう。切実に互いを思い合う母娘を引き離すようなことを、銀時は軽々しく言えない。そんな資格は自分にはない。そう思うと気まずくて、ぱっと***から目をそらした。
なによりも家族を大切にすべきだと、***の顔も見ずに投げやりに答えた。なぜか胸が苦しかったが、それもまた確かに銀時の本心だった。
拍子抜けした顔で動きを止めた***に、無理やり膝枕をさせる。ドラマを見ながら冗談を言う銀時に、笑って返す***の声が、弱々しく震えていた。胸の前でにぎりしめられた小さな手の、指先の色が変わるほど力がこめられていることも、銀時は気づいていた。
言えるものなら自分勝手に、「戻ってこい」と言ってやりたいと、銀時だって思っていた。
駅のホームのアナウンスが響き渡る中、自分の隣に立つ***の手が震え、足がすくんで動けずにいることにも、とっくに気付いていた。新八も神楽も困惑した顔で***を見つめている。耳をほじりながら、どうすっかなー抱え上げて電車の中に放り込むかなぁ、とのんきに考えていた銀時の耳に、***の蚊の鳴くような小さな声が届いた。
「……ちゃん、私…って…から……」
「あ?あんだって?」
まぬけな声で聞き返すと、***はばっと顔を上げて、真剣な目で銀時を見つめた。昨日の弱々しい顔とは打って変わって、それは強い決意に満ちた顔だった。
「…銀ちゃん、私のこと万事屋の一員みたいなものって言ったよね?私は万事屋の皆のこと……家族みたいなものって思ってますから。家族は、一緒にいるのがいちばんいいんでしょ?それが当たり前なんでしょう?帰ってくるなって言われても、私この街に絶対帰ってきます。銀ちゃんの、……家族のいるところに、帰ってきますから!!!」
大きな声でそう言い切ると、***はぱっと目をそらして開いた電車のドアに向かって歩きはじめた。強い口調とは裏腹に、荷物を持つ手は震え、足はがくがくと頼りない。
乗車して座席のある車両へ続く扉に手をかけた途端、***は後ろ髪を引かれる思いに襲われる。これが最後かもしれないから、みんなの顔をちゃんと見ておこうと、振り返ろうとした途端、後ろから大きな身体に包み込まれた。大きな腕に抱きしめられて、何も見えなくなる。
「えっ!?…銀ちゃん?な、なにして……!」
***を追いかけるように電車に乗り込んだ銀時が、不安に震える小さな背中を後ろから抱きしめていた。
耳元で銀時が「どーやってたっけなぁ、旬之助ぇ」とつぶやく。戸惑っているうちに、背中から大きな身体が一瞬離れ、***はくるりと半回転させられる。両手から荷物が落ちる。どさっという音がしたと同時に、入ってきた方とは逆側の、閉じた電車の扉に、***の背中が押し付けられた。
「きゃッ…ぎ、ぎんちゃ、なに……ッ!」
見上げるとすぐ近くに銀時の顔があり、あまりの驚きに絶句する。背中を押し付ける力とは反対に、肩に回された大きな腕は、とても優しい。
ゆっくりと銀時の顔が近づいてくる。お互い瞳も閉じず、じっと見つめ合ったまま。***は昨日見たドラマのように、周りの景色がスローモーションになるのを感じた。
「…………っ!!!」
身体をこわばらせて小さく息を吸うと同時に、***のほほに温かく乾いた唇の感触が、そっと触れる。その繊細な唇の触れ方に、心臓がぎゅうっと締め付けられる。身動きが取れず瞳だけを横に動かすと、そこに銀時の赤い瞳が見えた。恥ずかしさにはっとして、身を引こうとする***を、肩に回された太い腕が優しく制した。
ほんの一瞬のことなのに、永遠のように長く感じる。触れた時と同じくらいゆっくりと優しく、***のほほから銀時の唇が離れて行った。あまりの驚きで膝の力が抜けて、へなへなとその場に座り込む。
おいおい、と言いながら銀時も一緒にしゃがんで、目線を合わせる。
「君は僕のものだ、だっけか?っかぁぁぁ~!よくそんなキザなこと言えるよな、旬之助!あんな変態キザ野郎のどこがいいんだよ!」
「やだぁっ!銀ちゃん、もぉ電車出ちゃうからっ…」
「大丈夫だって、おい、***」
そう言うと銀時は、真っ赤に染まって目をそらす***のほほを、両手で包むと自分の方へと向けた。
「いいかぁ、こーんなキザなこと銀さんは一回しか言わねぇから、よぉっく聞けよぉ」
―――***、お前は万事屋のもんだ。どこに行こうが、誰といようが、ぜってぇ俺のところに帰ってこい
聞きたくてたまらなかった言葉が耳に届くと同時に、***の身体中に安心感が広がる。不安にこわばっていた手足の力が抜けて、見開いた瞳に涙がぶわっと広がる。
「……ぅん、うんッ!銀ちゃん、私ちゃんと帰ってくるからね、待っててくださいね」
すがるように銀時の胸元の着物をつかむ。恥ずかしがって赤い顔のまま、涙をいっぱいにためた顔を見て、銀時が笑い声をあげた。
「ははっ!お前ほんとによく泣くようになったなぁ!びーびー泣いて赤ん坊かよコノヤロー!その調子で父ちゃんと母ちゃんにも抱き着いてきやがれ……そんで、気のすむまで甘えたら帰って来いよ、銀さんのところに。***の運命の人なんだろ、俺が」
そう言いながらにやりと笑った銀時が、ついさっき唇を寄せた方の***のほほを、ぴしぴしと指で叩いた。
確かに昨日ドラマを見ながらそう言ったけど、あくまでフィクションに対する感想であって現実では違うのに…と色々な言い訳が浮かんだが、***はひとつも言葉にできなかった。
ただ顔を真っ赤にして、自分のほほに残る優しいキスの感触に震えるしかできない。声も出せずに唇を震わせている***の、赤く染まった顔を見て、銀時はひとしきり笑うと、ぱっと立ち上がった。大きな手が***の頭を軽くなでてから、離れていった。
ジリリリリリリリ―――――
ドアが閉まります。駆け込み乗車はおやめください…
呆然と座り込む***の前で、銀時が閉まり始めたドアを大きな手で押さえた。たくましい腕でぐっとドアを押し返し、そのまま電車を降りて行った。
***は呆気にとられて座り込んでいたが、電車が動き始めたことに気づき、立ち上がる。閉じたドアに張り付いて、ガラスの向こうのホームを見る。
速度を上げ始めた電車と並ぶように、神楽と新八が走っていた。
「***!お土産はまんじゅうでいいからネ!いっぱいマミーとパピーを抱きしめてくるヨロシ!!」
「***さん!僕らも***さんのこと、家族だと思ってますから!帰ってくるの待ってますからね!!」
ドアのガラス越しに少しずつ離れて行くふたりを見て、***の涙が溢れだす。遠ざかったホームのかなたに、気だるげに立つ銀時の姿が見えた。涙でぼやけてどんな顔をしてるかは分からない。だけど――――
優しいキスの感覚の残るほほを、***は手で押さえる。そこから身体中に温かくて優しい気持ちが伝わる。
―――だけど大丈夫、私はここに帰ってくる。
走るのをやめた神楽と新八が、笑いながら手を振っている。***も手を振り返しながら、つられて笑顔になる。細められた目じりから、大粒の涙が一粒こぼれ出て、優しい口づけの感触を確かめるみたいに、熱いほほを伝って落ちていった。
どんどん小さくなっていく万事屋の三人を見つめて、***はかすかな声でつぶやく。こんな声は届かないと分かっている。だけど三人になら届くと信じている。
「みんな、ありがとう…いってきます!!」
(必ず帰ってくるからね、待っててね!!)
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no.30【am.9:00】end
まもなく特急電車が発車致します、お乗りの方は車内にてお待ち下さい――――
駅のホームにアナウンスが流れる。目の前で電車のドアが開いている。早く乗らなければと分かっているのに、足がすくんで動かない。***どうしたネ?電車行っちゃうヨ、という神楽の声が聞こえる。
言葉も出ずに***はうつむいている。分かってる、大丈夫、私はこの街へ戻ってこれる。そう言い聞かせて笑顔を作ろうとするのに、うまくいかない。
こういう時どうしたらいいんだっけ、ねぇ銀ちゃん、どうしようと心の中でつぶやいて、すぐ横に立つ銀時にすがりたくなる。
だけどそれじゃ駄目だ。それじゃ意味がない。
この悲しい気持ちを、私は自分で乗り越えなきゃいけない―――
時は一週間前、万事屋に珍しい客が来た日にさかのぼる。インターホンが鳴り、玄関の戸を開けた銀時が見たのは、牛乳屋のおかみだった。
「なんだババァ、ついにエロジジィと離婚する気にでもなったか」
「何言ってんのよ銀さん、うちの主人のすけべにはとっくに慣れてるよ。…今日は***ちゃんのことでね、ちょっと頼みがあって来たのさ」
ソファに向かい合って座ると、おかみは懐から一通の手紙を取り出した。そこには綺麗な字で***から始まる名前が書かれていた。
「***ちゃんのお母さんからこの手紙が来てね、***ちゃんを数日帰省させてほしいって言うんだよ。私も主人もこの二年間、何度か里帰りさせようとしてるんだけど、あの子いつも帰らなくてねぇ。家族を困らせたくないって言って……親子そろって不器用なもんだから、私たち夫婦も困っててねぇ」
神楽と新八が目を丸くして銀時を見る。
「***さん、どうして帰らないんでしょう?家族に会いたいって言ってましたよね?」
「マミーとパピーも***に会いたいに決まってるアル、困らせたくないってどういうことネ」
銀時は黙って、差し出しされた手紙を読む。
「……ババァ、親子そろって不器用ってどういう意味だ。***は何度か手紙を書いたが、返事は無かったっつってたぞ」
「それがねぇ、***ちゃんのお母さんから、私たちのところに手紙はまめに来てるんだよ。里心がつくから***ちゃんには言うなって……私が返事をしてるんだけどね。***ちゃんに大変な思いをさせた上に、つらく当たってしまったってお母さんは後悔してるみたいでさ、娘に会いたいって毎回書かれててね……私も会わせてやりたいから、今回ばかりはなんとかして帰省させたいんだけど、万事屋さんたち手伝ってくれるかい」
おかみが手提げの中から手紙の束を取り出すと、机のうえにどんと置いた。100通近くの手紙だった。三人でその手紙を読むと、心配性な母親の娘への思いが綴られていた。***は元気にしているか、ご飯は食べているか、友達はできたか、寂しがっていないか……心配は尽きないようだった。
銀時が偶然手に取った手紙には、母親の悲痛な思いが書かれていた。
―――“娘と離れて暮らす寂しさは、時が経っても薄れません。***と離れる寂しさに耐えられなかった私が、大人げなくあの子を突き放したことを毎日悔やんでいます。また会えるなら、あの子の気のすむまで甘えさせてあげたい、抱きしめてあげたいと思っています。どんなに遠く離れていても、***が生きているということだけが、私の希望です”―――
眉間にシワを寄せて手紙を読む三人を見て、おかみが静かに口を開く。
「子供に会いたくない親なんていないさ。だけどそれを言ったら***ちゃんが苦しむから、お母さんは秘密にしてる。そのお母さんの気持ちも分かってて、***ちゃんは帰りたがってはいけないと思ってる。だからどんなに私たちが帰れと言っても、あの子は帰らないのさ。それで二年間も思い合いながらすれ違ってる……不器用な親子っていうのは、そういうことだよ銀さん」
二年か、と声もなく銀時はつぶやく。家族に二度と会えないと諦めて生きるには、ずいぶん長い期間だと思う。去年の秋、銀時の腕の中で「家族に会いたい」と言葉にするまで、***はずっとその気持ちを押し殺してきた。たったひとり、この街で生きていくために。自分に希望をたくした家族を、裏切らないために。
感情のほころびに気付かれないよう、家族の話をする時に不自然な笑顔を張り付けていた。銀時はその顔を見るたび、抑え付けられた***の本当の気持ちを表に出してやらなければ、いつか***の心が壊れてしまうと感じていた。
だからあの雨上がりの朝、ふざけた調子を装って、***に無理やり「会いたい」と言わせた時、***以上に銀時の方がほっとしたくらいだった。
あの日以来、***は自然な顔で田舎の話をするようになった。時々、家族に会いたいと言葉にすることもある。そのたびに銀時は、期待も諦めも与えない程度の「まぁ、そのうち会えんじゃねぇの」という返事を返してきた。
感情を抑え続けた人間が、ようやくそれを言葉にする時、その背景にはもっと切実な思いが隠れていることを、銀時は知っていたから。ごくまれに***が「家族に会いたい」と何気なく言う時、心の中でその気持ちが限界まで膨らんで、今にも泣き出しそうなほど溢れていることに、銀時はとっくに気付いていた。
そんな状態で二年間も耐えた***に、ようやく家族に会えるチャンスがめぐってきた。絶対に会わせるしかない、そう思いつつ両脇の新八と神楽を見ると、ふたりも同じように決意のまなざしを浮かべていた。
「…***を里帰りさせよう大作戦ってかぁ…で、ババァ、俺たちに何しろってんだよ」
「僕らにできることはなんでもしましょうよ、銀さん」
「そうネ!***をマミーとパピーに絶対会わせるアル!」
そして四人で検討を重ねて、計画が出来上がった。
まず第一に、帰省から逃れる為の言い訳をつくる猶予を***に与えないため、休暇と帰省の通知は前日にすることに決めた。第二に、スーパーに根回しして、内密に休暇を取っておいた。
第三に、同僚たちに協力させ、ドラマの再放送を見るため毎日スーパーへ行くよう仕向けることで、先々の予定を入れないようにした。
第四に、当日は万事屋が***を駅まで送り届け、必ず電車に乗せると約束した。
何も知らずに***はいつも通りの日常を送った。朝は牛乳配達、昼はスーパーでレジ打ちかドラマ鑑賞、夜は万事屋で夕飯を作って食べ、帰宅…という日々の繰り返し。トラブルもなく無事に前日を迎え、***に帰省休暇を告知する日の朝が来た。
その日の朝早く、万事屋の電話が鳴り、引っ越しの手伝いの依頼が入った。昼過ぎに引っ越し作業が終わり、そろそろ引き上げるかという時になって、神楽が浮かない顔をしていることに銀時は気付いた。***のことで手一杯の時に、ガキのことまで構ってられるかと知らないふりを決め込む。しかし突然の神楽の行動に、銀時も新八も度肝を抜かれることとなる。
気が付くと依頼人の若い男に、神楽がつっかかっていたのだ。おびえる男の胸倉をつかんで、何かを訴えている。慌てて止めに入り、男から話を聞くと、依頼料をまけるから運んだ荷物の中から、テレビを一台寄こせと突然神楽が言い出したという。
「だって銀ちゃん!こいつテレビ二台もあるんだヨ!ひとつくらい***にあげたっていいアル!!」
「はぁ!?お前なに言ってんの!?***がいつテレビ欲しがったよ!?」
「そうだよ神楽ちゃん、いきなりテレビ寄こせなんておかしいよ。一体どうしたの?」
「……だってぇ……***、すっごく遠い所に行くんでしょう?そしたらもう帰ってこないかもしれないネ。私、そんなの嫌アル。だって***は私の友達ネ、もっとたくさん遊びたいし、ずっと一緒にいたいネ……テレビが部屋にあったら、***きっと帰ってくると思ったヨ。小栗旬之助のドラマ、はまってたし続き見るために帰ってくるアル。そうでしょう?銀ちゃんも新八も、寂しくないアルか?***にもう会えなくても、いいアルか?」
「……確かに***さん、すごく家族に会いたがってたもんね。もしかしたらこれきり江戸へは帰らない、なんてこともありえますよね、銀さん…」
泣き出しそうな神楽と、心配そうな新八を見て、これだからガキは困る、と銀時は言ってため息をついた。テレビが有ろうが無かろうが、戻って来る時は来るし、来ない時は来ないと何度も言い聞かせたが、神楽は頑なに譲らなかった。
「っだァァァァ!めんどくせェェ!わかったよ、テレビ持ってきゃいんだろ持ってきゃ!おい、兄ちゃん、料金まけてやっからこのテレビ一台寄こせや、二台もいらねーだろ」
「えぇ!?何言ってんですか!買って一週間の新品ですよ!駄目に決まってるでしょう!?」
「よぉ~し、神楽ァ!テレビ以外のこいつの家財道具、全部粉々になるまでたたき壊せ」
「任せるネ!!」
「ちょっとぉぉぉぉ!!なんなんですかあんた達ィ!!!」
最終的には依頼人が折れる形で、依頼料を半額にまけて新品のテレビを手に入れた。今日中に***の部屋に設置してきてやると銀時が言うと、ようやく神楽と新八の顔は晴れやかになった。
テレビをめぐってそんなやり取りがあったから、***の口から「もうかぶき町に戻ってこれなくなりそうで、帰るのが怖い」という言葉を聞いた時、銀時は思わず吹き出しそうになった。
こいつ、神楽とおんなじこと言ってやがる!しょうがねぇガキがもうひとりいやがった!と馬鹿にしながらも、銀時は内心、自分がほっとしていることに気付いた。
***が帰省をためらう理由は、田舎にあると思っていた。母親に会うのが怖いとか、うしろめたいとかてっきりそんな理由だと。しかしそうではなく、この街への愛着が理由だと分かって、銀時は笑いだしたいほど嬉しかったのだ。
ああ、これならこいつは絶対にこの街へ戻ってくる。そう確信して安堵した。
その安堵感が大きかっただけに、無邪気な顔で問われた***の言葉に、銀時の胸は一気に凍り付いた。
―――銀ちゃんも私に……戻ってきてほしい?
神楽が新八が、お妙がお登勢が、真選組のやつらが…と散々言葉を重ねたうえで、いざ自分の気持ちを問われると、銀時は言葉に詰まった。
会えなくていいなんて思わない。むしろ、この街にずっといてほしい。このままの関係がずっと続いて、いつまでもつかず離れずの距離でいたいと、自分が思っていたことに、その時はじめて銀時は気付いた。ただ親しいだけの間柄で、勝手にそんな考えを持つのは、ずいぶんとワガママなことだと思う。
銀時が「戻ってこい」と言うだろうと信じて疑わない***の、無垢な澄んだ瞳で射抜かれた途端、脳裏に***の母親の手紙の文面が蘇った。
―――“どんなに遠く離れていても、***が生きているということだけが、私の希望です”―――
なんて悲しい言葉だろう。切実に互いを思い合う母娘を引き離すようなことを、銀時は軽々しく言えない。そんな資格は自分にはない。そう思うと気まずくて、ぱっと***から目をそらした。
なによりも家族を大切にすべきだと、***の顔も見ずに投げやりに答えた。なぜか胸が苦しかったが、それもまた確かに銀時の本心だった。
拍子抜けした顔で動きを止めた***に、無理やり膝枕をさせる。ドラマを見ながら冗談を言う銀時に、笑って返す***の声が、弱々しく震えていた。胸の前でにぎりしめられた小さな手の、指先の色が変わるほど力がこめられていることも、銀時は気づいていた。
言えるものなら自分勝手に、「戻ってこい」と言ってやりたいと、銀時だって思っていた。
駅のホームのアナウンスが響き渡る中、自分の隣に立つ***の手が震え、足がすくんで動けずにいることにも、とっくに気付いていた。新八も神楽も困惑した顔で***を見つめている。耳をほじりながら、どうすっかなー抱え上げて電車の中に放り込むかなぁ、とのんきに考えていた銀時の耳に、***の蚊の鳴くような小さな声が届いた。
「……ちゃん、私…って…から……」
「あ?あんだって?」
まぬけな声で聞き返すと、***はばっと顔を上げて、真剣な目で銀時を見つめた。昨日の弱々しい顔とは打って変わって、それは強い決意に満ちた顔だった。
「…銀ちゃん、私のこと万事屋の一員みたいなものって言ったよね?私は万事屋の皆のこと……家族みたいなものって思ってますから。家族は、一緒にいるのがいちばんいいんでしょ?それが当たり前なんでしょう?帰ってくるなって言われても、私この街に絶対帰ってきます。銀ちゃんの、……家族のいるところに、帰ってきますから!!!」
大きな声でそう言い切ると、***はぱっと目をそらして開いた電車のドアに向かって歩きはじめた。強い口調とは裏腹に、荷物を持つ手は震え、足はがくがくと頼りない。
乗車して座席のある車両へ続く扉に手をかけた途端、***は後ろ髪を引かれる思いに襲われる。これが最後かもしれないから、みんなの顔をちゃんと見ておこうと、振り返ろうとした途端、後ろから大きな身体に包み込まれた。大きな腕に抱きしめられて、何も見えなくなる。
「えっ!?…銀ちゃん?な、なにして……!」
***を追いかけるように電車に乗り込んだ銀時が、不安に震える小さな背中を後ろから抱きしめていた。
耳元で銀時が「どーやってたっけなぁ、旬之助ぇ」とつぶやく。戸惑っているうちに、背中から大きな身体が一瞬離れ、***はくるりと半回転させられる。両手から荷物が落ちる。どさっという音がしたと同時に、入ってきた方とは逆側の、閉じた電車の扉に、***の背中が押し付けられた。
「きゃッ…ぎ、ぎんちゃ、なに……ッ!」
見上げるとすぐ近くに銀時の顔があり、あまりの驚きに絶句する。背中を押し付ける力とは反対に、肩に回された大きな腕は、とても優しい。
ゆっくりと銀時の顔が近づいてくる。お互い瞳も閉じず、じっと見つめ合ったまま。***は昨日見たドラマのように、周りの景色がスローモーションになるのを感じた。
「…………っ!!!」
身体をこわばらせて小さく息を吸うと同時に、***のほほに温かく乾いた唇の感触が、そっと触れる。その繊細な唇の触れ方に、心臓がぎゅうっと締め付けられる。身動きが取れず瞳だけを横に動かすと、そこに銀時の赤い瞳が見えた。恥ずかしさにはっとして、身を引こうとする***を、肩に回された太い腕が優しく制した。
ほんの一瞬のことなのに、永遠のように長く感じる。触れた時と同じくらいゆっくりと優しく、***のほほから銀時の唇が離れて行った。あまりの驚きで膝の力が抜けて、へなへなとその場に座り込む。
おいおい、と言いながら銀時も一緒にしゃがんで、目線を合わせる。
「君は僕のものだ、だっけか?っかぁぁぁ~!よくそんなキザなこと言えるよな、旬之助!あんな変態キザ野郎のどこがいいんだよ!」
「やだぁっ!銀ちゃん、もぉ電車出ちゃうからっ…」
「大丈夫だって、おい、***」
そう言うと銀時は、真っ赤に染まって目をそらす***のほほを、両手で包むと自分の方へと向けた。
「いいかぁ、こーんなキザなこと銀さんは一回しか言わねぇから、よぉっく聞けよぉ」
―――***、お前は万事屋のもんだ。どこに行こうが、誰といようが、ぜってぇ俺のところに帰ってこい
聞きたくてたまらなかった言葉が耳に届くと同時に、***の身体中に安心感が広がる。不安にこわばっていた手足の力が抜けて、見開いた瞳に涙がぶわっと広がる。
「……ぅん、うんッ!銀ちゃん、私ちゃんと帰ってくるからね、待っててくださいね」
すがるように銀時の胸元の着物をつかむ。恥ずかしがって赤い顔のまま、涙をいっぱいにためた顔を見て、銀時が笑い声をあげた。
「ははっ!お前ほんとによく泣くようになったなぁ!びーびー泣いて赤ん坊かよコノヤロー!その調子で父ちゃんと母ちゃんにも抱き着いてきやがれ……そんで、気のすむまで甘えたら帰って来いよ、銀さんのところに。***の運命の人なんだろ、俺が」
そう言いながらにやりと笑った銀時が、ついさっき唇を寄せた方の***のほほを、ぴしぴしと指で叩いた。
確かに昨日ドラマを見ながらそう言ったけど、あくまでフィクションに対する感想であって現実では違うのに…と色々な言い訳が浮かんだが、***はひとつも言葉にできなかった。
ただ顔を真っ赤にして、自分のほほに残る優しいキスの感触に震えるしかできない。声も出せずに唇を震わせている***の、赤く染まった顔を見て、銀時はひとしきり笑うと、ぱっと立ち上がった。大きな手が***の頭を軽くなでてから、離れていった。
ジリリリリリリリ―――――
ドアが閉まります。駆け込み乗車はおやめください…
呆然と座り込む***の前で、銀時が閉まり始めたドアを大きな手で押さえた。たくましい腕でぐっとドアを押し返し、そのまま電車を降りて行った。
***は呆気にとられて座り込んでいたが、電車が動き始めたことに気づき、立ち上がる。閉じたドアに張り付いて、ガラスの向こうのホームを見る。
速度を上げ始めた電車と並ぶように、神楽と新八が走っていた。
「***!お土産はまんじゅうでいいからネ!いっぱいマミーとパピーを抱きしめてくるヨロシ!!」
「***さん!僕らも***さんのこと、家族だと思ってますから!帰ってくるの待ってますからね!!」
ドアのガラス越しに少しずつ離れて行くふたりを見て、***の涙が溢れだす。遠ざかったホームのかなたに、気だるげに立つ銀時の姿が見えた。涙でぼやけてどんな顔をしてるかは分からない。だけど――――
優しいキスの感覚の残るほほを、***は手で押さえる。そこから身体中に温かくて優しい気持ちが伝わる。
―――だけど大丈夫、私はここに帰ってくる。
走るのをやめた神楽と新八が、笑いながら手を振っている。***も手を振り返しながら、つられて笑顔になる。細められた目じりから、大粒の涙が一粒こぼれ出て、優しい口づけの感触を確かめるみたいに、熱いほほを伝って落ちていった。
どんどん小さくなっていく万事屋の三人を見つめて、***はかすかな声でつぶやく。こんな声は届かないと分かっている。だけど三人になら届くと信じている。
「みんな、ありがとう…いってきます!!」
(必ず帰ってくるからね、待っててね!!)
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no.30【am.9:00】end