かぶき町で牛乳配達をする女の子
牛乳(人生)は噛んで飲め
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【pm.5:00】
《デート》好意を寄せあう者同士で日時を定めて会うこと、また恋い慕う相手との外出の意。
日曜日の夕方。今日も仕事が無かった銀時は、万事屋のソファにひとり寝転んで、ジャンプを読んだり惰眠を貪ったりしている。神楽は定春の散歩へ出ていった。
大したカロリー消費もしていないのに、身体が糖分不足を訴えている。今週はまだ一度もパフェを食べていない。禁断症状のイライラが出てきそうだ。どっか食いにいくかな、あのファミレスとか、と考えるともなしに過ごしていると、玄関の戸の開く音がした。
「銀さん、ただいま戻りました」
「お邪魔します、銀ちゃん、新八くんお借りしちゃって、ごめんね」
新八と***が一緒にリビングへと入ってくる。銀時が寝ているのと反対側のソファに、ふたり並んで座る。
「お借りするなんて、何言ってるんですか***さん、僕が誘ったんですから!」
「いやでも、新八くんが誘ってくれなかったら、こんな機会一生ないと思うから、本当にありがとう!すっごく楽しかったよ、お通ちゃんのシークレットミニライブ!」
先日ひょんなことから***も寺門通のファンだということが発覚し、新八は大喜びだった。女子のファンは珍しいけど、お通ちゃんの魅力は全人類に共有されるべきものだから、こんなに嬉しいことはない!と熱弁していた。
大きなコンサートは親衛隊として参加しなければならないが、今度小さなライブハウスでミニライブ行われるため、ぜひ一緒に行かないかと***を誘ったのだ。
そういえばそのライブが今日だったっけか、と銀時は鼻をほじりながらふたりの話を聞いている。
「新八くん、私、本物の芸能人見るのはじめてだけど、お通ちゃんすっごくかわいかったよ。あんなにかわいい人、私生まれて初めて見た」
「わかります***さん、今日のお通ちゃんはいつも以上に輝いていました。衣装も最高に似合ってましたし」
「そうだ、新八くん!あのバラード曲の時にくるっと一回転したじゃない?あの時にリボンが揺れて、天使みたいだったねぇ」
「***さん、よく見てますね!僕はあの曲の時、あまりのお通ちゃんの尊さに感極まって、むせび泣いちゃいましたよ。本当に楽しかったですね***さん、ぜひまたライブ行きましょう!」
「え!いいの新八くん、嬉しい!」
繰り返される「***さん」「新八くん」の応酬。きゃっきゃうふふの声がどんどん大きくなる。ふたりの話を聞くうちに、少しずつ銀時の眉間にシワが寄り、しばらくすると顔にビキビキと怒りの血管が浮き上がってきた。
「***さん、今度うちでライブDVDの鑑賞会しましょうよ!」
「うん、ぜひ!新八くんのお家にお菓子持って行くね!」
―――ブチッ
銀時の頭の中で、怒りの沸点を超える音が鳴った。
「っだぁぁぁぁぁ―――!人が黙って聞いてりゃオメーらさっきからキャッキャキャッキャうるせーんだよ!付き合いたてのバカップルですかコノヤロー!こちとらジャンプ読むのに集中してんだ!デートの約束ならよそでやりやがれ!!!」
突然怒り出した銀時を見る、ふたりの目線は冷ややかだ。
「え、銀ちゃん、どうしたの、ジャンプ全然読んでなかったじゃないですか」
「そうですよ銀さん、仲間はずれが寂しいんですか?一緒にライブに来たらよかったじゃないですか、誘いましたよね僕」
「オタクどもの行くライブなんざ、シティ派の銀さんが行くかよ!けっ!!」
ジャンプを顔に乗せてソファに横になると、不貞腐れてしまった銀時を見て、***は困惑、新八はため息をつく。
銀時のこの不機嫌の理由を、新八は大体察しがついている。日曜日は週に一度、***の牛乳配達が休みで、スーパーのアルバイトもない、完全な休日だ。そんな日曜日を***はいつも万事屋へ来て、一緒に昼ご飯を食べたり、銀時と甘味処へ行ったりしていた。しかし今日は新八が***を独り占めしてしまったのだ。
「もぉ銀さん、そんなにイライラしてるのは糖分不足じゃないですか?パフェでも食べに行ったらいいじゃないですか、***さんと」
え?私も?と驚いた顔をして新八を見る***に向かって、唇に指を当て「しーっ!」と合図する。ここでうまくやれば銀時の機嫌は直る。
「ほら、***さんもさっきライブ終わりに疲れたーって言ってたじゃないですか!疲れた時は甘い物でしょ?ほらほら、銀さん、早く甘味処にでも連れてってあげてくださいよ」
新八が***にしか聞こえないくらいの小さな声で「ほら!***さんも何とか言ってください!」と指示をする。
「えっ!?えぇっと、そ、そうなの銀ちゃん!わ、私甘い物食べたいなぁ、銀ちゃんなら美味しいお店知ってるだろうし、連れてってもらえたら嬉しいなぁー」
お調子者みたいな顔をしている新八と、汗をたらしながら必死で話を合わせる***の声が止まると、顔にのっているジャンプを少しずらした銀時が、目だけ出してふたりをちらりと見る。
新八はあと一押し!という感じで大きな声を出す。
「銀さん、***さん待ってますよ!早く準備してデートに連れ出してあげないと!」
「えっ!?デ、デート!?…あ、えぇっと、そうだね!甘い物を食べに行くなんて立派なデートだねぇ!」
デートという言葉を聞いて、銀時ががばりと起き上がり、顔をにやにやさせて***を見る。
「そーんなに***が銀さんとデェートしたいんなら?連れてってやらねぇでもないけどぉ、まぁ銀さんくらいの大人になると、どっかのメガネみてぇなお子ちゃまデートじゃねぇけど、***は大丈夫かなぁ?ついてこれっかなぁぁぁ?」
機嫌を直した銀時が、憎たらしい顔をして立ち上がり、***の腕をつかむとぐいぐいと引っ張って出かけようとする。戸惑う***が振り向いて新八を見る。口だけぱくぱく動かして「新八くんは!?」と聞く。新八は顔の前で大きなバツ印を作るように腕を交差させた後、困惑する***に向かって手を振った。
ばたばたと出ていくふたりの足音が遠ざかる。新八は、面倒くさい上司のあしらい方が、我ながらうまくなったもんだなと思いながら、苦笑いをしてため息をついた。
「ちょっと銀ちゃん!こんなお洒落なカフェなんて聞いてないです!いつものファミレスだと思ってたよぉ」
「そりゃそうだろ、銀さん言ってねぇもん。でもほらこれ見ろよ、季節のスペシャルパフェ、めっさ美味そうじゃね?食うしかねぇだろこんなもん」
引きずるように連れてこられたのは、最近かぶき町にできたばかりのカフェで、お洒落な外観と可愛いスイーツで若い女子に大人気の店だった。***も以前雑誌で見てから、いつか行ってみたいと思っていた。
店内のお洒落な雰囲気に緊張していた***も、銀時に促されて見たメニューに、色とりどりのパフェが載っているのを見て、目を輝かせた。な、なんて美しいの!これが本当に食べ物?
銀時は早々に、いちごパフェ、チョコレートパフェ、季節の和栗のパフェと三つ頼むことを決めたが、***はいつまでもメニューを見てうんうんと悩んでいる。
「どうしよう…プリンパフェも美味しそうだけど、フルーツパフェも捨てがたい…」
「おい***早く決めろよぉ、銀さんもう限界なんだけど、糖分が足りなくて死にそう、頭パーンなって死にそぉぉぉ」
「わわっ!じゃ、じゃぁ、プ、プリンパフェにします!」
ようやく注文を終えて一息つくと、ふと周りの景色が***の目に入ってきた。お洒落なカフェなだけあって、客の8割が女性。ちらほらといる男性もカップルで来ていて、全員が女性の連れだった。
さらによく見ると、客のほとんどの女性たちがお洒落をしていて、化粧や髪形もしっかりとしていることに気付く。一方***は、突然銀時に連れてこられたため、なんのお洒落もしていない。しかも新八とのライブ帰りで、元々の薄化粧が今ではほぼ無くなっている状態。
こんなに気を抜いた状態でこの店にいることが恥ずかしい、と思いながら、ふと目の前に座っている銀時を見る。***がきょろきょろと周りを見て、百面相をしていることが面白かったのか、頬杖をついて笑いながらこちらを見ていた。
「なっ…なんで笑ってるんですか!?」
「だってお前、今すげーおもしれー顔してんの分かってんの?言っただろ、銀さんくらいの大人になると、お子ちゃまみたいなデートじゃねぇからなって」
「デッ…!!!」
デートという単語に顔を真っ赤にした後、笑っている銀時に向かって、「こんなお洒落な所に来るなら先に言ってくださいよ!銀ちゃんの馬鹿ぁ!お化粧直してくるんで、私のパフェが先にきてもつまみ食いしないでね!」という言葉を残して、ばたばたと席を立つ。
化粧室へと駆け込む***を、銀時は面白いものを見るように、さらに目を細めて見送った。
***が化粧直しに行って数分したところで、店員が4つのパフェをトレイに載せてやってきた。
「えぇっと、プリンパフェが……彼女さんのご注文ですよね?」
「ちょっと待て!……おねーさん!頼みがあんだけど聞いてくれる?300円あげるから」
目を丸くした店員に、銀時はビジネススマイルでにっこり笑って、ちょっと耳を貸せという風に手招きをする。内緒話をするように店員に話しかけ、店員もうんうんと頷いた。
粉で肌を整えて、口紅を塗り直すくらいしか、化粧直しはできなかった。しかし鏡に映る自分に向かって、そこまで酷くはないと言い聞かせると、***の気持ちは落ち着いた。
大丈夫大丈夫、ライブに行くからって着物はお洒落着だし、アイメイクもそこまで落ちてなかったし、髪も無造作ヘアの許容範囲内、大丈夫だよ***自信持って!と心の中で自分を勇気づける。
もうどんなに銀時にからかわれても、この店では赤くならないぞ、と意気込んでから席へ戻る。まだパフェは来ていなかったのでほっとして、目の前に座っている銀時に微笑んだ。
「お待たせ致しましたぁ」
若い女性の店員が、4つのパフェをトレイに載せてテーブルへやってくる。来た来た!と喜びを隠せない顔で、店員を見上げた***の前にプリンパフェが置かれる。
「はい、プリンパフェが彼女さんのご注文で、あとの3つは彼氏さんので、お間違いないでしょうか」
「彼女さん」「彼氏さん」の部分を、やけに強調するような喋り方で、若い女性の店員はパフェをテーブルに置いていく。
笑った顔のままピシッと動きを止めた***の顔が、一瞬後にばーっと真っ赤になる。
「ちちちちがっ!違います!あ、あのっ、そ、そーゆーのじゃないんです!!!」
「え?プリンパフェじゃなかったですか?あれ?彼氏さんの方がプリンパフェでしたっけ?」
「いやっ!ちがっ!プリンパフェは私のですけど!そうじゃなくって、そうじゃないんですぅ~……」
真っ赤な顔のまま、今にも消え入りそうな声を出す***を見て、銀時は腹を抱えて笑っているし、なぜか店員も一緒になって笑っていた。
「***、いいかげん機嫌直せよ、プリンパフェ食えてんだから、いーじゃねーか」
「だって……店員さんと一緒になってからかうなんてひどいですよ、銀ちゃんはまだしも、店員さんにまで笑われるなんて…」
プリンパフェのクリームをつつきながら、まだ***の顔はむすっとしている。その顔も面白くて、銀時はにやにやしながら自分の最後のパフェを食べる。
「でも私、前からこのカフェ、来てみたかったんです。雑誌で見てから。まさかこんなお洒落なお店で、こんなに恥ずかしい目に合うとは思わなかったけど」
「おー、あれだろ、こないだ新八と見てた雑誌だろ、お通が表紙の」
「え、」
唇を半開きにして、驚いた***が固まる。
新八とライブに行くことが決まった後、***は万事屋に来るたびに、お通が表紙の雑誌を読んで予習をしていた。ある時、***がずいぶんと熱心に雑誌を読んでいるので、ふと銀時が後ろからページをのぞくと、そこにはこのカフェの写真が載っていた。目を輝かせて「綺麗なパフェ…」とひとりごとを言っていたのを、銀時は聞いていたのだ。
「ここに来たかったんだろ、よかったじゃねぇか、来れて」
「うん…」
うつむいてプリンパフェをぱくりと口に入れる。すごく美味しい。自分がここに来たいと思っていたことを、銀時が知っていてくれたことも、すごく嬉しい。
でも、これじゃまるで―――
「せっかく銀さんがデートに連れてきてやったんだから、楽しめって」
まるで本当のデートみたいで恥ずかしい。
また少しだけ頬が熱くなる。恥ずかしいけど、お礼は言ったほうがいいかもしれない、せっかく連れてきてもらったんだし、と***は思い直して顔を上げる。目の前で3つ目のパフェを食べ終えて満足そうにしている銀時にむかって、笑いかけた。
「銀ちゃん、ありがとう、パフェすごく美味しいです」
「おー、どいたしましてぇ、***こそありがとぉ、銀さん今の所持金100円でぇーす」
「……………はい?」
デートって一体何なんだろう。パフェを3つも頼んどいてお金を持ってないって、銀ちゃんって一体何なんだろう。
へらりと笑ってこっちを見ている銀時と目が合って、***はくらっと眩暈がした。そしてお洒落な店内にいることも忘れて、店中に響くほどの声で銀時に向かって叫んだ。
「なぁにが大人のデートなんですかぁ!馬鹿ぁ!!」
(銀ちゃんの一文無し天パヤロー!!!!!)
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no.18【pm.5:00】end
《デート》好意を寄せあう者同士で日時を定めて会うこと、また恋い慕う相手との外出の意。
日曜日の夕方。今日も仕事が無かった銀時は、万事屋のソファにひとり寝転んで、ジャンプを読んだり惰眠を貪ったりしている。神楽は定春の散歩へ出ていった。
大したカロリー消費もしていないのに、身体が糖分不足を訴えている。今週はまだ一度もパフェを食べていない。禁断症状のイライラが出てきそうだ。どっか食いにいくかな、あのファミレスとか、と考えるともなしに過ごしていると、玄関の戸の開く音がした。
「銀さん、ただいま戻りました」
「お邪魔します、銀ちゃん、新八くんお借りしちゃって、ごめんね」
新八と***が一緒にリビングへと入ってくる。銀時が寝ているのと反対側のソファに、ふたり並んで座る。
「お借りするなんて、何言ってるんですか***さん、僕が誘ったんですから!」
「いやでも、新八くんが誘ってくれなかったら、こんな機会一生ないと思うから、本当にありがとう!すっごく楽しかったよ、お通ちゃんのシークレットミニライブ!」
先日ひょんなことから***も寺門通のファンだということが発覚し、新八は大喜びだった。女子のファンは珍しいけど、お通ちゃんの魅力は全人類に共有されるべきものだから、こんなに嬉しいことはない!と熱弁していた。
大きなコンサートは親衛隊として参加しなければならないが、今度小さなライブハウスでミニライブ行われるため、ぜひ一緒に行かないかと***を誘ったのだ。
そういえばそのライブが今日だったっけか、と銀時は鼻をほじりながらふたりの話を聞いている。
「新八くん、私、本物の芸能人見るのはじめてだけど、お通ちゃんすっごくかわいかったよ。あんなにかわいい人、私生まれて初めて見た」
「わかります***さん、今日のお通ちゃんはいつも以上に輝いていました。衣装も最高に似合ってましたし」
「そうだ、新八くん!あのバラード曲の時にくるっと一回転したじゃない?あの時にリボンが揺れて、天使みたいだったねぇ」
「***さん、よく見てますね!僕はあの曲の時、あまりのお通ちゃんの尊さに感極まって、むせび泣いちゃいましたよ。本当に楽しかったですね***さん、ぜひまたライブ行きましょう!」
「え!いいの新八くん、嬉しい!」
繰り返される「***さん」「新八くん」の応酬。きゃっきゃうふふの声がどんどん大きくなる。ふたりの話を聞くうちに、少しずつ銀時の眉間にシワが寄り、しばらくすると顔にビキビキと怒りの血管が浮き上がってきた。
「***さん、今度うちでライブDVDの鑑賞会しましょうよ!」
「うん、ぜひ!新八くんのお家にお菓子持って行くね!」
―――ブチッ
銀時の頭の中で、怒りの沸点を超える音が鳴った。
「っだぁぁぁぁぁ―――!人が黙って聞いてりゃオメーらさっきからキャッキャキャッキャうるせーんだよ!付き合いたてのバカップルですかコノヤロー!こちとらジャンプ読むのに集中してんだ!デートの約束ならよそでやりやがれ!!!」
突然怒り出した銀時を見る、ふたりの目線は冷ややかだ。
「え、銀ちゃん、どうしたの、ジャンプ全然読んでなかったじゃないですか」
「そうですよ銀さん、仲間はずれが寂しいんですか?一緒にライブに来たらよかったじゃないですか、誘いましたよね僕」
「オタクどもの行くライブなんざ、シティ派の銀さんが行くかよ!けっ!!」
ジャンプを顔に乗せてソファに横になると、不貞腐れてしまった銀時を見て、***は困惑、新八はため息をつく。
銀時のこの不機嫌の理由を、新八は大体察しがついている。日曜日は週に一度、***の牛乳配達が休みで、スーパーのアルバイトもない、完全な休日だ。そんな日曜日を***はいつも万事屋へ来て、一緒に昼ご飯を食べたり、銀時と甘味処へ行ったりしていた。しかし今日は新八が***を独り占めしてしまったのだ。
「もぉ銀さん、そんなにイライラしてるのは糖分不足じゃないですか?パフェでも食べに行ったらいいじゃないですか、***さんと」
え?私も?と驚いた顔をして新八を見る***に向かって、唇に指を当て「しーっ!」と合図する。ここでうまくやれば銀時の機嫌は直る。
「ほら、***さんもさっきライブ終わりに疲れたーって言ってたじゃないですか!疲れた時は甘い物でしょ?ほらほら、銀さん、早く甘味処にでも連れてってあげてくださいよ」
新八が***にしか聞こえないくらいの小さな声で「ほら!***さんも何とか言ってください!」と指示をする。
「えっ!?えぇっと、そ、そうなの銀ちゃん!わ、私甘い物食べたいなぁ、銀ちゃんなら美味しいお店知ってるだろうし、連れてってもらえたら嬉しいなぁー」
お調子者みたいな顔をしている新八と、汗をたらしながら必死で話を合わせる***の声が止まると、顔にのっているジャンプを少しずらした銀時が、目だけ出してふたりをちらりと見る。
新八はあと一押し!という感じで大きな声を出す。
「銀さん、***さん待ってますよ!早く準備してデートに連れ出してあげないと!」
「えっ!?デ、デート!?…あ、えぇっと、そうだね!甘い物を食べに行くなんて立派なデートだねぇ!」
デートという言葉を聞いて、銀時ががばりと起き上がり、顔をにやにやさせて***を見る。
「そーんなに***が銀さんとデェートしたいんなら?連れてってやらねぇでもないけどぉ、まぁ銀さんくらいの大人になると、どっかのメガネみてぇなお子ちゃまデートじゃねぇけど、***は大丈夫かなぁ?ついてこれっかなぁぁぁ?」
機嫌を直した銀時が、憎たらしい顔をして立ち上がり、***の腕をつかむとぐいぐいと引っ張って出かけようとする。戸惑う***が振り向いて新八を見る。口だけぱくぱく動かして「新八くんは!?」と聞く。新八は顔の前で大きなバツ印を作るように腕を交差させた後、困惑する***に向かって手を振った。
ばたばたと出ていくふたりの足音が遠ざかる。新八は、面倒くさい上司のあしらい方が、我ながらうまくなったもんだなと思いながら、苦笑いをしてため息をついた。
「ちょっと銀ちゃん!こんなお洒落なカフェなんて聞いてないです!いつものファミレスだと思ってたよぉ」
「そりゃそうだろ、銀さん言ってねぇもん。でもほらこれ見ろよ、季節のスペシャルパフェ、めっさ美味そうじゃね?食うしかねぇだろこんなもん」
引きずるように連れてこられたのは、最近かぶき町にできたばかりのカフェで、お洒落な外観と可愛いスイーツで若い女子に大人気の店だった。***も以前雑誌で見てから、いつか行ってみたいと思っていた。
店内のお洒落な雰囲気に緊張していた***も、銀時に促されて見たメニューに、色とりどりのパフェが載っているのを見て、目を輝かせた。な、なんて美しいの!これが本当に食べ物?
銀時は早々に、いちごパフェ、チョコレートパフェ、季節の和栗のパフェと三つ頼むことを決めたが、***はいつまでもメニューを見てうんうんと悩んでいる。
「どうしよう…プリンパフェも美味しそうだけど、フルーツパフェも捨てがたい…」
「おい***早く決めろよぉ、銀さんもう限界なんだけど、糖分が足りなくて死にそう、頭パーンなって死にそぉぉぉ」
「わわっ!じゃ、じゃぁ、プ、プリンパフェにします!」
ようやく注文を終えて一息つくと、ふと周りの景色が***の目に入ってきた。お洒落なカフェなだけあって、客の8割が女性。ちらほらといる男性もカップルで来ていて、全員が女性の連れだった。
さらによく見ると、客のほとんどの女性たちがお洒落をしていて、化粧や髪形もしっかりとしていることに気付く。一方***は、突然銀時に連れてこられたため、なんのお洒落もしていない。しかも新八とのライブ帰りで、元々の薄化粧が今ではほぼ無くなっている状態。
こんなに気を抜いた状態でこの店にいることが恥ずかしい、と思いながら、ふと目の前に座っている銀時を見る。***がきょろきょろと周りを見て、百面相をしていることが面白かったのか、頬杖をついて笑いながらこちらを見ていた。
「なっ…なんで笑ってるんですか!?」
「だってお前、今すげーおもしれー顔してんの分かってんの?言っただろ、銀さんくらいの大人になると、お子ちゃまみたいなデートじゃねぇからなって」
「デッ…!!!」
デートという単語に顔を真っ赤にした後、笑っている銀時に向かって、「こんなお洒落な所に来るなら先に言ってくださいよ!銀ちゃんの馬鹿ぁ!お化粧直してくるんで、私のパフェが先にきてもつまみ食いしないでね!」という言葉を残して、ばたばたと席を立つ。
化粧室へと駆け込む***を、銀時は面白いものを見るように、さらに目を細めて見送った。
***が化粧直しに行って数分したところで、店員が4つのパフェをトレイに載せてやってきた。
「えぇっと、プリンパフェが……彼女さんのご注文ですよね?」
「ちょっと待て!……おねーさん!頼みがあんだけど聞いてくれる?300円あげるから」
目を丸くした店員に、銀時はビジネススマイルでにっこり笑って、ちょっと耳を貸せという風に手招きをする。内緒話をするように店員に話しかけ、店員もうんうんと頷いた。
粉で肌を整えて、口紅を塗り直すくらいしか、化粧直しはできなかった。しかし鏡に映る自分に向かって、そこまで酷くはないと言い聞かせると、***の気持ちは落ち着いた。
大丈夫大丈夫、ライブに行くからって着物はお洒落着だし、アイメイクもそこまで落ちてなかったし、髪も無造作ヘアの許容範囲内、大丈夫だよ***自信持って!と心の中で自分を勇気づける。
もうどんなに銀時にからかわれても、この店では赤くならないぞ、と意気込んでから席へ戻る。まだパフェは来ていなかったのでほっとして、目の前に座っている銀時に微笑んだ。
「お待たせ致しましたぁ」
若い女性の店員が、4つのパフェをトレイに載せてテーブルへやってくる。来た来た!と喜びを隠せない顔で、店員を見上げた***の前にプリンパフェが置かれる。
「はい、プリンパフェが彼女さんのご注文で、あとの3つは彼氏さんので、お間違いないでしょうか」
「彼女さん」「彼氏さん」の部分を、やけに強調するような喋り方で、若い女性の店員はパフェをテーブルに置いていく。
笑った顔のままピシッと動きを止めた***の顔が、一瞬後にばーっと真っ赤になる。
「ちちちちがっ!違います!あ、あのっ、そ、そーゆーのじゃないんです!!!」
「え?プリンパフェじゃなかったですか?あれ?彼氏さんの方がプリンパフェでしたっけ?」
「いやっ!ちがっ!プリンパフェは私のですけど!そうじゃなくって、そうじゃないんですぅ~……」
真っ赤な顔のまま、今にも消え入りそうな声を出す***を見て、銀時は腹を抱えて笑っているし、なぜか店員も一緒になって笑っていた。
「***、いいかげん機嫌直せよ、プリンパフェ食えてんだから、いーじゃねーか」
「だって……店員さんと一緒になってからかうなんてひどいですよ、銀ちゃんはまだしも、店員さんにまで笑われるなんて…」
プリンパフェのクリームをつつきながら、まだ***の顔はむすっとしている。その顔も面白くて、銀時はにやにやしながら自分の最後のパフェを食べる。
「でも私、前からこのカフェ、来てみたかったんです。雑誌で見てから。まさかこんなお洒落なお店で、こんなに恥ずかしい目に合うとは思わなかったけど」
「おー、あれだろ、こないだ新八と見てた雑誌だろ、お通が表紙の」
「え、」
唇を半開きにして、驚いた***が固まる。
新八とライブに行くことが決まった後、***は万事屋に来るたびに、お通が表紙の雑誌を読んで予習をしていた。ある時、***がずいぶんと熱心に雑誌を読んでいるので、ふと銀時が後ろからページをのぞくと、そこにはこのカフェの写真が載っていた。目を輝かせて「綺麗なパフェ…」とひとりごとを言っていたのを、銀時は聞いていたのだ。
「ここに来たかったんだろ、よかったじゃねぇか、来れて」
「うん…」
うつむいてプリンパフェをぱくりと口に入れる。すごく美味しい。自分がここに来たいと思っていたことを、銀時が知っていてくれたことも、すごく嬉しい。
でも、これじゃまるで―――
「せっかく銀さんがデートに連れてきてやったんだから、楽しめって」
まるで本当のデートみたいで恥ずかしい。
また少しだけ頬が熱くなる。恥ずかしいけど、お礼は言ったほうがいいかもしれない、せっかく連れてきてもらったんだし、と***は思い直して顔を上げる。目の前で3つ目のパフェを食べ終えて満足そうにしている銀時にむかって、笑いかけた。
「銀ちゃん、ありがとう、パフェすごく美味しいです」
「おー、どいたしましてぇ、***こそありがとぉ、銀さん今の所持金100円でぇーす」
「……………はい?」
デートって一体何なんだろう。パフェを3つも頼んどいてお金を持ってないって、銀ちゃんって一体何なんだろう。
へらりと笑ってこっちを見ている銀時と目が合って、***はくらっと眩暈がした。そしてお洒落な店内にいることも忘れて、店中に響くほどの声で銀時に向かって叫んだ。
「なぁにが大人のデートなんですかぁ!馬鹿ぁ!!」
(銀ちゃんの一文無し天パヤロー!!!!!)
--------------------------------------
no.18【pm.5:00】end