かぶき町で牛乳配達をする女の子
牛乳(人生)は噛んで飲め
おなまえをどうぞ
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【am.9:00】
自分よりも年下と思われる女性の、その物腰や雰囲気が大人びていて***は少し緊張する。そのせいで手が震える。手だけではなく全身震えている。
これは緊張のせいと***は自分に言い聞かせる。決して、決して「お茶うけのクッキーです♪」と目の前に置かれた、ダークマターのせいではない。
「***もアネゴに浴衣着せてもらうヨロシ、それで一緒にお祭り行くネ!」
「えっ?浴衣?…お祭り?」
牛乳配達の帰りに万事屋に寄ったところ、新八に「姉上が***さんに牛乳のお礼をしたいと言ってたので、もしよかったら帰りに寄ってくれませんか」と言われ、神楽と一緒に志村邸へと向かったのだ。
扉を開けたお妙に、「あなたが***さんね!新ちゃんからいつもお話聞いてます、あがってあがって!」とフレンドリーに迎え入れられ、***は嬉しくなる。
お妙は***に、毎朝の牛乳配達の礼を言い、サービスで入れておいた***農園の牛乳を気に入ったので、来月からは配達する牛乳を全て、***農園の物にすると言ってくれた。それを聞いた***は思わず、「お妙さま!ありがとうございます!一生ついていきます!」とその手を握ったのだった。
今日はガールズトークに花が咲くわね、とお妙は嬉しそうに笑って、手作りのクッキーをテーブルに出す。キャバクラ仕込みの完璧な笑顔で差し出されたそれを見て、***はこんなに黒い物体を見たのは生まれて初めてだと思う。
これは食べられるのだろうか、と不安に思いながらも一つ手に取る。しかし口に入れる前に目を開けていられないような強い刺激に襲われ、ゆっくりとクッキーを持つ手をそのまま膝の上に戻した。
隣でその物体をバリバリと食べていた神楽が、口の周りを炭で汚したように黒くして、***を見上げると突然、浴衣を着て一緒にお祭りにいこうと誘ってくる。話が読めずにおろおろしていると、お妙が首を傾げて微笑んだ。
「あら、新ちゃんたら話してないのね?今度の土曜日に町内会のお祭りがあるでしょう?…それでねぇ、いつものお礼といってはなんですけど、***さんに浴衣を差し上げますから、それを着てお祭りに行って頂けないかしら」
「えっ!浴衣!?…浴衣なんて、そんな高価な物、いただけませんよ!」
「違うのよ、***さん。町内会のお祭りだから、私のお店も露店を出すの。それで、浴衣で来た方にはプレゼントを渡すっていうキャンペーンをやることになってねぇ。そのノルマを達成しなきゃいけないから、ぜひ***さんにもご協力頂きたいのよ、…どうかしら?」
にっこり、という表現がぴったりな笑顔だけれど、その瞳の奥でお妙が本当に笑っているのかどうか、***には分からなかった。この人だけは絶対、敵に回してはいけないと本能が告げている。お前に断るという選択肢は無い、という態度で背筋を伸ばして***の前に座っているお妙の佇まいは、自分よりも十か二十ほど年上に感じた。
それならお言葉に甘えさせて頂きますと、ぺこりと頭を下げて***が了承すると、お妙はふっと緊張を解いて、嬉しそうに笑った。
「ところでお妙さんたちの露店は、何を売るんですか?」
「うちのお店はキャバ嬢の手作りクッキーなのよ、今日はその試作をしていてね、***さんどうかしら、今回は結構上手に出来たと思うんだけど…」
「えっ……!!!」
「***さんの様子が少しおかしいの…」というお妙の電話で呼び出された銀時が、原付を飛ばして到着した時、***は目を回して倒れていた。お妙のお手製クッキーを食べて、とても小さな声で「おいしいです」と言った後、ばったりと倒れ、そのまま意識を失ったという。
「オイィィィ!神楽!***にダークマター食わすなっつっただろ!オメーと違ってこいつは普通の内臓を持つ普通の人間なの!胃に穴が開いたらどーすんだよ!!」
「まぁ、ひどいわ銀さん、私のクッキーにそんな刺激ありません」
「むしろ刺激しかないよォ!刺激以外の成分がない暗黒物質だよォ!こんなもんクッキーじゃなくて、胃かいよう製造マシーンだろーが!!」
「でも銀ちゃん、今日のダークマターは結構渋くて大人味だったネ、***もおいしいって言ってたし大丈夫アル」
「目ぇ回してぶっ倒れてるヤツが大丈夫なわけねぇだろ!コイツおいしいって言ったの?銀さんだったら断末魔しか上げらんねぇよ!?渋くて大人味って何!?激シブ世紀末味の間違ぇだろーが!!」
お妙や神楽と話しててもらちがあかない、とにかく***をなんとかしなくてはと思い、肩と膝裏に腕を回して抱え上げる。原付の後ろに乗せて、両腕を自分の腰に回すと、上から手で押さえつけ、そのまま病院に向かって原付を走らせる。
「う、うう…あれ?銀ちゃん…?」
原付を走らせている途中、背後から声が聞こえ、腰に回った腕に力が入った。
「***!!お前、生きてっか!?」
「なんで銀ちゃんがいるの?お妙さんは…あっ、うぅっ…は、吐きそうです…」
「オイィィィ!!ちょっと待てェェェ!いま停めっから、停めるまで吐くなァァァ!!」
地面に着いた銀時の両足から煙があがるほどの急ブレーキをかけて、そのまま近くの公園に原付ごと飛び込む。停まった直後、よろけるように降りた***は、ふらふらと公園の隅の草むらへ分け入り、小さくなって「うぇぇぇん」と泣き声のような声を上げた。
うずくまる***の隣に銀時も腰を下ろして、その小さな背中を大きな手でさする。
「おい***、大丈夫か、背中さすってやっから、全部出しちまいな」
「っう…っうぅ…ぎ、銀ちゃん、は、恥ずかしいから見ないで…」
「はァァァァ!?恥ずかしいもくそもねぇだろ、あんなダークマターさっさと吐かねぇと、胃に穴が開いて死んでも銀さん知らねぇかんな」
「う、うえぇぇん…怖いぃ、しにたくない…ぎ、銀ちゃん、たすけて」
仕方ねぇなと言った銀時が、うずくまる***の身体の前に手を入れ、帯の中に差し込むと、みぞおちの辺りをぐいっと押す。同時に背中をさすりながら、強い力で***の身体を押して、前かがみにさせる。胃の辺りから不快な何かが込み上げてきて、***は恐怖のあまり、みぞおちを押す銀時の手を、上からぎゅっと握った。
「やっ、こわぃっ…うっ…うぁっ……」
「大丈夫だ、***、そんまま出しちまえ」
耳元で銀時の優しい声が聞こえる。***は苦しそうに小さな声であえいでいたが、しばらくして銀時の手に押されて込み上げてきた何かを、声も無く口から吐き出した。
「ひゅぅ」という悲鳴のような息を吐いた後、***は生理的な涙をボロボロとこぼした。
「はい、よくできましたぁ、もう大丈夫ですよ***さぁん、産まれましたよぉ、でっけぇダークマターが!お前、こんなに食ったのかよ!」
「み、見ないでくださいぃ!1個しか食べてないもん!お妙さんに悪いと思って一口で食べたんだもん!」
「馬鹿かオメー、こんなもんどう見たって食いもんじゃねぇだろーが!」
立ち上がった銀時が、***の吐き出した真っ黒い物体に、足で砂をかける。***はまだうずくまったまま、手だけは銀時の手を握って離さない。恐怖が残っているのか、握る力はとても強く、指先が冷たく色が真っ白だ。
「はぁ…本当に死ぬかと思いました…銀ちゃん、ありがとう」
「背中にダークマターぶちまかれるかと思って、俺もヒヤヒヤしたけど、お前もよく我慢したよなぁ、馬鹿だけど。これ食ってうめぇって言ったその根性だけは認める、馬鹿だけど」
「だって…お妙さんすっごく良い人なのに、クッキーはおいしくないなんて、言えないですよ」
のどの奥にピリピリとした刺激と痛みが残っている。ごほごほと咳き込みながら、身体を丸めてうずくまっていると、また銀時が隣にしゃがんで背中を撫でる。
背中を撫でる大きな手の温かさにほっとすると同時に、恥ずかしい姿を銀時に見られたという思いが、ふっと蘇ってきて***は顔が真っ赤になる。
「やっ…ぎんちゃっコホッ…やだっ、またっ恥ずかしくなってきちゃったから…や、やめてっ」
「いや***、お前、」
***がいやいやと頭を振って、背中の手を避けるように横に動くと、銀時も動いてついてくる。
「ケホッ…あの、もぉいいですからっ…やめっ」
「いや、***ちゃぁ~ん、やめてって言われても…銀さんの手がこれだからさぁ」
もうやめてと言いながら真っ赤な顔のまま振り返り、銀時の方を見るとにやにやと嬉しそうな顔をしていた。
***の顔の前で、銀時が自分の左手をふりふりと振る。そしてその手を上からぎゅっと握っているのは、他の誰でもない***自身の手だった。
公園のベンチに座り、銀時が買ってきたミネラルウォーターを飲むと、大分気分が楽になった。並んで座っている銀時はいちご牛乳を飲んでいる。
「***、いつまで照れてんだよ、ゲロ吐くくらい大したことじゃねぇだろぉ、お前だって銀さんが吐くとこ何回も見てんじゃん、なんなら初対面から俺吐いてなかった?あれ?それヤバくね」
「ぎ、銀ちゃんはいいかもしれないけど、一応私は女の子だから、人様に見られたくない姿ってものがあるんです!もぉ~…最悪ですよぉ」
両手で真っ赤な顔を覆い、うつむく。無意識に銀時の手をつかんで離さないことを知り、慌ててその手を離してからずっと、***は一度も銀時の目を見ることができない。
銀時は、呆れるくらい初心なやつだなと思いながらも、耳の後ろまで真っ赤にしている姿を見ているのが面白い。
「まぁ、また***がゲロ吐く機会があったら?銀さんが助けてやるし?そう落ち込むなって。なかなか見どころのある吐きっぷりだったし、次回も頑張れよぉ」
「~~~~ッ!は、吐きっぷりとか言わないで下さい!もう二度と銀ちゃんの前で吐いたりしません!」
笑いながら冗談を言う銀時の腕を、バシバシと叩く。失態を見られ、手まで握ってしまい、恥ずかしいことばかりなのに、そのうえからかわれて***はいたたまれない気持ちになる。
「銀ちゃんの馬鹿!」と言いながらその腕を叩いていると、急に両手をぱしっと、銀時の大きな手に取られる。はっとして顔を見ると、銀時の目は***の顔ではなく、両手でつかんだ***の手の、細い指先に向けられていた。
「…おし!もう指も温っけぇし、色も元に戻ってっから、大丈夫だろ。顔色もよくなったじゃねぇか」
さっきまで自分の手を握っていた***の小さな手の、血の気の失せた白さと、指先の冷たさが銀時は心配でたまらなかった。え、なにこれ、白すぎじゃね、こいつ死ぬんじゃね、と内心焦った。ようやく血色も温度も元に戻った手を、自分の手の中に感じることができて、ほっとする。
安心した銀時の顔を見て、心配してくれていたんだと分かり、***の恥ずかしさも治まる。両手を銀時に握られたまま、微笑んだ。
「銀ちゃん、どうもありがとうございました」
「ん…どぉいたしましてぇ、さぁてダークマターも吐いたことだし、お妙んとこ戻るかぁ。まだ浴衣どれにすっか決めてねぇって神楽とふたりでさんざん騒いでやがったかんな、さっさと戻って話してやれよ」
「え、浴衣……?そうだ、浴衣!銀ちゃん!私、神楽ちゃんと一緒にお祭りに行くんです、銀ちゃんも一緒に行こうよ!」
さっきまでの落ち込みようから一転して、祭りを思い出した途端に***の顔はぱっと明るくなる。大きな手に捕まったままの両手を、上下にぶんぶんと振りながら、銀時を誘う***を見ていると、常々思っている「ガキの遊びに付き合えっかめんどくせぇな」という答えは言えなかった。
「お妙に浴衣着て出店に来なかったら殺すって言われてるし、しょうがねぇ付き合ってやっか」という銀時の答えを聞いて、***の顔はなお明るくなった。
約束ですよ!と言いながら両腕を振って、嬉しそうにしている***の顔と、手の中の小さな温かい手を見ていたら、銀時のなかのいじめっこがふと目を覚ます。
「なぁなぁ***ちゅわぁん、銀さんとお祭り行ったら、またこうやって、おてて繋いで歩こうなぁ、酔っ払って吐いても銀さんちゃーんと介抱してやっから、安心しなさい」
朗らかだった***の顔がビクッとひきつり、そのままぱっと銀時の手を振り払う。ボンッと煙が出そうなほど顔を真っ赤にした***が、大きな声で叫んだお決まりのセリフと、腹を抱えて笑う銀時の笑い声が公園に響いた。
「ぎぎぎぎぎ、銀ちゃんの馬鹿ァ!!!」
「ギャハハハハッ!オメーすっげぇ真っ赤!!!」
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no.12【am.9:00】end
自分よりも年下と思われる女性の、その物腰や雰囲気が大人びていて***は少し緊張する。そのせいで手が震える。手だけではなく全身震えている。
これは緊張のせいと***は自分に言い聞かせる。決して、決して「お茶うけのクッキーです♪」と目の前に置かれた、ダークマターのせいではない。
「***もアネゴに浴衣着せてもらうヨロシ、それで一緒にお祭り行くネ!」
「えっ?浴衣?…お祭り?」
牛乳配達の帰りに万事屋に寄ったところ、新八に「姉上が***さんに牛乳のお礼をしたいと言ってたので、もしよかったら帰りに寄ってくれませんか」と言われ、神楽と一緒に志村邸へと向かったのだ。
扉を開けたお妙に、「あなたが***さんね!新ちゃんからいつもお話聞いてます、あがってあがって!」とフレンドリーに迎え入れられ、***は嬉しくなる。
お妙は***に、毎朝の牛乳配達の礼を言い、サービスで入れておいた***農園の牛乳を気に入ったので、来月からは配達する牛乳を全て、***農園の物にすると言ってくれた。それを聞いた***は思わず、「お妙さま!ありがとうございます!一生ついていきます!」とその手を握ったのだった。
今日はガールズトークに花が咲くわね、とお妙は嬉しそうに笑って、手作りのクッキーをテーブルに出す。キャバクラ仕込みの完璧な笑顔で差し出されたそれを見て、***はこんなに黒い物体を見たのは生まれて初めてだと思う。
これは食べられるのだろうか、と不安に思いながらも一つ手に取る。しかし口に入れる前に目を開けていられないような強い刺激に襲われ、ゆっくりとクッキーを持つ手をそのまま膝の上に戻した。
隣でその物体をバリバリと食べていた神楽が、口の周りを炭で汚したように黒くして、***を見上げると突然、浴衣を着て一緒にお祭りにいこうと誘ってくる。話が読めずにおろおろしていると、お妙が首を傾げて微笑んだ。
「あら、新ちゃんたら話してないのね?今度の土曜日に町内会のお祭りがあるでしょう?…それでねぇ、いつものお礼といってはなんですけど、***さんに浴衣を差し上げますから、それを着てお祭りに行って頂けないかしら」
「えっ!浴衣!?…浴衣なんて、そんな高価な物、いただけませんよ!」
「違うのよ、***さん。町内会のお祭りだから、私のお店も露店を出すの。それで、浴衣で来た方にはプレゼントを渡すっていうキャンペーンをやることになってねぇ。そのノルマを達成しなきゃいけないから、ぜひ***さんにもご協力頂きたいのよ、…どうかしら?」
にっこり、という表現がぴったりな笑顔だけれど、その瞳の奥でお妙が本当に笑っているのかどうか、***には分からなかった。この人だけは絶対、敵に回してはいけないと本能が告げている。お前に断るという選択肢は無い、という態度で背筋を伸ばして***の前に座っているお妙の佇まいは、自分よりも十か二十ほど年上に感じた。
それならお言葉に甘えさせて頂きますと、ぺこりと頭を下げて***が了承すると、お妙はふっと緊張を解いて、嬉しそうに笑った。
「ところでお妙さんたちの露店は、何を売るんですか?」
「うちのお店はキャバ嬢の手作りクッキーなのよ、今日はその試作をしていてね、***さんどうかしら、今回は結構上手に出来たと思うんだけど…」
「えっ……!!!」
「***さんの様子が少しおかしいの…」というお妙の電話で呼び出された銀時が、原付を飛ばして到着した時、***は目を回して倒れていた。お妙のお手製クッキーを食べて、とても小さな声で「おいしいです」と言った後、ばったりと倒れ、そのまま意識を失ったという。
「オイィィィ!神楽!***にダークマター食わすなっつっただろ!オメーと違ってこいつは普通の内臓を持つ普通の人間なの!胃に穴が開いたらどーすんだよ!!」
「まぁ、ひどいわ銀さん、私のクッキーにそんな刺激ありません」
「むしろ刺激しかないよォ!刺激以外の成分がない暗黒物質だよォ!こんなもんクッキーじゃなくて、胃かいよう製造マシーンだろーが!!」
「でも銀ちゃん、今日のダークマターは結構渋くて大人味だったネ、***もおいしいって言ってたし大丈夫アル」
「目ぇ回してぶっ倒れてるヤツが大丈夫なわけねぇだろ!コイツおいしいって言ったの?銀さんだったら断末魔しか上げらんねぇよ!?渋くて大人味って何!?激シブ世紀末味の間違ぇだろーが!!」
お妙や神楽と話しててもらちがあかない、とにかく***をなんとかしなくてはと思い、肩と膝裏に腕を回して抱え上げる。原付の後ろに乗せて、両腕を自分の腰に回すと、上から手で押さえつけ、そのまま病院に向かって原付を走らせる。
「う、うう…あれ?銀ちゃん…?」
原付を走らせている途中、背後から声が聞こえ、腰に回った腕に力が入った。
「***!!お前、生きてっか!?」
「なんで銀ちゃんがいるの?お妙さんは…あっ、うぅっ…は、吐きそうです…」
「オイィィィ!!ちょっと待てェェェ!いま停めっから、停めるまで吐くなァァァ!!」
地面に着いた銀時の両足から煙があがるほどの急ブレーキをかけて、そのまま近くの公園に原付ごと飛び込む。停まった直後、よろけるように降りた***は、ふらふらと公園の隅の草むらへ分け入り、小さくなって「うぇぇぇん」と泣き声のような声を上げた。
うずくまる***の隣に銀時も腰を下ろして、その小さな背中を大きな手でさする。
「おい***、大丈夫か、背中さすってやっから、全部出しちまいな」
「っう…っうぅ…ぎ、銀ちゃん、は、恥ずかしいから見ないで…」
「はァァァァ!?恥ずかしいもくそもねぇだろ、あんなダークマターさっさと吐かねぇと、胃に穴が開いて死んでも銀さん知らねぇかんな」
「う、うえぇぇん…怖いぃ、しにたくない…ぎ、銀ちゃん、たすけて」
仕方ねぇなと言った銀時が、うずくまる***の身体の前に手を入れ、帯の中に差し込むと、みぞおちの辺りをぐいっと押す。同時に背中をさすりながら、強い力で***の身体を押して、前かがみにさせる。胃の辺りから不快な何かが込み上げてきて、***は恐怖のあまり、みぞおちを押す銀時の手を、上からぎゅっと握った。
「やっ、こわぃっ…うっ…うぁっ……」
「大丈夫だ、***、そんまま出しちまえ」
耳元で銀時の優しい声が聞こえる。***は苦しそうに小さな声であえいでいたが、しばらくして銀時の手に押されて込み上げてきた何かを、声も無く口から吐き出した。
「ひゅぅ」という悲鳴のような息を吐いた後、***は生理的な涙をボロボロとこぼした。
「はい、よくできましたぁ、もう大丈夫ですよ***さぁん、産まれましたよぉ、でっけぇダークマターが!お前、こんなに食ったのかよ!」
「み、見ないでくださいぃ!1個しか食べてないもん!お妙さんに悪いと思って一口で食べたんだもん!」
「馬鹿かオメー、こんなもんどう見たって食いもんじゃねぇだろーが!」
立ち上がった銀時が、***の吐き出した真っ黒い物体に、足で砂をかける。***はまだうずくまったまま、手だけは銀時の手を握って離さない。恐怖が残っているのか、握る力はとても強く、指先が冷たく色が真っ白だ。
「はぁ…本当に死ぬかと思いました…銀ちゃん、ありがとう」
「背中にダークマターぶちまかれるかと思って、俺もヒヤヒヤしたけど、お前もよく我慢したよなぁ、馬鹿だけど。これ食ってうめぇって言ったその根性だけは認める、馬鹿だけど」
「だって…お妙さんすっごく良い人なのに、クッキーはおいしくないなんて、言えないですよ」
のどの奥にピリピリとした刺激と痛みが残っている。ごほごほと咳き込みながら、身体を丸めてうずくまっていると、また銀時が隣にしゃがんで背中を撫でる。
背中を撫でる大きな手の温かさにほっとすると同時に、恥ずかしい姿を銀時に見られたという思いが、ふっと蘇ってきて***は顔が真っ赤になる。
「やっ…ぎんちゃっコホッ…やだっ、またっ恥ずかしくなってきちゃったから…や、やめてっ」
「いや***、お前、」
***がいやいやと頭を振って、背中の手を避けるように横に動くと、銀時も動いてついてくる。
「ケホッ…あの、もぉいいですからっ…やめっ」
「いや、***ちゃぁ~ん、やめてって言われても…銀さんの手がこれだからさぁ」
もうやめてと言いながら真っ赤な顔のまま振り返り、銀時の方を見るとにやにやと嬉しそうな顔をしていた。
***の顔の前で、銀時が自分の左手をふりふりと振る。そしてその手を上からぎゅっと握っているのは、他の誰でもない***自身の手だった。
公園のベンチに座り、銀時が買ってきたミネラルウォーターを飲むと、大分気分が楽になった。並んで座っている銀時はいちご牛乳を飲んでいる。
「***、いつまで照れてんだよ、ゲロ吐くくらい大したことじゃねぇだろぉ、お前だって銀さんが吐くとこ何回も見てんじゃん、なんなら初対面から俺吐いてなかった?あれ?それヤバくね」
「ぎ、銀ちゃんはいいかもしれないけど、一応私は女の子だから、人様に見られたくない姿ってものがあるんです!もぉ~…最悪ですよぉ」
両手で真っ赤な顔を覆い、うつむく。無意識に銀時の手をつかんで離さないことを知り、慌ててその手を離してからずっと、***は一度も銀時の目を見ることができない。
銀時は、呆れるくらい初心なやつだなと思いながらも、耳の後ろまで真っ赤にしている姿を見ているのが面白い。
「まぁ、また***がゲロ吐く機会があったら?銀さんが助けてやるし?そう落ち込むなって。なかなか見どころのある吐きっぷりだったし、次回も頑張れよぉ」
「~~~~ッ!は、吐きっぷりとか言わないで下さい!もう二度と銀ちゃんの前で吐いたりしません!」
笑いながら冗談を言う銀時の腕を、バシバシと叩く。失態を見られ、手まで握ってしまい、恥ずかしいことばかりなのに、そのうえからかわれて***はいたたまれない気持ちになる。
「銀ちゃんの馬鹿!」と言いながらその腕を叩いていると、急に両手をぱしっと、銀時の大きな手に取られる。はっとして顔を見ると、銀時の目は***の顔ではなく、両手でつかんだ***の手の、細い指先に向けられていた。
「…おし!もう指も温っけぇし、色も元に戻ってっから、大丈夫だろ。顔色もよくなったじゃねぇか」
さっきまで自分の手を握っていた***の小さな手の、血の気の失せた白さと、指先の冷たさが銀時は心配でたまらなかった。え、なにこれ、白すぎじゃね、こいつ死ぬんじゃね、と内心焦った。ようやく血色も温度も元に戻った手を、自分の手の中に感じることができて、ほっとする。
安心した銀時の顔を見て、心配してくれていたんだと分かり、***の恥ずかしさも治まる。両手を銀時に握られたまま、微笑んだ。
「銀ちゃん、どうもありがとうございました」
「ん…どぉいたしましてぇ、さぁてダークマターも吐いたことだし、お妙んとこ戻るかぁ。まだ浴衣どれにすっか決めてねぇって神楽とふたりでさんざん騒いでやがったかんな、さっさと戻って話してやれよ」
「え、浴衣……?そうだ、浴衣!銀ちゃん!私、神楽ちゃんと一緒にお祭りに行くんです、銀ちゃんも一緒に行こうよ!」
さっきまでの落ち込みようから一転して、祭りを思い出した途端に***の顔はぱっと明るくなる。大きな手に捕まったままの両手を、上下にぶんぶんと振りながら、銀時を誘う***を見ていると、常々思っている「ガキの遊びに付き合えっかめんどくせぇな」という答えは言えなかった。
「お妙に浴衣着て出店に来なかったら殺すって言われてるし、しょうがねぇ付き合ってやっか」という銀時の答えを聞いて、***の顔はなお明るくなった。
約束ですよ!と言いながら両腕を振って、嬉しそうにしている***の顔と、手の中の小さな温かい手を見ていたら、銀時のなかのいじめっこがふと目を覚ます。
「なぁなぁ***ちゅわぁん、銀さんとお祭り行ったら、またこうやって、おてて繋いで歩こうなぁ、酔っ払って吐いても銀さんちゃーんと介抱してやっから、安心しなさい」
朗らかだった***の顔がビクッとひきつり、そのままぱっと銀時の手を振り払う。ボンッと煙が出そうなほど顔を真っ赤にした***が、大きな声で叫んだお決まりのセリフと、腹を抱えて笑う銀時の笑い声が公園に響いた。
「ぎぎぎぎぎ、銀ちゃんの馬鹿ァ!!!」
「ギャハハハハッ!オメーすっげぇ真っ赤!!!」
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no.12【am.9:00】end