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第1章
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第8話。
深夜。
都心の灯りを遠くに滲ませた高層の部屋にて。
シャワーを浴びたばかりのラビは、薄手のルームウェアのままソファに体を沈める。
濡れた髪をタオルで適当に拭い、ローテーブルの上のマグカップに手を伸ばした。
湯気の立つココア。
甘い香りが、静かな部屋の空気を少しだけ緩めている。
「……」
一口飲む。
ちょうどいい温度だった。
そのまま隣に置いてあったタブレットを手に取る。
画面を指先で二、三度滑らせると、リンクから送られてきたファイルが表示された。
鈴木チカ。
名前の羅列。 生年月日。 学歴。 家系図の枝葉。 勤務先。 趣味。 健康状態。 適合率。
事務的に整えられた文字列が、整然と並んでいる。
ラビは画面を見下ろしたまま、少しだけ眉を寄せた。
「……今さら見るの、笑える」
誰に言うでもなく呟いて、またココアを飲む。
そう。
本来なら最初に目を通しておくべきものだった。
顔も、経歴も、最低限の人物像も。
101回目にもなれば、そんな手順さえ億劫になって、今日はとうとう全部飛ばした。
その結果どうなったかと言えば――
「……目が笑ってない、ね」
喉の奥で小さく笑う。
面白くないのに、笑ってしまう。
画面の中の証明写真めいたチカは、今日のラウンジで見た姿よりもいくらか硬い。
髪も、表情も、何もかもが提出用に整えられていて、本人の気配が少し薄い。
けれどラビの脳裏に浮かぶのは、その顔じゃない。
老紳士の頭頂部を真剣に描いていた横顔。
“妬けちゃうな”を真顔で受け取り、“じっとしてるなら描きます”と返した時の顔。
高級肉を前にして、ももこだのひまわりだの言い出した時の顔。
そして――
『……次、あるんでしょうか。私』
あの時の、まっすぐすぎる問い。
「……オーディションだと思ってんのオモシロ」
ラビはタブレットを少しだけ傾けた。
家系の説明欄を流し見する。
本流からは遠い、末端に近い家。
一族の中では目立たず、けれど切れずに残ってきた細い枝。
経歴も、驚くほど普通だ。
美術館勤務。
趣味油絵。
地方在住。
実家は酪農。
それだけ見れば、特に引っかかるところはない。
ただ、知りたかった。
ラビはもう一度ココアを飲んだ。
少しぬるくなっていた。
「……面白い奴だったな」
そう言って画面を閉じかける。
けれど指が止まった。
代わりに、今日リンクから送られてきた別のデータを開く。
見合い用の写真。
きちんと整えられた服。
静かな顔。
地味だと思った。
今も、それは変わらない。
「……嫁なんざ誰でもいい」
そう吐き捨てたくせに、視線が離れない。
派手さはない。
人を惹きつけるための技術もない。
愛想の使い方を、そもそも知らないみたいな顔だ。
何も主張していないくせに、気づけば目で追ってしまう静かな顔立ち。
あの無防備な台詞だ。
『……そのつもりじゃなかったんですけど……思ったことが、そのまま出ました。ごめんなさい』
「フッ」
ラビは小さく息を漏らした。
“ごめんなさい”まで含めて、本当にその通りなんだろう。
悪気はない。
媚びてもいない。
けれど刺さる。
面倒で、予測不能で、気になる。
ローテーブルにタブレットを置き、背もたれに深く沈み込む。
天井を見上げる。
この夜だけで、自分はあの女のことを思い出しすぎている気がした。
「……アホらし」
そう吐き捨てた直後、タブレットの黒い画面に、自分の顔がぼんやり映る。
人懐っこい笑みなんてそこにはない。
あるのは、昼間あの女に“目が笑ってない”と言い当てられた、そのままの顔だった。
ラビは少しだけ目を細める。
それから、確かめるみたいに、口元だけをにっと持ち上げた。
「……これの、どこが」
けれど、黒い画面に映る笑顔は、自分で見てもどこか薄っぺらかった。
口元だけが先に動いて、目は冷えたままだ。
「えーマジか」
とりあえずココアを飲む。
甘い。
その甘さが妙に現実的で、少しだけ笑えた。
結局、タブレットを閉じることはできなかった。
代わりにラビは、チカの資料を最初からもう一度開く。
経歴を読むふりをして、頭の中ではまるで別のものを辿っている。
似顔絵。
静かな目。
真っ直ぐすぎる言葉。
そして、自分の101回目の見合いを、オーディションの一次審査みたいに受け止めていた、あの面白い真面目さ。
「……次、ね」
ぽつりと呟く。
それが誰に向けた言葉なのか、自分でも分からないまま。
窓の外では、眠らない街の灯りが瞬いていた。
けれどラビの意識は、そのどれにも向いていない。
今、彼の頭の中にあるのは、たった一人。
淡いベージュの服を着て、じゃがいもで目を輝かせていた、あの静かな女だけだった。
❄︎ ❅ *. ❅ ✥ ✣ ✤
翌朝。
ホテルのカーテンを開けると、昨日と同じ都会の空が、何事もなかったみたいな顔で広がっていた。
青い。
けれど、田舎で見上げる空よりずっと白い。
チカはしばらく窓辺に立っていたが、やがて小さく息を吐いて振り返った。
ベッドは整えた。
洗面台の周りも片づけた。
キャリーケースの中には、お見合いの時の服と、畳み直した普段着がきちんと収まっている。
机の上には、閉じたスケッチブック。
その中には、昨夜描き上げたラビの似顔絵が挟まっていた。
チカはそれを手に取り、少しだけ表紙を撫でる。
見せて、と言われた。
だから、見せる。
それだけのことだ。
ただ、連絡先は知らない。
次にいつ会うのかも、分からない。
自分は今日、家に帰る。
なら、今渡しておくしかなかった。
「……うん」
誰に聞かせるでもなく呟いて、チカはスケッチブックをバッグにしまった。
チェックアウトを終えてホテルを出る。
午前の空気はまだ少しだけ冷たく、一昨日より人通りも整って見えた。
行き先を決めた人たちが、迷いなく歩いていく。
その流れの端で、チカは一度足を止めた。
(……このまま行っても、渡せない)
スケッチブックのまま差し出すのは、何となく違う気がした。
これは途中まで描いていたものの続きを、ちゃんと仕上げたものだ。
落書きみたいに裸のまま持っていくより、少しはきちんとしていた方がいい。
周囲を見回し、小さな文具店を見つける。
ガラス戸を押して中に入ると、紙とインクの匂いがした。
「……すみません」
店番をしていた中年の女性が顔を上げる。
「絵を入れる封筒って、ありますか」
「絵?」
「折りたくなくて」
女性は少しだけ目を丸くしてから、棚の奥を指した。
「それなら、あっちにあるわよ」
「……ありがとうございます」
並んだ封筒の中から、チカは白くて、余計な装飾のないものを一枚選んだ。
厚みがある。紙もしっかりしている。
これなら、いい気がした。
会計を済ませ、店の端でスケッチブックから似顔絵をそっと抜く。
ラビの顔が現れる。
相変わらず、綺麗な顔だった。
けれど、チカの描いたその目は、画面の中の写真よりも少しだけ冷たく、少しだけ正直だった。
「……」
それを封筒に入れる。
差出人も宛名も書かないまま、一度だけ封をする手を止めた。
(……書いた方がいいのかな)
でも、やめた。
名前は、口で言えばいい気がした。
昨日、自分はちゃんと会っている。
ラビも、きっと自分のことを忘れてはいない。
そう思いたかったのかもしれない。
封筒をバッグにしまう。
その薄い重みが、なぜだか少しだけ落ち着かなかった。
通りに出ると、車の音と人の話し声が一気に押し寄せてくる。
チカはバッグの持ち手を握り直した。
これを渡したら、空港へ向かう。
それだけ。
会えるとは思っていない。
たぶん受付で預けるだけになるだろうし、もしかしたら本人の手に届くかどうかも分からない。
それでも、持っていかないよりはいい。
「……約束したし」
小さく呟く。
昨日のラビは、あの軽い調子で「見せてよ」と言っただけだった。
たぶん彼にとっては、その場の気まぐれみたいなものだ。
けれど、チカにとっては違った。
見せると言ったものを、見せないまま終わる方が落ち着かない。
ただそれだけだ。
タクシーを拾う。
都会のいい所は呼ばなくてもタクシーが走ってる事だ。
ドアが開き、チカは後部座席に乗り込んだ。
「どちらまで?」
「……ブックマン・グループ本社まで、お願いします」
口に出した瞬間、少しだけ心臓が跳ねる。
運転手は何でもないことみたいに頷き、車を出した。
窓の外、都会の景色が滑っていく。
高いビル。
信号。
広告。
人の流れ。
そのどれもが昨日より少しだけ現実味を持って見えた。
バッグの中に入れた封筒を、チカは膝の上からそっと確かめる。
(……渡せるかな)
不安はあった。
けれど、それ以上に、渡さないまま帰る方が、たぶん気持ち悪い。
だから行く。
ただ、そのためだけに。
タクシーはやがて、ガラス張りの高層ビルの前で静かに速度を落とした。
チカは窓の外を見上げる。
「……着きましたよ」
「……ありがとうございます」
運賃を払って降りる。
朝の光を受けたビルは、冷たくて、まっすぐで、そして少しだけ息苦しかった。
バッグの中の封筒が、やけに薄くて頼りなく感じる。
けれど、チカはそのままビルの中へ足を踏み入れた。
つづく、2026/04/11
深夜。
都心の灯りを遠くに滲ませた高層の部屋にて。
シャワーを浴びたばかりのラビは、薄手のルームウェアのままソファに体を沈める。
濡れた髪をタオルで適当に拭い、ローテーブルの上のマグカップに手を伸ばした。
湯気の立つココア。
甘い香りが、静かな部屋の空気を少しだけ緩めている。
「……」
一口飲む。
ちょうどいい温度だった。
そのまま隣に置いてあったタブレットを手に取る。
画面を指先で二、三度滑らせると、リンクから送られてきたファイルが表示された。
鈴木チカ。
名前の羅列。 生年月日。 学歴。 家系図の枝葉。 勤務先。 趣味。 健康状態。 適合率。
事務的に整えられた文字列が、整然と並んでいる。
ラビは画面を見下ろしたまま、少しだけ眉を寄せた。
「……今さら見るの、笑える」
誰に言うでもなく呟いて、またココアを飲む。
そう。
本来なら最初に目を通しておくべきものだった。
顔も、経歴も、最低限の人物像も。
101回目にもなれば、そんな手順さえ億劫になって、今日はとうとう全部飛ばした。
その結果どうなったかと言えば――
「……目が笑ってない、ね」
喉の奥で小さく笑う。
面白くないのに、笑ってしまう。
画面の中の証明写真めいたチカは、今日のラウンジで見た姿よりもいくらか硬い。
髪も、表情も、何もかもが提出用に整えられていて、本人の気配が少し薄い。
けれどラビの脳裏に浮かぶのは、その顔じゃない。
老紳士の頭頂部を真剣に描いていた横顔。
“妬けちゃうな”を真顔で受け取り、“じっとしてるなら描きます”と返した時の顔。
高級肉を前にして、ももこだのひまわりだの言い出した時の顔。
そして――
『……次、あるんでしょうか。私』
あの時の、まっすぐすぎる問い。
「……オーディションだと思ってんのオモシロ」
ラビはタブレットを少しだけ傾けた。
家系の説明欄を流し見する。
本流からは遠い、末端に近い家。
一族の中では目立たず、けれど切れずに残ってきた細い枝。
経歴も、驚くほど普通だ。
美術館勤務。
趣味油絵。
地方在住。
実家は酪農。
それだけ見れば、特に引っかかるところはない。
ただ、知りたかった。
ラビはもう一度ココアを飲んだ。
少しぬるくなっていた。
「……面白い奴だったな」
そう言って画面を閉じかける。
けれど指が止まった。
代わりに、今日リンクから送られてきた別のデータを開く。
見合い用の写真。
きちんと整えられた服。
静かな顔。
地味だと思った。
今も、それは変わらない。
「……嫁なんざ誰でもいい」
そう吐き捨てたくせに、視線が離れない。
派手さはない。
人を惹きつけるための技術もない。
愛想の使い方を、そもそも知らないみたいな顔だ。
何も主張していないくせに、気づけば目で追ってしまう静かな顔立ち。
あの無防備な台詞だ。
『……そのつもりじゃなかったんですけど……思ったことが、そのまま出ました。ごめんなさい』
「フッ」
ラビは小さく息を漏らした。
“ごめんなさい”まで含めて、本当にその通りなんだろう。
悪気はない。
媚びてもいない。
けれど刺さる。
面倒で、予測不能で、気になる。
ローテーブルにタブレットを置き、背もたれに深く沈み込む。
天井を見上げる。
この夜だけで、自分はあの女のことを思い出しすぎている気がした。
「……アホらし」
そう吐き捨てた直後、タブレットの黒い画面に、自分の顔がぼんやり映る。
人懐っこい笑みなんてそこにはない。
あるのは、昼間あの女に“目が笑ってない”と言い当てられた、そのままの顔だった。
ラビは少しだけ目を細める。
それから、確かめるみたいに、口元だけをにっと持ち上げた。
「……これの、どこが」
けれど、黒い画面に映る笑顔は、自分で見てもどこか薄っぺらかった。
口元だけが先に動いて、目は冷えたままだ。
「えーマジか」
とりあえずココアを飲む。
甘い。
その甘さが妙に現実的で、少しだけ笑えた。
結局、タブレットを閉じることはできなかった。
代わりにラビは、チカの資料を最初からもう一度開く。
経歴を読むふりをして、頭の中ではまるで別のものを辿っている。
似顔絵。
静かな目。
真っ直ぐすぎる言葉。
そして、自分の101回目の見合いを、オーディションの一次審査みたいに受け止めていた、あの面白い真面目さ。
「……次、ね」
ぽつりと呟く。
それが誰に向けた言葉なのか、自分でも分からないまま。
窓の外では、眠らない街の灯りが瞬いていた。
けれどラビの意識は、そのどれにも向いていない。
今、彼の頭の中にあるのは、たった一人。
淡いベージュの服を着て、じゃがいもで目を輝かせていた、あの静かな女だけだった。
❄︎ ❅ *. ❅ ✥ ✣ ✤
翌朝。
ホテルのカーテンを開けると、昨日と同じ都会の空が、何事もなかったみたいな顔で広がっていた。
青い。
けれど、田舎で見上げる空よりずっと白い。
チカはしばらく窓辺に立っていたが、やがて小さく息を吐いて振り返った。
ベッドは整えた。
洗面台の周りも片づけた。
キャリーケースの中には、お見合いの時の服と、畳み直した普段着がきちんと収まっている。
机の上には、閉じたスケッチブック。
その中には、昨夜描き上げたラビの似顔絵が挟まっていた。
チカはそれを手に取り、少しだけ表紙を撫でる。
見せて、と言われた。
だから、見せる。
それだけのことだ。
ただ、連絡先は知らない。
次にいつ会うのかも、分からない。
自分は今日、家に帰る。
なら、今渡しておくしかなかった。
「……うん」
誰に聞かせるでもなく呟いて、チカはスケッチブックをバッグにしまった。
チェックアウトを終えてホテルを出る。
午前の空気はまだ少しだけ冷たく、一昨日より人通りも整って見えた。
行き先を決めた人たちが、迷いなく歩いていく。
その流れの端で、チカは一度足を止めた。
(……このまま行っても、渡せない)
スケッチブックのまま差し出すのは、何となく違う気がした。
これは途中まで描いていたものの続きを、ちゃんと仕上げたものだ。
落書きみたいに裸のまま持っていくより、少しはきちんとしていた方がいい。
周囲を見回し、小さな文具店を見つける。
ガラス戸を押して中に入ると、紙とインクの匂いがした。
「……すみません」
店番をしていた中年の女性が顔を上げる。
「絵を入れる封筒って、ありますか」
「絵?」
「折りたくなくて」
女性は少しだけ目を丸くしてから、棚の奥を指した。
「それなら、あっちにあるわよ」
「……ありがとうございます」
並んだ封筒の中から、チカは白くて、余計な装飾のないものを一枚選んだ。
厚みがある。紙もしっかりしている。
これなら、いい気がした。
会計を済ませ、店の端でスケッチブックから似顔絵をそっと抜く。
ラビの顔が現れる。
相変わらず、綺麗な顔だった。
けれど、チカの描いたその目は、画面の中の写真よりも少しだけ冷たく、少しだけ正直だった。
「……」
それを封筒に入れる。
差出人も宛名も書かないまま、一度だけ封をする手を止めた。
(……書いた方がいいのかな)
でも、やめた。
名前は、口で言えばいい気がした。
昨日、自分はちゃんと会っている。
ラビも、きっと自分のことを忘れてはいない。
そう思いたかったのかもしれない。
封筒をバッグにしまう。
その薄い重みが、なぜだか少しだけ落ち着かなかった。
通りに出ると、車の音と人の話し声が一気に押し寄せてくる。
チカはバッグの持ち手を握り直した。
これを渡したら、空港へ向かう。
それだけ。
会えるとは思っていない。
たぶん受付で預けるだけになるだろうし、もしかしたら本人の手に届くかどうかも分からない。
それでも、持っていかないよりはいい。
「……約束したし」
小さく呟く。
昨日のラビは、あの軽い調子で「見せてよ」と言っただけだった。
たぶん彼にとっては、その場の気まぐれみたいなものだ。
けれど、チカにとっては違った。
見せると言ったものを、見せないまま終わる方が落ち着かない。
ただそれだけだ。
タクシーを拾う。
都会のいい所は呼ばなくてもタクシーが走ってる事だ。
ドアが開き、チカは後部座席に乗り込んだ。
「どちらまで?」
「……ブックマン・グループ本社まで、お願いします」
口に出した瞬間、少しだけ心臓が跳ねる。
運転手は何でもないことみたいに頷き、車を出した。
窓の外、都会の景色が滑っていく。
高いビル。
信号。
広告。
人の流れ。
そのどれもが昨日より少しだけ現実味を持って見えた。
バッグの中に入れた封筒を、チカは膝の上からそっと確かめる。
(……渡せるかな)
不安はあった。
けれど、それ以上に、渡さないまま帰る方が、たぶん気持ち悪い。
だから行く。
ただ、そのためだけに。
タクシーはやがて、ガラス張りの高層ビルの前で静かに速度を落とした。
チカは窓の外を見上げる。
「……着きましたよ」
「……ありがとうございます」
運賃を払って降りる。
朝の光を受けたビルは、冷たくて、まっすぐで、そして少しだけ息苦しかった。
バッグの中の封筒が、やけに薄くて頼りなく感じる。
けれど、チカはそのままビルの中へ足を踏み入れた。
つづく、2026/04/11