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幻寂SS

これは、恋と呼べるだろうか。
自分でも自信などない。そもそも恋だなんて抽象的なものを小生は信じない。
でも、もしこれが恋ならば。
「先生」
「なんだい、幻太郎くん」
ずっと、疑問だったことを、聞くか聞くまいか迷っているうちに随分と月日が経ってしまった。聞きたいが、聞きたくない。知りたいが知るのが怖い。彼は嘘をつかないからこそ、恐ろしい。こんな感情が自分の中にあったとは。
息を吸い、整え、上ずったりしないようにと願いながら言葉を奏でる。
「これは、何度目の恋ですか」

時計の音だけが響く。彼は少し驚いた顔をして、次の瞬間に思案した。
伏せられた目元はゾクリとするほど妖艶で。こめかみから頬にかけてのカサついて骨ばったラインは否応なく彼の雄を意識させる。そこに添えられた指はあまりに大きく、優しく。その手に縋りたくなる。
「恋……何度目の恋か、だったね…」
質問の内容をゆっくりと確認する唇は薄く、吐息は儚く。小生を惑わせるのが本当にお上手で。
「君はつまり、この関係性を恋と呼び、それは私にとって経験がどれほどあるか、と聞きたいんだね」
真摯に語り掛ける瞳に、コクリと頷く。どんな答えが聞けるのか。知りたいが、知るのが怖い。
「私は今まで、それなりに交際を経験してきた。年齢の割には少ないかもしれないくらいだが、ゼロではないよ。これでも真摯に向き合ってきたつもりだ。結婚を考えたことも、もうずいぶん前だがあったよ」
やはり、と納得する。息が苦しい。自分で聞いておいて、こんなにも。これは、自傷行為と言えるだろう。

「でも…今の僕たちの関係を恋と呼べるだろうか。私は違うと思う。恋は、相手に夢中になって相手しか見えなくなるが私たちはそうじゃない。お互いのことはもちろん見ているが、自分の周りの環境もしっかりとみているし、自分の未来を見据えて生きている、と思う。これはきっと、恋というより、愛に近いんじゃないだろうか。私はね、恋は極めて依存に近いが、愛は自立であり自律だと考えているんだ」

彼の言葉は不思議と胸に響く。それはきっと、小生が自分でわからないような深い深い場所で、待っていた言葉だから。
彼の紡ぐ愛の歌は、夢物語とは程遠いものだった。
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