Vodka Gibson.
いつも困り眉にへの口で、話していても目の合う機会が少ない。
けれど鏡の中の僕が演じるベルさんは、穏やかな表情で僕を見つめる。自作自演だが本当に見つめられてるような錯覚を起こして少し頬が熱くなる。
(こんな風に笑いかけて欲しいなぁ)
「ふふっ」
手鏡のフチから見える“ベルさん”が口元に手を当て笑っていた。
「そんなに鏡の彼女が愛おしいのかい?」
みっともなく顔を緩めていた事がバレたのと、想像の当人にバレたのとで焦り手元が慌ただしくなった。ごとり、と机の上に手鏡を落としてしまった。落とした鏡をベルさんが手に取り鏡を覗き始めた。
僕はその姿を直視するにはまだ内心動揺しっぱなさしで、ベルさんのシャツの裾がズボンからはみ出ているのを眺めながら冷静さを取り戻そうとしていた。そういえばあの時の笑い声可愛かったな、
「ねぇ、この鏡って何を写すんだっけ」
「え、っと理想の相手や好意を寄せてる人だったり…」
手鏡で目だけ見えるように顔を隠しながら生返事をしてそそくさと部屋を出て行く。何か変だと直感した。
「ベルさーーん、どこ行くんですか」
廊下に出るとそこにベルさんの姿はなく玄関の閉まる音がした。何が起こったのかよくわからず取り敢えず追いかける。
鏡に何か映ったのか?みんなで見た時は自身の姿が見えていたはずなのに。