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普段講義のある日より少し遅くに帰ってきたベルさん。その手には袋が一つ。

「はい、これ。」

僕の目の前に突き出すもんだから反射的に受け取った。甘くていい香りがする。
渡した後コートや帽子を脱ぎながら話し続けた。

「以前学生に貰って君が好みそうだと思ったから店を教えてもらってね。」

気紛れなお土産は年に2回程ある。法則性はない、本当に彼の気紛れなのだ。

「僕のためにありがとうございます。」

先にリビングの椅子に座り両掌に袋を置いて、まだ温かい紙袋をまじまじと眺めた。

「最近人気の店ですよね。」
「そうそう、そこまで長くはないが行列にはなっていてね。」

服を仕まい終わった彼は向かいの席に腰掛けた。

「若い子が多い中こんなオジサンがいてると通行人に鼻で笑われたりしてさ…」

頬杖つき片手をひらひら泳がせながら物憂げに呟いた。
ワトソンは目の前の男の話など耳に入らない程紙袋を見入っている。

「嬉しい。」

会話の流れを断ち切って感想が出てるのが見てわかる。“それはどういう意味でなんだい?”なんて野暮な事は言わない。

「すぐに食べるなら飲み物用意するよ。」

立ち上がり台所へ足を向ける。
渡すまいと両手で袋を掴んで振り返る。

「帰ってから、大事に食べます。」

予想通りの回答でワトソンには見えぬよう口元が緩む。足を止めずに顔を後ろへ少し傾けて、いつもより大きな声で言った。

「私の分も買っておいたんだ。それを一緒に食べよう。」

香り高い紅茶の香りが部屋いっぱいに溢れていった。甘いものが合いそうだ。
手伝わないのは性に合わないようで、台所の入り口で申し訳なさそうに立っていた。配膳くらいは手伝ってもらおうかな。

やはり美味い。
重みのある甘味が舌の上でねっとり溶け出し口や喉、体中に染み渡る。そこにベルガモット
体の中で起きる化学反応につい瞳を閉じて堪能してしまった。
二口目に手を伸ばそうとした時、正面で少し複雑な顔でこちらを見るワトソンと目が合った。

「……どうして急にこんな」

目を合わせたまま二口目を食べ進めた。美味い。

(そんなの決まってる。もう少しで君の───)

理由は明確にあるが、なんだか小っ恥ずかしい感覚に襲われる。だから毎年はぐらかすような事をしてしまう。

「なんだか無性に君とこうやって甘い物を食べたくなったんだ。」

紅茶を流し込んだ後、ショコラの跡が残るフォークでお皿をつつく様に手遊びしながら聞き返す。

「迷惑だったかな?」

君の答えは否定する。狡い事を聞いてるのはわかっている。
心の中でちょっぴりの罪悪感に謝りながらワトソンの答えを待った。

「とっても嬉しいです。」

諦めたように微笑みながらそう言った。私も微笑み返すとそれでこの件の追求は終わり。
後はお土産の感想会。

来年こそは必ず伝えてみせるよ。

食べ終わった食器を片付ける。
用意をさせてしまった分せめて片付けはしたかった。
美味しかったがやっぱり気になる物は気になる。

来年こそは必ず聞き出してみけせる。
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