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Kahlua and Milk.




つい資料に熱が入ってしまって、折角想いを寄せている人から話しかけてもらえたというのに木で鼻を括った様な返事をしてしまった。
ひと段落まで読み終えるまで気づかなかったが、想い人は話しかけてきたその場でじっと立っていたのだ。
驚いて顔を上げるとそこには、やや俯きながら瞳は潤んでいて頬も染め陶酔した表情をしていた。

「べ るさん…?」
「ぁ……ごめん。」

正気に戻ったのか潤んだ瞳を隠す様にそそくさと部屋から出ていった。
あんな表情初めて見た。

そんな出来事が頭の片隅に引っかかりながらも7枚目のカレンダーをめくった頃、僕はベルさんに想いを告げた。
目の前の彼は落ち着きのない指回しと戸惑った表情を浮かべた。どう断るかを考えてくれているんだなと、優しくて気弱な心遣いも彼らしいと失恋を静かに受け入れた。暫く意外にも器用に動く指回しを眺めながら返答を待っていた。

「好きになってくれるのは嬉しいんだけど、」
「やっぱり迷惑ですよね。」

「いや、迷惑ではないし寧ろ私も君を好きではいるんだけど。」

自分の耳を疑った。
ベルさんが、僕を、好き…?

「え!?ほんとですか!?」

両肩を掴んで夢ではないかと顔を見て確認した。
晴れない表情のベルさんは未だに重い口を開こうとしなかったので、取り敢えず心から溢れ出す喜びを優しく包み込む抱擁で表現した。
(僕のこの心音聞こえてるかな、早すぎて爆発しそうだ。)
全身の感触を全神経使って堪能していたら、ベルさんの肺が少し多めに空気を吸う。重い口が開いた。

「優しくされると“自分にはそんな価値ない”って惨めになっちゃうんだ。」

恋が実って幸福感に包まれていた体温が、少しずつ下がっていく感覚がした。
抱きしめていた腕を解いて両肩に手を置いて、また表情を確認してみた。そこには先程の表情とは打って変わって、感情の読めないニヒルな笑みを浮かべていた。

「私、酷く扱われるのが好きでね。」

晴れて両思いになったものの問題が生じた。
よくわからない“酷く扱う”の詳細を聞いてみた。本人にもよくわかっていないらしく、優しくされると拒絶してしまうらしい。だからといって暴力がいいわけではなく寧ろ嫌いらしい。

難しいがお互いにこれから理解し合って歩み進めれば良い。

と、この時の僕は甘い考えに泥酔しきっていた。
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