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気分転換にと連れ出され、あれよあれよ呑まされ続け、すっかりへべれけになってしまった。
乗せた本人は私を介抱しながら楽しそうにしていた。
私の部屋へ帰る道中、肩を抱いて介抱してくれる温かさと夜風の冷たさが頬や鼻先がちりりと痛みを感じるような。両極端な感覚のせいで酔いも大人しくなっていったのだ。

部屋は入るとリビングにあるいつもの定位置へ私を誘導し、慣れた手つきで温かな飲み物を用意しだした。
鼻歌なんかも聞こえてきて随分陽気そうだ。彼も少しは酔いが回っているのだろうか。
楽しそうな彼を見ていると、私なんかの為にこの青年の貴重な時間を奪っているような気がしてきた。

飲み物の用意が終わり二つのカップを運ぶ彼を見ながら、私は今思った素直な気持ちを伝えた。
「君には君の時間があるだろう。」

「大事な人の為に使いなさい。私なんかの為に、」
言葉を遮るようにカップを机に強く置いた。まだ熱いコーヒーが溢れ、自身の指に付いたのも構うことなく私から目を離そうとしない。その瞳から私には何も読み取れない。読み取ってはいけないんだ、私なんかが。

勢いに任せて開けた口は理性で押し黙らせてぐっと閉じ、カップの中のまだ揺れが治らない中身を眺めながら呟く。
「僕にとっては、ベルさんが大事な人なんです。」
静かな部屋にそっと這い広がる言葉に胸が少し高鳴った。
体に残るアルコールがミルクの温かさに反応して、そう少し思考回路が乱れてしまったんだ。
でないとこんな事は考えないし普段の私なら口になんて出来ない。

「じゃあ仮に君と私が、その、恋仲になったとしたら、何がしたいの。」

カップの中の波紋が収まる所から目が離せない。彼は今どんな顔で私を見ているんだ。
こんな惨めで心疾しい気分になるならと後悔が頭を埋め尽くしていると、カップを掴む私の手の上に優しく重ねてきた。
つい彼を見ると柔らかな表情で私をしっかり見つめてこう言う、

「やっぱり、つっぱりですかね。」

「つっぱ」
「り?」

「り…ってなんのことです?」

ついさっきまで真正面で話してた相手が急に横からぬるりと顔を表した。私も私で机にうつ伏せの状態だ。
ぼんやりと先程の会話や内容を思い出そうにも今はもうすっかり消えてしまった。状態を起こし顔を擦ってもなんだかもうわからなくなってしまった。

「ここの所無理が続いて疲れが溜まってるんでしょ。」
気の利く助手はほんのり温かい蒸しタオルを渡してくれた。それで顔や首を拭くとさっぱりとするもんだ。
「まともな食事したのいつですか?」
温かさの抜けたタオルを顔に乗せて上を向きながら、まともな食事を思い出してたが一向に思い出せない。なんてしてる間にあれよあれよ身支度が進んでいく。
流れるように顔の上のタオルは回収され何日も着ていたシャツと肌着を引っ剥がし、ズボンもずり下ろされた所で正気に戻り下着は剥ぎ取られぬ様抵抗した。
情けない姿で風呂場まで背中を押して追いやられる。やっと自分のペースで動けるとのんびり体を洗っているとなんだか存在を感じると思い扉を少し開けて覗いてみると、ふかふかのタオルと綺麗に畳まれた服、下着まで用意してあった。
どこまでも気の利く助手だなぁと感心しながら、いつもより早めに風呂を終わらせ用意していた服をに見つけ助手の元へ。
「今日は呑みにでも行きましょう。最近料理の美味しい店を見つけたんです。」
瞳を輝かせながら駆け寄り手を引いてくる。
私なんかと呑んで何が楽しいんだかと思う反面ほんの少しこんな私なんかで喜んでくれて嬉しいという感情が生まれる。
満更でもないのでそのまま引かれる方は体を預けた。
これまた出際良く部屋の戸締りをしっかり済まし店へ向かう。
「気分転換にでも一杯くらい、ね」

「つっぱりぢゃないならなんでもいいさ。」
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