承アン
過酷な戦闘が連日続きやっと落ち着きを取り戻した爽やかな朝に事件は起こる。
朝食をとる前に一服終えた承太郎がテーブルへ着く前に既に事は起きていた。フランス人と少女がいがみ合っている。同じテーブルに着いている者はなだめているようだが耳に入っていないようだ。
「朝からやかましいぞ。」
目線で怒りをぶつけるとフランス人の男は嬉しそうに話しかけてくる。
「聞いてくれよ承太郎~こいつったら」
男の後ろで少女が殴って制止しようとしてる。ドスドスと鈍い音が体から聞こえてくる。それでも止めようとしない男に腹をたてた少女はテーブルの上にあったフォークで男の尻めがけて突き刺す。
男は汚い顔をテーブルに埋め込みながら痛みに耐えた。少女は急いで部屋へ戻ったようだ。
占い師の男に少女の食べかけの皿を渡される。
「すまないが承太郎、彼女にこれを」
刺された尻を庇いながら少女を追いかけようとする男を3人でわいわいと制止しているので引き受けるしかなかった。
久々に穏やかな朝食を堪能できると思ったのに、やれやれだぜ。
扉をノックした後施錠のされていない部屋へ入る。
そこで目にしたのは部屋の隅で静かに座り込む少女の姿だった。
普段から横にいて小さいと思っていたが、いつもより小さく見える。一息落ち着かせた後ゆっくりと声を掛けずに近付く。適当な所に朝食を起き、少女に一番近いベッドの縁に座り込む。
「おい」
呼吸で動く肩以外はなにも代わらない。このスタープラチナの目を持ってしても、うずくまっているこの少女の顔は見えないので何を考えているかもわからない。
いつも声を掛ければ喜びながら近寄ってくるのに、今はなにも反応を示さない。この状況に少し苛立ちを覚えつい拳に力がはいる。
が、ここでやかましい母の声が脳内に響き渡る、そんな気がした。
「女の子には優しくしなきゃダメ!女の子はキラキラ光る綺麗な、とても壊れやすいガラスなんだから!!」
うおっとしいその姿を思い出しつい舌打ちをしてしまった。だが拳の力は自然と抜けていた。
「……詳しい話を知らねえんだ。おい、何があったか話せるか。」
承太郎の大きく堅い手が割れ物を扱うように少女を撫でる。その感触はきめ細かい布地のようで心地よい肌触りだった。少女は口を開こうとする気配がないので理由はないが撫で続ける。
しばらくすると承太郎の大きな手を少女が両手で優しく包み少女は顔をあげた。
「JOJOってモテるのに女の子を撫でるのは下手ね、でも。ありがとう。」
涙を流しながら口許を緩めたと思ったら笑みを見せる。大きな瞳に張る涙の膜はキラキラと輝いていて、
「おい、そんなに泣くと眼が落っこちるぞ。」
指先で輝く滴を拭う。自分の指に溜まる滴もキラキラ光っていて見惚れる。気づくと少女のひんやりと冷える頬に手を当て涙を拭っていた。
「あ、あの。JOJO、あのもう、」
真っ赤になった少女を見て、自分が何をしたのか理解すると静かに立ち上がり部屋を出る。扉に少し寄りかかり、拳を作ったり手の力を抜いてみたりを繰り返して落ち着きを取り戻す。
先程の自分の行動を無理に正当化させようと頭が必死に働いているが、心どこかではあの時少女がキラキラ光るガラス細工のようで美しかったと思い出していた。
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