Butterfly Pea.
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バケツをひっくり返した様な土砂降りの中、水浸しになったコンクリートに街の光が反射する。
営業時間が過ぎシャッターが降ろされたカフェの花壇に力なく座り込む女が居た。雨を全身に受け頭を垂れる彼女に誰も声などかけない。彼女もまた傘をさし忙しなく帰路へ向かう通行人たちの足元から跳ねる滴をただ眺めているだけだった。
数時間前、空の雲行きが怪しくなりだした頃から彼女はここで恋人を待っていた。付き合って半年だが会った回数は片手ほどの恋人というには少し違和感のある相手だ。
今日は丁度付き合ってから半年経った記念日だった。乗り気でない彼に必死に頼み込んだ彼女はやっとの思いで約束までこじつけたが、結果は案の定だった。
彼を想い着飾った服や化粧は無意味だったと嘲笑う様に土砂降りが流していった。
(頑張って準備したの、馬鹿みたい。)
今は水分でぐしゃぐしゃになってしまった小さな子綺麗だった紙袋を両手で潰しそのまま地面へ叩きつけた。その勢いで重い体を立ち上がらせて帰ろうと歩き出した時、
「忘れ物ですよ。」
紫の生地で白いラインに不思議な装飾があしらわれ黒いレースの付いた、男が持つには小さすぎる傘がしゃがみ込み女の捨てた紙袋を拾っていた。
スッと立ち上がった男は背が高くあまり顔が見えないが、決して趣味が良いとは言えない奇妙なジャケットから目が離せなかった。
白い肌に関節の節々が女性の物より主張はするが細く長い美しい指が、私の手を掴み投げ捨てた紙袋を持たせてきた。
「これは、もう捨てたの。貴方にあげても良いわ。」
男は少し考えた後汚い紙袋を受け取り、
「ではこれを有り難く頂戴する代わりに、お礼に一杯お付き合い願えますか?」
***
男が普段通う行きつけに連れて行かれるらしい。
私は色々な事がどうでもよくなって、ヘンテコで小さな傘を受け取り男の後を静かに歩いていた。
大通りを避けるように狭い路地をついて行く。途中アスファルトだった地面がレンガに変わっていたがそんな事もどうでもよかった。
男はひとつの店の前で足を止め、私に目配せをし扉を開けて入っていった。レトロモダンなスタンドガラスが特徴の小さめな窓が付いたアンティークな扉の先には、これまた映える雰囲気の良いバーだと見て取れた。オレンジ味の掛かった照明にシックな家具たち、こんな所があったなんて知らなかった。
男は手慣れた様に店員にオーダーをし奥の方にあるテーブル席へと向かっていった。先に座る男の正面へ座った私はこの時ようやく男の顔をハッキリと見る事が出来た。
銀髪に紫のメッシュがありウェーブの掛かった長めの髪を後ろでひとつにまとめている。少し気怠さを感じる目元に少しのクマ、さほど大くもない口に薄めの唇。癖なのか指で唇を触っている、その仕草はどこか官能的で少し見るのが恥ずかしくなってきた。
まじまじと男の顔を見つめていると、先程の店員が私にハンドタオルを渡してくれた。そそくさと受け取るとずぶ濡れだった髪、雨で流れきらなかったマスカラを力強く拭った。
髪を拭くのに少し上体を倒しテーブルに雨粒が飛ばない様ごしごし拭いていたらある違和感に気付いた。男の足元には水溜りがなく、歩いてきた通路にもヒールの水跡だけが残っていた事に。
(そういえばこの人から傘を借りたのに、どうして濡れ
私の考えがまとまる前に男が口を開く、
「こんな所へ連れて来たのに紹介がまだでしたね。俺の名前はジョー、以後お見知りおきを。」
「私は、モブ江」
ジョーは私の名前を聞くと口角を少し上げ小さく“素敵な名だ”世辞を言い、店員が持ってきた海の様に真っ青で美しいカクテルグラスを私の前に置いた。自分の手元には美しい円球の氷が輝くウィスキーグラスが置いてあった。
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