始めまして、初めまして
猪野くんの同級生のお名前は?
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すれ違う他人から心配そうな目や迷惑そうな顔を向けられながら、そしてその向けられる感情を振り払いながら、七海とちはるは上機嫌で歌を歌っている、酔っ払った猪野を引き摺るように歩いていた。
「なぁちはる〜、俺ってさ、人に恵まれた本当に幸せな男だと思わない?」
「…猪野っち今日飲み過ぎじゃん?ちょっとウザいよ」
「そんな事言っちゃってさ〜。俺、ちはると同期で良かったってマジで思ってんだけど」
「はいはい、そりゃどーも」
「ねぇねぇ七海サン、」
「七海さんに絡まない!」
「水野さん、一度座らせましょうか」
ちはるが車を停めたパーキングに着くと、七海の提案で一度猪野をその場に座らせた。陽気に騒いでいる人間より、おとなしく酔い潰れている人間の方が運びやすいーアスファルトに座り込んだ猪野は相変わらず楽しそうに歌っていて、七海はやれやれと息を吐いた。
「七海さん、私飲み物買ってきますね」
ちはるは近くのコンビニを示すと、七海の返事を待たずに小走りで向かった。猪野がここまで上機嫌に酔うのは珍しい。元々ノリは軽く明るいが、こんなにも饒舌で騒がしい彼を見るのは、七海は初めてだった。
「七海サーン」
先程まで歌を歌っていた彼は突然甘えたような声で七海を呼ぶ。返事をすれば面倒な事を言い出しそうだし、返事をしなければ五月蝿くなりそうだーさてどうしたものかと七海が思案し始めたところで足音が近づいてくる。
「はい猪野っち!七海さんに絡む前に飲む!」
コンビニから戻ってきたちはるは手早くお茶のボトルを開封して猪野に手渡した。
「…アレ?フタは?」
「もう開けたってば、そんなに酔ってるの?」
漸くおとなしくお茶を飲み始めた猪野を確認すると、ちはるはどうぞ、と七海にもボトルを差し出した。
「七海さんは大丈夫だと思いますけど」
「…お気遣いありがとうございます」
にっこりと笑う彼女に七海は、自立した素敵な女性だなと率直に思ったー猪野が信頼を寄せるのも理解出来る気がした。まだおとなしくお茶を飲み続けている猪野に倣うように、七海もお茶を口にした。
「猪野っち、気分はどう?」
「…トイレ」
「コンビニあるから行って来なよ。車出しておくから」
ちはるが先程お茶を買いに走ったコンビニを示せば猪野は立ち上がり、幾分しっかりした足取りでコンビニへ向かった。そんな彼を見送りながらちはるは駐車料金の精算を済ませて車を動かす。
「七海さん、どうぞ乗ってください」
「…失礼します」
七海が後部座席に滑り込んだところで、手にビニール袋をぶら下げた猪野が戻って来た。
「お待たせ〜」
「…何買って来たの?」
「んーと買い忘れてた週刊漫画雑誌とポテチと」
「とりあえず乗ろうか」
ちはるが猪野を遮れば七海が猪野を車内に引っ張り込む。ドアが閉まったのを確認するとちはるは車をゆっくりと発進させた。
「七海さんはどの辺ですか?」
「隣町の駅前でお願いします」
「駅前じゃなくて玄関横付けしますよ!」
「いえ、結構です。駅からすぐ側なので」
時間にして10分少々のドライブではあったが、その間もちはるは七海に絡む猪野を上手くあしらっていた。
「水野さんありがとうございます、ここで結構です」
駅前の交差点を過ぎたところで七海が声を上げた。ちはるは車をゆっくりと路肩へ寄せる。
先に車に乗り込んだ七海が車道側にいる為、猪野は素早く車を降りた。だいぶ酔いは覚めてきたようだ。
「水野さんありがとうございました。では猪野くん、くれぐれも彼女に迷惑をかけ過ぎないように」
「だ〜いじょぶッスよ、だってコイツは、」
「そこは“ハイ”でいいでしょ」
まるで漫才の掛け合いのようだと、七海は口元を緩めた。ちはるは猪野を車に押し込み、失礼します、と七海に声をかけると運転席に滑り込んだ。後部座席では猪野が窓を開け、身を乗り出す勢いで七海に手を振っていた。車内から危ない、シートベルトしなさい、というちはるの声が聞こえ、猪野が引っ込んだところで車はハザードを数回瞬かせて流れる車列に溶けていった。
車を見送り、ふっと息を吐いた七海は自宅マンションへ向けて歩き出す。僅か数分で到着したそこはサラリーマン時代に購入した物件で、決して新しい建物ではないが、運良く近隣住人に迷惑行為に当たるような事をする者もなく、とても快適な環境が七海は気に入っていた。
マンションのエントランスを抜けてエレベーターで居住階へ。1人で住むには充分過ぎる部屋に入って照明を点けた。サングラスを外してテーブルへ置き、ちはるがくれたお茶を隣に置いた。七海はその場に立ち尽くし、僅かな逡巡の後、シャワーを浴びるという選択をした。
バスローブを羽織り、リビングに戻って来た七海は先程のお茶に手を伸ばした。だいぶ温くなっていたが、喉の渇きを潤すには十分だった。
空けたボトルを処分しようと七海はキッチンへ向かった。ボトルをゴミ箱へ入れ、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り出したところで、七海は自分がそれ程までに物思いに没頭していた事に気が付いた。
後輩の同期である、初対面の女性。これまでに七海は人並みに女性との交際経験はあるが、ちはるのような飾らない女性と接するのは稀だった。北欧の血が入った自身の風貌や言動に相応しくあろうと取り繕う女性が多く、彼女たちの本心が解らぬまま関係が終わる事がほとんどだった。ちはるの飾らない態度に併せて、時折見せる影のある雰囲気が七海の脳裏に焼きついていた。
ーらしくないな。
七海は一度手に取ったミネラルウォーターを冷蔵庫へ戻すと再びバスルームへ向かい、ナイトウェアに着替える。リビングの照明を消して寝室へ向かった。
ー今日まで連勤だったのだ、自分は酷く疲れていて、予想外に出会った親切な女性に少しだけ癒しを求めただけなのかもしれない。そのような事以前に、彼女は猪野と交際しているのかもしれないだろうにーらしくないな。
七海はベッドに横たわると、脳内を巡り続ける変な想いを断ち切るように、そっと部屋の照明を消した。
「なぁちはる〜、俺ってさ、人に恵まれた本当に幸せな男だと思わない?」
「…猪野っち今日飲み過ぎじゃん?ちょっとウザいよ」
「そんな事言っちゃってさ〜。俺、ちはると同期で良かったってマジで思ってんだけど」
「はいはい、そりゃどーも」
「ねぇねぇ七海サン、」
「七海さんに絡まない!」
「水野さん、一度座らせましょうか」
ちはるが車を停めたパーキングに着くと、七海の提案で一度猪野をその場に座らせた。陽気に騒いでいる人間より、おとなしく酔い潰れている人間の方が運びやすいーアスファルトに座り込んだ猪野は相変わらず楽しそうに歌っていて、七海はやれやれと息を吐いた。
「七海さん、私飲み物買ってきますね」
ちはるは近くのコンビニを示すと、七海の返事を待たずに小走りで向かった。猪野がここまで上機嫌に酔うのは珍しい。元々ノリは軽く明るいが、こんなにも饒舌で騒がしい彼を見るのは、七海は初めてだった。
「七海サーン」
先程まで歌を歌っていた彼は突然甘えたような声で七海を呼ぶ。返事をすれば面倒な事を言い出しそうだし、返事をしなければ五月蝿くなりそうだーさてどうしたものかと七海が思案し始めたところで足音が近づいてくる。
「はい猪野っち!七海さんに絡む前に飲む!」
コンビニから戻ってきたちはるは手早くお茶のボトルを開封して猪野に手渡した。
「…アレ?フタは?」
「もう開けたってば、そんなに酔ってるの?」
漸くおとなしくお茶を飲み始めた猪野を確認すると、ちはるはどうぞ、と七海にもボトルを差し出した。
「七海さんは大丈夫だと思いますけど」
「…お気遣いありがとうございます」
にっこりと笑う彼女に七海は、自立した素敵な女性だなと率直に思ったー猪野が信頼を寄せるのも理解出来る気がした。まだおとなしくお茶を飲み続けている猪野に倣うように、七海もお茶を口にした。
「猪野っち、気分はどう?」
「…トイレ」
「コンビニあるから行って来なよ。車出しておくから」
ちはるが先程お茶を買いに走ったコンビニを示せば猪野は立ち上がり、幾分しっかりした足取りでコンビニへ向かった。そんな彼を見送りながらちはるは駐車料金の精算を済ませて車を動かす。
「七海さん、どうぞ乗ってください」
「…失礼します」
七海が後部座席に滑り込んだところで、手にビニール袋をぶら下げた猪野が戻って来た。
「お待たせ〜」
「…何買って来たの?」
「んーと買い忘れてた週刊漫画雑誌とポテチと」
「とりあえず乗ろうか」
ちはるが猪野を遮れば七海が猪野を車内に引っ張り込む。ドアが閉まったのを確認するとちはるは車をゆっくりと発進させた。
「七海さんはどの辺ですか?」
「隣町の駅前でお願いします」
「駅前じゃなくて玄関横付けしますよ!」
「いえ、結構です。駅からすぐ側なので」
時間にして10分少々のドライブではあったが、その間もちはるは七海に絡む猪野を上手くあしらっていた。
「水野さんありがとうございます、ここで結構です」
駅前の交差点を過ぎたところで七海が声を上げた。ちはるは車をゆっくりと路肩へ寄せる。
先に車に乗り込んだ七海が車道側にいる為、猪野は素早く車を降りた。だいぶ酔いは覚めてきたようだ。
「水野さんありがとうございました。では猪野くん、くれぐれも彼女に迷惑をかけ過ぎないように」
「だ〜いじょぶッスよ、だってコイツは、」
「そこは“ハイ”でいいでしょ」
まるで漫才の掛け合いのようだと、七海は口元を緩めた。ちはるは猪野を車に押し込み、失礼します、と七海に声をかけると運転席に滑り込んだ。後部座席では猪野が窓を開け、身を乗り出す勢いで七海に手を振っていた。車内から危ない、シートベルトしなさい、というちはるの声が聞こえ、猪野が引っ込んだところで車はハザードを数回瞬かせて流れる車列に溶けていった。
車を見送り、ふっと息を吐いた七海は自宅マンションへ向けて歩き出す。僅か数分で到着したそこはサラリーマン時代に購入した物件で、決して新しい建物ではないが、運良く近隣住人に迷惑行為に当たるような事をする者もなく、とても快適な環境が七海は気に入っていた。
マンションのエントランスを抜けてエレベーターで居住階へ。1人で住むには充分過ぎる部屋に入って照明を点けた。サングラスを外してテーブルへ置き、ちはるがくれたお茶を隣に置いた。七海はその場に立ち尽くし、僅かな逡巡の後、シャワーを浴びるという選択をした。
バスローブを羽織り、リビングに戻って来た七海は先程のお茶に手を伸ばした。だいぶ温くなっていたが、喉の渇きを潤すには十分だった。
空けたボトルを処分しようと七海はキッチンへ向かった。ボトルをゴミ箱へ入れ、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り出したところで、七海は自分がそれ程までに物思いに没頭していた事に気が付いた。
後輩の同期である、初対面の女性。これまでに七海は人並みに女性との交際経験はあるが、ちはるのような飾らない女性と接するのは稀だった。北欧の血が入った自身の風貌や言動に相応しくあろうと取り繕う女性が多く、彼女たちの本心が解らぬまま関係が終わる事がほとんどだった。ちはるの飾らない態度に併せて、時折見せる影のある雰囲気が七海の脳裏に焼きついていた。
ーらしくないな。
七海は一度手に取ったミネラルウォーターを冷蔵庫へ戻すと再びバスルームへ向かい、ナイトウェアに着替える。リビングの照明を消して寝室へ向かった。
ー今日まで連勤だったのだ、自分は酷く疲れていて、予想外に出会った親切な女性に少しだけ癒しを求めただけなのかもしれない。そのような事以前に、彼女は猪野と交際しているのかもしれないだろうにーらしくないな。
七海はベッドに横たわると、脳内を巡り続ける変な想いを断ち切るように、そっと部屋の照明を消した。