wanderers
猪野くんの同級生のお名前は?
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“闇より出でて闇より黒く その穢れを禊ぎ祓え”
空から滴り落ちて来た闇が辺り一面に流れ出し、七海は大きく息を吐いた。ちはるは無事に猪野と合流し、こちらに向かっているのだろう。
と、自身の背後で何かが動く気配を感じ、七海は振り向きざまに得物の鉈を振り抜く。鉈が何かを捉える前に、こちらに向かってくる呪力の塊ー猪野が放った獬豸が呪霊目掛けて飛んでいく。が、大蛇呪霊は尾で獬豸を振り払った。猪野の一手は大きなダメージを与える事が出来ず、大蛇は再び森の中へと姿を消した。
「七海さん!」
「っクソ、逃がしたか」
「水野さん、猪野くん。無事ですか」
3人は互いの無事を確かめ合う。七海はヘルメットを脱ぎ捨てており、猪野はちはるが運転するバイクから飛び降りていて、ちはるはバイクに乗ったままだった。
「…状況としては少々厄介ですね。戦力ではこちらが上、ですが地の利は向こうにある。そして術式の相性。やはり私の術式では少々不利、遠隔で攻撃出来るのがベストと思いますが、先程、猪野くんの力では完全な足止めが出来ないという事もわかりました」
現状を分析した七海の言葉に猪野は悔しそうに口元を歪めた。任務の事前打ち合わせの際、相手の追尾も出来る猪野の術式が一番有効だろうと思っていた事に間違いはなかったが、力不足という事が露呈してしまった。
黙って話を聞いていたちはるはヘルメットを脱ぎ、意を決した様に息を吐いて2人を見上げた。
「七海さん、手を出してください。…猪野っちも、手、出して。…早く」
首を傾げる2人に構わず、ちはるは差し出された手に自身の手を翳す。程なくして2人は驚いた顔を見せる。
「っちょっとちはる⁉︎」
「…2人の呪力にマーキングしました。…これで私の呪力を送る事が出来る様になって、呪力出力は勿論、術式の効果…、呪力の底上げが出来るはず」
「何をするつもりですか。それからその傷は」
普段の穏やかさが抜けた、叱責する様な七海の声。ちはるは困った様に笑った。
「…さっきの追いかけっこで、腕を木に引っ掛けちゃって…、クロスボウも上手く使えるか…、なので私があの呪霊を引きつけます。少しずつ2人に呪力を送って、その呪力残量からまず私を狙いに来るでしょう。そこを猪野っちが狙って、七海さんが仕留める。…それが一番手っ取り早い」
「待てよおいちはる、」
「時間かけられないでしょ。…時間が経って擦り減ってくのはこっちなんだし、早めに片付けないと」
ちはるの言葉に七海は唸った。
「…それに、もし私に何かあっても絶対助けてくれるでしょ。…七海さんも、猪野っちも」
穏やかな表情で言うちはるは、この状況下に於いては少々不釣り合いではあるが、目を引くほどにとても美しかった。凛とした儚さというか、庇護欲を掻き立てられるというか。ちはるは立ち尽くす2人を見て笑うと、早く始めましょう、と声をかけた。
「スマホもインカムも使えないから、会敵した時は一気に呪力を送る事で合図にします。…こんな感じに」
そう言うとちはるは実際に呪力を送り込む。感覚を覚えた七海と猪野は頷いた。
「ぜってぇ無理すんなよ!」
ちはるを囮にして呪いを祓うという状況に、苛立ちを覚えた猪野は大きめの声で言うと、薄暗く鬱蒼とした木々の奥へ大きな音を立てて姿を消した。
猪野の背中を見送っていると、水野さん、と声がかかり、ちはるは振り返った。
「今は目の前の任務に集中しましょう。…いいですね」
「…はい」
自身の心中を見抜いているような七海の言葉にちはるは思わず苦笑したが、七海は少しも表情を崩さなかった。
「…この任務が終われば打ち上げですもんね」
「…えぇ。美味い酒でも飲みましょう」
視線を合わせて頷き合うと、七海はちはるに背を向けて猪野の後を追う様に進んで行った。
七海の背中がすっかり見えなくなったところで、ちはるは天を仰いだ。仄暗い闇が満ちている。マーキングした2人へと呪力を少しずつ送りながら、ちはるは散歩をする様にゆったりと、辺りを眺める様にしながら歩いて行く。苦い過去を思い出させる景色に意識が飲み込まれる事がないようにと、ちはるは唇を引き結んだ。
彷徨い歩き、七海と猪野の居場所を感じ取りつつちはるは自身の呪力残量に意識を向ける。
そろそろ来てもおかしくないーそう思って立ち止まり、警戒を少し緩める様に深呼吸をした。その時。
「っ!」
頭上から飛びかかって来た呪霊を転がる様にして躱すと、ちはるはマーキング先へと呪力を放出した。2人が来るにはどれくらい時間が必要だろうかーちはるはクロスボウを構える。肩の傷のせいで上手く照準が定まらないが、時間を稼ぐくらいならなんとかなりそうだと数本放つ。呪霊が僅かに怯んだのを見て、距離を取るように走り出せば不気味な声を上げて追いかけてくる。
ちはるは七海と猪野が向かった、今自身が向かっている反対の方向へ移動しようと一度茂みに身を隠し、呪霊を迂回する様に走り出した。
「…?」
ちはるの鼻が甘い匂いを感じ取る。左肩の傷が灼ける様に痛むーちはるは慌てて呼吸を止めた。息が持つ内に呪霊から距離を取ろうと足を動かすも、左肩が酷く痛み、速度が上がらない。先程感じた匂いは呪霊が放った毒だと理解し呼吸を止めていても、肩の傷から侵食する様に身体に入り込んでくる。
「っち、くしょ…」
毒が回り始めているのか、手足が少しずつ痺れてくる。意識はハッキリしているのに身体が動かない。ちはるは近付いてくる気配に歯を食いしばった。
空から滴り落ちて来た闇が辺り一面に流れ出し、七海は大きく息を吐いた。ちはるは無事に猪野と合流し、こちらに向かっているのだろう。
と、自身の背後で何かが動く気配を感じ、七海は振り向きざまに得物の鉈を振り抜く。鉈が何かを捉える前に、こちらに向かってくる呪力の塊ー猪野が放った獬豸が呪霊目掛けて飛んでいく。が、大蛇呪霊は尾で獬豸を振り払った。猪野の一手は大きなダメージを与える事が出来ず、大蛇は再び森の中へと姿を消した。
「七海さん!」
「っクソ、逃がしたか」
「水野さん、猪野くん。無事ですか」
3人は互いの無事を確かめ合う。七海はヘルメットを脱ぎ捨てており、猪野はちはるが運転するバイクから飛び降りていて、ちはるはバイクに乗ったままだった。
「…状況としては少々厄介ですね。戦力ではこちらが上、ですが地の利は向こうにある。そして術式の相性。やはり私の術式では少々不利、遠隔で攻撃出来るのがベストと思いますが、先程、猪野くんの力では完全な足止めが出来ないという事もわかりました」
現状を分析した七海の言葉に猪野は悔しそうに口元を歪めた。任務の事前打ち合わせの際、相手の追尾も出来る猪野の術式が一番有効だろうと思っていた事に間違いはなかったが、力不足という事が露呈してしまった。
黙って話を聞いていたちはるはヘルメットを脱ぎ、意を決した様に息を吐いて2人を見上げた。
「七海さん、手を出してください。…猪野っちも、手、出して。…早く」
首を傾げる2人に構わず、ちはるは差し出された手に自身の手を翳す。程なくして2人は驚いた顔を見せる。
「っちょっとちはる⁉︎」
「…2人の呪力にマーキングしました。…これで私の呪力を送る事が出来る様になって、呪力出力は勿論、術式の効果…、呪力の底上げが出来るはず」
「何をするつもりですか。それからその傷は」
普段の穏やかさが抜けた、叱責する様な七海の声。ちはるは困った様に笑った。
「…さっきの追いかけっこで、腕を木に引っ掛けちゃって…、クロスボウも上手く使えるか…、なので私があの呪霊を引きつけます。少しずつ2人に呪力を送って、その呪力残量からまず私を狙いに来るでしょう。そこを猪野っちが狙って、七海さんが仕留める。…それが一番手っ取り早い」
「待てよおいちはる、」
「時間かけられないでしょ。…時間が経って擦り減ってくのはこっちなんだし、早めに片付けないと」
ちはるの言葉に七海は唸った。
「…それに、もし私に何かあっても絶対助けてくれるでしょ。…七海さんも、猪野っちも」
穏やかな表情で言うちはるは、この状況下に於いては少々不釣り合いではあるが、目を引くほどにとても美しかった。凛とした儚さというか、庇護欲を掻き立てられるというか。ちはるは立ち尽くす2人を見て笑うと、早く始めましょう、と声をかけた。
「スマホもインカムも使えないから、会敵した時は一気に呪力を送る事で合図にします。…こんな感じに」
そう言うとちはるは実際に呪力を送り込む。感覚を覚えた七海と猪野は頷いた。
「ぜってぇ無理すんなよ!」
ちはるを囮にして呪いを祓うという状況に、苛立ちを覚えた猪野は大きめの声で言うと、薄暗く鬱蒼とした木々の奥へ大きな音を立てて姿を消した。
猪野の背中を見送っていると、水野さん、と声がかかり、ちはるは振り返った。
「今は目の前の任務に集中しましょう。…いいですね」
「…はい」
自身の心中を見抜いているような七海の言葉にちはるは思わず苦笑したが、七海は少しも表情を崩さなかった。
「…この任務が終われば打ち上げですもんね」
「…えぇ。美味い酒でも飲みましょう」
視線を合わせて頷き合うと、七海はちはるに背を向けて猪野の後を追う様に進んで行った。
七海の背中がすっかり見えなくなったところで、ちはるは天を仰いだ。仄暗い闇が満ちている。マーキングした2人へと呪力を少しずつ送りながら、ちはるは散歩をする様にゆったりと、辺りを眺める様にしながら歩いて行く。苦い過去を思い出させる景色に意識が飲み込まれる事がないようにと、ちはるは唇を引き結んだ。
彷徨い歩き、七海と猪野の居場所を感じ取りつつちはるは自身の呪力残量に意識を向ける。
そろそろ来てもおかしくないーそう思って立ち止まり、警戒を少し緩める様に深呼吸をした。その時。
「っ!」
頭上から飛びかかって来た呪霊を転がる様にして躱すと、ちはるはマーキング先へと呪力を放出した。2人が来るにはどれくらい時間が必要だろうかーちはるはクロスボウを構える。肩の傷のせいで上手く照準が定まらないが、時間を稼ぐくらいならなんとかなりそうだと数本放つ。呪霊が僅かに怯んだのを見て、距離を取るように走り出せば不気味な声を上げて追いかけてくる。
ちはるは七海と猪野が向かった、今自身が向かっている反対の方向へ移動しようと一度茂みに身を隠し、呪霊を迂回する様に走り出した。
「…?」
ちはるの鼻が甘い匂いを感じ取る。左肩の傷が灼ける様に痛むーちはるは慌てて呼吸を止めた。息が持つ内に呪霊から距離を取ろうと足を動かすも、左肩が酷く痛み、速度が上がらない。先程感じた匂いは呪霊が放った毒だと理解し呼吸を止めていても、肩の傷から侵食する様に身体に入り込んでくる。
「っち、くしょ…」
毒が回り始めているのか、手足が少しずつ痺れてくる。意識はハッキリしているのに身体が動かない。ちはるは近付いてくる気配に歯を食いしばった。
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