wanderers
猪野くんの同級生のお名前は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
連日のライディングの甲斐あって、七海はちはるの運転するバイクにすっかり慣れた。
一番の難関と思われていたちはるの身体に掴まっての体勢維持も腹を括った様で、急発進、急ブレーキ、急な方向転換にも対応出来る様になり、ちはるの動きを阻害する事は無さそうだった。
こちらの任務を請け負って約2週間。現場の呪霊の習性やバイクで通れそうなルートや抜け道など、あらゆる事象を網羅した。七海たちの準備は整いつつあった。
「だいぶ時間がかかってしまいましたが、明日の正午から祓除に取り掛かりたいと思います」
ホテルの会議室を借り、七海は猪野とちはるの3人で入念な打ち合わせをした後、伊地知へ連絡を入れた。
『かしこまりました。では、周辺の警備等についての手配も行います。…任務を遂行するにあたり、何か必要なものがあればご連絡ください』
山1つ分のエリアに巣食う呪霊の討祓をたった3人で行うなんてー少なからずちはるは緊張に似た感覚を自覚していた。
七海は未だ伊地知と通話をしている、猪野は予定のルートを眺めて頭に叩き込んでいる。ちはるは今まで気付かなかった失態をいつ打ち明けようかとため息を吐いた。
「…どしたん?」
思いの外ため息が大きかったらしく、猪野が心配そうにちはるを覗き込んできた。なんともバツが悪いーちはるは口篭った。
「っあー…、ちょっと、ね」
「何かありましたか?」
通話を終えた七海が会話に加わる様に2人に声をかける。あぁもう、今しかない、とちはるは七海を見た。
「…大変申し上げにくいんですが」
「何よ改まっちゃって?」
「呪霊の誘引についてなんですが…、移動中、クロスボウを持っていけないかもしれません」
「は?なんで?」
「…なるほど、そういう事ですか」
「え、どーいう事?」
置いていかれた猪野は難しい顔で唸った。
「私がいると、背中にクロスボウを背負えない」
ちはるは困り顔で頷いた。
「でもさ、小さく折りたたみできる様なのもあるじゃん?前にそーいうの使った事あったよな?」
「使えなくはないけど壊れやすいのよ。いくら呪力強化したって壊れたらどうにも出来ないよ」
「…ご心配なく。私が守ります。水野さんは運転に集中してくださって結構ですよ」
「ぐはっ」
妙な声を上げた猪野に冷たい2人の視線が集まる。
「七海サン、それは殺し文句じゃねっスか…」
「何言ってんの猪野っちキモいんだけど」
「キモいとかちょっと傷つくけど」
「とりあえず問題は無い様ですね」
「はい、よろしくお願いします」
「……」
微妙な空気の中、七海がミーティングの終了を告げた。時刻は19時半過ぎ、そのまま食事へ、という流れになる。3人で食事を済ませると、その後はそれぞれ自由時間となり、ちはるは明日の要となるバイクのメンテナンスをする事にした。何か集中して物事に取り掛かっていた方が、余計な不安や心配に気に病む事もない。
独り黙々とバイクに向き合う。と、突然手元に影が落ちてきて、ちはるは思わず顔を上げた。
「七海さん、」
「部屋に行ったら不在でしたので」
「何かありましたか?」
ちはるは立ち上がった。バイクの手入れはもう殆ど終わっている。七海はバイクを眺めた。
「…ご自身でメンテナンスも出来るんですか」
「途中で何かトラブルがあった時、自分で何も出来ないなんてカッコ悪いじゃないですか」
それもそうですね、と頷く七海。何か用があって来たのでは、とちはるは口を開く。
「…用がある、という程では無いのですが…、明日の任務に関して、何か懸念があれば解消しておきたいと思いまして…、どんなに些細な事でも構いません」
七海の言葉に、ちはるはバイクに向き直り、最後の仕上げと思っていた拭き上げに取り掛かった。
「…懸念、っていうか」
半分くらい拭いたところでちはるは手を止めた。
「…こないだ話した、任務に失敗した話…、あの時と似てるんですよね、状況が。…あの時も、山が現場で、…私が呪霊の誘引役で」
「…不安、ですか?」
「…いえ…、ちょっと、思い出しただけで」
ちはるは再び手を動かし始める。
「出来るなら上書きしたいですよね。…嫌な記憶を忘れるくらい、きっちり明日の任務を成功させて」
「…無理や虚勢はいけません」
「大丈夫です。…独りじゃないですから。…立ち止まっているわけにも、いかないし」
七海は唇を引き結んだ。過去の失敗を取り返すつもりの様なちはるの言葉。ちはるの表情。同じ場所に、同じ時間に存在しているはずなのに、目の前の彼女は何処か違う場所にいるような感覚ー七海は小さく息を吐いた。
「…わかりました。それではまた明日」
もう二度と、仲間を喪う事の無いように。七海はちはるに背を向けてその場を後にした。
『あー、あー、…聞こえてる?無事山頂に着きました!こっちは天気も良くて良い感じっスよ』
翌日、正午前。予定通り、祓除の準備に取り掛かる3人。誘引役の七海とちはるは登山道入り口にて、インカムを通して猪野の言葉を聞いた。
「予定通りね」
『今通ってきたルートはクリアだったぜ』
「こちらも調査通りですね」
ターゲットの呪霊を迎え討つ場所は山頂にするか山麓にするか、なかなか悩ましい問題だった。それぞれのメリットデメリットと徹底的に洗い出し、確実に3人が合流出来る山頂を選んだ。
「…伊地知くん、聞こえていますか?」
『はい、聞こえます。こちらも準備は出来ています』
ちはるはヘルメットをかぶり、バイクに跨ってエンジンをスタートさせる。腹に響くエンジンの音と振動に自身の鼓動が掻き消されている様な感覚。不安や迷いを吹き飛ばす様に、アクセルのスロットルを回す。
「時間です。…気張っていきましょう」
七海がバイクに跨る。ちはるは彼に頷いて見せた。
一番の難関と思われていたちはるの身体に掴まっての体勢維持も腹を括った様で、急発進、急ブレーキ、急な方向転換にも対応出来る様になり、ちはるの動きを阻害する事は無さそうだった。
こちらの任務を請け負って約2週間。現場の呪霊の習性やバイクで通れそうなルートや抜け道など、あらゆる事象を網羅した。七海たちの準備は整いつつあった。
「だいぶ時間がかかってしまいましたが、明日の正午から祓除に取り掛かりたいと思います」
ホテルの会議室を借り、七海は猪野とちはるの3人で入念な打ち合わせをした後、伊地知へ連絡を入れた。
『かしこまりました。では、周辺の警備等についての手配も行います。…任務を遂行するにあたり、何か必要なものがあればご連絡ください』
山1つ分のエリアに巣食う呪霊の討祓をたった3人で行うなんてー少なからずちはるは緊張に似た感覚を自覚していた。
七海は未だ伊地知と通話をしている、猪野は予定のルートを眺めて頭に叩き込んでいる。ちはるは今まで気付かなかった失態をいつ打ち明けようかとため息を吐いた。
「…どしたん?」
思いの外ため息が大きかったらしく、猪野が心配そうにちはるを覗き込んできた。なんともバツが悪いーちはるは口篭った。
「っあー…、ちょっと、ね」
「何かありましたか?」
通話を終えた七海が会話に加わる様に2人に声をかける。あぁもう、今しかない、とちはるは七海を見た。
「…大変申し上げにくいんですが」
「何よ改まっちゃって?」
「呪霊の誘引についてなんですが…、移動中、クロスボウを持っていけないかもしれません」
「は?なんで?」
「…なるほど、そういう事ですか」
「え、どーいう事?」
置いていかれた猪野は難しい顔で唸った。
「私がいると、背中にクロスボウを背負えない」
ちはるは困り顔で頷いた。
「でもさ、小さく折りたたみできる様なのもあるじゃん?前にそーいうの使った事あったよな?」
「使えなくはないけど壊れやすいのよ。いくら呪力強化したって壊れたらどうにも出来ないよ」
「…ご心配なく。私が守ります。水野さんは運転に集中してくださって結構ですよ」
「ぐはっ」
妙な声を上げた猪野に冷たい2人の視線が集まる。
「七海サン、それは殺し文句じゃねっスか…」
「何言ってんの猪野っちキモいんだけど」
「キモいとかちょっと傷つくけど」
「とりあえず問題は無い様ですね」
「はい、よろしくお願いします」
「……」
微妙な空気の中、七海がミーティングの終了を告げた。時刻は19時半過ぎ、そのまま食事へ、という流れになる。3人で食事を済ませると、その後はそれぞれ自由時間となり、ちはるは明日の要となるバイクのメンテナンスをする事にした。何か集中して物事に取り掛かっていた方が、余計な不安や心配に気に病む事もない。
独り黙々とバイクに向き合う。と、突然手元に影が落ちてきて、ちはるは思わず顔を上げた。
「七海さん、」
「部屋に行ったら不在でしたので」
「何かありましたか?」
ちはるは立ち上がった。バイクの手入れはもう殆ど終わっている。七海はバイクを眺めた。
「…ご自身でメンテナンスも出来るんですか」
「途中で何かトラブルがあった時、自分で何も出来ないなんてカッコ悪いじゃないですか」
それもそうですね、と頷く七海。何か用があって来たのでは、とちはるは口を開く。
「…用がある、という程では無いのですが…、明日の任務に関して、何か懸念があれば解消しておきたいと思いまして…、どんなに些細な事でも構いません」
七海の言葉に、ちはるはバイクに向き直り、最後の仕上げと思っていた拭き上げに取り掛かった。
「…懸念、っていうか」
半分くらい拭いたところでちはるは手を止めた。
「…こないだ話した、任務に失敗した話…、あの時と似てるんですよね、状況が。…あの時も、山が現場で、…私が呪霊の誘引役で」
「…不安、ですか?」
「…いえ…、ちょっと、思い出しただけで」
ちはるは再び手を動かし始める。
「出来るなら上書きしたいですよね。…嫌な記憶を忘れるくらい、きっちり明日の任務を成功させて」
「…無理や虚勢はいけません」
「大丈夫です。…独りじゃないですから。…立ち止まっているわけにも、いかないし」
七海は唇を引き結んだ。過去の失敗を取り返すつもりの様なちはるの言葉。ちはるの表情。同じ場所に、同じ時間に存在しているはずなのに、目の前の彼女は何処か違う場所にいるような感覚ー七海は小さく息を吐いた。
「…わかりました。それではまた明日」
もう二度と、仲間を喪う事の無いように。七海はちはるに背を向けてその場を後にした。
『あー、あー、…聞こえてる?無事山頂に着きました!こっちは天気も良くて良い感じっスよ』
翌日、正午前。予定通り、祓除の準備に取り掛かる3人。誘引役の七海とちはるは登山道入り口にて、インカムを通して猪野の言葉を聞いた。
「予定通りね」
『今通ってきたルートはクリアだったぜ』
「こちらも調査通りですね」
ターゲットの呪霊を迎え討つ場所は山頂にするか山麓にするか、なかなか悩ましい問題だった。それぞれのメリットデメリットと徹底的に洗い出し、確実に3人が合流出来る山頂を選んだ。
「…伊地知くん、聞こえていますか?」
『はい、聞こえます。こちらも準備は出来ています』
ちはるはヘルメットをかぶり、バイクに跨ってエンジンをスタートさせる。腹に響くエンジンの音と振動に自身の鼓動が掻き消されている様な感覚。不安や迷いを吹き飛ばす様に、アクセルのスロットルを回す。
「時間です。…気張っていきましょう」
七海がバイクに跨る。ちはるは彼に頷いて見せた。