wanderers
猪野くんの同級生のお名前は?
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ちはると七海が夜な夜なバイクで走りに出る様になり、残された猪野の機嫌は低空飛行だった。
以前七海が言っていた通り、夜の数時間だけ外に出るだけだというのにーそんな中、雨が降り出した夜。
最近ずっと走りに出ている事、雨に当たって体調を崩したらいけないから今日はナシ、という事になり、猪野の機嫌は急上昇、任務の現場調査から戻ると早速七海を食事にと声をかけた。
七海の方も、猪野の機嫌が悪いままでは何かと面倒だと感じていた事もあり、誘いを受ける旨を伝える。
「…水野さんは、」
「? アレ?」
さっきまで一緒にいたのに、と呟きながら猪野はスマホを出してちはるにメッセージを送った。返事はさほど待つ事なく返ってきた。
『ちょっと頭痛い感じだから2人で行ってきて』
『マジ?だいじょぶ?』
『大丈夫。むしろほっといてくれていいから』
猪野はふっと息を吐くと、スマホをポケットに押し込みながら七海に向き直った。
「2人で行って良いって言ってます」
「本当ですか?」
「ちはる、昔から雨の日に弱ぇんスよ」
「……」
そう言われてしまえば七海は返す言葉を持たず、嬉々とした猪野と共にホテルを後にした。
猪野からのメッセージに返信したちはるはスマホをサイドテーブルに放り出すとベッドに転がった。午後の遅い時間からしとしとと降り出した雨は、ちはるの気持ちを下降させていくには十分だった。
ー何も考えたくない。
先程猪野には“頭痛い感じ”と伝えたが、本当に頭痛がしてきた。シャワーだって浴びたいけど、と思いながらも億劫さには勝てず、そのまま横になる事に決めた。
そのままどれくらい経ったか、ちはるが微睡んでいるとスマホが着信を告げた。現場の調査から戻って以来部屋に引き篭もっているのだ、何か連絡事項かもしれないとスマホに手を伸ばす。七海からのメッセージだった。
『体調は如何ですか、すぐに食べられそうな物と薬を準備しました。これから伺います』
ちはるは息を吐くと身体を起こした。先程よりは頭痛が治まった気がするーベッドから降りてカーテンの外を覗く。雨は小降りになっていた。
程なくして控えめにドアを叩く音が聞こえ、ちはるは手櫛で髪を整えながらドアを開けた。
「お休みのところ失礼します」
七海はそう言ってビニール袋を差し出した。ちはるが中を覗くと先程のメッセージの通り、鎮痛剤、経口補水液や栄養ドリンク、栄養補助ゼリーやクッキーなど軽食の類が沢山入っていて、ちはるは苦笑した。
「…こんなに食べられませんよ」
「好みがわからなかったので、手当たり次第に」
真剣に言う七海が可笑しくて、ちはるは笑った。
「ありがとうございます。…ところで猪野っちは、」
「…もう寝ていると思いますよ。食事では随分と饒舌、かなり早いペースでしたからね」
相手をするのは大変だったろうなと思いながら、ちはるは思い切った様に七海を見上げた。
「七海さん、ちょっとドライブ行きませんか?」
「…体調は大丈夫なんですか?」
突然の提案に些か戸惑う様子を見せながらも、七海はちはるの体調を気遣う。
「だいぶ、落ち着いたので」
そう言うちはるの瞳が少し揺れたのを見て、七海は彼女が何か話をしたいのかもしれないと思い至った。
「…では、お付き合いしましょう」
ちはるは七海と共に駐車場へ向かう。
以前、任務の現場を訪れた際に呪いに当てられて体調を崩した補助監督は、別の補助監督と共に引き上げて行った。任務のプランを伊地知に伝えた上での決定で、ちはるが移動手段を補う事が出来る以上、補助監督が不在でも問題はないとの判断がなされたのだった。
車に乗り込むと、ちはるはエンジンをスタートさせゆっくりと駐車場を出た。
車内にはフロントガラスを叩く雨音、時折水滴を払うワイパーの作動音の他、音を立てる様なものは何もない。ちはるも七海も黙ったままだった。
ちはるの運転する車は街を抜け、住宅街の少し奥まったところにある公園の駐車場で停まった。小高いそこからは街の灯りが見渡せた。
エンジンを止め、シートベルトを外したちはるは息を吐いた。七海も彼女に倣うようにシートベルトを外す。
「…雨が嫌いなんです」
ハンドルを抱える様に身体を凭れさせ、ポツポツとこぼれてきた雨粒が流れるのを眺めながら、ちはるはため息と共に吐き出す様に言った。
「…」
何と声をかけたら良いかー七海はちはるの方へ顔を向け、黙ったまま先を促した。
「…学生の時…、1回だけ任務に失敗した事があって」
ちはるの言葉が七海の過去の記憶を刺激した。体温を失った同期、そして自身を案じてくれた先輩術師が一気に思い出される。何年経っても色褪せる事のない苦い記憶。七海は遣り切れなさを逃す様に息を吐いた。
「…2年生の時…、準2級の昇級が決まってすぐでした。今回の任務とほとんど同じ…、山に出る呪霊の祓除だったんです」
前を見ていたちはるはそのままの姿勢で七海の方を向いた。いつもの様な覇気のある瞳ではなく、喪失感と哀しみを湛えていた。
「…準1級の先輩も一緒だったんですけど…、現場に出てみたら、最初に聞かされていた概要とは大きく異なった状況になっていたんです」
七海はゆるゆると首を振って大きく息を吐いた。
「…結果として、補助監督を含め、任務に出た人間で生き延びたのは私だけだったんです」
「…それが、雨の日、だったと」
ちはるは頷いた。涙が一筋、流れた。
「…もう、4年経つんですけど、…ダメなんです、全然、気持ちの整理が、出来なくて、」
身体を起こしたちはるは両手で顔を覆い、肩を震わせて小さく嗚咽を漏らした。七海はちはるを慰める様に、彼女の肩を優しく抱き寄せた。
以前七海が言っていた通り、夜の数時間だけ外に出るだけだというのにーそんな中、雨が降り出した夜。
最近ずっと走りに出ている事、雨に当たって体調を崩したらいけないから今日はナシ、という事になり、猪野の機嫌は急上昇、任務の現場調査から戻ると早速七海を食事にと声をかけた。
七海の方も、猪野の機嫌が悪いままでは何かと面倒だと感じていた事もあり、誘いを受ける旨を伝える。
「…水野さんは、」
「? アレ?」
さっきまで一緒にいたのに、と呟きながら猪野はスマホを出してちはるにメッセージを送った。返事はさほど待つ事なく返ってきた。
『ちょっと頭痛い感じだから2人で行ってきて』
『マジ?だいじょぶ?』
『大丈夫。むしろほっといてくれていいから』
猪野はふっと息を吐くと、スマホをポケットに押し込みながら七海に向き直った。
「2人で行って良いって言ってます」
「本当ですか?」
「ちはる、昔から雨の日に弱ぇんスよ」
「……」
そう言われてしまえば七海は返す言葉を持たず、嬉々とした猪野と共にホテルを後にした。
猪野からのメッセージに返信したちはるはスマホをサイドテーブルに放り出すとベッドに転がった。午後の遅い時間からしとしとと降り出した雨は、ちはるの気持ちを下降させていくには十分だった。
ー何も考えたくない。
先程猪野には“頭痛い感じ”と伝えたが、本当に頭痛がしてきた。シャワーだって浴びたいけど、と思いながらも億劫さには勝てず、そのまま横になる事に決めた。
そのままどれくらい経ったか、ちはるが微睡んでいるとスマホが着信を告げた。現場の調査から戻って以来部屋に引き篭もっているのだ、何か連絡事項かもしれないとスマホに手を伸ばす。七海からのメッセージだった。
『体調は如何ですか、すぐに食べられそうな物と薬を準備しました。これから伺います』
ちはるは息を吐くと身体を起こした。先程よりは頭痛が治まった気がするーベッドから降りてカーテンの外を覗く。雨は小降りになっていた。
程なくして控えめにドアを叩く音が聞こえ、ちはるは手櫛で髪を整えながらドアを開けた。
「お休みのところ失礼します」
七海はそう言ってビニール袋を差し出した。ちはるが中を覗くと先程のメッセージの通り、鎮痛剤、経口補水液や栄養ドリンク、栄養補助ゼリーやクッキーなど軽食の類が沢山入っていて、ちはるは苦笑した。
「…こんなに食べられませんよ」
「好みがわからなかったので、手当たり次第に」
真剣に言う七海が可笑しくて、ちはるは笑った。
「ありがとうございます。…ところで猪野っちは、」
「…もう寝ていると思いますよ。食事では随分と饒舌、かなり早いペースでしたからね」
相手をするのは大変だったろうなと思いながら、ちはるは思い切った様に七海を見上げた。
「七海さん、ちょっとドライブ行きませんか?」
「…体調は大丈夫なんですか?」
突然の提案に些か戸惑う様子を見せながらも、七海はちはるの体調を気遣う。
「だいぶ、落ち着いたので」
そう言うちはるの瞳が少し揺れたのを見て、七海は彼女が何か話をしたいのかもしれないと思い至った。
「…では、お付き合いしましょう」
ちはるは七海と共に駐車場へ向かう。
以前、任務の現場を訪れた際に呪いに当てられて体調を崩した補助監督は、別の補助監督と共に引き上げて行った。任務のプランを伊地知に伝えた上での決定で、ちはるが移動手段を補う事が出来る以上、補助監督が不在でも問題はないとの判断がなされたのだった。
車に乗り込むと、ちはるはエンジンをスタートさせゆっくりと駐車場を出た。
車内にはフロントガラスを叩く雨音、時折水滴を払うワイパーの作動音の他、音を立てる様なものは何もない。ちはるも七海も黙ったままだった。
ちはるの運転する車は街を抜け、住宅街の少し奥まったところにある公園の駐車場で停まった。小高いそこからは街の灯りが見渡せた。
エンジンを止め、シートベルトを外したちはるは息を吐いた。七海も彼女に倣うようにシートベルトを外す。
「…雨が嫌いなんです」
ハンドルを抱える様に身体を凭れさせ、ポツポツとこぼれてきた雨粒が流れるのを眺めながら、ちはるはため息と共に吐き出す様に言った。
「…」
何と声をかけたら良いかー七海はちはるの方へ顔を向け、黙ったまま先を促した。
「…学生の時…、1回だけ任務に失敗した事があって」
ちはるの言葉が七海の過去の記憶を刺激した。体温を失った同期、そして自身を案じてくれた先輩術師が一気に思い出される。何年経っても色褪せる事のない苦い記憶。七海は遣り切れなさを逃す様に息を吐いた。
「…2年生の時…、準2級の昇級が決まってすぐでした。今回の任務とほとんど同じ…、山に出る呪霊の祓除だったんです」
前を見ていたちはるはそのままの姿勢で七海の方を向いた。いつもの様な覇気のある瞳ではなく、喪失感と哀しみを湛えていた。
「…準1級の先輩も一緒だったんですけど…、現場に出てみたら、最初に聞かされていた概要とは大きく異なった状況になっていたんです」
七海はゆるゆると首を振って大きく息を吐いた。
「…結果として、補助監督を含め、任務に出た人間で生き延びたのは私だけだったんです」
「…それが、雨の日、だったと」
ちはるは頷いた。涙が一筋、流れた。
「…もう、4年経つんですけど、…ダメなんです、全然、気持ちの整理が、出来なくて、」
身体を起こしたちはるは両手で顔を覆い、肩を震わせて小さく嗚咽を漏らした。七海はちはるを慰める様に、彼女の肩を優しく抱き寄せた。