wanderers
猪野くんの同級生のお名前は?
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今日の行き先は遠い、とちはるが言っていた通り、目的地としていた現場近くの街に着いたのは16時近くになってからだった。少し休みましょう、という七海の提案で、車は小さな喫茶店に停まった。
「お疲れ様でした」
車を降りた七海がそう声を掛けたのは、道中ずっと運転をしてきた補助監督だった。休憩を挟みながらとはいえ、1人で運転し続けるのは楽な事ではない。
「いえ、ナビの予定ではもっと時間がかかる見立てだったので、それに比べたら全然、たいした事はありません。これも水野さんが近道を教えて下さったおかげです、ありがとうございます」
アイスコーヒーを飲んでいたちはるは礼を述べられ、慌てて頭を下げた。隣でアイスクリームを食べている猪野がのんびりと口を開く。
「ところでこの後の予定ってどーなってんスか?」
「今日のところは移動のみ…ですが、少し時間に余裕があります。何なら現場を見に行く事も可能ですよ」
今からなら現場に行っても日が暮れる前にホテルに着けます、という補助監督の言葉に七海が頷いた。
「お疲れのところ恐縮ですが、よろしくお願いします」
再び車に揺られて30分程度、車は小高い山の登山道前で止まり、4人は一度車を降りた。
「なんか…もーちょい山奥な感じをイメージしてたけど…、街からフツーに歩いても来れる感じじゃね?」
「人が入りやすい場所だから、いろんなモノが集まりやすいのよ。…山頂まで車でも入れるし、ココ、こっちの方では結構有名なスポットだから」
「マジ?そーなの?」
「…現在は熊の出没があったという事で、一般人の立ち入りを制限しています」
アレコレ話す猪野とちはるのやり取りを耳にしながら、七海は補助監督を振り返った。
「…現場は山頂付近でしたね?」
「はい。ご案内します」
緩やかなカーブを何度も曲がりながら車は山頂目指してゆっくりと走っていく。
「水野さん、この山について知っている事を教えていただけますか」
「…又聞きの話も多くて、信憑性には欠けるものが多いですけど…、この辺りの地域は蛇神信仰が盛んで、この山は特にその信仰が強いとか」
「山なのに蛇?熊の方が強そうじゃね?」
「そんなの私に言わないでよ。…蛇は昔から信仰の対象とされる事が多かったみたいで…、脱皮を繰り返す事から不死と再生の象徴とされたり、穀物を食い荒らすネズミを捕食する事から五穀豊穣を齎す存在とされたり。世界にも蛇の話はあって…、自分の尻尾を噛んで環になる古代ギリシャのウロボロスだって、始まりも終わりもない、“完全”の象徴とされてるし。…結局、蛇に限った話じゃないけど、ずっと昔から続いてる民間信仰なんて何が正しいかも、出自もわかんない事が多いでしょ」
「…なんでそんなに詳しいの?」
「私、高専の教員なんだけど?」
あっと気まずそうな顔をする猪野をじっとりと睨み、話がズレましたね、とちはるは再び口を開く。
「…この山は本当に、ずっと前からいろんな噂が絶えないですね。この山、昔は山頂にお城があったみたいで、いろんな噂はそこから来てるかと」
「呪霊も集まりやすく、育ちやすい、と」
「そういうこと、でしょうね」
窓の外が明るくなり、車が林を抜けて山頂に着いた事が窺えた。山頂には駐車場があり、そこから少し離れたところに石段が見える。恐らく石段を登った先が城趾、という事だろう。車内から辺りを見ても、特に気になるようなものはない。
「七海サン、降りてみます?」
「…そうですね、少しだけ見てみましょう」
2級相当の任務だったというが、それらしい等級の呪霊の気配も残穢も感じられない。猪野が首を竦めて見せるも、七海にとってはさしたる問題でもないようだった。
「現場のイメージが掴めただけでも十分な収穫です。早速明日からの計画を立てるとしましょう」
一行は車に乗り込むと、補助監督からの提案で先程とは別のルートで山を降りる事になった。先程通った道よりも新しく見え、辺りの木々も幾分背が低い。
「こちらは比較的最近に整備された道ですね。先程の道は登山客の利用が多いみたいで、トラブルが多かったとの事です。この道が出来て、車と登山客の分離に成功したみたいですよ」
「他にもルートが?」
「えぇ。さっき、水野さんも仰ってましたが、実はこの山、城址公園なんですよ。ですから車メインのルートと登山メインのルート、それぞれがいくつか存在します」
補助監督が話している間にも、車はどんどん山を下って行く。山の麓、建物が随分大きくなってきたーその時。
突然光が瞬いた様に、何かの呪力が感じられ、車内に緊張が走った。七海は車の前方を、猪野とちはるは左右それぞれへ注意を向ける。
「っひ、ぃ…!」
補助監督の悲鳴が聞こえ、3人の目が彼を向き、後ろを向いた。車から十数メートルのところを、口を大きく開けた大蛇が追いかけて来ていた。
「スピード上げて!」
猪野の声に反応した補助監督はやっとアクセルを踏み込んだ。ちはるは窓を開け、足元に置いていたクロスボウを外に向け、矢を2本放った。
「ちはる?」
「マーキングよ。手がかりになりそうものは手当たり次第、ってね。使えるかもしれないし」
そんなやり取りをしている間に、まるで虚空に溶け込む様に大蛇の姿も気配も消えていた。
「…なかなか厄介な相手な様ですね」
補助監督は大きく息を吐き、幾分青白い緊張した面持ちで運転を続けていた。
「…運転、代わります。止めて下さい」
「いえ…、大丈夫です、」
「無理しないでください。ずっと運転しっぱなしな上に、少し呪いに当てられてませんか?」
「…ですが、」
「こんなところで死ぬわけにはいかないでしょう?」
真剣な表情に強めの言葉。補助監督はスピードを緩め、路肩に車を停めた。
「すみません…」
「生きて帰るのが最優先、問題なし」
ちはるは運転席に滑り込むと、緩やかに速度を上げて麓を目指して行く。運転をする彼女の頭にひとつアイディアが浮かんだ。山を降りたら相談してみようーちはるはアクセルを踏み込み、目的地のホテルへと急いだ。
「お疲れ様でした」
車を降りた七海がそう声を掛けたのは、道中ずっと運転をしてきた補助監督だった。休憩を挟みながらとはいえ、1人で運転し続けるのは楽な事ではない。
「いえ、ナビの予定ではもっと時間がかかる見立てだったので、それに比べたら全然、たいした事はありません。これも水野さんが近道を教えて下さったおかげです、ありがとうございます」
アイスコーヒーを飲んでいたちはるは礼を述べられ、慌てて頭を下げた。隣でアイスクリームを食べている猪野がのんびりと口を開く。
「ところでこの後の予定ってどーなってんスか?」
「今日のところは移動のみ…ですが、少し時間に余裕があります。何なら現場を見に行く事も可能ですよ」
今からなら現場に行っても日が暮れる前にホテルに着けます、という補助監督の言葉に七海が頷いた。
「お疲れのところ恐縮ですが、よろしくお願いします」
再び車に揺られて30分程度、車は小高い山の登山道前で止まり、4人は一度車を降りた。
「なんか…もーちょい山奥な感じをイメージしてたけど…、街からフツーに歩いても来れる感じじゃね?」
「人が入りやすい場所だから、いろんなモノが集まりやすいのよ。…山頂まで車でも入れるし、ココ、こっちの方では結構有名なスポットだから」
「マジ?そーなの?」
「…現在は熊の出没があったという事で、一般人の立ち入りを制限しています」
アレコレ話す猪野とちはるのやり取りを耳にしながら、七海は補助監督を振り返った。
「…現場は山頂付近でしたね?」
「はい。ご案内します」
緩やかなカーブを何度も曲がりながら車は山頂目指してゆっくりと走っていく。
「水野さん、この山について知っている事を教えていただけますか」
「…又聞きの話も多くて、信憑性には欠けるものが多いですけど…、この辺りの地域は蛇神信仰が盛んで、この山は特にその信仰が強いとか」
「山なのに蛇?熊の方が強そうじゃね?」
「そんなの私に言わないでよ。…蛇は昔から信仰の対象とされる事が多かったみたいで…、脱皮を繰り返す事から不死と再生の象徴とされたり、穀物を食い荒らすネズミを捕食する事から五穀豊穣を齎す存在とされたり。世界にも蛇の話はあって…、自分の尻尾を噛んで環になる古代ギリシャのウロボロスだって、始まりも終わりもない、“完全”の象徴とされてるし。…結局、蛇に限った話じゃないけど、ずっと昔から続いてる民間信仰なんて何が正しいかも、出自もわかんない事が多いでしょ」
「…なんでそんなに詳しいの?」
「私、高専の教員なんだけど?」
あっと気まずそうな顔をする猪野をじっとりと睨み、話がズレましたね、とちはるは再び口を開く。
「…この山は本当に、ずっと前からいろんな噂が絶えないですね。この山、昔は山頂にお城があったみたいで、いろんな噂はそこから来てるかと」
「呪霊も集まりやすく、育ちやすい、と」
「そういうこと、でしょうね」
窓の外が明るくなり、車が林を抜けて山頂に着いた事が窺えた。山頂には駐車場があり、そこから少し離れたところに石段が見える。恐らく石段を登った先が城趾、という事だろう。車内から辺りを見ても、特に気になるようなものはない。
「七海サン、降りてみます?」
「…そうですね、少しだけ見てみましょう」
2級相当の任務だったというが、それらしい等級の呪霊の気配も残穢も感じられない。猪野が首を竦めて見せるも、七海にとってはさしたる問題でもないようだった。
「現場のイメージが掴めただけでも十分な収穫です。早速明日からの計画を立てるとしましょう」
一行は車に乗り込むと、補助監督からの提案で先程とは別のルートで山を降りる事になった。先程通った道よりも新しく見え、辺りの木々も幾分背が低い。
「こちらは比較的最近に整備された道ですね。先程の道は登山客の利用が多いみたいで、トラブルが多かったとの事です。この道が出来て、車と登山客の分離に成功したみたいですよ」
「他にもルートが?」
「えぇ。さっき、水野さんも仰ってましたが、実はこの山、城址公園なんですよ。ですから車メインのルートと登山メインのルート、それぞれがいくつか存在します」
補助監督が話している間にも、車はどんどん山を下って行く。山の麓、建物が随分大きくなってきたーその時。
突然光が瞬いた様に、何かの呪力が感じられ、車内に緊張が走った。七海は車の前方を、猪野とちはるは左右それぞれへ注意を向ける。
「っひ、ぃ…!」
補助監督の悲鳴が聞こえ、3人の目が彼を向き、後ろを向いた。車から十数メートルのところを、口を大きく開けた大蛇が追いかけて来ていた。
「スピード上げて!」
猪野の声に反応した補助監督はやっとアクセルを踏み込んだ。ちはるは窓を開け、足元に置いていたクロスボウを外に向け、矢を2本放った。
「ちはる?」
「マーキングよ。手がかりになりそうものは手当たり次第、ってね。使えるかもしれないし」
そんなやり取りをしている間に、まるで虚空に溶け込む様に大蛇の姿も気配も消えていた。
「…なかなか厄介な相手な様ですね」
補助監督は大きく息を吐き、幾分青白い緊張した面持ちで運転を続けていた。
「…運転、代わります。止めて下さい」
「いえ…、大丈夫です、」
「無理しないでください。ずっと運転しっぱなしな上に、少し呪いに当てられてませんか?」
「…ですが、」
「こんなところで死ぬわけにはいかないでしょう?」
真剣な表情に強めの言葉。補助監督はスピードを緩め、路肩に車を停めた。
「すみません…」
「生きて帰るのが最優先、問題なし」
ちはるは運転席に滑り込むと、緩やかに速度を上げて麓を目指して行く。運転をする彼女の頭にひとつアイディアが浮かんだ。山を降りたら相談してみようーちはるはアクセルを踏み込み、目的地のホテルへと急いだ。