wanderers
猪野くんの同級生のお名前は?
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「…なな、み、さん?」
戸惑い気味に自身の名を呼ぶ声に、七海はハッとした。普段とは違うー少なくとも、自分には今まで見せてくれなかったちはるの様子に、庇護欲というか何というか、そんなハッキリし難い気持ちが沸き起こっていた。
「段差があります。…気を付けて」
辛うじて搾り出した言葉。ちはるは七海の手を拒絶する事なく、彼と歩調を合わせ委ねる様に歩き出した。
「七海さん。今日は本当にありがとうございます」
程なくして、薄暗い中で響く穏やかなちはるの声。
「…感謝される様な事はしていませんが」
「してますって。…任務では助けてくれましたし…、私の、面白くもない話を聞いてくれて」
ちら、と七海は彼女の方へ視線を向ける。表情を窺うには、この場所は暗すぎた。
「…お酒が入ってたにしても、ちょっと喋り過ぎかなって思ったりしてるんですけど…、七海さんの事は信用してますから」
以前と変わらない言葉に、七海は思わず口元を緩めた。薄暗い内階段、外へ出るドアはもうすぐだ。
「水野さん」
顔はよく見えないが、ちはるが七海を見上げているだろう事が窺えた。
「話を聞く事くらい、どうという事はありません。またいつでも聞きます…と言いたいところですが」
困惑しているだろうかーちはるが息を詰める様な気配に七海は薄く笑みを浮かべた。
「貴女の事です、誰かに頼る様な事は苦手でしょう。私の方からまた声を掛けさせていただきます」
予想もしなかった七海の言葉に、ちはるは何も言えなかったー何と言えば良いかわからなかった。
「無理はしない事です。…過去の事はどうであれ、貴女は貴女です。…貴女が私を信用してくれているのと同様に、私も貴女を信用していますよ」
ちはるの返事を待つ事なく、七海は外へのドアを押し開けた。彼に続いてちはるも外へ出る。通りはまだ騒がしく灯りが瞬いていた。ホテルはすぐそこだ。
ホテルのエントランスを抜け、2人はエレベーターに乗り込んだ。
「ご迷惑お掛けしました」
深夜に差し掛かる時間帯、部屋の前に着くとちはるは静かに頭を下げた。
「たいした事ではありません、気になさらないでください。…それではちはるさん、また明日」
それだけ言って、七海はさっさと部屋へ入って行った。ちはるは七海の言葉に動きを止めるも彼はもういない。代わりに別の部屋から人が出てくる気配を感じて部屋に滑り込んだ。
ドアを閉めるとちはるはそのままドアに寄りかかった。今のは聞き違いだろうかと七海の発言を思い返すも、確かに名前を呼ばれた。ふっと息を吐き、照明を点けてソファに腰を降ろす。羽織っていた薄い上着を脱ぐと、右腕の包帯が目に付いた。今日1日の出来事ー今朝の任務を思い出す。そして、先程の七海との会話。
ー何考えてんだか。
ちはるは少しだけざわつき始めた気持ちを押し込めた。
「…寝よ」
シャワーは明日の朝にしようーもう何もかもが面倒になったちはるはスマホのアラームをセットするとそのままベッドに潜り込んだ。
ベッドの中でアラームの音に溜め息を吐き、ちはるは身体を起こした。案の定良く眠れなかったが、今日は移動日。任務で現場に出るよりは格段に楽、ちはるは腕の包帯を解くとバスルームへ向かった。
熱い雨に打たれて頭も気持ちも幾分スッキリしたところで時間を確認する。8:30というスマホの表示に驚きつつ、身支度を整えて部屋を出る。荷物も纏めて8:50を過ぎたあたりでロビーに降りた。
「おはよーちはる」
「おはよ」
普段なら猪野から揶揄いの言葉がいくつか飛んで来てもおかしくないが、今日の彼は余計な口を叩かなかった。京都を避けているちはるへの彼なりの気遣いと言えた。コーヒーもらえるよ、と言う猪野の言葉に頷き、ちはるはサービスのコーヒーサーバーへ向かう。カップをセットしてボタンを押せば、漆黒の液体がカップに流れ込む。目の覚める様なコーヒーの香りが広がった。
ロビーの窓から外を見れば、補助監督と七海が何某か話をしている。いつも通りという状況にちはるはふっと息を吐いてカップを手に取った。猪野の隣に座ってコーヒーに口をつける。
「ちはる、朝メシどーすんの?時間ねぇよ?」
「…あんまり食欲ないし、良いかなって」
「マジ?具合悪い?」
「…そーいうワケじゃないけど…、猪野っちは?」
「運良く七海サンと会って一緒に食った」
ふーん、と生返事をしながらちはるはコーヒーに口をつける。気が入らないのは場所のせいか、昨日の出来事のせいかーもやついた気持ちを吐き出す様に、ちはるは大きく息を吐くとコーヒーを飲み干した。
「おはようございます」
空になったカップを片付けたところで七海がロビーに戻って来た。ちはるはおはようございます、と挨拶を返しながら、昨夜の残り香さえ微塵も感じさせない七海の様子に内心苦笑した。
「…昨夜は休めましたか?」
何食わぬ顔で尋ねてくる七海がなんだか可笑しく思えて、ちはるは口元に笑みを浮かべた。
「そうですね、寝付きはあまり良くはなかったですが…、休むには休めました」
ちはるの返事に小さく息を吐く様に笑った七海、猪野は不思議そうな、何とも言えない表情で2人を見ていた。
「ホラ猪野っち、早く車行こ」
「え、ぇ?ちはる、朝メシは、」
「一食抜いたって問題ないわよ。そんな事より今日の行き先は遠いから、早く行かないと」
猪野の背を押して行くちはる、その後に七海が続く。車に乗り込む時に、ちはると目が合ったー七海にはちはるが穏やかに笑いかけてきた様に見えた。
戸惑い気味に自身の名を呼ぶ声に、七海はハッとした。普段とは違うー少なくとも、自分には今まで見せてくれなかったちはるの様子に、庇護欲というか何というか、そんなハッキリし難い気持ちが沸き起こっていた。
「段差があります。…気を付けて」
辛うじて搾り出した言葉。ちはるは七海の手を拒絶する事なく、彼と歩調を合わせ委ねる様に歩き出した。
「七海さん。今日は本当にありがとうございます」
程なくして、薄暗い中で響く穏やかなちはるの声。
「…感謝される様な事はしていませんが」
「してますって。…任務では助けてくれましたし…、私の、面白くもない話を聞いてくれて」
ちら、と七海は彼女の方へ視線を向ける。表情を窺うには、この場所は暗すぎた。
「…お酒が入ってたにしても、ちょっと喋り過ぎかなって思ったりしてるんですけど…、七海さんの事は信用してますから」
以前と変わらない言葉に、七海は思わず口元を緩めた。薄暗い内階段、外へ出るドアはもうすぐだ。
「水野さん」
顔はよく見えないが、ちはるが七海を見上げているだろう事が窺えた。
「話を聞く事くらい、どうという事はありません。またいつでも聞きます…と言いたいところですが」
困惑しているだろうかーちはるが息を詰める様な気配に七海は薄く笑みを浮かべた。
「貴女の事です、誰かに頼る様な事は苦手でしょう。私の方からまた声を掛けさせていただきます」
予想もしなかった七海の言葉に、ちはるは何も言えなかったー何と言えば良いかわからなかった。
「無理はしない事です。…過去の事はどうであれ、貴女は貴女です。…貴女が私を信用してくれているのと同様に、私も貴女を信用していますよ」
ちはるの返事を待つ事なく、七海は外へのドアを押し開けた。彼に続いてちはるも外へ出る。通りはまだ騒がしく灯りが瞬いていた。ホテルはすぐそこだ。
ホテルのエントランスを抜け、2人はエレベーターに乗り込んだ。
「ご迷惑お掛けしました」
深夜に差し掛かる時間帯、部屋の前に着くとちはるは静かに頭を下げた。
「たいした事ではありません、気になさらないでください。…それではちはるさん、また明日」
それだけ言って、七海はさっさと部屋へ入って行った。ちはるは七海の言葉に動きを止めるも彼はもういない。代わりに別の部屋から人が出てくる気配を感じて部屋に滑り込んだ。
ドアを閉めるとちはるはそのままドアに寄りかかった。今のは聞き違いだろうかと七海の発言を思い返すも、確かに名前を呼ばれた。ふっと息を吐き、照明を点けてソファに腰を降ろす。羽織っていた薄い上着を脱ぐと、右腕の包帯が目に付いた。今日1日の出来事ー今朝の任務を思い出す。そして、先程の七海との会話。
ー何考えてんだか。
ちはるは少しだけざわつき始めた気持ちを押し込めた。
「…寝よ」
シャワーは明日の朝にしようーもう何もかもが面倒になったちはるはスマホのアラームをセットするとそのままベッドに潜り込んだ。
ベッドの中でアラームの音に溜め息を吐き、ちはるは身体を起こした。案の定良く眠れなかったが、今日は移動日。任務で現場に出るよりは格段に楽、ちはるは腕の包帯を解くとバスルームへ向かった。
熱い雨に打たれて頭も気持ちも幾分スッキリしたところで時間を確認する。8:30というスマホの表示に驚きつつ、身支度を整えて部屋を出る。荷物も纏めて8:50を過ぎたあたりでロビーに降りた。
「おはよーちはる」
「おはよ」
普段なら猪野から揶揄いの言葉がいくつか飛んで来てもおかしくないが、今日の彼は余計な口を叩かなかった。京都を避けているちはるへの彼なりの気遣いと言えた。コーヒーもらえるよ、と言う猪野の言葉に頷き、ちはるはサービスのコーヒーサーバーへ向かう。カップをセットしてボタンを押せば、漆黒の液体がカップに流れ込む。目の覚める様なコーヒーの香りが広がった。
ロビーの窓から外を見れば、補助監督と七海が何某か話をしている。いつも通りという状況にちはるはふっと息を吐いてカップを手に取った。猪野の隣に座ってコーヒーに口をつける。
「ちはる、朝メシどーすんの?時間ねぇよ?」
「…あんまり食欲ないし、良いかなって」
「マジ?具合悪い?」
「…そーいうワケじゃないけど…、猪野っちは?」
「運良く七海サンと会って一緒に食った」
ふーん、と生返事をしながらちはるはコーヒーに口をつける。気が入らないのは場所のせいか、昨日の出来事のせいかーもやついた気持ちを吐き出す様に、ちはるは大きく息を吐くとコーヒーを飲み干した。
「おはようございます」
空になったカップを片付けたところで七海がロビーに戻って来た。ちはるはおはようございます、と挨拶を返しながら、昨夜の残り香さえ微塵も感じさせない七海の様子に内心苦笑した。
「…昨夜は休めましたか?」
何食わぬ顔で尋ねてくる七海がなんだか可笑しく思えて、ちはるは口元に笑みを浮かべた。
「そうですね、寝付きはあまり良くはなかったですが…、休むには休めました」
ちはるの返事に小さく息を吐く様に笑った七海、猪野は不思議そうな、何とも言えない表情で2人を見ていた。
「ホラ猪野っち、早く車行こ」
「え、ぇ?ちはる、朝メシは、」
「一食抜いたって問題ないわよ。そんな事より今日の行き先は遠いから、早く行かないと」
猪野の背を押して行くちはる、その後に七海が続く。車に乗り込む時に、ちはると目が合ったー七海にはちはるが穏やかに笑いかけてきた様に見えた。