wanderers
猪野くんの同級生のお名前は?
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「…ごめんなさい、もう1本だけ吸わせてください」
ちはるはそう前置いて、煙草に火を点ける。再び煙草の匂いが強まった。七海は彼女の様子を観察する様に眺めていた。ちはると目が合った。
「…1本いただけますか?」
「っえ、七海さん吸うんですか⁉︎」
「少し興味が沸いただけです」
宜しいですかと七海はちはるの持つポーチを見つめている。ちはるは困った様に笑い、先程ポーチに入れたばかりの煙草の箱とライターを取り出した。小さな箱から煙草を1本摘んで咥える七海の少々ぎこちない動作に、ちはるは笑みを深くした。
「…火を点ける時に少し吸ってくださいね」
ちはるが翳したライターの炎に、七海は煙草を近づける。フィルターを通して流れ込んでくる空気に突然肺を掴まれた様な感覚に、七海は少し咳き込んだ。
「少しずつ、ゆっくり吸ってください」
言われた通りにゆっくりと煙草を吸う彼を見ながら、自分たちは親や教師に隠れて悪さをする学生に戻った気分だとちはるは自身の煙草を口にした。2人は並んで手摺に凭れ、話をするでもなく煙草を吸った。
「…私の術式の話」
煙草の火を消すのはどれくらい吸ってからだろうかとタイミングを考えていた七海は、ちはるが差し出してきた携帯灰皿に煙草を押し込んだ。
「前に話した事、覚えてますか?」
「…えぇ、勿論です」
「…祓除向きじゃないんですよ。少なくとも、任務には出るべきじゃないと思うんです」
「任務に出る出ないは本人の判断ではないですか?少なくとも水野さんは任務に出て呪いを祓い、その実力を認められて1級に手が届きそうな準1級術師です。…現に術式を持たない日下部さんは1級です。術式がどうというのは関係ない様に思いますよ」
「……」
なんて思い遣りに溢れた言葉だろうーちはるは思わず唇を噛み締めた。先程街で突っかかってきた連中からの仕打ちが脳裏を過ぎる。思わずため息が出ていた。
「…七海さんみたいに、私を肯定してくれる人にもっと早く出会えてたら…、もう少しマシな人間になってたかもしれないですね」
自嘲気味に言うちはるに七海は首を傾げた。
「子供の頃からずっと、自分の存在を肯定してもらった覚えがないんです。…家でも、外でも」
ちはるは指先を焦がしそうな程に短くなっていた煙草に気が付くと、携帯灰皿に押し込んだ。
「…私、中学を卒業してすぐ、実家近くの高専京都校に入学を決めたんです。術師になって、自分の居場所を作りたかった。自分を認めてもらいたかった」
初めて聞くちはるの過去。七海は黙って耳を傾けた。
「…私の家は結構古くから続いてる家みたいなんです。それから、割と近い親戚にかなり目立つ人がいるっていう事もあって、周りはその人しか見てなくて。そんな環境で私が女に生まれた時点で、もう術師としての居場所がないっていうか。…笑っちゃいますよね。男だから女だから、性別がどうっていつの時代の話って」
努めて明るく話しているちはるだが、彼女が長いこと苦労を強いられてきたのが垣間見えた。世間一般ではカビが生えている様な古い仕来たりを押し付けられそれを嫌悪し、そこから抜け出そうとした彼女の意志の強さと努力は並大抵の事ではなかっただろう。
「学校に入ってからは、他の子には見えないものが見えるって事もあって、上手く馴染めなかったし…高専では…、さっきの同期の奴らからは、名前だけの能無し、なんて馬鹿にされて」
「…あまり良い思い出がない、というのは」
「京都の術師から…というか、京都から弾かれた様な人間なんですよ。何処にも居場所がなくて。…本当に全部諦めようと思った時に、東京に行ってみたらどうかって後押ししてくれた人がいて…、もし東京で上手くいかなかったら術師も諦めて全部捨てようと思ってたんです」
今彼女が七海の隣に居るという事は、東京で上手く行き、猪野に出会ったという事なのだろう。その旨を七海が口にすれば、漸くちはるは七海の方に顔を向けたー真っ直ぐな目は、今にも涙が溢れそうな程に潤んでいた。
七海と目が合うと、ちはるは慌てて目元を乱暴に拭う。
「…すみません」
「…全てを完璧にこなそうとして挫けてしまうくらいなら、たまには休んだり力を抜いたり、辛い事があったら我慢しないで泣けば良いんです。人間、誰しも常に同じ状態では居られないものでしょう」
七海の言葉に一瞬驚いた顔をしたちはる、その表情は見る見るうちに泣き出しそうなものへと変わっていく。
「っ…」
「…申し訳ありません、余計な事を、」
「違います…!」
予想以上の強い口調に、七海は目を瞬かせた。
「…違うんです…、…っ」
ちはるは必死で涙を堪えようとするが、今まで押し殺してきた感情と涙は簡単に止まりそうになかった。何か言おうにも、言葉にならなかった。
「気が済むまで、泣いて良いですよ。…耳は塞いでいます。我慢する必要はありませんよ」
七海の言葉をキッカケとした様に、ちはるは堰を切ったように泣き始めた。顔を覆って泣く彼女がこんなにも弱々しく儚げに見えたのは初めてで、消えてしまいそうなちはるの背に、七海は思わず手を添えた。
どれくらいそうしていたか、漸くちはるは顔を上げた。子供の様に泣き腫らした顔で、すみませんでした、と恥ずかしそうに言うちはるに愛らしさを覚え、七海は思わず口元に笑みを浮かべた。
「…そろそろ戻りましょうか」
そう言って七海が腕時計を見る。23時を過ぎていた。
ちはるが頷くのを見ると、七海は先程自身が通ったドアを振り返り、ドアを開ける。身体を滑り込ませてドアを閉めると辺りは暗く、蛍光灯の切れかけた非常口の誘導灯だけが頼りなく仄かに光っていた。突然の暗闇に目が慣れず、ちはるが壁を探して手を伸ばした時、何かが手に触れて暖かさを感じた。
「あ、ごめんなさい」
触れたのが七海だと気付き、ちはるが手を引くーその前に七海は彼女の手を優しく捕まえた。
ちはるはそう前置いて、煙草に火を点ける。再び煙草の匂いが強まった。七海は彼女の様子を観察する様に眺めていた。ちはると目が合った。
「…1本いただけますか?」
「っえ、七海さん吸うんですか⁉︎」
「少し興味が沸いただけです」
宜しいですかと七海はちはるの持つポーチを見つめている。ちはるは困った様に笑い、先程ポーチに入れたばかりの煙草の箱とライターを取り出した。小さな箱から煙草を1本摘んで咥える七海の少々ぎこちない動作に、ちはるは笑みを深くした。
「…火を点ける時に少し吸ってくださいね」
ちはるが翳したライターの炎に、七海は煙草を近づける。フィルターを通して流れ込んでくる空気に突然肺を掴まれた様な感覚に、七海は少し咳き込んだ。
「少しずつ、ゆっくり吸ってください」
言われた通りにゆっくりと煙草を吸う彼を見ながら、自分たちは親や教師に隠れて悪さをする学生に戻った気分だとちはるは自身の煙草を口にした。2人は並んで手摺に凭れ、話をするでもなく煙草を吸った。
「…私の術式の話」
煙草の火を消すのはどれくらい吸ってからだろうかとタイミングを考えていた七海は、ちはるが差し出してきた携帯灰皿に煙草を押し込んだ。
「前に話した事、覚えてますか?」
「…えぇ、勿論です」
「…祓除向きじゃないんですよ。少なくとも、任務には出るべきじゃないと思うんです」
「任務に出る出ないは本人の判断ではないですか?少なくとも水野さんは任務に出て呪いを祓い、その実力を認められて1級に手が届きそうな準1級術師です。…現に術式を持たない日下部さんは1級です。術式がどうというのは関係ない様に思いますよ」
「……」
なんて思い遣りに溢れた言葉だろうーちはるは思わず唇を噛み締めた。先程街で突っかかってきた連中からの仕打ちが脳裏を過ぎる。思わずため息が出ていた。
「…七海さんみたいに、私を肯定してくれる人にもっと早く出会えてたら…、もう少しマシな人間になってたかもしれないですね」
自嘲気味に言うちはるに七海は首を傾げた。
「子供の頃からずっと、自分の存在を肯定してもらった覚えがないんです。…家でも、外でも」
ちはるは指先を焦がしそうな程に短くなっていた煙草に気が付くと、携帯灰皿に押し込んだ。
「…私、中学を卒業してすぐ、実家近くの高専京都校に入学を決めたんです。術師になって、自分の居場所を作りたかった。自分を認めてもらいたかった」
初めて聞くちはるの過去。七海は黙って耳を傾けた。
「…私の家は結構古くから続いてる家みたいなんです。それから、割と近い親戚にかなり目立つ人がいるっていう事もあって、周りはその人しか見てなくて。そんな環境で私が女に生まれた時点で、もう術師としての居場所がないっていうか。…笑っちゃいますよね。男だから女だから、性別がどうっていつの時代の話って」
努めて明るく話しているちはるだが、彼女が長いこと苦労を強いられてきたのが垣間見えた。世間一般ではカビが生えている様な古い仕来たりを押し付けられそれを嫌悪し、そこから抜け出そうとした彼女の意志の強さと努力は並大抵の事ではなかっただろう。
「学校に入ってからは、他の子には見えないものが見えるって事もあって、上手く馴染めなかったし…高専では…、さっきの同期の奴らからは、名前だけの能無し、なんて馬鹿にされて」
「…あまり良い思い出がない、というのは」
「京都の術師から…というか、京都から弾かれた様な人間なんですよ。何処にも居場所がなくて。…本当に全部諦めようと思った時に、東京に行ってみたらどうかって後押ししてくれた人がいて…、もし東京で上手くいかなかったら術師も諦めて全部捨てようと思ってたんです」
今彼女が七海の隣に居るという事は、東京で上手く行き、猪野に出会ったという事なのだろう。その旨を七海が口にすれば、漸くちはるは七海の方に顔を向けたー真っ直ぐな目は、今にも涙が溢れそうな程に潤んでいた。
七海と目が合うと、ちはるは慌てて目元を乱暴に拭う。
「…すみません」
「…全てを完璧にこなそうとして挫けてしまうくらいなら、たまには休んだり力を抜いたり、辛い事があったら我慢しないで泣けば良いんです。人間、誰しも常に同じ状態では居られないものでしょう」
七海の言葉に一瞬驚いた顔をしたちはる、その表情は見る見るうちに泣き出しそうなものへと変わっていく。
「っ…」
「…申し訳ありません、余計な事を、」
「違います…!」
予想以上の強い口調に、七海は目を瞬かせた。
「…違うんです…、…っ」
ちはるは必死で涙を堪えようとするが、今まで押し殺してきた感情と涙は簡単に止まりそうになかった。何か言おうにも、言葉にならなかった。
「気が済むまで、泣いて良いですよ。…耳は塞いでいます。我慢する必要はありませんよ」
七海の言葉をキッカケとした様に、ちはるは堰を切ったように泣き始めた。顔を覆って泣く彼女がこんなにも弱々しく儚げに見えたのは初めてで、消えてしまいそうなちはるの背に、七海は思わず手を添えた。
どれくらいそうしていたか、漸くちはるは顔を上げた。子供の様に泣き腫らした顔で、すみませんでした、と恥ずかしそうに言うちはるに愛らしさを覚え、七海は思わず口元に笑みを浮かべた。
「…そろそろ戻りましょうか」
そう言って七海が腕時計を見る。23時を過ぎていた。
ちはるが頷くのを見ると、七海は先程自身が通ったドアを振り返り、ドアを開ける。身体を滑り込ませてドアを閉めると辺りは暗く、蛍光灯の切れかけた非常口の誘導灯だけが頼りなく仄かに光っていた。突然の暗闇に目が慣れず、ちはるが壁を探して手を伸ばした時、何かが手に触れて暖かさを感じた。
「あ、ごめんなさい」
触れたのが七海だと気付き、ちはるが手を引くーその前に七海は彼女の手を優しく捕まえた。