付かず、離れず
猪野くんの同級生のお名前は?
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コーヒーの香りと沈黙が立ち込める中、ちはるは七海が口を開くのをじっと待っていた。コーヒーをひと口飲んだ七海はちはるを見据えた。
「…先日、私のところに貴女の査定任務への同行依頼が来ました。…五条さんからの話なので、恐らく確定…というか押し通されるでしょう」
「いつですか?」
「それはまだ日程の調整段階らしいので、詳しくはわかりませんが…、いくつか気になる事が」
七海はもう一度コーヒーを飲んだ。
「…猪野くんから聞きましたが、水野さん、貴女は準1級だそうですね?」
「…はい」
七海の質問と声音から、彼が言わんとしている事をちはるは察したようだった。彼女の表情が僅かに曇った様に見える。
「…規定に則れば、準1級の術師は単独任務となるはずです。その事を五条さん、猪野くんに伺いましたが、2人共貴女に関して“訳アリ”だと片付けてしまいまして、私としては非常に納得のいかない話になっています」
七海の言葉を受けたちはるの視線が揺れる。両手で包み込んだマグに落ち着き、そこで初めてコーヒーの存在に気が付いた様にちはるはコーヒーを飲んだ。
「…私の術式…、術式って言える程のものかわかりませんけど、私が物理的に持ち運びが出来たり取り扱いが出来る物に、自分の呪力を籠める事が出来るんです」
例えば、と言ってちはるはペンを手に取って見せる。
「私がこのペンに呪力を籠めれば、即席の呪具が作れます。そうすれば呪力のない人でも呪いを祓う事が出来ます。…例えがペンでは無理がありましたね」
ちはるが照れた様に笑ってみせるも、七海は真剣な表情で彼女を見つめていた。
「私は自分の呪力が自分から離れていても知覚出来てコントロールも出来るんです。自分の呪力を物にマーキングして目印にする事もできますし、マーキングした呪力のコントロールも出来ます…呪力の遠隔操作が出来ると思ってもらった方がわかり易いかもしれません。私の呪力で物を隠すようにして小さな結界も作れますし、呪力をあちこちにマーキングして撹乱も出来ます」
七海は唸った。ちはるの話を信じていないわけではないが、そのような事が出来るのかと半信半疑に陥った。物に呪いを込めて呪具として扱うのは自身もやっているが、自分から離れた呪力を知覚してコントロールするなどー不意にちはるが笑った。
「…あんまり信じてないですね」
「申し訳ありませんが、そのような術式を持つ術師がいるとは聞いた事がないので」
「そうですよね。…けど、そんな感じの術式なので、他の術師が一緒にいると…コントロールが少し乱れる感じで…、術式の安定も兼ねて、単独での任務をお願いしてるんです」
単独任務が行えるだけ準1級、ひいては1級術師の要件は満たしているのではないかと、むしろ単独で任務に出られる術師が多い方が良いに決まっているだろうにと七海は訝しんだ。
「…つまり、五条さんからの話として、単独任務が得意な貴女に他の術師との連携が取れるよう、同行者を連れての実地訓練をしようという事になるのでしょうか?」
「…恐らくは」
どこか他人事のようなちはるの言葉に僅かな引っ掛かりを感じながら、七海は不確実な事は口にするべきではないとコーヒーを飲んだ。ちはる自身訳アリだという事を彼女自身理解しているのだろうかー小さく息を吐いた。
「…それだけの理由で“訳アリ”と片付けてしまうのは少々乱暴な気がします。術式の関係だと言う方が適切だと思いますが」
理路整然と言葉を紡いでいく七海に、ちはるは困った様に笑った。
「…少し、私に時間をくれませんか?…私も、整理したい事があって」
ちはるの、一旦話を収める様な言葉に七海は初めて時計に目を向けた。彼女から部屋に招かれた立場ではあるが、常識的に他人の家にいて良い時間ではない。そこまで気が回らずにいた自分に呆れながらも、七海はカップに残ったコーヒーをひと息に呷ると立ち上がった。
「…遅くまで申し訳ありませんでした」
「いえ、私の方こそ引き留めてしまってすみません」
玄関へ向かう七海を見送る為ちはるは後を追う。
「では、」
「あ」
七海が辞する為、礼を述べようとしたところでちはるが何かを思い出した様に声を上げた。
「すみません、前のタクシー代のお釣りと今日のタクシー代!今払いますから待って!」
何を言い出すかと思えばー七海はちはるを制止した。
「そういうところは意外と猪野くんと似ていますね」
「…え⁈」
「また次回で結構ですよ、お構いなく。…今日は遅くまで失礼しました。お疲れでしょう、ゆっくりお休みください。…あぁ、それから施錠も忘れずに」
ちはるが引き止める間もなく、七海はさっと玄関を滑り出て行った。突如として部屋に耳の痛むくらいの静寂が満たされる。ちはるは思い出したようにドアの施錠をすると、リビングへと戻った。
キッチンで2人分のカップを片付けると、ちはるはそのまま換気扇の下で煙草に火を点けた。ため息と共に煙を吐き出しながら、七海の話を思い出す。頭の切れる人だとはわかっていたが、ここまで鋭く追究されるとは思わなかったー。灰皿へ灰を落とす。
ゆらゆら揺れる煙をぼんやりと眺めながら、ちはるは穴が空いた自身の過去を覗き込んだ。過去はいつだって少しも変わる事なく、いつも同じ表情でちはるを見返してくるー過去は変えられない。
換気扇の音が五月蝿く思えて煙草を灰皿に押し付けた。換気扇のスイッチを切り、リビングの写真を見た。
ちはるは小さく息を吐くと、気持ちを切り替えようとバスルームへ向かう事にした。
「…先日、私のところに貴女の査定任務への同行依頼が来ました。…五条さんからの話なので、恐らく確定…というか押し通されるでしょう」
「いつですか?」
「それはまだ日程の調整段階らしいので、詳しくはわかりませんが…、いくつか気になる事が」
七海はもう一度コーヒーを飲んだ。
「…猪野くんから聞きましたが、水野さん、貴女は準1級だそうですね?」
「…はい」
七海の質問と声音から、彼が言わんとしている事をちはるは察したようだった。彼女の表情が僅かに曇った様に見える。
「…規定に則れば、準1級の術師は単独任務となるはずです。その事を五条さん、猪野くんに伺いましたが、2人共貴女に関して“訳アリ”だと片付けてしまいまして、私としては非常に納得のいかない話になっています」
七海の言葉を受けたちはるの視線が揺れる。両手で包み込んだマグに落ち着き、そこで初めてコーヒーの存在に気が付いた様にちはるはコーヒーを飲んだ。
「…私の術式…、術式って言える程のものかわかりませんけど、私が物理的に持ち運びが出来たり取り扱いが出来る物に、自分の呪力を籠める事が出来るんです」
例えば、と言ってちはるはペンを手に取って見せる。
「私がこのペンに呪力を籠めれば、即席の呪具が作れます。そうすれば呪力のない人でも呪いを祓う事が出来ます。…例えがペンでは無理がありましたね」
ちはるが照れた様に笑ってみせるも、七海は真剣な表情で彼女を見つめていた。
「私は自分の呪力が自分から離れていても知覚出来てコントロールも出来るんです。自分の呪力を物にマーキングして目印にする事もできますし、マーキングした呪力のコントロールも出来ます…呪力の遠隔操作が出来ると思ってもらった方がわかり易いかもしれません。私の呪力で物を隠すようにして小さな結界も作れますし、呪力をあちこちにマーキングして撹乱も出来ます」
七海は唸った。ちはるの話を信じていないわけではないが、そのような事が出来るのかと半信半疑に陥った。物に呪いを込めて呪具として扱うのは自身もやっているが、自分から離れた呪力を知覚してコントロールするなどー不意にちはるが笑った。
「…あんまり信じてないですね」
「申し訳ありませんが、そのような術式を持つ術師がいるとは聞いた事がないので」
「そうですよね。…けど、そんな感じの術式なので、他の術師が一緒にいると…コントロールが少し乱れる感じで…、術式の安定も兼ねて、単独での任務をお願いしてるんです」
単独任務が行えるだけ準1級、ひいては1級術師の要件は満たしているのではないかと、むしろ単独で任務に出られる術師が多い方が良いに決まっているだろうにと七海は訝しんだ。
「…つまり、五条さんからの話として、単独任務が得意な貴女に他の術師との連携が取れるよう、同行者を連れての実地訓練をしようという事になるのでしょうか?」
「…恐らくは」
どこか他人事のようなちはるの言葉に僅かな引っ掛かりを感じながら、七海は不確実な事は口にするべきではないとコーヒーを飲んだ。ちはる自身訳アリだという事を彼女自身理解しているのだろうかー小さく息を吐いた。
「…それだけの理由で“訳アリ”と片付けてしまうのは少々乱暴な気がします。術式の関係だと言う方が適切だと思いますが」
理路整然と言葉を紡いでいく七海に、ちはるは困った様に笑った。
「…少し、私に時間をくれませんか?…私も、整理したい事があって」
ちはるの、一旦話を収める様な言葉に七海は初めて時計に目を向けた。彼女から部屋に招かれた立場ではあるが、常識的に他人の家にいて良い時間ではない。そこまで気が回らずにいた自分に呆れながらも、七海はカップに残ったコーヒーをひと息に呷ると立ち上がった。
「…遅くまで申し訳ありませんでした」
「いえ、私の方こそ引き留めてしまってすみません」
玄関へ向かう七海を見送る為ちはるは後を追う。
「では、」
「あ」
七海が辞する為、礼を述べようとしたところでちはるが何かを思い出した様に声を上げた。
「すみません、前のタクシー代のお釣りと今日のタクシー代!今払いますから待って!」
何を言い出すかと思えばー七海はちはるを制止した。
「そういうところは意外と猪野くんと似ていますね」
「…え⁈」
「また次回で結構ですよ、お構いなく。…今日は遅くまで失礼しました。お疲れでしょう、ゆっくりお休みください。…あぁ、それから施錠も忘れずに」
ちはるが引き止める間もなく、七海はさっと玄関を滑り出て行った。突如として部屋に耳の痛むくらいの静寂が満たされる。ちはるは思い出したようにドアの施錠をすると、リビングへと戻った。
キッチンで2人分のカップを片付けると、ちはるはそのまま換気扇の下で煙草に火を点けた。ため息と共に煙を吐き出しながら、七海の話を思い出す。頭の切れる人だとはわかっていたが、ここまで鋭く追究されるとは思わなかったー。灰皿へ灰を落とす。
ゆらゆら揺れる煙をぼんやりと眺めながら、ちはるは穴が空いた自身の過去を覗き込んだ。過去はいつだって少しも変わる事なく、いつも同じ表情でちはるを見返してくるー過去は変えられない。
換気扇の音が五月蝿く思えて煙草を灰皿に押し付けた。換気扇のスイッチを切り、リビングの写真を見た。
ちはるは小さく息を吐くと、気持ちを切り替えようとバスルームへ向かう事にした。