付かず、離れず
猪野くんの同級生のお名前は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
駅前に出ると、七海はタクシーを止めた。
七海としてはちはる1人でタクシーで帰らせたいところではあったが、マスターに送って行くと言った手前、流石にそれは乱暴過ぎると判断した。
妥協案として共にタクシーに乗り、彼女が帰宅するのを見届けてから自宅に向かうのがベストだと考え、未だ寝惚けている様子のちはるに声を掛け、自宅の住所を運転手に伝えさせる。タクシーはゆっくりと動き出す。
「…すみません、…七海、さん」
「……」
再び寝息を立て始めたちはるに七海はため息を吐いた。タクシーは10分と経たない内に止まる。
仕方なく七海は支払いを済ませると、ちはるの肩を担ぐ様にしてタクシーを降りた。
「水野さん」
「っ!」
一気に覚醒したらしいちはるは慌てて辺りを見回し、状況を察すると再び七海に謝罪した。
「…すみません…、疲れてる時にお酒飲むと、私すぐ寝ちゃうんです…」
「その様ですね。…マスターから伺いました」
「本当にすみません…、これからはこんな事がない様に気を付けます」
深々と頭を下げるちはるに、七海は苦笑した。
「無理はしない事です」
はい、と返事をする彼女に七海は頷いて見せた。
「では、今日はもうゆっくりお休みください」
「あ、七海さん」
まだ何かあるのかと、七海は歩き始めた足を止めて振り返る。ちはるはスッキリした顔をしていた。
「…もしお時間あるなら、ウチでお茶でも飲んで行きませんか?すぐそこなんで」
ちはるの後に従い、彼女の住むアパートの階段を登りながら、どうしてこうなったと七海は自分の意思と行動の不一致に内心ため息を吐いた。
「…どうぞ」
玄関のドアを解錠すると大きく開け、ちはるはあまり広くはない玄関内に滑り込んだ。七海を迎え入れると先立って部屋に入る。
「…ここまでノコノコとついて来た私が言うのも、説得力が全くありませんが」
玄関に立ったままの七海の言葉にちはるは振り返る。
「簡単に異性を部屋に招き入れるのはやめた方がいいと思いますよ」
思いがけない七海の言葉にちはるは笑った。
「大丈夫ですよ、七海さんと猪野っちの事は信用してますから」
ちはるは部屋へ進みながら返事をした。七海は小さくため息を吐くと、お邪魔しますと部屋に足を踏み入れた。
「すみません、ちょっと散らかってまして」
言いながらちはるはテーブルの上に広がった書類をさっと束ねる。高専の学生が提出した書類を持ち帰って採点添削をしているのだろう。
「適当に座って下さい…って、ここしかないですね。どうぞ気にしないで座って下さい」
七海が勧められたのはダイニングテーブルの方だった。
リビングの方にはソファがあるが、2人掛けのものが1台置かれているだけで、なるほど仕方がない。
「何が良いですか?…缶ビール、コーヒー、紅茶…、デカフェもありますよ」
「では、デカフェのコーヒーをお願いします」
七海の言葉に返事をすると、ちはるはコーヒーを淹れる準備を始めた。
キッチンはカウンターの向こう側で、七海が座っている位置からは彼女の様子が見えない。あまり褒められる事ではないとわかっているが、七海は部屋をぐるりと見回した。ちはるは散らかっていると言っていたが、決してその様な事はなく、彼女のさっぱりした性格をそのまま投影したように、物が多過ぎる事もなくすっきりとした部屋だった。目につく大きな物はテレビにソファ、ローテーブル。壁際にはオープンラックが置かれていて、そこには本や細々と物が置かれている。
と、写真立てがひとつ置かれている事が七海の目を引いた。1人の男性が男女2人の背後に立ち、肩を組むように2人に両腕を回している写真だった。その3人は七海もかつて袖を通した高専の制服を身に付けている様に見えた。恐らく女性は学生時代のちはる、その隣には黒のニット帽を被った男性ーすぐに猪野だと気が付いた。そして2人をその胸に抱える様に両腕を広げた男性。少なくとも七海にはその人物に見覚えは無かった。
「お待たせしました」
コーヒーの香りと共にちはるが姿を見せ、マグカップを七海の前に置くと、彼の向かいに座った。
「基本的に人が来る事は無いので、来客用のカップとか、そういう準備がなくてすみません」
「構いません。…いただきます」
マグに淹れられたコーヒーの香りが酔いを醒ましていく感覚を覚えながら、七海は再び写真立てに目を向けた。
「…あれは学生の頃でしょうか」
七海につられてちはるの視線が動く。コーヒーを口元に運びながら、えぇ、とちはるは頷いた。
「学生の頃の写真で、一番気に入ってるんです」
「猪野くんは変わりませんね」
七海の言葉にちはるは笑った。
「良くも悪くも、猪野っちは学生の頃から全然変わってないですね。…少し抜けてるところもあって、わりと乗せられやすくて」
「それは学生の頃からだったんですね」
「でも人懐っこいから、上の人からはすごく可愛がられてて、…よくごはんご馳走してもらったとか、授業の資料貸してもらったとか話してましたね。…高専自体の生徒数が少ないから、上下関係、性別も関係なく関われるのもありますけどね」
七海は高専に入学してすぐ、1つ上の先輩達に呼び出された事を思い出した。同期の灰原と教室に行くと、突然タスキをかけられパーティで使う三角帽子を頭に乗せられ、ワケがわからないまま歓迎された様なー。
「…後ろの男性はどなたですか?」
「…先輩です。この先輩には私も猪野っちも、すごくお世話になって、良くしてもらって」
「今は何を?…お見かけしないようですが」
「…、亡くなりました。…任務で」
「そう、でしたか」
術師が任務に殉ずるのは良くある事で、決して珍しい事ではない。言いようのない申し訳なさというか、なんと表現したらいいかー失礼しました、と七海は口にした。
「…少し、話をしても宜しいですか?」
ちはるは改まった七海の言葉にほんの少しだけ戸惑った様子を見せながらも確りと頷いた。
七海としてはちはる1人でタクシーで帰らせたいところではあったが、マスターに送って行くと言った手前、流石にそれは乱暴過ぎると判断した。
妥協案として共にタクシーに乗り、彼女が帰宅するのを見届けてから自宅に向かうのがベストだと考え、未だ寝惚けている様子のちはるに声を掛け、自宅の住所を運転手に伝えさせる。タクシーはゆっくりと動き出す。
「…すみません、…七海、さん」
「……」
再び寝息を立て始めたちはるに七海はため息を吐いた。タクシーは10分と経たない内に止まる。
仕方なく七海は支払いを済ませると、ちはるの肩を担ぐ様にしてタクシーを降りた。
「水野さん」
「っ!」
一気に覚醒したらしいちはるは慌てて辺りを見回し、状況を察すると再び七海に謝罪した。
「…すみません…、疲れてる時にお酒飲むと、私すぐ寝ちゃうんです…」
「その様ですね。…マスターから伺いました」
「本当にすみません…、これからはこんな事がない様に気を付けます」
深々と頭を下げるちはるに、七海は苦笑した。
「無理はしない事です」
はい、と返事をする彼女に七海は頷いて見せた。
「では、今日はもうゆっくりお休みください」
「あ、七海さん」
まだ何かあるのかと、七海は歩き始めた足を止めて振り返る。ちはるはスッキリした顔をしていた。
「…もしお時間あるなら、ウチでお茶でも飲んで行きませんか?すぐそこなんで」
ちはるの後に従い、彼女の住むアパートの階段を登りながら、どうしてこうなったと七海は自分の意思と行動の不一致に内心ため息を吐いた。
「…どうぞ」
玄関のドアを解錠すると大きく開け、ちはるはあまり広くはない玄関内に滑り込んだ。七海を迎え入れると先立って部屋に入る。
「…ここまでノコノコとついて来た私が言うのも、説得力が全くありませんが」
玄関に立ったままの七海の言葉にちはるは振り返る。
「簡単に異性を部屋に招き入れるのはやめた方がいいと思いますよ」
思いがけない七海の言葉にちはるは笑った。
「大丈夫ですよ、七海さんと猪野っちの事は信用してますから」
ちはるは部屋へ進みながら返事をした。七海は小さくため息を吐くと、お邪魔しますと部屋に足を踏み入れた。
「すみません、ちょっと散らかってまして」
言いながらちはるはテーブルの上に広がった書類をさっと束ねる。高専の学生が提出した書類を持ち帰って採点添削をしているのだろう。
「適当に座って下さい…って、ここしかないですね。どうぞ気にしないで座って下さい」
七海が勧められたのはダイニングテーブルの方だった。
リビングの方にはソファがあるが、2人掛けのものが1台置かれているだけで、なるほど仕方がない。
「何が良いですか?…缶ビール、コーヒー、紅茶…、デカフェもありますよ」
「では、デカフェのコーヒーをお願いします」
七海の言葉に返事をすると、ちはるはコーヒーを淹れる準備を始めた。
キッチンはカウンターの向こう側で、七海が座っている位置からは彼女の様子が見えない。あまり褒められる事ではないとわかっているが、七海は部屋をぐるりと見回した。ちはるは散らかっていると言っていたが、決してその様な事はなく、彼女のさっぱりした性格をそのまま投影したように、物が多過ぎる事もなくすっきりとした部屋だった。目につく大きな物はテレビにソファ、ローテーブル。壁際にはオープンラックが置かれていて、そこには本や細々と物が置かれている。
と、写真立てがひとつ置かれている事が七海の目を引いた。1人の男性が男女2人の背後に立ち、肩を組むように2人に両腕を回している写真だった。その3人は七海もかつて袖を通した高専の制服を身に付けている様に見えた。恐らく女性は学生時代のちはる、その隣には黒のニット帽を被った男性ーすぐに猪野だと気が付いた。そして2人をその胸に抱える様に両腕を広げた男性。少なくとも七海にはその人物に見覚えは無かった。
「お待たせしました」
コーヒーの香りと共にちはるが姿を見せ、マグカップを七海の前に置くと、彼の向かいに座った。
「基本的に人が来る事は無いので、来客用のカップとか、そういう準備がなくてすみません」
「構いません。…いただきます」
マグに淹れられたコーヒーの香りが酔いを醒ましていく感覚を覚えながら、七海は再び写真立てに目を向けた。
「…あれは学生の頃でしょうか」
七海につられてちはるの視線が動く。コーヒーを口元に運びながら、えぇ、とちはるは頷いた。
「学生の頃の写真で、一番気に入ってるんです」
「猪野くんは変わりませんね」
七海の言葉にちはるは笑った。
「良くも悪くも、猪野っちは学生の頃から全然変わってないですね。…少し抜けてるところもあって、わりと乗せられやすくて」
「それは学生の頃からだったんですね」
「でも人懐っこいから、上の人からはすごく可愛がられてて、…よくごはんご馳走してもらったとか、授業の資料貸してもらったとか話してましたね。…高専自体の生徒数が少ないから、上下関係、性別も関係なく関われるのもありますけどね」
七海は高専に入学してすぐ、1つ上の先輩達に呼び出された事を思い出した。同期の灰原と教室に行くと、突然タスキをかけられパーティで使う三角帽子を頭に乗せられ、ワケがわからないまま歓迎された様なー。
「…後ろの男性はどなたですか?」
「…先輩です。この先輩には私も猪野っちも、すごくお世話になって、良くしてもらって」
「今は何を?…お見かけしないようですが」
「…、亡くなりました。…任務で」
「そう、でしたか」
術師が任務に殉ずるのは良くある事で、決して珍しい事ではない。言いようのない申し訳なさというか、なんと表現したらいいかー失礼しました、と七海は口にした。
「…少し、話をしても宜しいですか?」
ちはるは改まった七海の言葉にほんの少しだけ戸惑った様子を見せながらも確りと頷いた。