付かず、離れず
猪野くんの同級生のお名前は?
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「…で、どーしたんすか?五条サン、内緒話〜なんて言ってましたけど…?」
任務終わりの1杯は格別となるはずが、この日はとてもそのように味わえそうもなく、七海は最初のビールを口にした。創作料理の店にやって来た2人は小上がりに通され、七海はお通しに出されたきゅうりとささみの和え物を一瞥し、向かいに座る猪野を見る。
「…水野さんが今度1級の査定任務に出るそうで、その引率依頼についての話でした」
「…そーなんすか…?」
猪野は小気味良い音を立ててきゅうりを咀嚼していた。
「…猪野くん、彼女は準1級だと言っていましたね?」
「えぇ、日下部サンが」
「…準1級の術師は引率を必要としません。そもそも準1級の認定を受ける前に1級術師と任務に出て、その際に適正をチェックされます。そこで適正が認められれば準1級術師となり、以降は単独で1級相当の任務に当たる事になります」
「…え、それだとおかしくないっすか?」
「おかしいんです。なので君に確認を」
言い淀む事なく事情を説明する七海に頷きながら、猪野は難しい顔をして生ビールのジョッキを見つめていた。
「…日下部サン、前にちはるが“1級の適正チェックの任務に出る”って言ってました。…あいつは準1級だ、とも。間違いねぇっす」
猪野の言葉を飲み込む様に、七海はビールを喉に流し込む。やはりちはるは何某かの事情を抱え、それに高専東京校の教員が一枚噛んでいるのだろうと結論付けた。否、それにしても。七海はため息を吐いた。
「…学生の頃からっすけど、アイツ結構訳アリで」
五条と同じー彼女は訳アリだとー理由を口にする猪野の呟きに七海は食い付いた。
「どの様な訳アリで?具体的にお話頂けると助かりますが。…五条さんからの話も恐らく避けられないでしょうからね、私としても最低限の情報は欲しい」
しまった、と猪野が思っても遅かった。七海はじっとりと唸る猪野を見つめている。
「…ちはるの個人的な事情も気持ちも知ってる以上、俺から七海サンに全部話すのは出来ませんけど…、あんま問題無さそうな事なら、」
「何でも構いません、助かります」
猪野はジョッキをひと息に呷ると、追加を注文した。
「…俺とちはるは同期ですけど、歳はアイツの方が1つ上なんすよ、実は。ちはるの家は関西圏で、最初は京都校に通ってたんです。向こうに1年通ったけど、事情あって東京校に1年から入り直したって」
「…留年、という事ですか?」
「ん〜まぁ留年っちゃ留年ですよね。あ、でもアイツの名誉の為に言っときますけど、ちはるが馬鹿とか、そーいうんじゃないっすからね?」
「彼女が聡明な女性だという事は理解しています」
「……」
半ば食い気味に言う七海に、猪野は思わず口を噤んだ。今の七海の反応からは、ちはるを擁護している様にも取れるし、そう言う事を聞きたいんじゃないという様にも取れる。猪野は話す事を間違えたかもしれないと頭をフル回転させていた。
「…直接、彼女に聞いた方が良いという事がわかりました。困らせてしまいましたね、申し訳ありません」
猪野は慌てて首を振った。と、猪野は七海の言葉を反芻し、目を瞬かせた。
「七海サン!そーっすよ!!」
「何ですか急に。他の方に迷惑ですよ」
嗜められ、猪野は周囲にすんません、と声をかけると七海に向き直った。
「こないだちはるから聞きましたけど!七海サン、ちはると連絡先交換したらしいじゃないっすか!」
テーブルに届いたばかりの刺身を醤油につけた七海は、あぁ、と事も無げに返事をして口に運ぶ。
「いつの間にって感じなんすけど⁉︎」
「…彼女と連絡先を交換するように勧めてきたのは君ですよ。…覚えていませんか?」
「え…えぇ⁉︎」
七海はもう一切れの刺身に手を伸ばす。
「初めて彼女を交えて飲んだ時以来、君は酔う度に何度も私に言っていましたよ。…ご丁寧に、不慣れな私に聞き方まで指南してくれました」
猪野の顔がみるみる青ざめていく。そんな彼を気にする事なく、七海は2杯目のビールを注文した。
「いずれにせよ、結果的に良かったのではないかと思っていますよ。…君もそう気にせずに」
猪野は両手で顔を覆い、ズルズルと倒れ込んだ。
「すんません七海サン…」
「ここは私が持ちますよ、美味い物を好きなだけ食べて気分良く帰りましょう」
七海と2人で飲みに行って以来、ちはるはとても気分が軽くなったのを実感していた。それは周囲にも伝わっていた様で、出勤してきた彼女を見て、以前ちはるを揶揄った日下部も彼女の変わり様に驚きを見せた。
「随分スッキリした顔してるな。…フラれたのか?」
「…何の話ですか?」
七海の意図がわからない内はアレコレと無駄に考え、自分にとっての嫌な予感が的中してしまったらどうしようなどと気に病んでいた。が、実際のところ蓋を開けてみれば、互いに同じ様な事を思っていた様で、ちはるにとってはこの上なく良い結果となった。これで何も気にする事なく、猪野と同じ様に七海と付き合う事が出来る。
ちはるは自分の目の前の事に向き合うのに精一杯だった。強い術師を目指しているちはるにとって、七海は良きアドバイザーになるだろう事を猪野から聞いて考えていた。自分が守られる側ではなく守る側になる事、4年前の無力な自分とは違うという事を自分の自信へと繋げ、誰へとも無く証明したかった。
「すみません水野さん…、急で申し訳ありませんが、こちらの任務をお願い出来ますか?」
「日下部さんどうですか?」
「馬鹿野郎」
ちはるは笑いながら伊地知の下へと向かった。
任務終わりの1杯は格別となるはずが、この日はとてもそのように味わえそうもなく、七海は最初のビールを口にした。創作料理の店にやって来た2人は小上がりに通され、七海はお通しに出されたきゅうりとささみの和え物を一瞥し、向かいに座る猪野を見る。
「…水野さんが今度1級の査定任務に出るそうで、その引率依頼についての話でした」
「…そーなんすか…?」
猪野は小気味良い音を立ててきゅうりを咀嚼していた。
「…猪野くん、彼女は準1級だと言っていましたね?」
「えぇ、日下部サンが」
「…準1級の術師は引率を必要としません。そもそも準1級の認定を受ける前に1級術師と任務に出て、その際に適正をチェックされます。そこで適正が認められれば準1級術師となり、以降は単独で1級相当の任務に当たる事になります」
「…え、それだとおかしくないっすか?」
「おかしいんです。なので君に確認を」
言い淀む事なく事情を説明する七海に頷きながら、猪野は難しい顔をして生ビールのジョッキを見つめていた。
「…日下部サン、前にちはるが“1級の適正チェックの任務に出る”って言ってました。…あいつは準1級だ、とも。間違いねぇっす」
猪野の言葉を飲み込む様に、七海はビールを喉に流し込む。やはりちはるは何某かの事情を抱え、それに高専東京校の教員が一枚噛んでいるのだろうと結論付けた。否、それにしても。七海はため息を吐いた。
「…学生の頃からっすけど、アイツ結構訳アリで」
五条と同じー彼女は訳アリだとー理由を口にする猪野の呟きに七海は食い付いた。
「どの様な訳アリで?具体的にお話頂けると助かりますが。…五条さんからの話も恐らく避けられないでしょうからね、私としても最低限の情報は欲しい」
しまった、と猪野が思っても遅かった。七海はじっとりと唸る猪野を見つめている。
「…ちはるの個人的な事情も気持ちも知ってる以上、俺から七海サンに全部話すのは出来ませんけど…、あんま問題無さそうな事なら、」
「何でも構いません、助かります」
猪野はジョッキをひと息に呷ると、追加を注文した。
「…俺とちはるは同期ですけど、歳はアイツの方が1つ上なんすよ、実は。ちはるの家は関西圏で、最初は京都校に通ってたんです。向こうに1年通ったけど、事情あって東京校に1年から入り直したって」
「…留年、という事ですか?」
「ん〜まぁ留年っちゃ留年ですよね。あ、でもアイツの名誉の為に言っときますけど、ちはるが馬鹿とか、そーいうんじゃないっすからね?」
「彼女が聡明な女性だという事は理解しています」
「……」
半ば食い気味に言う七海に、猪野は思わず口を噤んだ。今の七海の反応からは、ちはるを擁護している様にも取れるし、そう言う事を聞きたいんじゃないという様にも取れる。猪野は話す事を間違えたかもしれないと頭をフル回転させていた。
「…直接、彼女に聞いた方が良いという事がわかりました。困らせてしまいましたね、申し訳ありません」
猪野は慌てて首を振った。と、猪野は七海の言葉を反芻し、目を瞬かせた。
「七海サン!そーっすよ!!」
「何ですか急に。他の方に迷惑ですよ」
嗜められ、猪野は周囲にすんません、と声をかけると七海に向き直った。
「こないだちはるから聞きましたけど!七海サン、ちはると連絡先交換したらしいじゃないっすか!」
テーブルに届いたばかりの刺身を醤油につけた七海は、あぁ、と事も無げに返事をして口に運ぶ。
「いつの間にって感じなんすけど⁉︎」
「…彼女と連絡先を交換するように勧めてきたのは君ですよ。…覚えていませんか?」
「え…えぇ⁉︎」
七海はもう一切れの刺身に手を伸ばす。
「初めて彼女を交えて飲んだ時以来、君は酔う度に何度も私に言っていましたよ。…ご丁寧に、不慣れな私に聞き方まで指南してくれました」
猪野の顔がみるみる青ざめていく。そんな彼を気にする事なく、七海は2杯目のビールを注文した。
「いずれにせよ、結果的に良かったのではないかと思っていますよ。…君もそう気にせずに」
猪野は両手で顔を覆い、ズルズルと倒れ込んだ。
「すんません七海サン…」
「ここは私が持ちますよ、美味い物を好きなだけ食べて気分良く帰りましょう」
七海と2人で飲みに行って以来、ちはるはとても気分が軽くなったのを実感していた。それは周囲にも伝わっていた様で、出勤してきた彼女を見て、以前ちはるを揶揄った日下部も彼女の変わり様に驚きを見せた。
「随分スッキリした顔してるな。…フラれたのか?」
「…何の話ですか?」
七海の意図がわからない内はアレコレと無駄に考え、自分にとっての嫌な予感が的中してしまったらどうしようなどと気に病んでいた。が、実際のところ蓋を開けてみれば、互いに同じ様な事を思っていた様で、ちはるにとってはこの上なく良い結果となった。これで何も気にする事なく、猪野と同じ様に七海と付き合う事が出来る。
ちはるは自分の目の前の事に向き合うのに精一杯だった。強い術師を目指しているちはるにとって、七海は良きアドバイザーになるだろう事を猪野から聞いて考えていた。自分が守られる側ではなく守る側になる事、4年前の無力な自分とは違うという事を自分の自信へと繋げ、誰へとも無く証明したかった。
「すみません水野さん…、急で申し訳ありませんが、こちらの任務をお願い出来ますか?」
「日下部さんどうですか?」
「馬鹿野郎」
ちはるは笑いながら伊地知の下へと向かった。