wanderers
猪野くんの同級生のお名前は?
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時間はいつもと同じリズムを刻む。
誰にでも平等に流れる時間、この日は金曜日。
時計で時刻を確認するー18:50、予約の10分前。七海は予約した店の最寄駅に居た。待ち合わせというワケではなく、予約した時間まで、なんとなく時間を潰しているようなものだ。18:55になったら店に向かおう、そう決めて、ぼんやりと雑踏を眺める。さすが金曜日の夜、駅前の居酒屋は賑わっていた。楽しそうに様々な人々が往来している。ちらり、と時計を見る。18:53。
「…、七海、さん?」
訝しむようなトーンの声に名を呼ばれ、七海は振り返る。いつもの姿とはかけ離れた装いのちはるに、七海はほんの一瞬だけ動きを止めた。
「…もうお店に行っているのかと、」
「少々わかりにくい場所の店なので、もし迷うような事があったらいけないと思いまして」
とりあえず参りましょうか、と七海は先立って歩き出した。遅れないようにちはるも足早に後を追う。
「…ここで会えたのは偶然です」
淡々と愛想の無い事を言っているが、猪野が言っていたように、七海は細やかな気遣いが出来る人なんだなとちはるは実感した。そういえば歩く速さも合わせてくれているータイトスカートにヒールのある靴を履いていたちはるはなるほど確かに紳士だなと内心頷いた。
「予約していた七海です」
店に着けばスムーズに席へ案内され、通された先は半個室のテーブル席だった。先日の電話で尋ねたちはるの好み等を考えて七海が選んだのは創作和食で、ネット上での口コミ通り上品で落ち着いた店だった。そして半個室というチョイスも流石七海と言えた。初めて2人だけでの食事となれば誰だって萎縮したり身構えるのを見越しての事だろう。店内の空気を感じられる中、メニューを眺めながらちはるは感心した。
「何を飲みますか?」
「…、生ビールでお願いします」
店員を呼び、七海は生ビールを2つオーダーする。
「料理はどうしましょうか」
メニューと睨めっこをしているちはるに七海が声をかける。メニューに並ぶ文字からどんな料理か想像し難いものもあり、ちはるは唸った。
「差し支えなければ私の方で見繕っても宜しいですか」
七海からの提案を有り難く思ったちはるは料理のチョイスを彼に一任した。生ビールとお通しを運んで来た店員に七海は手際よくオーダーし、あまり聞き慣れない単語を復唱した店員を見送った。
「お疲れ様です」
2人は生ビールのジョッキをかち合わせた。ちはるがはぁっと息を吐くと、七海と目が合った。
「今日は忙しかったですか?」
「えぇと…、午前中に学生の引率と、午後からは、…実技がありまして」
席のすぐ側を通る人影に気を遣い、ちはるは言葉を選んで話していく。誰も聞き耳を立てていないだろうにと思うが、これはもうちはるの癖のようなものだった。
「…学生の頃を思えば、あそこの教員は本当に大変だと思います。自分でも外に出なくてはいけないのに、学生の面倒も見なくてはいけない訳ですからね」
「業務にもだいぶ慣れてきたので…、漸くやり甲斐、というか…、少し楽しくなってきましたよ。学生も良い子が多いので」
ちはるはお通しのマカロニサラダを食べ、七海はビールを飲む。少しの間が空いて、七海が口を開く。
「…業務とは別に、何かと苦労や面倒がありそうですが…、特に同僚に」
何処となく含んだ七海の言葉にちはるが聞き返そうとした時、店員が料理を運んで来た。七海がオーダーした料理が次々と並ぶ。
「…どういう意味、ですか?」
「特に深い意味はありません。ただ、大きな子供がいるのではないかと思いまして」
サラダやフライをテーブルに並べ終えた店員がごゆっくりどうぞ、と下がっていった。並んだ料理を眺めながら、ちはるは七海の言葉を考える。
「…五条さん、ですね」
七海は何も言わずにビールを口にした。
「伊地知さんがかなり苦労している様ですが…、今のところ問題はないかと…?」
「そうですか、それは良かった」
言いながら七海は注文した料理に手を伸ばす。
「…コレ何ですか?」
七海が取り分けている料理がちはるの目を引く。茶色いグラタンの様にも見えるそれをバゲットに乗せている。
「コキール…、マカロニのないグラタンみたいなものです。今日頼んだのは蟹味噌ベースのもので、バゲットに乗せて食べると絶品ですよ」
そう言ってバゲットに齧り付く七海。ちはるも彼を真似てバゲットにコキールを乗せる。
「…!美味しい…!」
「気に入ってもらえて光栄です」
アルコールも入り、少しずつ緊張が解けてきた様子のちはる。酒や料理を堪能しながら、七海との会話を楽しむ余裕も出てきた。休みの日の過ごし方や猪野の話、2人とも自炊しているという事から料理の話など、話題には事欠かなかった。あっという間に時間は過ぎていった。
「…そろそろ出ましょうか」
21時を回り、来店時よりも騒がしくなってきた店内に気が付いた七海が口を開いた。彼に同調し、ちはるが伝票に手を伸ばすも、七海の方が早く伝票を掴む。
「私が持ちます。…先日、ご馳走になりましたので」
そのまま七海はさっと立ち上がり、ちはるより早く席を離れて会計へと向かう。ちはるは慌てて後を追うも、既に会計の済んだ後だった。ありがとうございました、という店員の声を背に受けながら2人は店を出た。
誰にでも平等に流れる時間、この日は金曜日。
時計で時刻を確認するー18:50、予約の10分前。七海は予約した店の最寄駅に居た。待ち合わせというワケではなく、予約した時間まで、なんとなく時間を潰しているようなものだ。18:55になったら店に向かおう、そう決めて、ぼんやりと雑踏を眺める。さすが金曜日の夜、駅前の居酒屋は賑わっていた。楽しそうに様々な人々が往来している。ちらり、と時計を見る。18:53。
「…、七海、さん?」
訝しむようなトーンの声に名を呼ばれ、七海は振り返る。いつもの姿とはかけ離れた装いのちはるに、七海はほんの一瞬だけ動きを止めた。
「…もうお店に行っているのかと、」
「少々わかりにくい場所の店なので、もし迷うような事があったらいけないと思いまして」
とりあえず参りましょうか、と七海は先立って歩き出した。遅れないようにちはるも足早に後を追う。
「…ここで会えたのは偶然です」
淡々と愛想の無い事を言っているが、猪野が言っていたように、七海は細やかな気遣いが出来る人なんだなとちはるは実感した。そういえば歩く速さも合わせてくれているータイトスカートにヒールのある靴を履いていたちはるはなるほど確かに紳士だなと内心頷いた。
「予約していた七海です」
店に着けばスムーズに席へ案内され、通された先は半個室のテーブル席だった。先日の電話で尋ねたちはるの好み等を考えて七海が選んだのは創作和食で、ネット上での口コミ通り上品で落ち着いた店だった。そして半個室というチョイスも流石七海と言えた。初めて2人だけでの食事となれば誰だって萎縮したり身構えるのを見越しての事だろう。店内の空気を感じられる中、メニューを眺めながらちはるは感心した。
「何を飲みますか?」
「…、生ビールでお願いします」
店員を呼び、七海は生ビールを2つオーダーする。
「料理はどうしましょうか」
メニューと睨めっこをしているちはるに七海が声をかける。メニューに並ぶ文字からどんな料理か想像し難いものもあり、ちはるは唸った。
「差し支えなければ私の方で見繕っても宜しいですか」
七海からの提案を有り難く思ったちはるは料理のチョイスを彼に一任した。生ビールとお通しを運んで来た店員に七海は手際よくオーダーし、あまり聞き慣れない単語を復唱した店員を見送った。
「お疲れ様です」
2人は生ビールのジョッキをかち合わせた。ちはるがはぁっと息を吐くと、七海と目が合った。
「今日は忙しかったですか?」
「えぇと…、午前中に学生の引率と、午後からは、…実技がありまして」
席のすぐ側を通る人影に気を遣い、ちはるは言葉を選んで話していく。誰も聞き耳を立てていないだろうにと思うが、これはもうちはるの癖のようなものだった。
「…学生の頃を思えば、あそこの教員は本当に大変だと思います。自分でも外に出なくてはいけないのに、学生の面倒も見なくてはいけない訳ですからね」
「業務にもだいぶ慣れてきたので…、漸くやり甲斐、というか…、少し楽しくなってきましたよ。学生も良い子が多いので」
ちはるはお通しのマカロニサラダを食べ、七海はビールを飲む。少しの間が空いて、七海が口を開く。
「…業務とは別に、何かと苦労や面倒がありそうですが…、特に同僚に」
何処となく含んだ七海の言葉にちはるが聞き返そうとした時、店員が料理を運んで来た。七海がオーダーした料理が次々と並ぶ。
「…どういう意味、ですか?」
「特に深い意味はありません。ただ、大きな子供がいるのではないかと思いまして」
サラダやフライをテーブルに並べ終えた店員がごゆっくりどうぞ、と下がっていった。並んだ料理を眺めながら、ちはるは七海の言葉を考える。
「…五条さん、ですね」
七海は何も言わずにビールを口にした。
「伊地知さんがかなり苦労している様ですが…、今のところ問題はないかと…?」
「そうですか、それは良かった」
言いながら七海は注文した料理に手を伸ばす。
「…コレ何ですか?」
七海が取り分けている料理がちはるの目を引く。茶色いグラタンの様にも見えるそれをバゲットに乗せている。
「コキール…、マカロニのないグラタンみたいなものです。今日頼んだのは蟹味噌ベースのもので、バゲットに乗せて食べると絶品ですよ」
そう言ってバゲットに齧り付く七海。ちはるも彼を真似てバゲットにコキールを乗せる。
「…!美味しい…!」
「気に入ってもらえて光栄です」
アルコールも入り、少しずつ緊張が解けてきた様子のちはる。酒や料理を堪能しながら、七海との会話を楽しむ余裕も出てきた。休みの日の過ごし方や猪野の話、2人とも自炊しているという事から料理の話など、話題には事欠かなかった。あっという間に時間は過ぎていった。
「…そろそろ出ましょうか」
21時を回り、来店時よりも騒がしくなってきた店内に気が付いた七海が口を開いた。彼に同調し、ちはるが伝票に手を伸ばすも、七海の方が早く伝票を掴む。
「私が持ちます。…先日、ご馳走になりましたので」
そのまま七海はさっと立ち上がり、ちはるより早く席を離れて会計へと向かう。ちはるは慌てて後を追うも、既に会計の済んだ後だった。ありがとうございました、という店員の声を背に受けながら2人は店を出た。
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