wanderers
猪野くんの同級生のお名前は?
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水曜日の午後。なんとなく落ち着かない気持ちを抱えながら、ちはるは与えられた業務をこなしていく。午前中は学生の任務の引率、戻ってきてからは報告書の指導・添削、直近の自身の任務概要の確認、そして体術実技。
スマホは朝からデスクの引き出しに入れっぱなしにしておいた。身につけていたり、目に入るところにあれば気になるのは明白。そして目に入るところになくても多少なりとも気にはなっている現状。
「おい水野」
実技の合間、休憩時間に名を呼ばれた。不機嫌そうな声の主は、ちはるが今実技鍛錬の相手をしている学生達の担任、日下部だった。何となく嫌な予感を覚えながらも振り返ると、声だけでなく顔も不機嫌な日下部が棒付きキャンディを咥えながらちはるを睨んでいた。
「…ど、うしましたか」
「どーしたじゃねぇよ。学生相手だからって手ェ抜くんじゃねぇよ。学生相手だからこそ本気でやれよな」
手を抜いているつもりは無い。が、気持ちも全面的に実技に向いているかというと、正直なところイエスとは言い難いのも事実だ。
「…、…すみません…」
「…男か?」
日下部の顔と普段の自身に対する態度からは意外過ぎる言葉にちはるは驚いた。
「はっ⁈…っ違います、何言ってるんですか⁉︎」
思った以上に大きな声が出ていたようで、すぐ側で休んでいた学生たちが興味深くちはるを見ていた。人懐っこい学生が声を上げる。
「え〜っ、ちはるさん彼氏いるの⁉︎」
「マジ⁉︎初耳なんだけど⁉︎」
「日下部さん部外者がいます」
学生と教員しかいないはずの校庭に黒ずくめに黒いニット帽が紛れ込んでいるー見慣れぬ風貌に警戒した女子生徒はちはるの後ろに身を隠していた。
「猪野じゃねぇか、何してんだ」
「お疲れ様っす。…任務終わってブラついてたら、鍛錬の様子が見えたんで来ちゃいました」
「…ちはるさん、知り合い?」
「あー、私の同期」
「怪しいモンじゃねぇから安心してよ」
警戒を解いた学生の様子を見て日下部は休憩終わり、鍛錬再開、と声を上げた。学生たちは黙って指示に従い、猪野が来る前の空気に戻っていく。
鍛錬を再開したちはると学生を眺める日下部の隣に並んで猪野も鍛錬の様子を眺めていた。
「…オメーもそろそろ昇級考えたらどうなんだよ?水野もまた近々任務に出るぜ?」
「イヤ〜俺は七海サンからの推薦しか受けないつもりなんで。…俺なりの筋の通し方っつーか。ていうか任務に出るって、準1級の?」
「バァカ、1級への適正チェックだよ」
「ハァ⁉︎なんすかそれ、嘘でしょ⁉︎」
「アイツはもう準1級だぜ?」
「ちょっとちはる!俺聞いてないけどぉ!」
「……」
遠くで騒ぎ立てる同期に苛立ちを覚えながら、ちはるはその日の体術実技の授業を終えた。
どうにか無事1日の業務を終え、時計を見れば19時半を回っていた。残っている事務員の数も少なく、そろそろ帰り支度をするかとちはるは大きく伸びをすると、今日1日デスクに閉じ込めておいたスマホを取り出した。
ディスプレイをタップすれば、メッセージアプリや電話、メールの着信を伝える表示がずらっと並んでいる。メッセージアプリはきっと広告関係ーチェックは後回し。電話は猪野から数回、直近のもので1時間くらい前だった。折り返しをしようか悩みながらメールのチェック。アドレスに来ているものと、電話番号に来ているものがありーちはるはスマホを手に席を立つ。
誰も他人のスマホを覗く者は居ないとわかっているが、ちはるはトイレの個室へ入った。
ドアに寄りかかってひと呼吸置いて、番号に届いたメールを見るー七海からのものだった。
開封して見てみれば、金曜日は19時にこの店を予約しました、と短い文章にURLが添付されていた。
迷わずそれを開けば、なかなかハイクラスの創作和食の店。店の名前をネットで調べてみれば、きっちりしたドレスコードはないものの、それなりに整った服装が良いだろうということがわかった。
ー仕方ない。買いに行くか。
割とラフな服装を好むちはる、スカートを履いたのはいつ以来だろうか。この機会に新しいものを買ったって問題ないし、むしろこういう事がないと買わない。帰りにアパレルショップを見て回ろうとトイレを出た。
デスクに戻り、荷物をまとめて車に向かう途中、猪野に折り返してみると、彼はまだ高専内にいるらしく食事に行こうぜと言い出した。
「悪いけど買い物して帰るからさ」
『いや、全然アリだけど。なんなら買い物付き合うし』
「……」
「おっ、お疲れ」
愛車の前にスマホを手にニッコリ笑う猪野の姿。ちはるはため息を吐いて通話を切った。
「…もしかしてずっといたの…?」
「いくらなんでもそこまでキモい事はしねぇよ…」
聞けば学生に声をかけられて話し込んでいたらしく、解放されてからちはるがまだ高専に残っているか確認する為に車庫に来たらしい。
「んで、どーすっか…、何食う?」
「私の意見はガン無視なワケ?」
「え、ダメ?」
「……」
ちはるはため息を吐いた。この時間からアパレルショップを回るにしても、時間的に限界はある。今日中に気に入ったものが見つかれば問題ないが、見つからなければまた明日、という事になる。先延ばしは避けたい。
「…たぶん時間かかるよ?」
「別に予定ねぇし?」
ちはるは再びため息を吐く。車のロックを解錠し、奢ってもらうからね、と車に乗り込んだ。
スマホは朝からデスクの引き出しに入れっぱなしにしておいた。身につけていたり、目に入るところにあれば気になるのは明白。そして目に入るところになくても多少なりとも気にはなっている現状。
「おい水野」
実技の合間、休憩時間に名を呼ばれた。不機嫌そうな声の主は、ちはるが今実技鍛錬の相手をしている学生達の担任、日下部だった。何となく嫌な予感を覚えながらも振り返ると、声だけでなく顔も不機嫌な日下部が棒付きキャンディを咥えながらちはるを睨んでいた。
「…ど、うしましたか」
「どーしたじゃねぇよ。学生相手だからって手ェ抜くんじゃねぇよ。学生相手だからこそ本気でやれよな」
手を抜いているつもりは無い。が、気持ちも全面的に実技に向いているかというと、正直なところイエスとは言い難いのも事実だ。
「…、…すみません…」
「…男か?」
日下部の顔と普段の自身に対する態度からは意外過ぎる言葉にちはるは驚いた。
「はっ⁈…っ違います、何言ってるんですか⁉︎」
思った以上に大きな声が出ていたようで、すぐ側で休んでいた学生たちが興味深くちはるを見ていた。人懐っこい学生が声を上げる。
「え〜っ、ちはるさん彼氏いるの⁉︎」
「マジ⁉︎初耳なんだけど⁉︎」
「日下部さん部外者がいます」
学生と教員しかいないはずの校庭に黒ずくめに黒いニット帽が紛れ込んでいるー見慣れぬ風貌に警戒した女子生徒はちはるの後ろに身を隠していた。
「猪野じゃねぇか、何してんだ」
「お疲れ様っす。…任務終わってブラついてたら、鍛錬の様子が見えたんで来ちゃいました」
「…ちはるさん、知り合い?」
「あー、私の同期」
「怪しいモンじゃねぇから安心してよ」
警戒を解いた学生の様子を見て日下部は休憩終わり、鍛錬再開、と声を上げた。学生たちは黙って指示に従い、猪野が来る前の空気に戻っていく。
鍛錬を再開したちはると学生を眺める日下部の隣に並んで猪野も鍛錬の様子を眺めていた。
「…オメーもそろそろ昇級考えたらどうなんだよ?水野もまた近々任務に出るぜ?」
「イヤ〜俺は七海サンからの推薦しか受けないつもりなんで。…俺なりの筋の通し方っつーか。ていうか任務に出るって、準1級の?」
「バァカ、1級への適正チェックだよ」
「ハァ⁉︎なんすかそれ、嘘でしょ⁉︎」
「アイツはもう準1級だぜ?」
「ちょっとちはる!俺聞いてないけどぉ!」
「……」
遠くで騒ぎ立てる同期に苛立ちを覚えながら、ちはるはその日の体術実技の授業を終えた。
どうにか無事1日の業務を終え、時計を見れば19時半を回っていた。残っている事務員の数も少なく、そろそろ帰り支度をするかとちはるは大きく伸びをすると、今日1日デスクに閉じ込めておいたスマホを取り出した。
ディスプレイをタップすれば、メッセージアプリや電話、メールの着信を伝える表示がずらっと並んでいる。メッセージアプリはきっと広告関係ーチェックは後回し。電話は猪野から数回、直近のもので1時間くらい前だった。折り返しをしようか悩みながらメールのチェック。アドレスに来ているものと、電話番号に来ているものがありーちはるはスマホを手に席を立つ。
誰も他人のスマホを覗く者は居ないとわかっているが、ちはるはトイレの個室へ入った。
ドアに寄りかかってひと呼吸置いて、番号に届いたメールを見るー七海からのものだった。
開封して見てみれば、金曜日は19時にこの店を予約しました、と短い文章にURLが添付されていた。
迷わずそれを開けば、なかなかハイクラスの創作和食の店。店の名前をネットで調べてみれば、きっちりしたドレスコードはないものの、それなりに整った服装が良いだろうということがわかった。
ー仕方ない。買いに行くか。
割とラフな服装を好むちはる、スカートを履いたのはいつ以来だろうか。この機会に新しいものを買ったって問題ないし、むしろこういう事がないと買わない。帰りにアパレルショップを見て回ろうとトイレを出た。
デスクに戻り、荷物をまとめて車に向かう途中、猪野に折り返してみると、彼はまだ高専内にいるらしく食事に行こうぜと言い出した。
「悪いけど買い物して帰るからさ」
『いや、全然アリだけど。なんなら買い物付き合うし』
「……」
「おっ、お疲れ」
愛車の前にスマホを手にニッコリ笑う猪野の姿。ちはるはため息を吐いて通話を切った。
「…もしかしてずっといたの…?」
「いくらなんでもそこまでキモい事はしねぇよ…」
聞けば学生に声をかけられて話し込んでいたらしく、解放されてからちはるがまだ高専に残っているか確認する為に車庫に来たらしい。
「んで、どーすっか…、何食う?」
「私の意見はガン無視なワケ?」
「え、ダメ?」
「……」
ちはるはため息を吐いた。この時間からアパレルショップを回るにしても、時間的に限界はある。今日中に気に入ったものが見つかれば問題ないが、見つからなければまた明日、という事になる。先延ばしは避けたい。
「…たぶん時間かかるよ?」
「別に予定ねぇし?」
ちはるは再びため息を吐く。車のロックを解錠し、奢ってもらうからね、と車に乗り込んだ。