wanderers
猪野くんの同級生のお名前は?
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やっと繁忙期が終わったかと実感したのは7月に入ってからだった。もう少し早めに片付いていてもいいだろうにと思っていたちはるはデスクに積もった報告書の山を眺めてため息を吐いた。
本来この報告書の添削をするのは五条のはずだ。クラスを持っている以上、最低限の業務くらいするべきだと思うが、特級術師である彼は任務でも忙しいーというのは高専のほぼ全職員が言い訳だと理解している。理解していても、どうにもならないのもまた然りだ。
祓除の任務が落ち着いたと思えば事務作業ーまぁこれも将来の自分の為と思ってちはるは山に取り掛かった。
「水野さん」
どれくらい書類に向かっていただろうか、名を呼ばれてちはるは顔を上げる。青白い顔に相変わらず目の下のクマが酷い伊地知だった。
「…今日はもうおしまいにしましょう。任務も落ち着いてきた事ですし、今までのようなペースでやっていては身体を壊してしまいます」
その言葉をそっくりそのまま返してやりたい思いを飲み込み、ちはるはそうですねと頷いた。今日は私も早めに帰ろうと思ってるんです、という伊地知の言葉に、ちはるは片付ける手を早める。伊地知を少しでも休ませてあげようと、テキパキと書類をまとめ、帰る準備をする。ちはると同じように帰る準備をしている事務員もいれば、既に帰途についた事務員もいた。
お先に失礼します、と声をかけて事務室を出る。車移動が解禁になり、ちはるは駐車場へ向かう。車に乗り込み、早々にエンジンをかけ車をスタートさせる。時間は19時半、途中で何か買い物をして簡単に食事を済ませようと、自宅方向へ向かった。
時間は20時半を過ぎていた。帰宅したちはるはすぐにシャワーを浴び、買ってきた食事を摘んでいた。退屈を覚えながらも、あまり面白いと思えないバラエティ番組を垂れ流しにするテレビを眺めていた。
これからどうしようか考えながら食器を片付け、冷蔵庫を覗く。買い置きの缶ビールを見つけて手を伸ばす。飲めば良く眠れるかも、などと思ってソファに移動する。
テレビはニュース番組に変わっていて、これまた退屈を覚えながら眺めているとスマホが鳴った。こんな時間に誰だろうかとディスプレイを確認したちはるは飛び上がる程に驚いた。ディスプレイに“七海さん”と表示し、着信を伝え続けるスマホを両手で持ち上げる。心の準備も何もない状態ながら、ちはるは猪野の言葉を思い出し、缶ビールをひと息呷って通話ボタンをタップした。
「…っ、もしもし」
『夜分に失礼します、七海です』
「お疲れ様、です」
変に緊張している自分がなんともカッコ悪いーちはるはソファの上で膝を抱えていた。
『お疲れ様です。突然すみません。今、話をしていても大丈夫ですか?』
ちはるは控えめに、はい、と返事をする。
『だいぶ任務に出る回数も落ち着いてきましたが、水野さんの方は如何ですか?任務以外の事もあって大変ではないですか?』
「っそう、ですね…、…、あの、」
『はい。…どうされました?』
「…、…すみません、その…、電話があまり、得意じゃなくて…、少し、…緊張、していて」
ちはるの言葉に応える代わりに、七海の方で少し空気の揺れるような音が聞こえたーちはるは七海が笑っているのだと気が付いた。
『失礼。…少々意外でしたので』
「そう、ですか?」
『ええ。猪野くんを交えて話している貴女を見ていると、あまり物怖じしない方なのかと思っていたので。それから以前電話した際、そのように感じなかったので』
「…たぶん前は、だいぶ飲んでいたからかと…」
これ以上何と言ったらいいかーちはるが頭をフル回転させて懸命に言葉を探していると、七海があぁ、と何かを思い出したような口ぶりで言葉を紡ぐ。
『私の話し方は直りそうもないので、あまり気になさらないでくださいね』
返事をしたものの、何を話せばいいのかちはるの頭の中は真っ白だった。猪野の言っていた事は十分に理解しているが、理解したからといってすぐ気持ちを切り替えるなんて出来るわけがない。
『ところで水野さん、この後の休みは決まっていますか?差し支えなければ、伺っても宜しいですか』
「え、あ、…、ちょっと、待って下さい」
通勤用のバッグから手帳を取り出してパラパラとめくっていく。何故か少しだけ手が震えていた。
「お待たせしました、…、直近ですと、…今度の土曜日、ですね…その後は水曜日…」
『では、金曜の夜にお時間を頂けませんか?…先日のお礼をしたいと思いまして』
「え、…お礼…?何か、ありましたっけ…?」
『えぇ、いろいろと。水野さん、好きな料理を伺ってもよろしいですか?店を選ぶ参考にしたいので』
何がどうなってこの状況になっているのかを考える事も出来ず、今の自分には選択の余地がないらしいという事にも気付けず、ちはるはただ七海の質問に答えるのに精一杯になっていた。
『それでは水曜までに店を決めておきます。電話番号からのメッセージで場所のお知らせをしますので』
「っ、はい…、ありがとう、ございます…」
『こちらこそありがとうございます。いつも遅くに申し訳ありません。ゆっくりお休みください』
電話が切れ、漸く冷静さを取り戻したちはるは大きく息を吐いて缶ビールを呷った。
自分は何に対して冷静さを欠き、何故あんなにも落ち着きを失ってしまうんだろうかと、自分の肝の小ささに少々落胆しながらも先程の話を思い出す。
「…え、今日何曜日⁉︎」
ちはるは手の中のスマホを確認するー月曜日。
「嘘、今週末じゃん!」
自分の頭の回らなさに再び落胆しながら、約束しちゃったどうしようと変な焦りがちはるを包む。週末にかけて任務の有無や仕事の内容、そして当日の服装をどうしようかー様々な事が頭を巡る。
ちはるは大きくため息を吐いた。もう考えたって仕方ない、腹括って行くしかないー気持ちを切り替え、今日はもう寝てしまおうと、片付けもそこそこにベッドへと飛び込む事にした。
本来この報告書の添削をするのは五条のはずだ。クラスを持っている以上、最低限の業務くらいするべきだと思うが、特級術師である彼は任務でも忙しいーというのは高専のほぼ全職員が言い訳だと理解している。理解していても、どうにもならないのもまた然りだ。
祓除の任務が落ち着いたと思えば事務作業ーまぁこれも将来の自分の為と思ってちはるは山に取り掛かった。
「水野さん」
どれくらい書類に向かっていただろうか、名を呼ばれてちはるは顔を上げる。青白い顔に相変わらず目の下のクマが酷い伊地知だった。
「…今日はもうおしまいにしましょう。任務も落ち着いてきた事ですし、今までのようなペースでやっていては身体を壊してしまいます」
その言葉をそっくりそのまま返してやりたい思いを飲み込み、ちはるはそうですねと頷いた。今日は私も早めに帰ろうと思ってるんです、という伊地知の言葉に、ちはるは片付ける手を早める。伊地知を少しでも休ませてあげようと、テキパキと書類をまとめ、帰る準備をする。ちはると同じように帰る準備をしている事務員もいれば、既に帰途についた事務員もいた。
お先に失礼します、と声をかけて事務室を出る。車移動が解禁になり、ちはるは駐車場へ向かう。車に乗り込み、早々にエンジンをかけ車をスタートさせる。時間は19時半、途中で何か買い物をして簡単に食事を済ませようと、自宅方向へ向かった。
時間は20時半を過ぎていた。帰宅したちはるはすぐにシャワーを浴び、買ってきた食事を摘んでいた。退屈を覚えながらも、あまり面白いと思えないバラエティ番組を垂れ流しにするテレビを眺めていた。
これからどうしようか考えながら食器を片付け、冷蔵庫を覗く。買い置きの缶ビールを見つけて手を伸ばす。飲めば良く眠れるかも、などと思ってソファに移動する。
テレビはニュース番組に変わっていて、これまた退屈を覚えながら眺めているとスマホが鳴った。こんな時間に誰だろうかとディスプレイを確認したちはるは飛び上がる程に驚いた。ディスプレイに“七海さん”と表示し、着信を伝え続けるスマホを両手で持ち上げる。心の準備も何もない状態ながら、ちはるは猪野の言葉を思い出し、缶ビールをひと息呷って通話ボタンをタップした。
「…っ、もしもし」
『夜分に失礼します、七海です』
「お疲れ様、です」
変に緊張している自分がなんともカッコ悪いーちはるはソファの上で膝を抱えていた。
『お疲れ様です。突然すみません。今、話をしていても大丈夫ですか?』
ちはるは控えめに、はい、と返事をする。
『だいぶ任務に出る回数も落ち着いてきましたが、水野さんの方は如何ですか?任務以外の事もあって大変ではないですか?』
「っそう、ですね…、…、あの、」
『はい。…どうされました?』
「…、…すみません、その…、電話があまり、得意じゃなくて…、少し、…緊張、していて」
ちはるの言葉に応える代わりに、七海の方で少し空気の揺れるような音が聞こえたーちはるは七海が笑っているのだと気が付いた。
『失礼。…少々意外でしたので』
「そう、ですか?」
『ええ。猪野くんを交えて話している貴女を見ていると、あまり物怖じしない方なのかと思っていたので。それから以前電話した際、そのように感じなかったので』
「…たぶん前は、だいぶ飲んでいたからかと…」
これ以上何と言ったらいいかーちはるが頭をフル回転させて懸命に言葉を探していると、七海があぁ、と何かを思い出したような口ぶりで言葉を紡ぐ。
『私の話し方は直りそうもないので、あまり気になさらないでくださいね』
返事をしたものの、何を話せばいいのかちはるの頭の中は真っ白だった。猪野の言っていた事は十分に理解しているが、理解したからといってすぐ気持ちを切り替えるなんて出来るわけがない。
『ところで水野さん、この後の休みは決まっていますか?差し支えなければ、伺っても宜しいですか』
「え、あ、…、ちょっと、待って下さい」
通勤用のバッグから手帳を取り出してパラパラとめくっていく。何故か少しだけ手が震えていた。
「お待たせしました、…、直近ですと、…今度の土曜日、ですね…その後は水曜日…」
『では、金曜の夜にお時間を頂けませんか?…先日のお礼をしたいと思いまして』
「え、…お礼…?何か、ありましたっけ…?」
『えぇ、いろいろと。水野さん、好きな料理を伺ってもよろしいですか?店を選ぶ参考にしたいので』
何がどうなってこの状況になっているのかを考える事も出来ず、今の自分には選択の余地がないらしいという事にも気付けず、ちはるはただ七海の質問に答えるのに精一杯になっていた。
『それでは水曜までに店を決めておきます。電話番号からのメッセージで場所のお知らせをしますので』
「っ、はい…、ありがとう、ございます…」
『こちらこそありがとうございます。いつも遅くに申し訳ありません。ゆっくりお休みください』
電話が切れ、漸く冷静さを取り戻したちはるは大きく息を吐いて缶ビールを呷った。
自分は何に対して冷静さを欠き、何故あんなにも落ち着きを失ってしまうんだろうかと、自分の肝の小ささに少々落胆しながらも先程の話を思い出す。
「…え、今日何曜日⁉︎」
ちはるは手の中のスマホを確認するー月曜日。
「嘘、今週末じゃん!」
自分の頭の回らなさに再び落胆しながら、約束しちゃったどうしようと変な焦りがちはるを包む。週末にかけて任務の有無や仕事の内容、そして当日の服装をどうしようかー様々な事が頭を巡る。
ちはるは大きくため息を吐いた。もう考えたって仕方ない、腹括って行くしかないー気持ちを切り替え、今日はもう寝てしまおうと、片付けもそこそこにベッドへと飛び込む事にした。