wanderers
猪野くんの同級生のお名前は?
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「吸っていい?」
煙草の箱を指先でトントンと叩いて示すちはるに猪野は小さくため息を吐いた。
「別にいーけどよ。…辞めてなかったのかよ?」
いつも吸ってるわけじゃないけど、とちはるは火を点けた。焼肉の煙と共に紫煙が立ち上る。
「…可愛い顔してんだから辞めりゃいーのに」
「恋愛対象にならない奴に可愛いは無しでしょ。ていうか喫煙に顔の造形関係ないでしょ」
「ま、そりゃそーだわな。…んで?七海サンとは何があったワケ?」
「何もないよ。むしろ私が聞きたいよ」
ちはるの言葉に猪野は押し黙った。何かを考えているような様子で網の上の肉をひっくり返す。
「…ちはるはどう思ってんの?」
「どうって…」
今度はちはるが押し黙った。手元でゆらゆらと立ち上る紫煙を見つめる。
「…正直なとこ、ハッキリ言っちゃえば嫌」
「じゃあなんで断んなかったんだよ?」
「…成り行きで?…なんか断りにくかったし、私らより年上でしょ?断ったら悪いかなって」
「イイコぶってんじゃねぇよ」
ちはるの理由にもならない理由を猪野が両断した。あまり強い口調で物を言わない猪野の言葉にちはるは驚いて息を飲んだ。真剣な目がちはるを見つめていた。
「嫌だとか何とか言ったって結局のところ、ハッキリ断んなかったちはるが悪いだろ。他人のせいにすんなよ」
ちはるは何も言えなかった。煙草を灰皿に押し付ける。
何も言わない猪野はため息を吐いて、店員にレモンサワー2つ、と声を掛ける。
「…前言わなかったっけ?七海サン、ちはるの事、気にかけてる感じだって。…俺が勝手にそう感じてるだけかもしれねぇけど」
ジョッキを2つ持って来た店員に空いた皿やジョッキを渡す。テーブルの上が少し片付いた。
「…仮に気に掛けてくれてるとしても、私には受け入れられるかわからない」
「ちはる、」
「あっちゃんの事は…、…そう簡単に整理できるもんじゃないの。もう4年経つけど、全然」
猪野はレモンサワーと共に無言を飲み込む。網の上に残された肉は真っ黒に焼け焦げていた。
「…ちはるの話、聞いた上で言うけどさ。…七海サンは変なノリとか軽い気持ちで行動するような人じゃない」
ちはるは煙草に手を伸ばした。
「人の話もしっかり聞いてくれる人だし、周りが言いにくいだろう事もハッキリ言える人なんだよ」
俯きがちにちはるは猪野の言葉に耳を傾けている。
「だからたぶん、ちはると連絡先交換したのも、何かしら理由があると思うんだよ。…タイピンのお礼とかさ」
「その件は私が悪いワケだし、」
「そうかもしれねぇけど、七海サンはそーいう人なんだよ。…七海サンは間違っても人の気持ちを踏み荒らしたり、傷つけるような事をする人じゃない。他人を尊重出来る人。これは胸張って言える」
「それは猪野っちの見解でしょ?もし、」
「もし七海サンがちはるの事を傷つけるような事があったら、俺がちはるの事全力で守るよ、ちはるの事情知ってる人間としてな。…って、んな事ねぇと思うけど」
猪野は豪快に笑ってサワーを飲んだ。そんな彼の様子に、少しだけちはるの気持ちも緩んだ気がした。
「今日の猪野っちカッコ良いじゃん?」
「そりゃちはるは大事な唯一の同期だし?」
猪野は真っ黒に焼け焦げ、半ば炭化した肉を取り除くと、新しく肉を網の上に乗せた。
「まぁ〜いろいろ思うところはあると思うけどさ。七海サン相手にそーいうのは気にする事ねぇと思うよ?」
ちはるは火を点けずに咥えていた煙草に漸く火を点けた。猪野が几帳面に並べた肉に火が通り、少しずつ色が変わっていく。紫煙を吐きながら、気持ちを蝕んでいた蟠りが少しずつ溶けていくような気がした。
「…うん」
「ちはるのこった、いろいろ考えて整理して、すぐにどうこうってワケにゃいかねぇだろうけどさ。なんかあったら俺に言ってよ、愚痴だろうがなんだろうが聞いてやるし、力になるぜ」
いい具合に焼けたぜ、と猪野がちはるの取り皿にどんどん肉を取り分けていく。
「今日はたらふく食って目一杯飲んで、余計な事忘れて寝ちまえよ、俺がオゴってやるからよ!…すんませーん、ハイボール2つ!あとカルビ5人前!」
ちはるは短くなった煙草を灰皿に押し付けた。目の前でせっせと肉を並べる猪野を見て、以前バーのマスターに言われた事を思い出したーもっと人を信じてみたらどうか、少なくともあの2人は絶対に裏切る事はしないはずだと、とても自信を持って言っていた。
猪野の事は信頼している。単純で乗せられやすいところはあるが、それでもしっかり自分を持っていて、人としてとても良いものを持っている。それは学生の頃から変わる事がなくて、自分にないものをたくさん持っている。それが時に眩し過ぎて、自分の陰の部分をこれでもかと突き付けられる事があるが、猪野はいつでもそんなものも吹き飛ばしてしまうパワフルさを持っていて。
「…ホント猪野っちと同期で良かったって思うよ。…前に猪野っちも酔っ払って言ってたけどさ。ありがとね」
「おぉ、俺もちはると同期で良かったぜ」
顔を見合わせて笑い合う。学生の頃から変わらない関係。ちはるは猪野が取り分けてくれた肉を頬張った。
まだまだ食うぞと肉を焼く猪野の気遣いが沁みた。ちはるは信頼する猪野の言葉を信じよう、そう思えば沈んでいた気持ちが軽くなる気がした。
煙草の箱を指先でトントンと叩いて示すちはるに猪野は小さくため息を吐いた。
「別にいーけどよ。…辞めてなかったのかよ?」
いつも吸ってるわけじゃないけど、とちはるは火を点けた。焼肉の煙と共に紫煙が立ち上る。
「…可愛い顔してんだから辞めりゃいーのに」
「恋愛対象にならない奴に可愛いは無しでしょ。ていうか喫煙に顔の造形関係ないでしょ」
「ま、そりゃそーだわな。…んで?七海サンとは何があったワケ?」
「何もないよ。むしろ私が聞きたいよ」
ちはるの言葉に猪野は押し黙った。何かを考えているような様子で網の上の肉をひっくり返す。
「…ちはるはどう思ってんの?」
「どうって…」
今度はちはるが押し黙った。手元でゆらゆらと立ち上る紫煙を見つめる。
「…正直なとこ、ハッキリ言っちゃえば嫌」
「じゃあなんで断んなかったんだよ?」
「…成り行きで?…なんか断りにくかったし、私らより年上でしょ?断ったら悪いかなって」
「イイコぶってんじゃねぇよ」
ちはるの理由にもならない理由を猪野が両断した。あまり強い口調で物を言わない猪野の言葉にちはるは驚いて息を飲んだ。真剣な目がちはるを見つめていた。
「嫌だとか何とか言ったって結局のところ、ハッキリ断んなかったちはるが悪いだろ。他人のせいにすんなよ」
ちはるは何も言えなかった。煙草を灰皿に押し付ける。
何も言わない猪野はため息を吐いて、店員にレモンサワー2つ、と声を掛ける。
「…前言わなかったっけ?七海サン、ちはるの事、気にかけてる感じだって。…俺が勝手にそう感じてるだけかもしれねぇけど」
ジョッキを2つ持って来た店員に空いた皿やジョッキを渡す。テーブルの上が少し片付いた。
「…仮に気に掛けてくれてるとしても、私には受け入れられるかわからない」
「ちはる、」
「あっちゃんの事は…、…そう簡単に整理できるもんじゃないの。もう4年経つけど、全然」
猪野はレモンサワーと共に無言を飲み込む。網の上に残された肉は真っ黒に焼け焦げていた。
「…ちはるの話、聞いた上で言うけどさ。…七海サンは変なノリとか軽い気持ちで行動するような人じゃない」
ちはるは煙草に手を伸ばした。
「人の話もしっかり聞いてくれる人だし、周りが言いにくいだろう事もハッキリ言える人なんだよ」
俯きがちにちはるは猪野の言葉に耳を傾けている。
「だからたぶん、ちはると連絡先交換したのも、何かしら理由があると思うんだよ。…タイピンのお礼とかさ」
「その件は私が悪いワケだし、」
「そうかもしれねぇけど、七海サンはそーいう人なんだよ。…七海サンは間違っても人の気持ちを踏み荒らしたり、傷つけるような事をする人じゃない。他人を尊重出来る人。これは胸張って言える」
「それは猪野っちの見解でしょ?もし、」
「もし七海サンがちはるの事を傷つけるような事があったら、俺がちはるの事全力で守るよ、ちはるの事情知ってる人間としてな。…って、んな事ねぇと思うけど」
猪野は豪快に笑ってサワーを飲んだ。そんな彼の様子に、少しだけちはるの気持ちも緩んだ気がした。
「今日の猪野っちカッコ良いじゃん?」
「そりゃちはるは大事な唯一の同期だし?」
猪野は真っ黒に焼け焦げ、半ば炭化した肉を取り除くと、新しく肉を網の上に乗せた。
「まぁ〜いろいろ思うところはあると思うけどさ。七海サン相手にそーいうのは気にする事ねぇと思うよ?」
ちはるは火を点けずに咥えていた煙草に漸く火を点けた。猪野が几帳面に並べた肉に火が通り、少しずつ色が変わっていく。紫煙を吐きながら、気持ちを蝕んでいた蟠りが少しずつ溶けていくような気がした。
「…うん」
「ちはるのこった、いろいろ考えて整理して、すぐにどうこうってワケにゃいかねぇだろうけどさ。なんかあったら俺に言ってよ、愚痴だろうがなんだろうが聞いてやるし、力になるぜ」
いい具合に焼けたぜ、と猪野がちはるの取り皿にどんどん肉を取り分けていく。
「今日はたらふく食って目一杯飲んで、余計な事忘れて寝ちまえよ、俺がオゴってやるからよ!…すんませーん、ハイボール2つ!あとカルビ5人前!」
ちはるは短くなった煙草を灰皿に押し付けた。目の前でせっせと肉を並べる猪野を見て、以前バーのマスターに言われた事を思い出したーもっと人を信じてみたらどうか、少なくともあの2人は絶対に裏切る事はしないはずだと、とても自信を持って言っていた。
猪野の事は信頼している。単純で乗せられやすいところはあるが、それでもしっかり自分を持っていて、人としてとても良いものを持っている。それは学生の頃から変わる事がなくて、自分にないものをたくさん持っている。それが時に眩し過ぎて、自分の陰の部分をこれでもかと突き付けられる事があるが、猪野はいつでもそんなものも吹き飛ばしてしまうパワフルさを持っていて。
「…ホント猪野っちと同期で良かったって思うよ。…前に猪野っちも酔っ払って言ってたけどさ。ありがとね」
「おぉ、俺もちはると同期で良かったぜ」
顔を見合わせて笑い合う。学生の頃から変わらない関係。ちはるは猪野が取り分けてくれた肉を頬張った。
まだまだ食うぞと肉を焼く猪野の気遣いが沁みた。ちはるは信頼する猪野の言葉を信じよう、そう思えば沈んでいた気持ちが軽くなる気がした。