wanderers
猪野くんの同級生のお名前は?
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忙しさは時間の感覚を奪い、気が付けば季節はすっかり夏になっていた。今日も雨で嫌ですね、という挨拶が、今日は暑くなりそうですね、という挨拶に変わっていて、七海はもうそんな季節かと晴れ渡る空を見上げた。
少しだけ任務の間隔が空いてきたようで、今日の昼過ぎまでかかった任務が終われば明日の昼までの空き時間を与えられた。高専の事務室でそれを伝えられ、七海はこの貴重な空き時間をどうするか、休憩所でコーヒーを飲みながら考えていた。
日を跨いでの休日。間違いなく半分は睡眠に費やされるが、残りはどう過ごそうか。行きつけの店で飲むのも良いし、自宅で簡単な食事を作ってのんびり過ごすのも悪くない。そんな事を思いながら明日以降の予定を確認する。ポツリポツリと空き時間はあるが、休日が与えられるのは当分先のようで、この日、七海は外で食事等を済ませるという判断をした。自宅まで送ると言う補助監督に礼を述べ、七海は高専を後にした。
七海が高専を出て数時間後、猪野は任務を終えて高専へ戻って来た。同行した補助監督を労い、休憩所でひと息つく。今日が終われば少し休める、そう思って任務に向かっていた為、戻ってきた彼はもうオフモードに入りかけていた。ひとつ大きな欠伸をこぼすと誰もいない休憩所、少しだけ、と彼は長ベンチに身体を横たえた。
どれくらい時間が経ったか、猪野は身体が揺れる感覚に、少しだけ意識が覚醒した。何だ地震か、いや違う、誰かの声も聞こえる。ゆっくりと目を開ける。
「…へ?ちはる?なんで?」
「なんで、じゃないわよ。事務員さんたちが、休憩所から変な声だか音だかが聞こえるって怯えてるから見に来たの。…それが猪野っちのイビキだったってワケ」
そこまで本格的に寝ていたかと、猪野は大きく伸びをして欠伸をした。そんな彼にちはるはため息を吐く。
「…疲れてるのはわかるけど、家帰ってから寝なよ」
「そーだな、悪かった。事務員さんによろしく言っといて。…ところでちはるは休めてんの?」
前に会った時より顔が少し窶れている様に見える。猪野が声を掛ければ、まぁね、と曖昧な返事がくる。
「ちはる、この後どんな感じ?」
「…学生が提出してきた報告書の添削」
「マジ?この時期にそんな事してんの?」
「補助監督だって大変でしょ?」
「…ちはるどんだけ良い奴よ」
「…。とりあえず私はまだやる事あるから。…休むなら家に帰ってからにして」
そう話を打ち切ろうとするちはるに、猪野はよしわかった、と声を上げる。
「ちはる、焼肉行こうぜ」
「…私の話、聞いてた?」
猪野の気遣いは嬉しくもあり困ったものでもあった。馬車馬の様に働いて泥のように眠るー余計な事を何も考えずに済む。そんな事をしても何かを変える事は出来ないし何もならないとわかっていたが、それ以外にどうしたらいいか、ちはるは方法を知らなかった。
「良いから良いから、たまにはパァ〜っと派手に息抜きしねぇとやってらんねぇよ?伊地知さんにゃ俺から言ってやるから心配すんな。よし、善は急げって事で!」
猪野はちはるの制止も聞かず休憩所を飛び出して行ってしまった。取り残されたちはるはため息を吐いた。
とりあえず事務室に戻ろう、そう思って休憩所を出る。事務室に入ったところで、今日はもう上がって良いってよ、という嬉しそうな猪野の声が飛んでくる。猪野の側には目の下にクマを作った伊地知が今日、明日くらい大丈夫ですよ、休んでくださいと笑っていた。本当に大丈夫かと心配になりながらも、ちはるは伊地知に礼を述べ、着替えを済ませて猪野と共に高専を出た。
繁華街へ着いたのは居酒屋がオープンし始める17時を過ぎていた。梅雨明けが待たれるこの時期、日中の気温が下がりにくくなり、ジメジメと高い湿度、そして街を行く人の群れと相まって、不快としか言いようのない蒸し暑さの中、2人はーというより猪野がちはるを引き連れてー迷う事なく焼肉屋へ向かった。
冷房の効いた店内でひと息つくと、猪野はメニューを眺めながら口を開く。
「ちはる、今日は飲むよな?」
「…どうしようかな」
「え、なんでよ?なんかある?」
「…疲れてる自覚あるからさ。なんか…、余計な事話して猪野っちに迷惑かけそうで」
「あ〜、そーゆーアレね。…今更じゃね?つーか俺は迷惑じゃねぇから。すんませーん、とりあえず生2つ〜」
店員の威勢の良い返事が聞こえ、程なくして生ビールが運ばれ、猪野が適当に注文を済ませる。
「よっし!繁忙期お疲れ〜!」
2人はジョッキを合わせると、喉の渇きを癒すようにゴクゴクと勢いよく呷る。
「…すごいね猪野っち、一気飲みじゃん」
「ハァ美味ぇ〜!…すんません、生もう1つ追加で」
肉の焼ける音に香ばしい匂い。ひと口頬張れば久しぶりに感じる幸福感。ちはるは今日まで自分は何を食べていたのかと思うくらいに肉が美味しいと感じた。
肉を食べてビールを飲む。ビールを飲んで肉を食べる。あっという間にちはるは良い気分になり、いつになく饒舌になる。溜まった疲労と気の置けない猪野が相手というのもあるだろう。仕事の愚痴がこぼれ始める。
ふんふん、そーなの、などと相槌を打ちながら猪野は肉を焼いたりツマミを食べたり。ちはるは話を聞いてもらうというより、ただ溜まった思いを吐き出す事に注力しているようだった。
「そう言えばさぁ、聞いてよ猪野っち。前に七海さんと連絡先交換してさぁ。なんだと思う?」
「ふーん…、…、は⁈」
予想もしなかったちはるの言葉に、猪野は咥えていた枝豆を取り落とした。
「え、なんで?ていうかそんなのいつあったの?」
「んー、前に3人で飲んだじゃん?…猪野っちが猫で遅刻した時」
「えぇ⁉︎聞いてないけど!」
「…今言った」
ビールから酎ハイに切り替えたちはるは、騒ぎ立てる猪野に五月蝿そうな顔をしてレモンサワーを飲む。
「どーいう状況よ⁉︎俺なんかお願いしてもなかなか交換してもらえなかったのに?」
「えー…七海さんから提案な感じ?…それだけ」
酔いは回っていたが、七海と電話で話したのはその日だけだが、ちはるはそれには触れなかった。そして予想以上に騒ぎ出した猪野に、やっぱり言わなきゃ良かったと思ったちはるは煙草の箱をテーブルに置いた。
少しだけ任務の間隔が空いてきたようで、今日の昼過ぎまでかかった任務が終われば明日の昼までの空き時間を与えられた。高専の事務室でそれを伝えられ、七海はこの貴重な空き時間をどうするか、休憩所でコーヒーを飲みながら考えていた。
日を跨いでの休日。間違いなく半分は睡眠に費やされるが、残りはどう過ごそうか。行きつけの店で飲むのも良いし、自宅で簡単な食事を作ってのんびり過ごすのも悪くない。そんな事を思いながら明日以降の予定を確認する。ポツリポツリと空き時間はあるが、休日が与えられるのは当分先のようで、この日、七海は外で食事等を済ませるという判断をした。自宅まで送ると言う補助監督に礼を述べ、七海は高専を後にした。
七海が高専を出て数時間後、猪野は任務を終えて高専へ戻って来た。同行した補助監督を労い、休憩所でひと息つく。今日が終われば少し休める、そう思って任務に向かっていた為、戻ってきた彼はもうオフモードに入りかけていた。ひとつ大きな欠伸をこぼすと誰もいない休憩所、少しだけ、と彼は長ベンチに身体を横たえた。
どれくらい時間が経ったか、猪野は身体が揺れる感覚に、少しだけ意識が覚醒した。何だ地震か、いや違う、誰かの声も聞こえる。ゆっくりと目を開ける。
「…へ?ちはる?なんで?」
「なんで、じゃないわよ。事務員さんたちが、休憩所から変な声だか音だかが聞こえるって怯えてるから見に来たの。…それが猪野っちのイビキだったってワケ」
そこまで本格的に寝ていたかと、猪野は大きく伸びをして欠伸をした。そんな彼にちはるはため息を吐く。
「…疲れてるのはわかるけど、家帰ってから寝なよ」
「そーだな、悪かった。事務員さんによろしく言っといて。…ところでちはるは休めてんの?」
前に会った時より顔が少し窶れている様に見える。猪野が声を掛ければ、まぁね、と曖昧な返事がくる。
「ちはる、この後どんな感じ?」
「…学生が提出してきた報告書の添削」
「マジ?この時期にそんな事してんの?」
「補助監督だって大変でしょ?」
「…ちはるどんだけ良い奴よ」
「…。とりあえず私はまだやる事あるから。…休むなら家に帰ってからにして」
そう話を打ち切ろうとするちはるに、猪野はよしわかった、と声を上げる。
「ちはる、焼肉行こうぜ」
「…私の話、聞いてた?」
猪野の気遣いは嬉しくもあり困ったものでもあった。馬車馬の様に働いて泥のように眠るー余計な事を何も考えずに済む。そんな事をしても何かを変える事は出来ないし何もならないとわかっていたが、それ以外にどうしたらいいか、ちはるは方法を知らなかった。
「良いから良いから、たまにはパァ〜っと派手に息抜きしねぇとやってらんねぇよ?伊地知さんにゃ俺から言ってやるから心配すんな。よし、善は急げって事で!」
猪野はちはるの制止も聞かず休憩所を飛び出して行ってしまった。取り残されたちはるはため息を吐いた。
とりあえず事務室に戻ろう、そう思って休憩所を出る。事務室に入ったところで、今日はもう上がって良いってよ、という嬉しそうな猪野の声が飛んでくる。猪野の側には目の下にクマを作った伊地知が今日、明日くらい大丈夫ですよ、休んでくださいと笑っていた。本当に大丈夫かと心配になりながらも、ちはるは伊地知に礼を述べ、着替えを済ませて猪野と共に高専を出た。
繁華街へ着いたのは居酒屋がオープンし始める17時を過ぎていた。梅雨明けが待たれるこの時期、日中の気温が下がりにくくなり、ジメジメと高い湿度、そして街を行く人の群れと相まって、不快としか言いようのない蒸し暑さの中、2人はーというより猪野がちはるを引き連れてー迷う事なく焼肉屋へ向かった。
冷房の効いた店内でひと息つくと、猪野はメニューを眺めながら口を開く。
「ちはる、今日は飲むよな?」
「…どうしようかな」
「え、なんでよ?なんかある?」
「…疲れてる自覚あるからさ。なんか…、余計な事話して猪野っちに迷惑かけそうで」
「あ〜、そーゆーアレね。…今更じゃね?つーか俺は迷惑じゃねぇから。すんませーん、とりあえず生2つ〜」
店員の威勢の良い返事が聞こえ、程なくして生ビールが運ばれ、猪野が適当に注文を済ませる。
「よっし!繁忙期お疲れ〜!」
2人はジョッキを合わせると、喉の渇きを癒すようにゴクゴクと勢いよく呷る。
「…すごいね猪野っち、一気飲みじゃん」
「ハァ美味ぇ〜!…すんません、生もう1つ追加で」
肉の焼ける音に香ばしい匂い。ひと口頬張れば久しぶりに感じる幸福感。ちはるは今日まで自分は何を食べていたのかと思うくらいに肉が美味しいと感じた。
肉を食べてビールを飲む。ビールを飲んで肉を食べる。あっという間にちはるは良い気分になり、いつになく饒舌になる。溜まった疲労と気の置けない猪野が相手というのもあるだろう。仕事の愚痴がこぼれ始める。
ふんふん、そーなの、などと相槌を打ちながら猪野は肉を焼いたりツマミを食べたり。ちはるは話を聞いてもらうというより、ただ溜まった思いを吐き出す事に注力しているようだった。
「そう言えばさぁ、聞いてよ猪野っち。前に七海さんと連絡先交換してさぁ。なんだと思う?」
「ふーん…、…、は⁈」
予想もしなかったちはるの言葉に、猪野は咥えていた枝豆を取り落とした。
「え、なんで?ていうかそんなのいつあったの?」
「んー、前に3人で飲んだじゃん?…猪野っちが猫で遅刻した時」
「えぇ⁉︎聞いてないけど!」
「…今言った」
ビールから酎ハイに切り替えたちはるは、騒ぎ立てる猪野に五月蝿そうな顔をしてレモンサワーを飲む。
「どーいう状況よ⁉︎俺なんかお願いしてもなかなか交換してもらえなかったのに?」
「えー…七海さんから提案な感じ?…それだけ」
酔いは回っていたが、七海と電話で話したのはその日だけだが、ちはるはそれには触れなかった。そして予想以上に騒ぎ出した猪野に、やっぱり言わなきゃ良かったと思ったちはるは煙草の箱をテーブルに置いた。