wanderers
猪野くんの同級生のお名前は?
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夜の街を1人の男が走っていた。金曜日の20時半を過ぎれば、食事を済ませてアテもなくブラつく者、2軒目の飲み屋へと移動する者、娯楽施設へ向かう者ーそんな人々の間を縫うように、彼は駆け抜けていく。
彼の足が止まったのは街の少し裏手にある、少しレトロな雰囲気のある小さな店。ドアを押し開ける。
「いらっしゃいませ」
「…動物愛護団体職員の猪野っちじゃん」
「っ誰がよ!」
猪野はカウンター席に向かう。じっとりとこちらを睨んでくる同期は苛立っているなと思いながら、とりあえずちはるの隣に座る。
「遅くなってすんませんっした!」
とりあえずここは素直に謝るに限るー猪野はトレードマークとなっているニット帽を脱いで頭を下げた。
「お疲れ様でした、大変でしたね」
あぁやっぱり七海さん大人ーいつもと変わらないトーンの七海にそんな事を思いながら、1杯目のギネスをオーダーする。猪野は冷えたグラスに口を付ける前に、コレお詫び、とコンビニの袋をカウンターに置く。
隣のちはるが袋を引き寄せ、中の物を取り出していくーロールケーキ、カップケーキ、プリン、ドーナツ等、コンビニのスイーツ類が顔を出す。
「マスター、コレ好きだったよね?」
ちはるがマスターにプリンを差し出せば、彼は照れた様子ながらとても嬉しそうな顔をした。
「ちはるちゃん覚えてたの?僕がプリン好きなの」
「私じゃなくて猪野っちから、遅刻のお詫びって」
「どーぞお納めください!」
マスターはありがとう、と嬉々として受け取り、奥へと下がった。ちはるは反対側、七海に声を掛ける。
「七海さんはどれが良いですか?」
「…。水野さんはどれがお好みですか?お先にどうぞ」
「ん〜…ロールケーキ、良いですか?」
「では私はドーナツをいただきましょう」
「猪野っちカップケーキで良い?」
「ん、ちはる食えよ、甘いもん好きだろ?」
「いいの?やった〜」
猪野はギネスを飲みながら、内心ちはるに感謝していた。先程の電話でお詫びとしてコンビニスイーツを買ってくるよう指示を受けたのだ。自分はともかく、七海もマスターも待っているのだから、それくらいの事をするのが礼儀だと。そしてプリンは絶対に外さないように、とも。猪野はちはるが取り分けてくれたシェパーズパイを頬張りながら、何かと気を回してくれる彼女と同期で本当に良かったと噛み締めていた。
「猪野くん。野良猫はどうなりましたか?」
猪野が落ち着いたところで七海が口を開く。ちはるも同調したように猪野を見ていた。
「それがですねぇ…」
バーに向かう為に自宅を出た猪野。数分と経たずに片目の開いていない猫と遭遇、何だか呼吸も苦しそうだと、思わず抱え上げて近くの動物病院へ駆け込む。ちはるに電話をかけるも繋がらず、七海に連絡。漸く診察、診察結果はアレルギー性の炎症だろうとの事だった。
「花粉症みてぇな感じ?目が開いてなかったのは目ヤニのせいで、呼吸が苦しそうなのは鼻詰まりだろうって。濡らしたタオルで拭けば問題ないって言われて」
「……」
黙り込む七海の隣でちはるは大爆笑。
「で、いくらかかったの?」
「なんかノミ取りもどうとかで、5,000円くらい?」
「それは大変でしたね」
「猪野っち、マジで愛護団体加入した方がいいよ」
笑いながら猪野の肩をばしばし叩くちはる。
「ちはる、ちょっと飲み過ぎかぁ?」
「猪野っちがウケるんだって」
とりあえず機嫌は直ったかな、と猪野は安堵しながらラムのグリルにかぶり付いた。
猪野がバーに着いてから1時間程で、店の客が増えて来た。料理をすっかり平らげた猪野がカウンター内で忙しそうに動くマスターを眺めていた。
「…結構忙しそうじゃね?」
「ここは2軒目のお店みたいな感じだからね。そろそろ行こっか、だいぶ長居してるし」
「そうですね」
一番早く席を立ったのは七海、スマートな所作でカウンター端のレジへ向かう。それにちはる、猪野と続く。レジでは七海とマスターが、支払いをする、お代は結構、というやり取りをしているところだった。
「ちはるちゃん、七海さん連れてってよ。今日は僕の奢り、お代はいいからさ」
「そういうワケにはいきません。貴方のサービスに対しての対価でもあります、支払いはさせて頂きます」
「…七海さん、今日はお言葉に甘えましょう」
「しかし、」
「マスター、また来るね!今日はご馳走様でした」
ちはるは七海を遮り、率先して店を出て行く。渋々、といった体で七海、猪野と後に続く。少し離れたところで先を歩くちはるは2人を振り返った。
「今日はちょっと忙しそうだったから引きましたけど、今度来た時に払っておきますよ」
「ではお願いします」
言いながら七海はちはるに紙幣を数枚差し出した。ちはるは驚いた顔をしながらも七海の手を押し返す。
「お気持ちだけいただきます」
「…七海サン、こーいう時のちはるは絶っ対引かないんっスよ。…俺らとしてはちょっとカッコつかねぇっスけど、今回はゴチになりましょ」
「…本当に良いのですか?」
「はい、気にしないで下さい」
七海は不満の残る顔で財布をポケットに押し込んだ。3人は表通りに向けて歩き出す。金曜日の夜、駅前のタクシー乗り場はやはり混雑していた。
「えーっと…、2人は電車の方が良いのかな」
「ちはるは?」
「ウチ、ここからバス停3つ分くらいかな?歩いても帰れるから、全然平気。ていうかもうバスないし。2人の見送りしたら帰るよ」
七海と猪野について改札近くまで歩いて行く。改札前で猪野が飲み物買ってくる、とすぐ側のコンビニへ向かった。七海と2人にされたちはるは多少の居心地の悪さを感じていたー以前よりは慣れたと思うが。
「水野さん」
「はい?」
「…すみませんが、今から言う番号に電話を掛けていただけますか」
突然どうしたのだろうと思いながら、ちはるはスマホを取り出してロックを解除する。どうぞ、と七海に声をかけ、彼が言う数字をタップして発信する。
「ありがとうございます、もう結構です」
今のは、とちはるが口にする前に猪野が戻ってきた。彼の手にはお茶が3本、それぞれ2人に手渡す。何も知らない猪野はまたな、と七海を率いて改札へ向かい、そのまま解散となった。
彼の足が止まったのは街の少し裏手にある、少しレトロな雰囲気のある小さな店。ドアを押し開ける。
「いらっしゃいませ」
「…動物愛護団体職員の猪野っちじゃん」
「っ誰がよ!」
猪野はカウンター席に向かう。じっとりとこちらを睨んでくる同期は苛立っているなと思いながら、とりあえずちはるの隣に座る。
「遅くなってすんませんっした!」
とりあえずここは素直に謝るに限るー猪野はトレードマークとなっているニット帽を脱いで頭を下げた。
「お疲れ様でした、大変でしたね」
あぁやっぱり七海さん大人ーいつもと変わらないトーンの七海にそんな事を思いながら、1杯目のギネスをオーダーする。猪野は冷えたグラスに口を付ける前に、コレお詫び、とコンビニの袋をカウンターに置く。
隣のちはるが袋を引き寄せ、中の物を取り出していくーロールケーキ、カップケーキ、プリン、ドーナツ等、コンビニのスイーツ類が顔を出す。
「マスター、コレ好きだったよね?」
ちはるがマスターにプリンを差し出せば、彼は照れた様子ながらとても嬉しそうな顔をした。
「ちはるちゃん覚えてたの?僕がプリン好きなの」
「私じゃなくて猪野っちから、遅刻のお詫びって」
「どーぞお納めください!」
マスターはありがとう、と嬉々として受け取り、奥へと下がった。ちはるは反対側、七海に声を掛ける。
「七海さんはどれが良いですか?」
「…。水野さんはどれがお好みですか?お先にどうぞ」
「ん〜…ロールケーキ、良いですか?」
「では私はドーナツをいただきましょう」
「猪野っちカップケーキで良い?」
「ん、ちはる食えよ、甘いもん好きだろ?」
「いいの?やった〜」
猪野はギネスを飲みながら、内心ちはるに感謝していた。先程の電話でお詫びとしてコンビニスイーツを買ってくるよう指示を受けたのだ。自分はともかく、七海もマスターも待っているのだから、それくらいの事をするのが礼儀だと。そしてプリンは絶対に外さないように、とも。猪野はちはるが取り分けてくれたシェパーズパイを頬張りながら、何かと気を回してくれる彼女と同期で本当に良かったと噛み締めていた。
「猪野くん。野良猫はどうなりましたか?」
猪野が落ち着いたところで七海が口を開く。ちはるも同調したように猪野を見ていた。
「それがですねぇ…」
バーに向かう為に自宅を出た猪野。数分と経たずに片目の開いていない猫と遭遇、何だか呼吸も苦しそうだと、思わず抱え上げて近くの動物病院へ駆け込む。ちはるに電話をかけるも繋がらず、七海に連絡。漸く診察、診察結果はアレルギー性の炎症だろうとの事だった。
「花粉症みてぇな感じ?目が開いてなかったのは目ヤニのせいで、呼吸が苦しそうなのは鼻詰まりだろうって。濡らしたタオルで拭けば問題ないって言われて」
「……」
黙り込む七海の隣でちはるは大爆笑。
「で、いくらかかったの?」
「なんかノミ取りもどうとかで、5,000円くらい?」
「それは大変でしたね」
「猪野っち、マジで愛護団体加入した方がいいよ」
笑いながら猪野の肩をばしばし叩くちはる。
「ちはる、ちょっと飲み過ぎかぁ?」
「猪野っちがウケるんだって」
とりあえず機嫌は直ったかな、と猪野は安堵しながらラムのグリルにかぶり付いた。
猪野がバーに着いてから1時間程で、店の客が増えて来た。料理をすっかり平らげた猪野がカウンター内で忙しそうに動くマスターを眺めていた。
「…結構忙しそうじゃね?」
「ここは2軒目のお店みたいな感じだからね。そろそろ行こっか、だいぶ長居してるし」
「そうですね」
一番早く席を立ったのは七海、スマートな所作でカウンター端のレジへ向かう。それにちはる、猪野と続く。レジでは七海とマスターが、支払いをする、お代は結構、というやり取りをしているところだった。
「ちはるちゃん、七海さん連れてってよ。今日は僕の奢り、お代はいいからさ」
「そういうワケにはいきません。貴方のサービスに対しての対価でもあります、支払いはさせて頂きます」
「…七海さん、今日はお言葉に甘えましょう」
「しかし、」
「マスター、また来るね!今日はご馳走様でした」
ちはるは七海を遮り、率先して店を出て行く。渋々、といった体で七海、猪野と後に続く。少し離れたところで先を歩くちはるは2人を振り返った。
「今日はちょっと忙しそうだったから引きましたけど、今度来た時に払っておきますよ」
「ではお願いします」
言いながら七海はちはるに紙幣を数枚差し出した。ちはるは驚いた顔をしながらも七海の手を押し返す。
「お気持ちだけいただきます」
「…七海サン、こーいう時のちはるは絶っ対引かないんっスよ。…俺らとしてはちょっとカッコつかねぇっスけど、今回はゴチになりましょ」
「…本当に良いのですか?」
「はい、気にしないで下さい」
七海は不満の残る顔で財布をポケットに押し込んだ。3人は表通りに向けて歩き出す。金曜日の夜、駅前のタクシー乗り場はやはり混雑していた。
「えーっと…、2人は電車の方が良いのかな」
「ちはるは?」
「ウチ、ここからバス停3つ分くらいかな?歩いても帰れるから、全然平気。ていうかもうバスないし。2人の見送りしたら帰るよ」
七海と猪野について改札近くまで歩いて行く。改札前で猪野が飲み物買ってくる、とすぐ側のコンビニへ向かった。七海と2人にされたちはるは多少の居心地の悪さを感じていたー以前よりは慣れたと思うが。
「水野さん」
「はい?」
「…すみませんが、今から言う番号に電話を掛けていただけますか」
突然どうしたのだろうと思いながら、ちはるはスマホを取り出してロックを解除する。どうぞ、と七海に声をかけ、彼が言う数字をタップして発信する。
「ありがとうございます、もう結構です」
今のは、とちはるが口にする前に猪野が戻ってきた。彼の手にはお茶が3本、それぞれ2人に手渡す。何も知らない猪野はまたな、と七海を率いて改札へ向かい、そのまま解散となった。