wanderers
猪野くんの同級生のお名前は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『七海サン、来週の木曜か金曜なら良いって。ちなみに俺も今んとこどっちもオッケー』
猪野とラーメンを食べに行って2日、ちはるが昼食をとっている時にメッセージが届いた。思っていたよりも早く実現しそうな集いにちはるは小さく息を吐く。
さて、自分の予定はどうだったかー自分の手帳と任務の書類を突き合わせて確認する。木曜は任務の引率予定、そして金曜は朝から都内で任務。
「……」
さてどうしようか。どちらも終わる時間の見通しが曖昧ではあるが、深刻なイレギュラーがない限り夜の予定には差し支えなく間に合うはずだ。木曜の引率業務、学生にとってもそれ程難しい任務ではないし、早く終わるかも知れない。金曜の任務はやや複雑な内容であるが、早朝からの動き出しで自分1人での任務、早く終わるかどうかは自分次第。と、土曜の予定が目に入るー白紙。
『じゃあ金曜日でお願い』
土曜日の2人がどんな予定かは知らないが、少なくとも自分は飲まなきゃやっていられない。たとえ飲み過ぎたとしても問題ない、これくらいの事は許されるだろうと、ちはるはメッセージを送信した。
翌週の金曜、約束の日。可能な限り早めに任務を終えたちはるは一旦自宅へ戻った。時刻は17時半になろうとしている。バーには18時に集合の予定である。本来ならもう少し遅い時間にしたかったのだが、予定が空いている2人に配慮しての事だ。汚れた服を文字通り脱ぎ捨ててシャワーを浴びる。手早く身支度を整えて家を出て、近くのバス停へ差し掛かればタイミング良く駅方面へ向かうバスに乗る事が出来た。バー最寄りのバス停で降り、足早に歩いて行く。バーのドアを開ければいつものようにマスターがいらっしゃい、と笑顔で声をかけて来た。
「お疲れ様です」
カウンターには七海が1人、ギネスを飲んでいた。
「っ、お疲れ様です…、あ、…猪野っちは…?」
「何度か水野さんに電話を掛けたらしいのですが、繋がらないという事で私に連絡が来ました。…自宅近くの野良猫がケガしているとかで、病院に連れて行く、と…」
「……」
ちはるはバッグに入れっぱなしになっていたスマホを取り出した。不在着信が3件。タイミング悪くちょうどちはるが身支度に忙しくしている時だった。
ため息を飲み込み、少々気が引けたが、ちはるはカウンターに座る七海の隣に座った。
「ちはるちゃん、今日は?」
「…やっぱりギネスかな…、マスターも良かったら」
ちはるの言葉にマスターは笑った。お誘いありがとう、お言葉に甘えて、とマスターはちはるの分のギネスをカウンターに、グラス半分くらいのギネスを手元に置く。
「スロンチャ」
マスターの言葉と共に3人はグラスを合わせてギネスを飲む。任務を終えてから今まで何も飲んでなかったなと、ちはるは息を吐いた。
「…お待たせしてすみませんでした」
今更ながらにちはるは七海に謝罪した。ちはるがバーに着いた時には予定していた18時をとうに過ぎていた。
「いいえ、たいした事はありません。むしろ忙しいところ、お誘い頂きありがとうございます」
「ちはるちゃん、仕事だったの?」
マスターの言葉にちはるが頷くと、じゃあお腹空いてるね、と彼は焼き立てのシェパーズパイを2人の前に提供した。美味しそうな匂いにちはるは手を伸ばす。
「ここはアイリッシュバーなんですね、今日初めて気が付きました。ギネスが美味いのもわかります」
「マスターがアイルランドに行った時に感銘を受けたとかで。七海さんもどうぞ、料理も美味しいんですよ」
ちはるは七海の分のパイを取り分ける。
「ありがとうございます」
「前に来た時はちはるちゃん以外の食べ物の好みがわからなかったからね、無難な物を出させてもらったけど、七海さん、北欧料理は大丈夫って事だったからね」
カウンターの奥、何か作業をしているらしいマスターの声が聞こえる。
「クセがあったり、結構好みが分かれると思うんですけど、平気なんですか?」
「母方の祖父が、デンマーク人なので。母が度々こちらの料理を作っていたので、比較的慣れています」
「…七海さん、クォーターって事ですか?」
「ええ、そうなりますね」
瞳と髪の色素の薄さはそういう事かと、ちはるはサングラスを掛けていない彼の顔をちらりと盗み見た。
「はいちはるちゃん、お気に入りのラムのグリル」
マスターが運んできたグリルに目を輝かせ、手を伸ばそうとした時、カウンターに置いていたちはるのスマホが着信を告げる。ディスプレイに表示された“猪野っち”の文字に、ちはるは目に見えて不機嫌そうな顔をした。
「…すみません、出てきます」
口を尖らせたちはるはスマホを手に外へ出て行った。
「…良い子ですよね、ちはるちゃん」
不意の言葉に、七海はマスターを見る。どう応えたものかと、七海は黙っていた。
「…彼女が学生の頃に、僕、助けられたんですよ」
七海は黙って先を促した。
「ここに店を出す前、別の場所で昼間はカフェ、夜はバー営業をやってたんですけど、どうにも上手くいかなくて。…どういうワケか、店に来たお客さんがケガしたり具合悪くなったりして。日に日にお客さんは減るし、僕もなんだか具合が悪くなっちゃって。もう店を辞めようかと思ってた時に、ちはるちゃんがパフェを食べに来たんです。初めて来たのに、彼女いきなり“移転したらどうですか”って言ってきたんですよ。そりゃ何言ってんの、って思いましたよ。けど、“このままじゃ命に関わるよ”って真剣な顔で言われましてね。とても冗談を言ってるようには思えなかったし、藁にもすがる思いでここに移転してきたんですよ」
カランカラン、とドアベルが鳴る。ちはるが戻って来た。おかえり、とマスターが笑顔で出迎える。
「猪野っち、今動物病院出たとかで…、1時間くらいで来られると思うって言ってました。…何笑ってるのマスター?…何話してたの?」
「命の恩人、ちはるちゃんとの馴れ初めの話」
「やだ、変な話しないでよ」
ちはるは座るとギネスを飲み、お預けを食ったグリルに手を伸ばす。ちょうど食べ頃の温度になっていた。
そこへ3人組が店にやって来て、マスターは客を出迎えた。3人組は窓際のテーブル席についた。
「マスターはこんなに美味しい料理を作れるのに、お店辞めちゃうなんて勿体ないじゃないですか」
ラムを頬張り、無邪気に笑うちはるにつられるように、七海も笑みを浮かべた。
猪野とラーメンを食べに行って2日、ちはるが昼食をとっている時にメッセージが届いた。思っていたよりも早く実現しそうな集いにちはるは小さく息を吐く。
さて、自分の予定はどうだったかー自分の手帳と任務の書類を突き合わせて確認する。木曜は任務の引率予定、そして金曜は朝から都内で任務。
「……」
さてどうしようか。どちらも終わる時間の見通しが曖昧ではあるが、深刻なイレギュラーがない限り夜の予定には差し支えなく間に合うはずだ。木曜の引率業務、学生にとってもそれ程難しい任務ではないし、早く終わるかも知れない。金曜の任務はやや複雑な内容であるが、早朝からの動き出しで自分1人での任務、早く終わるかどうかは自分次第。と、土曜の予定が目に入るー白紙。
『じゃあ金曜日でお願い』
土曜日の2人がどんな予定かは知らないが、少なくとも自分は飲まなきゃやっていられない。たとえ飲み過ぎたとしても問題ない、これくらいの事は許されるだろうと、ちはるはメッセージを送信した。
翌週の金曜、約束の日。可能な限り早めに任務を終えたちはるは一旦自宅へ戻った。時刻は17時半になろうとしている。バーには18時に集合の予定である。本来ならもう少し遅い時間にしたかったのだが、予定が空いている2人に配慮しての事だ。汚れた服を文字通り脱ぎ捨ててシャワーを浴びる。手早く身支度を整えて家を出て、近くのバス停へ差し掛かればタイミング良く駅方面へ向かうバスに乗る事が出来た。バー最寄りのバス停で降り、足早に歩いて行く。バーのドアを開ければいつものようにマスターがいらっしゃい、と笑顔で声をかけて来た。
「お疲れ様です」
カウンターには七海が1人、ギネスを飲んでいた。
「っ、お疲れ様です…、あ、…猪野っちは…?」
「何度か水野さんに電話を掛けたらしいのですが、繋がらないという事で私に連絡が来ました。…自宅近くの野良猫がケガしているとかで、病院に連れて行く、と…」
「……」
ちはるはバッグに入れっぱなしになっていたスマホを取り出した。不在着信が3件。タイミング悪くちょうどちはるが身支度に忙しくしている時だった。
ため息を飲み込み、少々気が引けたが、ちはるはカウンターに座る七海の隣に座った。
「ちはるちゃん、今日は?」
「…やっぱりギネスかな…、マスターも良かったら」
ちはるの言葉にマスターは笑った。お誘いありがとう、お言葉に甘えて、とマスターはちはるの分のギネスをカウンターに、グラス半分くらいのギネスを手元に置く。
「スロンチャ」
マスターの言葉と共に3人はグラスを合わせてギネスを飲む。任務を終えてから今まで何も飲んでなかったなと、ちはるは息を吐いた。
「…お待たせしてすみませんでした」
今更ながらにちはるは七海に謝罪した。ちはるがバーに着いた時には予定していた18時をとうに過ぎていた。
「いいえ、たいした事はありません。むしろ忙しいところ、お誘い頂きありがとうございます」
「ちはるちゃん、仕事だったの?」
マスターの言葉にちはるが頷くと、じゃあお腹空いてるね、と彼は焼き立てのシェパーズパイを2人の前に提供した。美味しそうな匂いにちはるは手を伸ばす。
「ここはアイリッシュバーなんですね、今日初めて気が付きました。ギネスが美味いのもわかります」
「マスターがアイルランドに行った時に感銘を受けたとかで。七海さんもどうぞ、料理も美味しいんですよ」
ちはるは七海の分のパイを取り分ける。
「ありがとうございます」
「前に来た時はちはるちゃん以外の食べ物の好みがわからなかったからね、無難な物を出させてもらったけど、七海さん、北欧料理は大丈夫って事だったからね」
カウンターの奥、何か作業をしているらしいマスターの声が聞こえる。
「クセがあったり、結構好みが分かれると思うんですけど、平気なんですか?」
「母方の祖父が、デンマーク人なので。母が度々こちらの料理を作っていたので、比較的慣れています」
「…七海さん、クォーターって事ですか?」
「ええ、そうなりますね」
瞳と髪の色素の薄さはそういう事かと、ちはるはサングラスを掛けていない彼の顔をちらりと盗み見た。
「はいちはるちゃん、お気に入りのラムのグリル」
マスターが運んできたグリルに目を輝かせ、手を伸ばそうとした時、カウンターに置いていたちはるのスマホが着信を告げる。ディスプレイに表示された“猪野っち”の文字に、ちはるは目に見えて不機嫌そうな顔をした。
「…すみません、出てきます」
口を尖らせたちはるはスマホを手に外へ出て行った。
「…良い子ですよね、ちはるちゃん」
不意の言葉に、七海はマスターを見る。どう応えたものかと、七海は黙っていた。
「…彼女が学生の頃に、僕、助けられたんですよ」
七海は黙って先を促した。
「ここに店を出す前、別の場所で昼間はカフェ、夜はバー営業をやってたんですけど、どうにも上手くいかなくて。…どういうワケか、店に来たお客さんがケガしたり具合悪くなったりして。日に日にお客さんは減るし、僕もなんだか具合が悪くなっちゃって。もう店を辞めようかと思ってた時に、ちはるちゃんがパフェを食べに来たんです。初めて来たのに、彼女いきなり“移転したらどうですか”って言ってきたんですよ。そりゃ何言ってんの、って思いましたよ。けど、“このままじゃ命に関わるよ”って真剣な顔で言われましてね。とても冗談を言ってるようには思えなかったし、藁にもすがる思いでここに移転してきたんですよ」
カランカラン、とドアベルが鳴る。ちはるが戻って来た。おかえり、とマスターが笑顔で出迎える。
「猪野っち、今動物病院出たとかで…、1時間くらいで来られると思うって言ってました。…何笑ってるのマスター?…何話してたの?」
「命の恩人、ちはるちゃんとの馴れ初めの話」
「やだ、変な話しないでよ」
ちはるは座るとギネスを飲み、お預けを食ったグリルに手を伸ばす。ちょうど食べ頃の温度になっていた。
そこへ3人組が店にやって来て、マスターは客を出迎えた。3人組は窓際のテーブル席についた。
「マスターはこんなに美味しい料理を作れるのに、お店辞めちゃうなんて勿体ないじゃないですか」
ラムを頬張り、無邪気に笑うちはるにつられるように、七海も笑みを浮かべた。