wanderers
猪野くんの同級生のお名前は?
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この日の任務を終えたちはるは高専へ任務の完了と回収品を届ける旨の連絡をすると、装備品と回収品を車のトランクへ入れて運転席へ乗り込みエンジンを回した。
2日前、伊地知から依頼された今日の任務は滞りなく終える事が出来た。呪霊を祓う事は出来たものの、残念ながら行方不明者の保護には至らなかった。とりあえず見つけた服の切れ端、壊れたスマホ、片方だけのスニーカー等は高専でその持ち主の調査に使われるのだろう。
空腹を覚え始めたちはるはバッグに入っていたチョコレートを一粒口に放り込んで高専へ向かった。
諸々全ての雑務が終わったのは20時を過ぎた頃だった。任務の開始は16時頃、補助監督も付けずに単独で動いているのだ、自分で後始末まで済ませればこれくらいの時間経過は仕方ないと言えた。
疲れた、お腹も空いたし早く帰ろうとちはるは再び車に乗り込み、自宅へ向けて車を走らせー途中で少し寄り道をしようと思い付き、自宅へのルートを外れる。自宅から少し離れたコインパーキングに車を停めて歩き出すちはるが向かったのは1軒のバー。
「いらっしゃい…あぁ、ちはるちゃん」
「マスター、何か食べさせて〜お腹空いた〜」
以前、猪野と七海との3人で飲んだ、ちはる行きつけのバーだ。マスターは笑顔でちはるを迎える。
「何が良い?ミートソースならすぐ出せるけど」
「いただきます」
「仕事帰り?」
「うん」
「じゃあノンアルかジンジャーエールかな?」
「…今日はジンジャーエール」
マスターがスタッフにジンジャーエールをちはるに提供するよう声をかければ、程なくしてちはるの前に氷の入ったグラスとジンジャーエールの瓶が出される。1杯目だけは注いであげる、とマスターがグラスを満たすと、ちはるはいただきます、とグラスに口を付ける。数口飲んで息を吐くと、以前仕事終わりのビールについて猪野が言っていた事が思い出された。と、そこでちはるは店内の様子に意識が向くー21時前だというのに、客はちはるの他には見当たらない。
「マスター、もしかして閉めるところだった?」
「ん、まぁね。今日は週の真ん中、こんなもんだよ。ちはるちゃんが来たからもう貸し切り」
「うわ、そんなVIPじゃないのに」
「いいや、ちはるちゃんが居なかったら僕は今頃どうなってたかな。…あ、コージ、今日はもう上がって」
「ハイ、お疲れ様でした」
返事をするとバイトの子はミートソースを持ってカウンターに座り、スマホを見ながら黙々と食べ始めた。
「…ごめんねマスター、これ食べたらすぐ帰るから」
出してくれたミートソースが賄いだったという事に気付き、ちはるは食べるペースをあげようとするも、マスターは気にしないでよ、と笑った。
「…ちはるちゃんに聞きたい事があって」
「? なんかあった?」
「ホラ、前に来た時のメンズ2人」
ちはるがこのバーを訪れる時はほぼ1人、誰かを連れて来たとなると猪野と七海しかいない。ミートソースを口に含んだままちはるは頷いた。
「…なかなか良い男だったじゃない、どっちか彼氏?」
危うくミートソースを吹き出すところだった。ちはるは咳払いをしてジンジャエールを飲んだ。
「んなワケないじゃん、一応仕事仲間みたいな感じ」
「あ、そうなの?なぁんだぁ、仲良くて結構良い感じじゃないかなって見てたんだけど…ちはるちゃんにはどっちの彼も良いと思うけどねぇ」
「マスターやめてよ」
「いやいや、ちはるちゃんには悪いなって思いながら気になっちゃってさぁ。ちはるちゃん、いくつだっけ」
「…22」
「彼氏は?」
「いないけど、もうやめようよ」
「20代前半なんて彼氏の1人や2人くらいいたって良い年頃だよ。…隣に座ってたあのニット帽の子は…、ヤンチャな弟っぽい感じだったね。なんだかんだ言いながらも気にかけてくれたり元気付けてくれたりしそうだよね。もう1人はミステリアスな感じ…、だけど物静かで包容力がある大人って感じじゃないかな?」
マスターの話を聞きながらちはるは渋い顔でミートソースを口にする。恋人とか考えた事なかったなーそんな言葉をジンジャーエールと共に飲み込む。バイトの子はお先に失礼します、と店を出て行った。
「しばらくはいいかなぁ。…何て言うか…、そこまで信頼できる人見つけるのも面倒だし」
「信頼できる人は見つけるんじゃなくて育むものだと思うよ。僕とちはるちゃんだってそうだろ?」
マスターの言葉にちはるは押し黙った。自分が言い訳じみた事を言ってその場をやり過ごそうとしているのを見抜かれた気分だった。
「…ちはるちゃんがずっと苦労してきたのはわかってるつもりだよ。それもちはるちゃんが僕の事を信頼して色々話してくれたからだし、僕もちはるちゃんの事を信頼してる。…もうウチではちはるちゃんの生涯飲食代は全部タダにして良いくらいにね」
冗談めいた口調にちはるは驚きを見せた。
「え、そんなに?」
「当然だよ。ちはるちゃんは僕にとっての命の恩人だ。そんな恩人の幸せを願うのは当然でしょ?…人を信じるって、凄く勇気の要る事、だけどちはるちゃんはもっと誰かを信じてみても良いと思うよ。世の中そんなに悪い奴ばかりじゃない。…少なくとも、あのメンズ2人はちはるちゃんを裏切る事はないよ。これは断言できる」
「…根拠は?」
「職業柄、長年色んな人を見てるからね」
胸を張るマスターにちはるは笑った。
「…マスターみたいな人だったら助かるんだけどな」
「おっと、僕には奥さんも子供もいるから勘弁だよ」
ちはるはミートソースを綺麗に平らげ、ご馳走様でしたと店を後にした。
2日前、伊地知から依頼された今日の任務は滞りなく終える事が出来た。呪霊を祓う事は出来たものの、残念ながら行方不明者の保護には至らなかった。とりあえず見つけた服の切れ端、壊れたスマホ、片方だけのスニーカー等は高専でその持ち主の調査に使われるのだろう。
空腹を覚え始めたちはるはバッグに入っていたチョコレートを一粒口に放り込んで高専へ向かった。
諸々全ての雑務が終わったのは20時を過ぎた頃だった。任務の開始は16時頃、補助監督も付けずに単独で動いているのだ、自分で後始末まで済ませればこれくらいの時間経過は仕方ないと言えた。
疲れた、お腹も空いたし早く帰ろうとちはるは再び車に乗り込み、自宅へ向けて車を走らせー途中で少し寄り道をしようと思い付き、自宅へのルートを外れる。自宅から少し離れたコインパーキングに車を停めて歩き出すちはるが向かったのは1軒のバー。
「いらっしゃい…あぁ、ちはるちゃん」
「マスター、何か食べさせて〜お腹空いた〜」
以前、猪野と七海との3人で飲んだ、ちはる行きつけのバーだ。マスターは笑顔でちはるを迎える。
「何が良い?ミートソースならすぐ出せるけど」
「いただきます」
「仕事帰り?」
「うん」
「じゃあノンアルかジンジャーエールかな?」
「…今日はジンジャーエール」
マスターがスタッフにジンジャーエールをちはるに提供するよう声をかければ、程なくしてちはるの前に氷の入ったグラスとジンジャーエールの瓶が出される。1杯目だけは注いであげる、とマスターがグラスを満たすと、ちはるはいただきます、とグラスに口を付ける。数口飲んで息を吐くと、以前仕事終わりのビールについて猪野が言っていた事が思い出された。と、そこでちはるは店内の様子に意識が向くー21時前だというのに、客はちはるの他には見当たらない。
「マスター、もしかして閉めるところだった?」
「ん、まぁね。今日は週の真ん中、こんなもんだよ。ちはるちゃんが来たからもう貸し切り」
「うわ、そんなVIPじゃないのに」
「いいや、ちはるちゃんが居なかったら僕は今頃どうなってたかな。…あ、コージ、今日はもう上がって」
「ハイ、お疲れ様でした」
返事をするとバイトの子はミートソースを持ってカウンターに座り、スマホを見ながら黙々と食べ始めた。
「…ごめんねマスター、これ食べたらすぐ帰るから」
出してくれたミートソースが賄いだったという事に気付き、ちはるは食べるペースをあげようとするも、マスターは気にしないでよ、と笑った。
「…ちはるちゃんに聞きたい事があって」
「? なんかあった?」
「ホラ、前に来た時のメンズ2人」
ちはるがこのバーを訪れる時はほぼ1人、誰かを連れて来たとなると猪野と七海しかいない。ミートソースを口に含んだままちはるは頷いた。
「…なかなか良い男だったじゃない、どっちか彼氏?」
危うくミートソースを吹き出すところだった。ちはるは咳払いをしてジンジャエールを飲んだ。
「んなワケないじゃん、一応仕事仲間みたいな感じ」
「あ、そうなの?なぁんだぁ、仲良くて結構良い感じじゃないかなって見てたんだけど…ちはるちゃんにはどっちの彼も良いと思うけどねぇ」
「マスターやめてよ」
「いやいや、ちはるちゃんには悪いなって思いながら気になっちゃってさぁ。ちはるちゃん、いくつだっけ」
「…22」
「彼氏は?」
「いないけど、もうやめようよ」
「20代前半なんて彼氏の1人や2人くらいいたって良い年頃だよ。…隣に座ってたあのニット帽の子は…、ヤンチャな弟っぽい感じだったね。なんだかんだ言いながらも気にかけてくれたり元気付けてくれたりしそうだよね。もう1人はミステリアスな感じ…、だけど物静かで包容力がある大人って感じじゃないかな?」
マスターの話を聞きながらちはるは渋い顔でミートソースを口にする。恋人とか考えた事なかったなーそんな言葉をジンジャーエールと共に飲み込む。バイトの子はお先に失礼します、と店を出て行った。
「しばらくはいいかなぁ。…何て言うか…、そこまで信頼できる人見つけるのも面倒だし」
「信頼できる人は見つけるんじゃなくて育むものだと思うよ。僕とちはるちゃんだってそうだろ?」
マスターの言葉にちはるは押し黙った。自分が言い訳じみた事を言ってその場をやり過ごそうとしているのを見抜かれた気分だった。
「…ちはるちゃんがずっと苦労してきたのはわかってるつもりだよ。それもちはるちゃんが僕の事を信頼して色々話してくれたからだし、僕もちはるちゃんの事を信頼してる。…もうウチではちはるちゃんの生涯飲食代は全部タダにして良いくらいにね」
冗談めいた口調にちはるは驚きを見せた。
「え、そんなに?」
「当然だよ。ちはるちゃんは僕にとっての命の恩人だ。そんな恩人の幸せを願うのは当然でしょ?…人を信じるって、凄く勇気の要る事、だけどちはるちゃんはもっと誰かを信じてみても良いと思うよ。世の中そんなに悪い奴ばかりじゃない。…少なくとも、あのメンズ2人はちはるちゃんを裏切る事はないよ。これは断言できる」
「…根拠は?」
「職業柄、長年色んな人を見てるからね」
胸を張るマスターにちはるは笑った。
「…マスターみたいな人だったら助かるんだけどな」
「おっと、僕には奥さんも子供もいるから勘弁だよ」
ちはるはミートソースを綺麗に平らげ、ご馳走様でしたと店を後にした。