始めまして、初めまして
猪野くんの同級生のお名前は?
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七海、猪野、ちはるの3人で食事に行ってから2週間が過ぎていた。七海と猪野、それぞれ別の任務を片付けた後、偶然高専で鉢合わせた。
「あっ七海サン!お疲れ様っス!」
「お疲れ様でした、」
「七海サン、前言ってたタイピンなんスけど」
猪野は七海の言葉に食い気味に口を開く。タイピンはちはるの車で見つかった事、彼女に預かってもらっている事を伝えると、今からアイツ呼びますね、と嬉々としてスマホを取り出し電話をかける。
『はーいもしもし?』
「あ、ちはる?今七海サンと一緒なんだけど、頼んどいたタイピン、持って来てくれる?」
『ごめん無理』
「え、なんで?」
『今群馬。任務』
「〜〜っ!じゃあちはるが高専に借りてる部屋に、」
『あー、私もう高専住まいじゃないから』
「え、マジ⁉︎どゆこと⁉︎」
「…猪野くん、彼女の都合もあるでしょう」
食い下がる猪野を宥める七海の声が電話口で聞こえ、ちはるは明らかに落胆しているだろう猪野に苦笑した。
「…ちはる、いつ戻り?」
『早くて明日かな』
猪野は半泣きで通話を切り、七海に何度も謝罪した。
「そんな事もあって然りでしょう」
「すんません…」
本当にわかりやすい青年だ。そんなところが彼の良いところでもあるー七海が食事にでも行きますか、と猪野を元気付けるつもりで声をかければ、今までヘコんでいたとは思えないくらいの満面の笑みで猪野は頷いた。
「やー…、タイピン、ホントすんませんでした」
「いえ、元はと言えば落とした私が悪いので」
「…ちはる、学生ん時から結構自由人なんスよ。アイツに頼んどいた俺も悪いっスけど、引越す予定くらい伝えておいてくれても良いと思うんスけどね…。車の免許もですけど、いつの間にかバイクの免許取ってて、1人でツーリング行って来たなんて時もありましたし」
この日はスペイン料理の店にやって来た2人。ビールを飲み、猪野は大きく息を吐く。その表情には同期を案じているような色が見え隠れしていた。
「なんか危なっかしいんスよね。ちゃんと見とかないと、フラフラ〜って消えちまいそうで」
猪野の言葉に七海は意外性を感じた。少なくとも七海にとってちはるの印象は自立していて猪野よりもしっかりしている。高専の教員になったという事から、責任感も強いだろう事が想像出来る。それを口にすれば、それもそうなんですけど、と猪野は頷いた。
「掴みどころがないんスよね、平たく言えば。ちはるとはそれなりに長い付き合いになりますけど、わかんねー事ばっかっスよ。…まぁ、付き合い長けりゃ何でもわかるっていうワケじゃねぇっスけどね?」
「そうでしたか。…私は君が彼女と交際しているものだと思っていました」
率直な七海の言葉に、猪野は先程食べ方を教わり、口に入れたばかりのアヒージョに盛大に咽せ込んだ。
「…大丈夫ですか?」
「…七海サンにそんな冗談は似合いませんぜ…」
「冗談ではありませんよ。彼女の事を名前で呼んでいたでしょう。ですから、そうなのかと」
七海の言葉に、あぁ、なるほどと猪野は何かを考えるように目の前のビールを黙って見つめた。
「あー…、いや、これは七海サンが相手でも、俺から言っていい話じゃないと思うんで。もし気になるならアイツに直接聞いてください。…アッ、俺ら付き合ってねーっスからね、これはマジっスよ!」
「そうですか、わかりました」
「…こんな話、アイツの前で言ったら俺が殴られそうなんで言わないでくださいよ…?」
言いません、大丈夫ですよ、と七海はグラスワインを注文した。具材の旨味とオリーブオイルが染み込んだバゲットを頬張りながら、七海は猪野の同期であるちはるに興味が湧いたのを自覚した。届いたワインを飲む。
自身の中でのちはるへの印象と、猪野から聞いたちはるの様子は全く違う。その日その時によって形も大きさも色合いも変わり、掴みどころがなく見ていないと消えてしまいそうだとは、まるで月の様ではないか。地球の一番近くに存在しているにも関わらず、未だ謎めいている事が多く、まだその本質を捉えていないというー。
七海は小さく息を吐き、ワインを煽るーらしくないな。バゲットをもう一切れ摘んでアヒージョに浸す。
高専時代に同期を亡くして以来、誰かと深く関わる事を避けている気がする。強い自覚はないが、無意識に自身の中で線引きをして、そこから先へは踏み込ませない、というような。誰かと親しくなれば親しくなっただけ、その人を失う事を恐れるだろう。もしあの時のように、その人を救えなかったとなれば。想像もしたくないが、今の自分はどうなってしまうのだろうかー
「七海サン?」
意識が引き戻され、手にしていた食べかけのバゲットから滴り落ちたオリーブオイルがテーブルを汚していた事に気付き、七海は取り皿にバゲットを置いた。
猪野は七海にペーパーナプキンを手渡し、店員へ新しいタオルを持って来るようにと言い付けた。
「すみません。考え事をしていました」
「だいじょぶっスか?…七海さん、俺で良ければ何でもしますし話も聞きますし、力になりますよ!」
右腕で力こぶを作るようなポーズを取る猪野に七海は薄く笑った。ありがとうございます、その時はお願いしますよと言えば、猪野は嬉しそうに笑った。
そこへ新しいタオルを持ってきた店員が姿を見せ、七海は礼を述べた。猪野はオリーブオイルを拭き取っている店員を相手に、料理がめちゃくちゃ美味いッスね、追加でお兄サンお勧めのパエリアをお願いしようかな、などと声をかけている。気を良くして気を利かせた店員は注文を復唱すると空いた食器と共に下がって行った。
七海が店員の背中から向かいの猪野へ視線を移せば、彼はビールを飲んでいた。ーアイツが生きていたら、こうして飲みに来たりする事も出来たのだろうか。猪野と目が合った。どうしたんスか、と首を傾げて見返してくる表情がアイツと重なる。
生涯忘れる事はない、唯一の同期。
「…いえ。大丈夫です」
どういうワケか、最近は気持ちが乱されてばかりいる気がする。らしくない事が続いている。七海は追加で辛口のシェリー酒をオーダーした。
「あっ七海サン!お疲れ様っス!」
「お疲れ様でした、」
「七海サン、前言ってたタイピンなんスけど」
猪野は七海の言葉に食い気味に口を開く。タイピンはちはるの車で見つかった事、彼女に預かってもらっている事を伝えると、今からアイツ呼びますね、と嬉々としてスマホを取り出し電話をかける。
『はーいもしもし?』
「あ、ちはる?今七海サンと一緒なんだけど、頼んどいたタイピン、持って来てくれる?」
『ごめん無理』
「え、なんで?」
『今群馬。任務』
「〜〜っ!じゃあちはるが高専に借りてる部屋に、」
『あー、私もう高専住まいじゃないから』
「え、マジ⁉︎どゆこと⁉︎」
「…猪野くん、彼女の都合もあるでしょう」
食い下がる猪野を宥める七海の声が電話口で聞こえ、ちはるは明らかに落胆しているだろう猪野に苦笑した。
「…ちはる、いつ戻り?」
『早くて明日かな』
猪野は半泣きで通話を切り、七海に何度も謝罪した。
「そんな事もあって然りでしょう」
「すんません…」
本当にわかりやすい青年だ。そんなところが彼の良いところでもあるー七海が食事にでも行きますか、と猪野を元気付けるつもりで声をかければ、今までヘコんでいたとは思えないくらいの満面の笑みで猪野は頷いた。
「やー…、タイピン、ホントすんませんでした」
「いえ、元はと言えば落とした私が悪いので」
「…ちはる、学生ん時から結構自由人なんスよ。アイツに頼んどいた俺も悪いっスけど、引越す予定くらい伝えておいてくれても良いと思うんスけどね…。車の免許もですけど、いつの間にかバイクの免許取ってて、1人でツーリング行って来たなんて時もありましたし」
この日はスペイン料理の店にやって来た2人。ビールを飲み、猪野は大きく息を吐く。その表情には同期を案じているような色が見え隠れしていた。
「なんか危なっかしいんスよね。ちゃんと見とかないと、フラフラ〜って消えちまいそうで」
猪野の言葉に七海は意外性を感じた。少なくとも七海にとってちはるの印象は自立していて猪野よりもしっかりしている。高専の教員になったという事から、責任感も強いだろう事が想像出来る。それを口にすれば、それもそうなんですけど、と猪野は頷いた。
「掴みどころがないんスよね、平たく言えば。ちはるとはそれなりに長い付き合いになりますけど、わかんねー事ばっかっスよ。…まぁ、付き合い長けりゃ何でもわかるっていうワケじゃねぇっスけどね?」
「そうでしたか。…私は君が彼女と交際しているものだと思っていました」
率直な七海の言葉に、猪野は先程食べ方を教わり、口に入れたばかりのアヒージョに盛大に咽せ込んだ。
「…大丈夫ですか?」
「…七海サンにそんな冗談は似合いませんぜ…」
「冗談ではありませんよ。彼女の事を名前で呼んでいたでしょう。ですから、そうなのかと」
七海の言葉に、あぁ、なるほどと猪野は何かを考えるように目の前のビールを黙って見つめた。
「あー…、いや、これは七海サンが相手でも、俺から言っていい話じゃないと思うんで。もし気になるならアイツに直接聞いてください。…アッ、俺ら付き合ってねーっスからね、これはマジっスよ!」
「そうですか、わかりました」
「…こんな話、アイツの前で言ったら俺が殴られそうなんで言わないでくださいよ…?」
言いません、大丈夫ですよ、と七海はグラスワインを注文した。具材の旨味とオリーブオイルが染み込んだバゲットを頬張りながら、七海は猪野の同期であるちはるに興味が湧いたのを自覚した。届いたワインを飲む。
自身の中でのちはるへの印象と、猪野から聞いたちはるの様子は全く違う。その日その時によって形も大きさも色合いも変わり、掴みどころがなく見ていないと消えてしまいそうだとは、まるで月の様ではないか。地球の一番近くに存在しているにも関わらず、未だ謎めいている事が多く、まだその本質を捉えていないというー。
七海は小さく息を吐き、ワインを煽るーらしくないな。バゲットをもう一切れ摘んでアヒージョに浸す。
高専時代に同期を亡くして以来、誰かと深く関わる事を避けている気がする。強い自覚はないが、無意識に自身の中で線引きをして、そこから先へは踏み込ませない、というような。誰かと親しくなれば親しくなっただけ、その人を失う事を恐れるだろう。もしあの時のように、その人を救えなかったとなれば。想像もしたくないが、今の自分はどうなってしまうのだろうかー
「七海サン?」
意識が引き戻され、手にしていた食べかけのバゲットから滴り落ちたオリーブオイルがテーブルを汚していた事に気付き、七海は取り皿にバゲットを置いた。
猪野は七海にペーパーナプキンを手渡し、店員へ新しいタオルを持って来るようにと言い付けた。
「すみません。考え事をしていました」
「だいじょぶっスか?…七海さん、俺で良ければ何でもしますし話も聞きますし、力になりますよ!」
右腕で力こぶを作るようなポーズを取る猪野に七海は薄く笑った。ありがとうございます、その時はお願いしますよと言えば、猪野は嬉しそうに笑った。
そこへ新しいタオルを持ってきた店員が姿を見せ、七海は礼を述べた。猪野はオリーブオイルを拭き取っている店員を相手に、料理がめちゃくちゃ美味いッスね、追加でお兄サンお勧めのパエリアをお願いしようかな、などと声をかけている。気を良くして気を利かせた店員は注文を復唱すると空いた食器と共に下がって行った。
七海が店員の背中から向かいの猪野へ視線を移せば、彼はビールを飲んでいた。ーアイツが生きていたら、こうして飲みに来たりする事も出来たのだろうか。猪野と目が合った。どうしたんスか、と首を傾げて見返してくる表情がアイツと重なる。
生涯忘れる事はない、唯一の同期。
「…いえ。大丈夫です」
どういうワケか、最近は気持ちが乱されてばかりいる気がする。らしくない事が続いている。七海は追加で辛口のシェリー酒をオーダーした。