始めまして、初めまして
猪野くんの同級生のお名前は?
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なんだか変にモヤついた気持ちを持て余したちはるが向かった先はモール内の喫煙所だった。
習慣的に喫煙をする訳ではなく、今の彼女のように、気持ちが揺れた時にだけ嗜むといった程度だ。
苦い煙を胸いっぱいに吸い込んでひと息に吐くーそんな事を繰り返したところでモヤついた気持ちが落ち着く事はないとわかっているのに、ちはるには喫煙を辞めるつもりもキッカケもないようだった。
誰にも干渉される事のない空間で、ちはるは昨日初めて出会った七海の顔を思い出した。
第一印象としては良くも悪くもなく、あまり“自分”を出さない人。大人。控えめ。聞き上手。七海と猪野が正反対のタイプだから、猪野が一緒だったからそのような印象を受けたのかもしれないし、或いは初対面の自分がいたからなのかもしれない。紫煙を吸い込む。
短時間でその人となりを正確に把握するのは不可能ではあるが、ちはるは何となく七海に対して“自分と似たところがある”ような気がしたー生きていく上で、自身の呪いとなるような何かを背負っているような。初対面の人にそんな想いを抱くのは初めてだったし、確証もない。
ちはるはため息と共に紫煙を吐き出して、すっかり短くなっていた煙草を灰皿に押し付けた。火種が燻り、細い煙を懸命に吐き出している様子がなんだか癇に障り、更に強く吸い殻を押し潰して喫煙所を出た。
車に戻るも、先程まで楽しみにしていた家具を見に行く気にはなれなかった。そして、何故こんなにも自分の気持ちが揺らいでいるのかも良くわからなくなっていて、これからどうしようかとため息を吐いた。と、助手席のコンビニの袋が目に入り、ちはるは中からエナジードリンクを取り出して開封した。
「…うぇ、まっず」
冷えていないのもあって、妙な人工的な甘さと匂いが口いっぱいに広がり、炭酸の爽快さは不快感でしかなかった。車内にもその匂いが充満しそうで窓を開けー猪野との通話を思い出して後部座席へ回った。足元を覗くも暗くてよく見えない。スマホのライトで照らして見れば、運転席のシート下に小さな反射を見つけた。手を伸ばして探り出せば見た事のないネクタイピンだったー七海の落とし物はこれか。ブランド品なのだろう、シンプルながらも上品さを感じさせるピンを手にちはるは運転席に戻り、僅かな逡巡の後、スマホの履歴から猪野を選ぶ。
『見つかった⁉︎』
呼び出し音が途切れ、ちはるが言葉を発するよりも早く猪野が言葉を投げかけてきた。たった一言、それだけで全てが吹き飛んだ思いだった。考え込んでいる自分がバカらしく思えてきて、ちはるは思わず笑い声を上げた。
「…やっぱ猪野っちサイコー」
『だろ?よくわかんねーけどサンキューな。んで、七海サンのタイピン、あった?』
「うん、見つけたよ。どうする、猪野っち持っとく?猪野っちの方があの人と良く会うでしょ?」
『ん〜…、いや、ちはるが預かってて。俺、無くしそうで心配だから』
「肌身離さず持ってたら良いじゃん」
『いや…、七海サンにキモいとか思われたくないし…』
「けどそれだとすぐ返せないじゃない」
『…。わかった、今度七海サンと会う時ちはるも呼ぶわ。これで完璧っしょ』
一体何がわかって何が完璧なのか。ちはるは呆れながらも預かる事を了承し、その時に併せて週刊漫画とポテチも渡すと伝えて通話を切った。ひと呼吸ついて、ちはるはエナジードリンクをひと口飲んでエンジンを回した。
もう考えるのがめんどくさいー考えたって仕方ないし、何も変わらない。あの人がどんな人か、どんなものを背負っているかなんて関係ない。あの人を気にしたって自分の捻れた性格が真っ直ぐになるワケでもないし、誰かに何かを期待するような事なんてもう御免だ。
ちはるはギアを入れて車をゆっくりと発進させた。脳内を巡り続ける自身への怨嗟にも似た声を掻き消すようにオーディオのボリュームを上げる。
自分は何がしたいんだろうーそんな考えが頭を擡げてくる。当然そんな理由や目的なんてそうそう見つかるはずもないし、仮に見つけたところで納得出来るのかもわからない。ただ、自分は自分で在りたい、それだけだ。
周りにどう思われたって何を言われたって、一番大切なのは自分の気持ちひとつ、それだけだ。
ちはるは当初の目的地としていた家電量販店と家具店へ向かった。もう半ば憂さ晴らしのような買い方になるだろう事は予想していた。それはそれで良いじゃないか。
家電量販店では一人暮らしには十分過ぎるくらいの冷蔵庫に、最新モデルの洗濯機、気が向いた時に何でも作れるようにとオーブンレンジ、どれくらい使うかわからないがテレビを。家具店ではゆったり眠れるようにダブルサイズのベッド、シックなデザインのダイニングテーブル、2人掛けのソファにローテーブルを購入した。1日でかなりの額を使った計算になるが、今後自分の生活を支えるものになるし、初めて自分1人で生活出来る環境だ。気に入った物に囲まれて好きなように生活する事くらい、贅沢の内に入らないだろう。ちはるはこれから始まる新しい生活に胸を躍らせた。
習慣的に喫煙をする訳ではなく、今の彼女のように、気持ちが揺れた時にだけ嗜むといった程度だ。
苦い煙を胸いっぱいに吸い込んでひと息に吐くーそんな事を繰り返したところでモヤついた気持ちが落ち着く事はないとわかっているのに、ちはるには喫煙を辞めるつもりもキッカケもないようだった。
誰にも干渉される事のない空間で、ちはるは昨日初めて出会った七海の顔を思い出した。
第一印象としては良くも悪くもなく、あまり“自分”を出さない人。大人。控えめ。聞き上手。七海と猪野が正反対のタイプだから、猪野が一緒だったからそのような印象を受けたのかもしれないし、或いは初対面の自分がいたからなのかもしれない。紫煙を吸い込む。
短時間でその人となりを正確に把握するのは不可能ではあるが、ちはるは何となく七海に対して“自分と似たところがある”ような気がしたー生きていく上で、自身の呪いとなるような何かを背負っているような。初対面の人にそんな想いを抱くのは初めてだったし、確証もない。
ちはるはため息と共に紫煙を吐き出して、すっかり短くなっていた煙草を灰皿に押し付けた。火種が燻り、細い煙を懸命に吐き出している様子がなんだか癇に障り、更に強く吸い殻を押し潰して喫煙所を出た。
車に戻るも、先程まで楽しみにしていた家具を見に行く気にはなれなかった。そして、何故こんなにも自分の気持ちが揺らいでいるのかも良くわからなくなっていて、これからどうしようかとため息を吐いた。と、助手席のコンビニの袋が目に入り、ちはるは中からエナジードリンクを取り出して開封した。
「…うぇ、まっず」
冷えていないのもあって、妙な人工的な甘さと匂いが口いっぱいに広がり、炭酸の爽快さは不快感でしかなかった。車内にもその匂いが充満しそうで窓を開けー猪野との通話を思い出して後部座席へ回った。足元を覗くも暗くてよく見えない。スマホのライトで照らして見れば、運転席のシート下に小さな反射を見つけた。手を伸ばして探り出せば見た事のないネクタイピンだったー七海の落とし物はこれか。ブランド品なのだろう、シンプルながらも上品さを感じさせるピンを手にちはるは運転席に戻り、僅かな逡巡の後、スマホの履歴から猪野を選ぶ。
『見つかった⁉︎』
呼び出し音が途切れ、ちはるが言葉を発するよりも早く猪野が言葉を投げかけてきた。たった一言、それだけで全てが吹き飛んだ思いだった。考え込んでいる自分がバカらしく思えてきて、ちはるは思わず笑い声を上げた。
「…やっぱ猪野っちサイコー」
『だろ?よくわかんねーけどサンキューな。んで、七海サンのタイピン、あった?』
「うん、見つけたよ。どうする、猪野っち持っとく?猪野っちの方があの人と良く会うでしょ?」
『ん〜…、いや、ちはるが預かってて。俺、無くしそうで心配だから』
「肌身離さず持ってたら良いじゃん」
『いや…、七海サンにキモいとか思われたくないし…』
「けどそれだとすぐ返せないじゃない」
『…。わかった、今度七海サンと会う時ちはるも呼ぶわ。これで完璧っしょ』
一体何がわかって何が完璧なのか。ちはるは呆れながらも預かる事を了承し、その時に併せて週刊漫画とポテチも渡すと伝えて通話を切った。ひと呼吸ついて、ちはるはエナジードリンクをひと口飲んでエンジンを回した。
もう考えるのがめんどくさいー考えたって仕方ないし、何も変わらない。あの人がどんな人か、どんなものを背負っているかなんて関係ない。あの人を気にしたって自分の捻れた性格が真っ直ぐになるワケでもないし、誰かに何かを期待するような事なんてもう御免だ。
ちはるはギアを入れて車をゆっくりと発進させた。脳内を巡り続ける自身への怨嗟にも似た声を掻き消すようにオーディオのボリュームを上げる。
自分は何がしたいんだろうーそんな考えが頭を擡げてくる。当然そんな理由や目的なんてそうそう見つかるはずもないし、仮に見つけたところで納得出来るのかもわからない。ただ、自分は自分で在りたい、それだけだ。
周りにどう思われたって何を言われたって、一番大切なのは自分の気持ちひとつ、それだけだ。
ちはるは当初の目的地としていた家電量販店と家具店へ向かった。もう半ば憂さ晴らしのような買い方になるだろう事は予想していた。それはそれで良いじゃないか。
家電量販店では一人暮らしには十分過ぎるくらいの冷蔵庫に、最新モデルの洗濯機、気が向いた時に何でも作れるようにとオーブンレンジ、どれくらい使うかわからないがテレビを。家具店ではゆったり眠れるようにダブルサイズのベッド、シックなデザインのダイニングテーブル、2人掛けのソファにローテーブルを購入した。1日でかなりの額を使った計算になるが、今後自分の生活を支えるものになるし、初めて自分1人で生活出来る環境だ。気に入った物に囲まれて好きなように生活する事くらい、贅沢の内に入らないだろう。ちはるはこれから始まる新しい生活に胸を躍らせた。