呪胎戴天、そして
恵の幼馴染のお名前は?
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「…七海です。ええ、終わりました。ピックアップをお願いします。…そうですか、わかりました。それでは」
七海が呪霊を祓い、無事に任務は完了した。
「別の任務に出ている術師をピックアップしてからこちらへ向かうとの事なので、少々時間がかかるそうです。…ところで大丈夫ですか?」
通話を終えた七海が、隣でしゃがみ込み小さくなっている芙蓉を振り返り声をかける。芙蓉は涙目で頷いた。
「…今日は本当にすみませんでした…」
任務では完全に七海の邪魔をし、足を引っ張りまくってしまったー呪霊が七海の背後に現れた際、彼を守ろうと思って発現させた術式で七海の攻撃の邪魔をするわ、七海に祓うよう指示された呪霊を追い詰めれば取り逃し、七海の方へ流れて行ってしまって結局1人で対処させるわー今回何か役に立てた事があっただろうか、お荷物だったに違いない。が、そんな自責の念に駆られている芙蓉を叱責する程七海は酷い人間ではない。七海はサングラスを外し、ハンカチで汚れを拭いながら口を開く。
「…任務に慣れない内はそんなもんです。呪霊を怖がらずに立ち向かえただけでも上出来だと思いますよ」
「…私、七海さん達に助けてもらった時、友達と一緒だったんです。その時、友達がケガしちゃって。呪いの姿が見えるのに、何も出来ない自分が嫌で…、私も七海さん達みたいに人を助けられるような術師になりたいって思って、高専に入ったんです。…術式もコントロール出来るようになったのに、何にも、役、に立てなく、て」
最後の方はもう泣いていて、上手く言葉にならず、流れ出した涙はもう止めようがなかった。七海は何も言わずに黙っていた。涙で滲む視界を手で拭うと、視界の端に七海の靴を捉えて芙蓉は慌てて謝罪した。
「すみません…、勝手にペラペラ余計な事喋って、勝手に泣いてしまって、」
「いえ。…私は教職ではないので貴女に何かを指導する事は出来ません。…なのでここからは私の独り言です」
え、と芙蓉は赤い目で七海を見上げた。掛け直したサングラスで相変わらず表情は読めないが、口元は微笑むように、少しだけ口角が上がっているように見えた。
「…今日初めて高峰さんの動き、術式を見せてもらいましたが、術式に拘り過ぎではないかと思います。…術師なのですから当然かもしれませんが、もっと自由に術式を使ってみても良いのではないでしょうか」
「術式を、自由に…」
「今朝こちらへ来る車内で、高峰さんはご自身の術式の説明をしてくれましたね、鏡の壁を作り出す術式であると。私が高峰さんの術式を持っていたとするなら、鏡の性質は無視して使います。…貴女の術式について詳しい事はわかりませんが、鏡の性質を最大限に活かせるのは自分より弱い相手のみ、強い相手となると恐らく押し負けてしまうでしょう。祓除ではイレギュラーな事があるのは常識、より確実な方法で戦うべきだと思います」
「…私の術式で、戦えるでしょうか…?」
「術式に拘る必要はないと言いましたね?…いい例が五条さんです。あの人の術式はご存知ですか?」
「確か、無限を操る、とか…」
「ええ。私からすれば五条さんの術式も高峰さんの術式も似たようなものだと思います。どちらも空間に干渉出来るものですから。呪力効率や呪力量、経験等は別として、性質や原理は違えど高峰さんも五条さんも相手の進路を妨害する事が出来るでしょう」
確かにそうかもしれないー芙蓉は七海を見上げる。
「じゃあ、」
「話は最後まで聞くように。…お2人の決定的な違いを挙げれば体術のレベル差でしょう。男女差、経験の差はあるかもしれませんが、それを別にしたとしても圧倒的です。さすがにあの人を目標にするのは少々現実的ではないと思いますので、何か武器や道具を使って力不足を補う方法もあります。鍛錬というのは楽なものではありませんが、身近に教えを乞える存在がいるのは良い事です。高専には優れた呪具使いがいると聞いていますが」
「…! 真希さん…!」
「…少々お喋りが過ぎました、私からは以上です」
七海が話を切るとほぼ同時に、1台の車が向かって来るのが見えた。芙蓉はもう一度涙を拭って立ち上がった。
「すみません、お待たせしました」
伊地知は多忙らしく、ドライバーは別の補助監督だ。
「芙蓉?」
「…え、恵?」
七海に先に乗ってもらおうと、芙蓉が後部座席のドアを開ければ声がかかる。七海は小さく笑うと、どうぞお乗り下さいと芙蓉を押し込み、自身は助手席へと回った。
走り出した車の中、伏黒は黙って七海と補助監督のやり取りを聞いていた。七海から任務に関しての報告、補助監督から今後提出してもらう予定の書類について等々。話が終わったのを見計らい、伏黒は七海に声をかけた。
「七海さん、お疲れさまでした」
七海は伏黒が任務での芙蓉の様子を気にかけているのだろう事を察したー伏黒と芙蓉が同学年というのは伊地知から聞いている。経験の少ない芙蓉を伏黒が気にかけるのは当然の事だろうと思い、口を開く。
「伏黒くんもご苦労さまでした。…かなり緊張していたようですが、特に大きな問題はありませんでしたよ。
…伏黒くんは随分信頼されているようですね」
「え?…、あ、」
伏黒の隣で芙蓉はウトウト船を漕いでいた。芙蓉を起こそうとする伏黒を七海が制止する。
「疲れたのでしょう、十分に休ませてあげてください。…あぁ、私はここで結構です。それでは」
街中に入ったところで補助監督のスマホが鳴り、車を路肩に寄せて停車したタイミングで、補助監督が引き止める間もなく七海は車を降りて行ってしまった。
伏黒は七海の後ろ姿を見送りながら、自身に凭れ掛かってきた芙蓉の手を労わるようにそっと握った。
七海が呪霊を祓い、無事に任務は完了した。
「別の任務に出ている術師をピックアップしてからこちらへ向かうとの事なので、少々時間がかかるそうです。…ところで大丈夫ですか?」
通話を終えた七海が、隣でしゃがみ込み小さくなっている芙蓉を振り返り声をかける。芙蓉は涙目で頷いた。
「…今日は本当にすみませんでした…」
任務では完全に七海の邪魔をし、足を引っ張りまくってしまったー呪霊が七海の背後に現れた際、彼を守ろうと思って発現させた術式で七海の攻撃の邪魔をするわ、七海に祓うよう指示された呪霊を追い詰めれば取り逃し、七海の方へ流れて行ってしまって結局1人で対処させるわー今回何か役に立てた事があっただろうか、お荷物だったに違いない。が、そんな自責の念に駆られている芙蓉を叱責する程七海は酷い人間ではない。七海はサングラスを外し、ハンカチで汚れを拭いながら口を開く。
「…任務に慣れない内はそんなもんです。呪霊を怖がらずに立ち向かえただけでも上出来だと思いますよ」
「…私、七海さん達に助けてもらった時、友達と一緒だったんです。その時、友達がケガしちゃって。呪いの姿が見えるのに、何も出来ない自分が嫌で…、私も七海さん達みたいに人を助けられるような術師になりたいって思って、高専に入ったんです。…術式もコントロール出来るようになったのに、何にも、役、に立てなく、て」
最後の方はもう泣いていて、上手く言葉にならず、流れ出した涙はもう止めようがなかった。七海は何も言わずに黙っていた。涙で滲む視界を手で拭うと、視界の端に七海の靴を捉えて芙蓉は慌てて謝罪した。
「すみません…、勝手にペラペラ余計な事喋って、勝手に泣いてしまって、」
「いえ。…私は教職ではないので貴女に何かを指導する事は出来ません。…なのでここからは私の独り言です」
え、と芙蓉は赤い目で七海を見上げた。掛け直したサングラスで相変わらず表情は読めないが、口元は微笑むように、少しだけ口角が上がっているように見えた。
「…今日初めて高峰さんの動き、術式を見せてもらいましたが、術式に拘り過ぎではないかと思います。…術師なのですから当然かもしれませんが、もっと自由に術式を使ってみても良いのではないでしょうか」
「術式を、自由に…」
「今朝こちらへ来る車内で、高峰さんはご自身の術式の説明をしてくれましたね、鏡の壁を作り出す術式であると。私が高峰さんの術式を持っていたとするなら、鏡の性質は無視して使います。…貴女の術式について詳しい事はわかりませんが、鏡の性質を最大限に活かせるのは自分より弱い相手のみ、強い相手となると恐らく押し負けてしまうでしょう。祓除ではイレギュラーな事があるのは常識、より確実な方法で戦うべきだと思います」
「…私の術式で、戦えるでしょうか…?」
「術式に拘る必要はないと言いましたね?…いい例が五条さんです。あの人の術式はご存知ですか?」
「確か、無限を操る、とか…」
「ええ。私からすれば五条さんの術式も高峰さんの術式も似たようなものだと思います。どちらも空間に干渉出来るものですから。呪力効率や呪力量、経験等は別として、性質や原理は違えど高峰さんも五条さんも相手の進路を妨害する事が出来るでしょう」
確かにそうかもしれないー芙蓉は七海を見上げる。
「じゃあ、」
「話は最後まで聞くように。…お2人の決定的な違いを挙げれば体術のレベル差でしょう。男女差、経験の差はあるかもしれませんが、それを別にしたとしても圧倒的です。さすがにあの人を目標にするのは少々現実的ではないと思いますので、何か武器や道具を使って力不足を補う方法もあります。鍛錬というのは楽なものではありませんが、身近に教えを乞える存在がいるのは良い事です。高専には優れた呪具使いがいると聞いていますが」
「…! 真希さん…!」
「…少々お喋りが過ぎました、私からは以上です」
七海が話を切るとほぼ同時に、1台の車が向かって来るのが見えた。芙蓉はもう一度涙を拭って立ち上がった。
「すみません、お待たせしました」
伊地知は多忙らしく、ドライバーは別の補助監督だ。
「芙蓉?」
「…え、恵?」
七海に先に乗ってもらおうと、芙蓉が後部座席のドアを開ければ声がかかる。七海は小さく笑うと、どうぞお乗り下さいと芙蓉を押し込み、自身は助手席へと回った。
走り出した車の中、伏黒は黙って七海と補助監督のやり取りを聞いていた。七海から任務に関しての報告、補助監督から今後提出してもらう予定の書類について等々。話が終わったのを見計らい、伏黒は七海に声をかけた。
「七海さん、お疲れさまでした」
七海は伏黒が任務での芙蓉の様子を気にかけているのだろう事を察したー伏黒と芙蓉が同学年というのは伊地知から聞いている。経験の少ない芙蓉を伏黒が気にかけるのは当然の事だろうと思い、口を開く。
「伏黒くんもご苦労さまでした。…かなり緊張していたようですが、特に大きな問題はありませんでしたよ。
…伏黒くんは随分信頼されているようですね」
「え?…、あ、」
伏黒の隣で芙蓉はウトウト船を漕いでいた。芙蓉を起こそうとする伏黒を七海が制止する。
「疲れたのでしょう、十分に休ませてあげてください。…あぁ、私はここで結構です。それでは」
街中に入ったところで補助監督のスマホが鳴り、車を路肩に寄せて停車したタイミングで、補助監督が引き止める間もなく七海は車を降りて行ってしまった。
伏黒は七海の後ろ姿を見送りながら、自身に凭れ掛かってきた芙蓉の手を労わるようにそっと握った。