呪胎戴天、そして
恵の幼馴染のお名前は?
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芙蓉が高専の正門へ向かうと、伊地知が車の点検をしているところだった。
「おはようございます」
「あぁ高峰さん、おはようございます」
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願いします」
簡単に挨拶を済ませる。点検を続ける伊地知の横顔はだいぶ疲れている様子で、目の下のクマが白い顔にくっきりと存在を主張しているのが目についた。
「あの、伊地知さん…、先日は…その、無理を言って、本当にすみませんでした」
「いいえ、気になさらないでください。…他の術師と同じように任務に出たいと思う高峰さんの気持ちもわからなくないですからね。私もずっと補助監督として見送る立場で居ますから…、自分の無力さというか、そういう気持ちと嫌でも向き合わなければいけないですからね」
少し早いですがそろそろ出発しましょう、と車のボンネットを閉め、伊地知は温和な笑みで穏やかに言った。何も無かったように伊地知は車の運転席に乗り込む。芙蓉も伊地知に続いて車の後部座席に乗り込んだ。
「正直なところ、高峰さんが少し早めに来てくれて良かったです。七海さんは時間に厳しい方なので、少しゆとりを持って行きたいんですよね」
そう笑って伊地知は車を発進させ、七海の指定するホテルへ向かう。滑らかに車を走らせる伊地知がいつも穏やかな顔で居るのは、任務へ送り出す彼の気遣いなのだろうと芙蓉が思うと同時に、術師に対し、常に感情をフラットに保っている伊地知の凄さを垣間見た気がした。
朝早い時間という事もあって、車はスムーズに都心へ入り、とある大きなホテルのロータリーへ滑り込む。伊地知が車を停めるとほぼ同時にエントランスからいつものスーツをきっちり着こなした七海が姿を見せた。おはようございます、とスマートな所作で車に乗り込んできた七海にそれぞれ挨拶を交わす。
「七海さん、今日はよろしくお願いします」
芙蓉は隣に座る七海に頭を下げた。こちらこそ、と表情の変わらないまま返事が来るーそんな彼に芙蓉は緊張の高まりを感じた。
「伊地知くん、任務の詳細について確認を」
「はい。本日の任務は…」
これから向かうのは数年前に閉鎖された病院。都市部から離れた町の、更に少し奥まった場所にあるその病院は定番の肝試しスポットと化し、そこを訪れた若者が行方不明、というよくある話だ。今回の任務は2級相当、七海1人でも何の問題もない任務だ。
30分近く車に揺られていただろうか。山奥、と言っても差し支えなさそうな場所で車が停まった。
先に車を降りた七海に続いて芙蓉も車を降りた。降り立った地はかろうじて舗装が残っているものの傷みが酷く、割れたアスファルトからは雑草が生き生きと顔を出していて路面はデコボコしている。そのまま視線を遠くへ向けると、外壁がほとんど蔦で覆われ尽くしている建物が見えた。あれが今回の現場、廃病院なのだろう。辺りは鬱蒼と草木が生い茂り、湿った臭いが鼻をつく。
七海を先頭に芙蓉、伊地知と建物へ向かって歩く。大きな門扉が見え、錆びた鎖が柱に巻き付き施錠をしているが、門扉の一部が錆びて穴を開け、錠の役目を果たさなくなっていた。その周辺の草は踏み倒されて獣道のようになっていて、ここを訪れた人間の多さを示している。人1人潜れる大きさの門扉の穴からどろりと呪いの気配が流れ出ているのを感じ、芙蓉は深呼吸をした。
「行きましょう。伊地知くん、帳をお願いします」
「お気をつけて」
空から夜が流れ落ちて来るのを感じながら、芙蓉は先に門の穴を潜り抜けた七海の後を追った。敷地内も外と同じように草が生い茂り、芙蓉の大嫌いな虫が飛び回っている。顔を顰め、手で追い払いながら進んでいく。
「病院なのに、どうしてこんな山奥に建てるんでしょうね?こんなところじゃ不便過ぎますよね」
「街の喧騒から離れた静かな場所で療養出来ると言えば聞こえが良いのでしょう」
七海の言葉になるほど、と納得する。建物の入り口隣に病院案内の看板が見え、精神科の文字が読み取れた。
「…どうしても精神病院や精神病の患者は偏見を持たれ易いでしょうからね」
建物も門扉と同じように厳重に施錠されているが、入り口の扉も壊されていて、そこを通れば中へ入る事が出来そうだ。七海が入り口近くを調べている間、芙蓉は建物周辺を観察した。窓がある場所には不法侵入を防ぐ為だろう、板が打ち付けてあったが、雨風に晒され腐り落ちて穴が開いていて、そこから草が顔を出して穴を塞いでいるところがあれば、何者かに破られているところもある。辺りは草木ばかりで何もないのに、壁に大きな落書きやゴミが落ちていたりと人のいないはずの廃墟に人を感じさせる物が散乱していて、芙蓉は何とも言えないアンバランスさというか何というかー人間から生まれた呪霊、この建物もある意味そうなのかもしれない思った。
「高峰さん」
七海の声に芙蓉は驚いて肩を揺らしながらも彼を振り返る。七海は真っ直ぐに芙蓉を見ていた。
「…呪力が乱れているようですが、大丈夫ですか」
「っ、すみません」
「気を引き締めて行きましょう」
芙蓉は深呼吸をして前を歩く七海の後を追った。
「おはようございます」
「あぁ高峰さん、おはようございます」
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願いします」
簡単に挨拶を済ませる。点検を続ける伊地知の横顔はだいぶ疲れている様子で、目の下のクマが白い顔にくっきりと存在を主張しているのが目についた。
「あの、伊地知さん…、先日は…その、無理を言って、本当にすみませんでした」
「いいえ、気になさらないでください。…他の術師と同じように任務に出たいと思う高峰さんの気持ちもわからなくないですからね。私もずっと補助監督として見送る立場で居ますから…、自分の無力さというか、そういう気持ちと嫌でも向き合わなければいけないですからね」
少し早いですがそろそろ出発しましょう、と車のボンネットを閉め、伊地知は温和な笑みで穏やかに言った。何も無かったように伊地知は車の運転席に乗り込む。芙蓉も伊地知に続いて車の後部座席に乗り込んだ。
「正直なところ、高峰さんが少し早めに来てくれて良かったです。七海さんは時間に厳しい方なので、少しゆとりを持って行きたいんですよね」
そう笑って伊地知は車を発進させ、七海の指定するホテルへ向かう。滑らかに車を走らせる伊地知がいつも穏やかな顔で居るのは、任務へ送り出す彼の気遣いなのだろうと芙蓉が思うと同時に、術師に対し、常に感情をフラットに保っている伊地知の凄さを垣間見た気がした。
朝早い時間という事もあって、車はスムーズに都心へ入り、とある大きなホテルのロータリーへ滑り込む。伊地知が車を停めるとほぼ同時にエントランスからいつものスーツをきっちり着こなした七海が姿を見せた。おはようございます、とスマートな所作で車に乗り込んできた七海にそれぞれ挨拶を交わす。
「七海さん、今日はよろしくお願いします」
芙蓉は隣に座る七海に頭を下げた。こちらこそ、と表情の変わらないまま返事が来るーそんな彼に芙蓉は緊張の高まりを感じた。
「伊地知くん、任務の詳細について確認を」
「はい。本日の任務は…」
これから向かうのは数年前に閉鎖された病院。都市部から離れた町の、更に少し奥まった場所にあるその病院は定番の肝試しスポットと化し、そこを訪れた若者が行方不明、というよくある話だ。今回の任務は2級相当、七海1人でも何の問題もない任務だ。
30分近く車に揺られていただろうか。山奥、と言っても差し支えなさそうな場所で車が停まった。
先に車を降りた七海に続いて芙蓉も車を降りた。降り立った地はかろうじて舗装が残っているものの傷みが酷く、割れたアスファルトからは雑草が生き生きと顔を出していて路面はデコボコしている。そのまま視線を遠くへ向けると、外壁がほとんど蔦で覆われ尽くしている建物が見えた。あれが今回の現場、廃病院なのだろう。辺りは鬱蒼と草木が生い茂り、湿った臭いが鼻をつく。
七海を先頭に芙蓉、伊地知と建物へ向かって歩く。大きな門扉が見え、錆びた鎖が柱に巻き付き施錠をしているが、門扉の一部が錆びて穴を開け、錠の役目を果たさなくなっていた。その周辺の草は踏み倒されて獣道のようになっていて、ここを訪れた人間の多さを示している。人1人潜れる大きさの門扉の穴からどろりと呪いの気配が流れ出ているのを感じ、芙蓉は深呼吸をした。
「行きましょう。伊地知くん、帳をお願いします」
「お気をつけて」
空から夜が流れ落ちて来るのを感じながら、芙蓉は先に門の穴を潜り抜けた七海の後を追った。敷地内も外と同じように草が生い茂り、芙蓉の大嫌いな虫が飛び回っている。顔を顰め、手で追い払いながら進んでいく。
「病院なのに、どうしてこんな山奥に建てるんでしょうね?こんなところじゃ不便過ぎますよね」
「街の喧騒から離れた静かな場所で療養出来ると言えば聞こえが良いのでしょう」
七海の言葉になるほど、と納得する。建物の入り口隣に病院案内の看板が見え、精神科の文字が読み取れた。
「…どうしても精神病院や精神病の患者は偏見を持たれ易いでしょうからね」
建物も門扉と同じように厳重に施錠されているが、入り口の扉も壊されていて、そこを通れば中へ入る事が出来そうだ。七海が入り口近くを調べている間、芙蓉は建物周辺を観察した。窓がある場所には不法侵入を防ぐ為だろう、板が打ち付けてあったが、雨風に晒され腐り落ちて穴が開いていて、そこから草が顔を出して穴を塞いでいるところがあれば、何者かに破られているところもある。辺りは草木ばかりで何もないのに、壁に大きな落書きやゴミが落ちていたりと人のいないはずの廃墟に人を感じさせる物が散乱していて、芙蓉は何とも言えないアンバランスさというか何というかー人間から生まれた呪霊、この建物もある意味そうなのかもしれない思った。
「高峰さん」
七海の声に芙蓉は驚いて肩を揺らしながらも彼を振り返る。七海は真っ直ぐに芙蓉を見ていた。
「…呪力が乱れているようですが、大丈夫ですか」
「っ、すみません」
「気を引き締めて行きましょう」
芙蓉は深呼吸をして前を歩く七海の後を追った。