出会い
恵の幼馴染のお名前は?
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伏黒にとっての地獄の五条家合宿ーもとい、呪術師としての鍛錬はこの夏だけでは終わらなかった。今後の夏休みはもちろん、冬休み、春休みも、伏黒の長期休日は五条家での鍛錬に費やされる事となった。
当初こそ伏黒と共に五条家で過ごしていた津美紀だったが、学年が上がるにつれ、他人の家で長期間過ごす事に対しての遠慮と羞恥が芽生えた事に加えて友人との付き合いも増えてきたようで、五条家に滞在する日数は休み期間の半分、2週間、1週間と、徐々に少なくなっていった。
そんな2人の間で芙蓉は変なジレンマに陥っていた。自分と五条は親族、伏黒と共に五条家に長く滞在していても何ら問題はないが、津美紀の事も気になるーそんな彼女の気持ちを察したのか、伏黒は自身が不在の間、津美紀の事を頼むと芙蓉に請うた。それに背中を押されたように、芙蓉の五条家への滞在は母の帰省に合わせた期間だけということに落ち着いた。
伏黒と芙蓉が5年生に、津美紀が6年生になった年の夏休み。芙蓉は五条家を訪れた。
「やぁ芙蓉、いらっしゃい。今日は1人?」
近頃不在にしている事が多い五条が出迎えた。この日は珍しく、あの真っ黒なサングラスを外していた。
「うん、お遣いで来ただけだから。…恵は?」
「今日はまだ見かけてないね。日曜で鍛錬ナシだから、まだ寝てるんじゃないかな?」
決して早い時間ではなかったが、あ、そっか、と芙蓉は独り言ちた。昨夜、伏黒から参考書を1冊忘れてきたので届けて欲しいとの依頼を受けてきたのだ。
「じゃ、少し散歩でも行ってこようかな」
せっかく来たんだし、せめて伏黒の顔くらいは見てから帰ろう。彼が起きてくるまでの時間潰しと思っての事だった。
庭先へ出て、大きく伸びをする。ジリジリと夏の強い日差しが肌を刺すが、時折吹き抜ける風が心地良い。静かで穏やかな場所にある五条家の周辺は自然が豊かーと言えば聞こえはいいが、口悪く言えば何もない辺鄙な田舎、ともいえる。
意外な事に、五条が付いてきた。何か用でもあるのかと気になったが、特に話しかけられるわけでもない。芙蓉はそのまま五条を従えるように敷地を出て、周辺を繋ぐ生活道路を進む。
「…あ」
「ん?」
芙蓉が声を上げると、呼応するように五条も声を上げる。芙蓉の視線を辿ると、路上に何かが落ちているのが見える。よくよく目を凝らして見ると、その何かは少し動いているー何かが落ちているのではなく、1匹の猫だった。それも、生後間もないだろう子猫。
芙蓉はその子猫に駆け寄った。身体は傷だらけで、とても弱々しい様子だ。頭上ではギャアギャアとカラスの群れが騒がしく旋回している。
親猫とはぐれたのだろうこの子猫は、親を追って彷徨っているところを運悪くカラスの群れに見つかってしまい、襲われたようだった。
「かわいそう…」
小さな身体は血が流れる程の傷を負い、親猫に助けを求めているのだろう、か細く震えるような声でミィ、ミィと鳴き続けている。少し離れたところにもう1匹、大きめの猫がじっとこちらを見ているーあの猫が恐らく親猫だろう。
「自然の摂理ってヤツだね。仕方ないよ」
どうにかならないかな、と芙蓉が口を開く前に切り捨てるように五条は言った。
この子猫の命が尽きれば、頭上を飛び回るカラスたちは忽ち亡骸に群がり、その血肉によってカラスたちの命が繋がるのだろう。弱肉強食、自然界の理。五条の言葉も間違っていない。理解できても、それを目の当たりにするとなると、どうにかできないかという気持ちが湧き起こってしまうものだろう。芙蓉はその場を立ち去る事ができなかった。
五条は芙蓉の気が済むようにさせた。特に声もかけず、親猫の様子を見ていた。と、背後で呪力が膨らむ気配を感じて振り返るー呪力の発生源は芙蓉だった。彼女の足元で風前の灯だった子猫が、しっかりと地面を踏みしめて立ち上がっている。そして幾分頼りない足取りながらも五条の足元を擦り抜けて親猫の下へ向かう。2匹は合流すると、あっという間に茂みに姿を消した。カラスの群れは散り散りになっていた。
「ちょ、ちょ、ちょ、今どーやった?」
芙蓉は何が起きたかわからないようで、五条に呆けた顔を向けるので精一杯だった。
「何、今の…?」
「ん〜、今のが何かっていう事に答えるなら、反転術式、ってやつだね」
「…反転、術式…?」
困惑した表情で五条を見上げると、芙蓉とは反対に嬉しそうな顔をしていた。
「いや〜、まさか反転が使えるとはねぇ…」
言いながら五条は芙蓉の顔をじぃっと覗き込む。芙蓉が五条のスカイブルーの瞳を見たのは初めてではないが、こうして近くで見ると本当に綺麗、などと思っていると五条は難しい顔をした。
「ふーむ…」
「…私の顔見て、何かわかるの?」
五条はその質問には答えなかった。その代わり、子猫の件は誰にも言わないようにと口止めをした。
「恵にも?」
「そうだね。芙蓉からこの事については誰にも言わないようにね」
当初こそ伏黒と共に五条家で過ごしていた津美紀だったが、学年が上がるにつれ、他人の家で長期間過ごす事に対しての遠慮と羞恥が芽生えた事に加えて友人との付き合いも増えてきたようで、五条家に滞在する日数は休み期間の半分、2週間、1週間と、徐々に少なくなっていった。
そんな2人の間で芙蓉は変なジレンマに陥っていた。自分と五条は親族、伏黒と共に五条家に長く滞在していても何ら問題はないが、津美紀の事も気になるーそんな彼女の気持ちを察したのか、伏黒は自身が不在の間、津美紀の事を頼むと芙蓉に請うた。それに背中を押されたように、芙蓉の五条家への滞在は母の帰省に合わせた期間だけということに落ち着いた。
伏黒と芙蓉が5年生に、津美紀が6年生になった年の夏休み。芙蓉は五条家を訪れた。
「やぁ芙蓉、いらっしゃい。今日は1人?」
近頃不在にしている事が多い五条が出迎えた。この日は珍しく、あの真っ黒なサングラスを外していた。
「うん、お遣いで来ただけだから。…恵は?」
「今日はまだ見かけてないね。日曜で鍛錬ナシだから、まだ寝てるんじゃないかな?」
決して早い時間ではなかったが、あ、そっか、と芙蓉は独り言ちた。昨夜、伏黒から参考書を1冊忘れてきたので届けて欲しいとの依頼を受けてきたのだ。
「じゃ、少し散歩でも行ってこようかな」
せっかく来たんだし、せめて伏黒の顔くらいは見てから帰ろう。彼が起きてくるまでの時間潰しと思っての事だった。
庭先へ出て、大きく伸びをする。ジリジリと夏の強い日差しが肌を刺すが、時折吹き抜ける風が心地良い。静かで穏やかな場所にある五条家の周辺は自然が豊かーと言えば聞こえはいいが、口悪く言えば何もない辺鄙な田舎、ともいえる。
意外な事に、五条が付いてきた。何か用でもあるのかと気になったが、特に話しかけられるわけでもない。芙蓉はそのまま五条を従えるように敷地を出て、周辺を繋ぐ生活道路を進む。
「…あ」
「ん?」
芙蓉が声を上げると、呼応するように五条も声を上げる。芙蓉の視線を辿ると、路上に何かが落ちているのが見える。よくよく目を凝らして見ると、その何かは少し動いているー何かが落ちているのではなく、1匹の猫だった。それも、生後間もないだろう子猫。
芙蓉はその子猫に駆け寄った。身体は傷だらけで、とても弱々しい様子だ。頭上ではギャアギャアとカラスの群れが騒がしく旋回している。
親猫とはぐれたのだろうこの子猫は、親を追って彷徨っているところを運悪くカラスの群れに見つかってしまい、襲われたようだった。
「かわいそう…」
小さな身体は血が流れる程の傷を負い、親猫に助けを求めているのだろう、か細く震えるような声でミィ、ミィと鳴き続けている。少し離れたところにもう1匹、大きめの猫がじっとこちらを見ているーあの猫が恐らく親猫だろう。
「自然の摂理ってヤツだね。仕方ないよ」
どうにかならないかな、と芙蓉が口を開く前に切り捨てるように五条は言った。
この子猫の命が尽きれば、頭上を飛び回るカラスたちは忽ち亡骸に群がり、その血肉によってカラスたちの命が繋がるのだろう。弱肉強食、自然界の理。五条の言葉も間違っていない。理解できても、それを目の当たりにするとなると、どうにかできないかという気持ちが湧き起こってしまうものだろう。芙蓉はその場を立ち去る事ができなかった。
五条は芙蓉の気が済むようにさせた。特に声もかけず、親猫の様子を見ていた。と、背後で呪力が膨らむ気配を感じて振り返るー呪力の発生源は芙蓉だった。彼女の足元で風前の灯だった子猫が、しっかりと地面を踏みしめて立ち上がっている。そして幾分頼りない足取りながらも五条の足元を擦り抜けて親猫の下へ向かう。2匹は合流すると、あっという間に茂みに姿を消した。カラスの群れは散り散りになっていた。
「ちょ、ちょ、ちょ、今どーやった?」
芙蓉は何が起きたかわからないようで、五条に呆けた顔を向けるので精一杯だった。
「何、今の…?」
「ん〜、今のが何かっていう事に答えるなら、反転術式、ってやつだね」
「…反転、術式…?」
困惑した表情で五条を見上げると、芙蓉とは反対に嬉しそうな顔をしていた。
「いや〜、まさか反転が使えるとはねぇ…」
言いながら五条は芙蓉の顔をじぃっと覗き込む。芙蓉が五条のスカイブルーの瞳を見たのは初めてではないが、こうして近くで見ると本当に綺麗、などと思っていると五条は難しい顔をした。
「ふーむ…」
「…私の顔見て、何かわかるの?」
五条はその質問には答えなかった。その代わり、子猫の件は誰にも言わないようにと口止めをした。
「恵にも?」
「そうだね。芙蓉からこの事については誰にも言わないようにね」