呪胎戴天、そして
恵の幼馴染のお名前は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「…失礼しまーす…」
少年院での出来事から3日が過ぎた。芙蓉は家入の反対を押し切って伏黒・釘崎と共に、体術の鍛錬に参加する事にした。術師としての経験はゼロ、それらしい鍛錬も高専に入ってから始めたばかりの芙蓉にとっての唯一の武器は中学時代の部活で培った体力と動体視力、根性。
「おう。…これまた派手にやられたな」
体術の鍛錬で真希にコテンパンにされた芙蓉は家入の下を訪れていた。学内イチの呪具使いと言われ、体術に関して他の生徒より頭ひとつ以上抜きん出ているらしい彼女を相手にするのはほぼ命懸けと言えた。呪いを祓うにあたり、術式に頼りきりになるのは危険過ぎるー呪霊の能力は術師同様、個体によって違ってくる。遠隔攻撃が得意なものもいれば、近接攻撃が得意なものもいるだろう。体術を鍛えておくのは決して無駄にはならないし、何より今まで以上に体力の増強を図らないといけない。
「せめて顔くらい洗って来い」
術師としてのレベルアップに鍛錬は避けて通れぬ道ーわかっていても、身体中痣だらけに傷だらけになるし、おまけに汗まみれに土埃まみれ、とても青春真っ盛りの女子高生とは思えない自身の姿に涙が滲みそうになるのは当然かもしれない。半ば倒れ込むように医務室の簡易ベッドに身体をうつ伏せた。そんな芙蓉を一瞥し、家入は顔を拭けと程よく温めたタオルを手渡した。礼を述べ、痛む身体を動かして乱暴に顔を拭う。茶色い汚れがべったりとついたタオルを見て芙蓉はため息を吐いた。
「…さて、どこだ?」
この日は腰を強打し、更には軽く足首を捻ってしまった芙蓉はのろのろと着ているシャツの裾を捲り上げて腰を見せた。倒れ方が悪かったのか打ち所が悪かったのか、白い肌にどす黒く痛々しい大きな痣が広がっていた。
「…腰と、足首だけ、お願いします」
家入は高専の生徒だけでなく、任務に出ている術師のケアもしなくてはならない。そんな彼女の負担を少しでも軽くしようと、最低限の治癒だけを依頼する。
「お前も反転術式が使えるのにな」
術師じゃなくて私の補助をしてくれると助かるんだがな、と呟く家入に芙蓉は苦笑した。
腰の痛みが少しずつ引いていく感覚に安堵していると、ドアを叩く音が聞こえ、続いてドアが開く。
「…失礼。出直します」
「おう」
その声の主は素早く状況を察したようで、謝罪を言い終える前にドアを閉め始めていた。その来訪者の声からして男性、芙蓉の視界の端に薄茶色のスーツが見えた。家入はさして気にする様子もなく返事をする、つまりよく高専を出入りしている人物だろう事が想像出来る。
「…あの人…、」
「ん?七海がどうした?」
見覚えのある色のスーツを来ている男性。芙蓉は記憶を辿るー思い出した。
「あっ!」
「なんだ、今日は忙しいな」
突然の大声に迷惑そうな表情をしながら、家入は治癒の完了を告げる。芙蓉は勢いよく起き上がって服を整え、家入への礼もそこそこに先程の男性ー七海、というらしいーを追いかけてバタバタと医務室を出て行った。
「…どうせまた来るんだから、ここで待てばいいのに」
誰も居なくなり、静かになった医務室で家入はぬるくなったコーヒーを口にした。
医務室を飛び出した芙蓉は小走りに高専関係者が出入りしている事務室を目指した。学生ではないだろうから、行くのはきっとその辺りだろうと目星を付けての事だ。受付の小窓から中を覗くも、目的の後ろ姿はない。そっとその場を離れ、術師の休憩所へと向かう。寮生活をしている学生にはあまり縁のない場所ではあるが、以前伏黒に高専内を案内してもらった時に教わったのを思い出したのだ。今度は騒がしくしないようにゆっくりと歩いて行く。と、進行方向から話し声が聞こえてくる。ちょうど通路の突き当たり、顔だけ覗かせると伊地知と男性2人が話していた。目的の人物であるのを確認した芙蓉は、彼らの話が終わるのを待とうと首を引っ込めー
「高峰さん?」
どうしました、と伊地知が声をかけた。悪い事をしているわけではないのに、芙蓉はなんとも言えない気まずさを覚えた。伊地知の声に、男性2人も振り返る。芙蓉は勢いだけで追いかけて来た事を後悔した。
「あ…、その、」
「あれ?」
伊地知、スーツが芙蓉を見、もう1人の、黒のニット帽が、あーっ、と声を上げた。
「…君さ、前呪霊に襲われてなかった?」
確か5月の末頃に埼玉の駅前で、とニット帽が言うと、スーツの男ー七海が頷いた。
「…そう言えばそんな任務がありましたね。あの時は細かなミスがいくつかあったのを覚えています」
落ち着いた七海の言葉にニット帽は目を泳がせながらひとつ咳払いをする。
「それにしてもよく覚えていますね。猪野くん、細かい事を言いますが、その気配り気遣いを任務の時にも忘れないようにしてください」
「…ハイ。…ていうか君、高専の生徒、だったの?」
「あ、いえ…、あの時はまだ、」
「猪野くん」
サングラスをかけた七海の表情を上手く読み取る事は出来ないが、七海の言葉に猪野は口を閉じる。
「初対面の方にはまずは挨拶でしょう」
まるで先生みたいー七海に対する率直な印象だった。
少年院での出来事から3日が過ぎた。芙蓉は家入の反対を押し切って伏黒・釘崎と共に、体術の鍛錬に参加する事にした。術師としての経験はゼロ、それらしい鍛錬も高専に入ってから始めたばかりの芙蓉にとっての唯一の武器は中学時代の部活で培った体力と動体視力、根性。
「おう。…これまた派手にやられたな」
体術の鍛錬で真希にコテンパンにされた芙蓉は家入の下を訪れていた。学内イチの呪具使いと言われ、体術に関して他の生徒より頭ひとつ以上抜きん出ているらしい彼女を相手にするのはほぼ命懸けと言えた。呪いを祓うにあたり、術式に頼りきりになるのは危険過ぎるー呪霊の能力は術師同様、個体によって違ってくる。遠隔攻撃が得意なものもいれば、近接攻撃が得意なものもいるだろう。体術を鍛えておくのは決して無駄にはならないし、何より今まで以上に体力の増強を図らないといけない。
「せめて顔くらい洗って来い」
術師としてのレベルアップに鍛錬は避けて通れぬ道ーわかっていても、身体中痣だらけに傷だらけになるし、おまけに汗まみれに土埃まみれ、とても青春真っ盛りの女子高生とは思えない自身の姿に涙が滲みそうになるのは当然かもしれない。半ば倒れ込むように医務室の簡易ベッドに身体をうつ伏せた。そんな芙蓉を一瞥し、家入は顔を拭けと程よく温めたタオルを手渡した。礼を述べ、痛む身体を動かして乱暴に顔を拭う。茶色い汚れがべったりとついたタオルを見て芙蓉はため息を吐いた。
「…さて、どこだ?」
この日は腰を強打し、更には軽く足首を捻ってしまった芙蓉はのろのろと着ているシャツの裾を捲り上げて腰を見せた。倒れ方が悪かったのか打ち所が悪かったのか、白い肌にどす黒く痛々しい大きな痣が広がっていた。
「…腰と、足首だけ、お願いします」
家入は高専の生徒だけでなく、任務に出ている術師のケアもしなくてはならない。そんな彼女の負担を少しでも軽くしようと、最低限の治癒だけを依頼する。
「お前も反転術式が使えるのにな」
術師じゃなくて私の補助をしてくれると助かるんだがな、と呟く家入に芙蓉は苦笑した。
腰の痛みが少しずつ引いていく感覚に安堵していると、ドアを叩く音が聞こえ、続いてドアが開く。
「…失礼。出直します」
「おう」
その声の主は素早く状況を察したようで、謝罪を言い終える前にドアを閉め始めていた。その来訪者の声からして男性、芙蓉の視界の端に薄茶色のスーツが見えた。家入はさして気にする様子もなく返事をする、つまりよく高専を出入りしている人物だろう事が想像出来る。
「…あの人…、」
「ん?七海がどうした?」
見覚えのある色のスーツを来ている男性。芙蓉は記憶を辿るー思い出した。
「あっ!」
「なんだ、今日は忙しいな」
突然の大声に迷惑そうな表情をしながら、家入は治癒の完了を告げる。芙蓉は勢いよく起き上がって服を整え、家入への礼もそこそこに先程の男性ー七海、というらしいーを追いかけてバタバタと医務室を出て行った。
「…どうせまた来るんだから、ここで待てばいいのに」
誰も居なくなり、静かになった医務室で家入はぬるくなったコーヒーを口にした。
医務室を飛び出した芙蓉は小走りに高専関係者が出入りしている事務室を目指した。学生ではないだろうから、行くのはきっとその辺りだろうと目星を付けての事だ。受付の小窓から中を覗くも、目的の後ろ姿はない。そっとその場を離れ、術師の休憩所へと向かう。寮生活をしている学生にはあまり縁のない場所ではあるが、以前伏黒に高専内を案内してもらった時に教わったのを思い出したのだ。今度は騒がしくしないようにゆっくりと歩いて行く。と、進行方向から話し声が聞こえてくる。ちょうど通路の突き当たり、顔だけ覗かせると伊地知と男性2人が話していた。目的の人物であるのを確認した芙蓉は、彼らの話が終わるのを待とうと首を引っ込めー
「高峰さん?」
どうしました、と伊地知が声をかけた。悪い事をしているわけではないのに、芙蓉はなんとも言えない気まずさを覚えた。伊地知の声に、男性2人も振り返る。芙蓉は勢いだけで追いかけて来た事を後悔した。
「あ…、その、」
「あれ?」
伊地知、スーツが芙蓉を見、もう1人の、黒のニット帽が、あーっ、と声を上げた。
「…君さ、前呪霊に襲われてなかった?」
確か5月の末頃に埼玉の駅前で、とニット帽が言うと、スーツの男ー七海が頷いた。
「…そう言えばそんな任務がありましたね。あの時は細かなミスがいくつかあったのを覚えています」
落ち着いた七海の言葉にニット帽は目を泳がせながらひとつ咳払いをする。
「それにしてもよく覚えていますね。猪野くん、細かい事を言いますが、その気配り気遣いを任務の時にも忘れないようにしてください」
「…ハイ。…ていうか君、高専の生徒、だったの?」
「あ、いえ…、あの時はまだ、」
「猪野くん」
サングラスをかけた七海の表情を上手く読み取る事は出来ないが、七海の言葉に猪野は口を閉じる。
「初対面の方にはまずは挨拶でしょう」
まるで先生みたいー七海に対する率直な印象だった。