呪胎戴天、そして
恵の幼馴染のお名前は?
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五条が出て行った医務室に1人残された芙蓉はベッドから降りて窓辺に立ち、窓を開けた。
夏の匂いが感じられる風が芙蓉の頬を撫でていく。胸のすくような澄み切った青空は、何処となく屈託の無い虎杖の笑顔を連想させた。
目を刺す強い光に目を閉じ、芙蓉は大きく息を吸った。息を吐くと同時に目を開ける。目の前に広がる青が目にしみるような気がしたー鼻の奥がツンとする感覚。気持ちを落ち着けようと、もう一度深呼吸をした。
両手でぱし、と頬を軽く叩く。開いた両の掌。虎杖の血は綺麗に洗い流されているはずだが、鉄の匂いがこびり付いているようで、鼻がそれを過敏に嗅ぎ取る。芙蓉は僅かに眉を顰めながらも手を強く握り締めた。
首を締め付けられた影響だろうか、まだ少し頭がふらつくような感覚の中、芙蓉は外へ出た。家入が戻って来ないかと医務室で待っていたが、戻ってくる気配がなく書き置きをした。首元を隠す包帯が欲しかったが、勝手に医務室内を探し回るワケにもいかず、仕方なく諦めてそのまま過ごす事にした。
グラウンドに出ると、二足歩行のパンダが釘崎を投げ飛ばすのが目に入った。危ない、とそちらに思わず手を伸ばすー自身の想いを汲み取ったかの様に、そして意図せず術式が発現していた。
放物線を描いて釘崎が落ちていくコース上に芙蓉が作り上げた薄い壁が幾重にも積み重なり、釘崎の身体を受け止めるようにその壁は次々と割れていく。釘崎が地面に叩きつけられる衝撃を和らげる緩衝材の働きをした。
「あ?誰だ?」
眼鏡をかけ長い髪をポニーテールに結い上げた女子生徒が迷惑そうに声を上げる。芝生に座っていた彼女の鋭い視線は芙蓉の方を向いていた。彼女の近くにいた伏黒も芙蓉の姿を認めると立ち上がった。
「…最後に入った1年です」
伏黒は言いながら芙蓉の元へ駆け寄った。
「動いて大丈夫なのか」
「あ…うん、…たぶん」
そう言う芙蓉の顔色は悪く、首の痣が酷く痛々しい。とても大丈夫とは思えない様相である。いつの間にか釘崎始め、その場にいた面々が集まって来ていた。
「芙蓉、無事で良かったわ」
心配してたのよ、と頭のてっぺんから爪先まで土やら芝やらをくっつけたままの釘崎が笑顔を見せた。
「…で、誰だ?」
「あ…えっと、」
「初めてだったな。こちらは2年の先輩達だ」
伏黒の示す先には先程のポニーテールの女子生徒ー禪院真希、ハイネックで口元を隠した小柄な男子生徒ー狗巻棘、そして二足歩行のパンダ。芙蓉は僅かに戸惑いながらも挨拶をする。
「あー、芙蓉って確か、悟の親戚って話だったよな?」
「あぁ、そーいや言ってたな、そんな事」
「しゃけ」
「…?」
パンダが得意気に言うと、真希と狗巻が納得したように頷いた。異様、とも言える光景ながら芙蓉はどう返事をしていいか、曖昧に笑って見せる。まぁいい、また鍛錬始めるぞという真希の言葉にそれぞれが動き始めた。
「芙蓉」
芝生に座って鍛錬の様子を眺めていると、伏黒が隣に座りながら声をかけてくる。
「呪力が安定してるみたいだな。今までとは全然違う。さっきの、釘崎に向けて使った術式だって繊細な呪力操作が必要なはずだ」
伏黒の言葉に、芙蓉は先程の医務室での五条とのやり取りを思い出した。
「吹っ切れた感じ、かな…、悟くんにちょっと厳しい事言われたけど…、私も、強くならなくちゃいけないし」
グラウンドを眺めながら、呟くように言う芙蓉は昨日の彼女とはまるで別人のようだと伏黒は思った。闇雲に鍛錬を積めば強くなれるかと言われれば、そうではないと伏黒は思う。自身が目指す先を、目指す形をイメージしなくては、鍛錬を活かす事が出来ないのではないかと。今の芙蓉はまるで悟りを開いたように物事を受け入れ、明確に目指す方向を見つめているようにも見える。
「…それも才能、なのかもな」
「え?」
呪術界に於いて名門と言われる五条と、その五条に従い長年協力関係を築いているという高峰の血を引いている芙蓉。本人が自覚していないだけで、芙蓉の持つポテンシャルは高いのだろう事は容易に想像出来る。実際、祓除の現場で芙蓉は安定して帳を下ろす事も出来ている。今後、能力をどう活かして伸ばすかは芙蓉次第ー。
「…冗談抜きで、俺も負けてらんねぇな」
「そんな事、」
「ない、なんて言い切れない。…俺はもう、仲間を置き去りにするような事は絶対にしたくない」
伏黒の言葉で、芙蓉は祓除の現場となった少年院の中で何が起きたのかを漸く理解した。特級呪物と言われる宿儺の指を取り込んだ虎杖は、体内で宿儺と共存しているらしいという事は聞いていた。そして時折、虎杖の身体を宿儺が支配するという事も。芙蓉は昨日の、禍々しい宿儺の呪力を思い出して身震いした。
徐に伏黒は立ち上がり、ちょっと出てくる、と用事を思い出したように言った。怒りとも悲しみともつかない複雑な感情を内に秘めた伏黒の背中に、芙蓉は声をかける事が出来なかった。
夏の匂いが感じられる風が芙蓉の頬を撫でていく。胸のすくような澄み切った青空は、何処となく屈託の無い虎杖の笑顔を連想させた。
目を刺す強い光に目を閉じ、芙蓉は大きく息を吸った。息を吐くと同時に目を開ける。目の前に広がる青が目にしみるような気がしたー鼻の奥がツンとする感覚。気持ちを落ち着けようと、もう一度深呼吸をした。
両手でぱし、と頬を軽く叩く。開いた両の掌。虎杖の血は綺麗に洗い流されているはずだが、鉄の匂いがこびり付いているようで、鼻がそれを過敏に嗅ぎ取る。芙蓉は僅かに眉を顰めながらも手を強く握り締めた。
首を締め付けられた影響だろうか、まだ少し頭がふらつくような感覚の中、芙蓉は外へ出た。家入が戻って来ないかと医務室で待っていたが、戻ってくる気配がなく書き置きをした。首元を隠す包帯が欲しかったが、勝手に医務室内を探し回るワケにもいかず、仕方なく諦めてそのまま過ごす事にした。
グラウンドに出ると、二足歩行のパンダが釘崎を投げ飛ばすのが目に入った。危ない、とそちらに思わず手を伸ばすー自身の想いを汲み取ったかの様に、そして意図せず術式が発現していた。
放物線を描いて釘崎が落ちていくコース上に芙蓉が作り上げた薄い壁が幾重にも積み重なり、釘崎の身体を受け止めるようにその壁は次々と割れていく。釘崎が地面に叩きつけられる衝撃を和らげる緩衝材の働きをした。
「あ?誰だ?」
眼鏡をかけ長い髪をポニーテールに結い上げた女子生徒が迷惑そうに声を上げる。芝生に座っていた彼女の鋭い視線は芙蓉の方を向いていた。彼女の近くにいた伏黒も芙蓉の姿を認めると立ち上がった。
「…最後に入った1年です」
伏黒は言いながら芙蓉の元へ駆け寄った。
「動いて大丈夫なのか」
「あ…うん、…たぶん」
そう言う芙蓉の顔色は悪く、首の痣が酷く痛々しい。とても大丈夫とは思えない様相である。いつの間にか釘崎始め、その場にいた面々が集まって来ていた。
「芙蓉、無事で良かったわ」
心配してたのよ、と頭のてっぺんから爪先まで土やら芝やらをくっつけたままの釘崎が笑顔を見せた。
「…で、誰だ?」
「あ…えっと、」
「初めてだったな。こちらは2年の先輩達だ」
伏黒の示す先には先程のポニーテールの女子生徒ー禪院真希、ハイネックで口元を隠した小柄な男子生徒ー狗巻棘、そして二足歩行のパンダ。芙蓉は僅かに戸惑いながらも挨拶をする。
「あー、芙蓉って確か、悟の親戚って話だったよな?」
「あぁ、そーいや言ってたな、そんな事」
「しゃけ」
「…?」
パンダが得意気に言うと、真希と狗巻が納得したように頷いた。異様、とも言える光景ながら芙蓉はどう返事をしていいか、曖昧に笑って見せる。まぁいい、また鍛錬始めるぞという真希の言葉にそれぞれが動き始めた。
「芙蓉」
芝生に座って鍛錬の様子を眺めていると、伏黒が隣に座りながら声をかけてくる。
「呪力が安定してるみたいだな。今までとは全然違う。さっきの、釘崎に向けて使った術式だって繊細な呪力操作が必要なはずだ」
伏黒の言葉に、芙蓉は先程の医務室での五条とのやり取りを思い出した。
「吹っ切れた感じ、かな…、悟くんにちょっと厳しい事言われたけど…、私も、強くならなくちゃいけないし」
グラウンドを眺めながら、呟くように言う芙蓉は昨日の彼女とはまるで別人のようだと伏黒は思った。闇雲に鍛錬を積めば強くなれるかと言われれば、そうではないと伏黒は思う。自身が目指す先を、目指す形をイメージしなくては、鍛錬を活かす事が出来ないのではないかと。今の芙蓉はまるで悟りを開いたように物事を受け入れ、明確に目指す方向を見つめているようにも見える。
「…それも才能、なのかもな」
「え?」
呪術界に於いて名門と言われる五条と、その五条に従い長年協力関係を築いているという高峰の血を引いている芙蓉。本人が自覚していないだけで、芙蓉の持つポテンシャルは高いのだろう事は容易に想像出来る。実際、祓除の現場で芙蓉は安定して帳を下ろす事も出来ている。今後、能力をどう活かして伸ばすかは芙蓉次第ー。
「…冗談抜きで、俺も負けてらんねぇな」
「そんな事、」
「ない、なんて言い切れない。…俺はもう、仲間を置き去りにするような事は絶対にしたくない」
伏黒の言葉で、芙蓉は祓除の現場となった少年院の中で何が起きたのかを漸く理解した。特級呪物と言われる宿儺の指を取り込んだ虎杖は、体内で宿儺と共存しているらしいという事は聞いていた。そして時折、虎杖の身体を宿儺が支配するという事も。芙蓉は昨日の、禍々しい宿儺の呪力を思い出して身震いした。
徐に伏黒は立ち上がり、ちょっと出てくる、と用事を思い出したように言った。怒りとも悲しみともつかない複雑な感情を内に秘めた伏黒の背中に、芙蓉は声をかける事が出来なかった。