呪胎戴天、そして
恵の幼馴染のお名前は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「どうだ、具合は」
「…はい…」
要領を得ない返事に、家入は小さく息を吐いた。医務室のベッド、身体を起こした芙蓉の表情は、暗い。昨日の光景が網膜に焼き付いてしまったように、どうあっても頭から離れない。昨夜は眠れなかったようで、家入が睡眠導入剤を飲ませた程だった。
「とりあえず身体の状況を説明しておくぞ。とりあえず治せる傷は全部治しておいた。が、首の痣…、これは時間が経たない事にはどうにもならない。頚動脈を締め付けるどころか、首を握り潰されてもおかしくないくらいの力がかかったようだからな、この程度で済んで御の字だな。動かすだけでも痛みがあると思うが、多少は我慢してくれ。時間が経てば痣も自然に消えるだろう。それと…、腹部の傷。単なる裂傷ー引っ掻き傷のようなんだが、どうやっても消えなくてな。もし高峰が嫌じゃなければ、五条に見てもらおうと思うが、どうする?」
アイツは目が良いからな、という家入の言葉。腹部の傷というのは、宿儺に捕まった際につけられたものを言っているのだろう。
「…お願い、します」
芙蓉の返事を聞くと家入は手早くスマホを取り出して五条へと連絡を入れた。珍しく近くにいたのだろう、彼はすぐ医務室に姿を見せた。
「お疲れ。…で、何?見てほしいものって?」
普段なら冗談のひとつくらい口にするはずの彼も、さすがにこの日はそんな気にならないようで言葉少なに用件だけを口にした。
「高峰の身体の傷だ」
家入に促され、芙蓉は身体を横たえた。五条は傷を目にしてもその経緯を聞く事もなく、余計な事も言わずー何かを考える事に意識が向いている様に見えた。
「はいよ〜どれどれ…?」
それでも五条はアイマスクをずらし、真剣な表情で芙蓉の傷を検める。ややあって口を開く。
「…僅かに宿儺の呪力が籠ってるみたいだね。残穢、みたいなものだと思ってくれて良いかな。もしかしたら今後、宿儺の呪力が増幅する時なんかは共鳴みたいな反応をするかもしれない。…けど、それが芙蓉の身体に何かしら影響を及ぼすくらいの力は無いと思うから、その辺は安心して良いよ」
「消せないのか?」
「うーん、宿儺本人なら消せると思うけど」
五条はアイマスクを戻しながら、ちょっと難しいかな、女の子の身体に傷を付けるなんて最低だね、と肩を竦めた。五条の言葉を聞きながら家入は芙蓉の服を整えてやった。その間も芙蓉はじっと黙ったままで、まるで家入の着せ替え人形の様だった。
「…硝子、悪いけどちょっと外してくんない?」
「高峰にはまだ休養が必要だ」
柔らかさの抜けた、何処か冷たさを感じさせる五条の声。家入は怯む事なく毅然とした声で言い切る。
「大丈夫、少し話をするくらいだから」
家入はため息に似た息を吐いた。芙蓉に何かあったらすぐ呼ぶように言い置き、書類を抱え医務室を出て行った。家入を見送り、五条は近くの椅子を引き寄せて腰を下ろした。芙蓉は上体を起こして顔を伏せ、じっと押し黙っていた。沈黙が立ち込める。
「…芙蓉はさ、今どんな気持ち?」
沈黙を破った五条の言葉は無垢な子供の質問のようだった。前日にクラスメイトを亡くした人間に何を言っているのだろうと、デリカシーが無さすぎるのではないかと五条の言葉に芙蓉は少々苛立ちを覚えた気がした。が、今はそんな自分の感情を表現する気にもなれなかった。
「…悲しい、辛い」
「ふむ。思わしくない状況になって心が痛んで耐え難い…って思ってるんだね。じゃあ今度は質問を変えようか。…今芙蓉が感じている気持ち…、悲しさ、辛さを回避する方法はあったと思う?」
「…回避する、方法…?」
「そう。どうすれば芙蓉が悲しくて辛い気持ちにならなかったと思う?」
何を言いたいのだろうー芙蓉は五条と会話をするのが億劫に感じられた。
「…それって、今、必要…?」
「勿論。授業と同じくらいにね」
言い方はともかく、五条の顔は大真面目だった。仕方なく芙蓉は思考を巡らせる。
「…虎杖くんが、無事、だったら、」
「そうだね。今の芙蓉の気持ちは悠仁が死んだ事から来てるワケだね。じゃあ、悠仁が死んだのはどうして?」
「…呪霊、のせいで、」
「違うよ」
たった、一言。五条の一言に、辺りのもの全てが凍り付いたような空気になった。
「…悠仁が死んだのは弱かったからだよ」
「…!」
なんて残酷な言葉だろう。芙蓉は自分の頭の奥が冷えていくような感覚と、腹の底で熱く煮え滾るような感覚を覚えた。だいぶ呪力が揺れてるね、と五条は笑った。そんな彼の様子に芙蓉は怒りのあまり、喉の奥から獣の唸るような声が出そうになるのを必死に堪えていた。
「…いいかい、芙蓉は術師としてやっていくにはまだまだ弱いし、考えが甘過ぎる」
怒りに支配されそうになっている芙蓉を諭すように、五条は落ち着いた声で話し始める。
「どんな状況でも最善を尽くす、可能性を探るのは大いに結構。けどそれは自分に見合った能力があればの話。
…まぁ確かに今回は任務に当たった全員にとって手に有り余るくらいの任務だったワケだけど、芙蓉が現場に同行を許されなかったのは、恵も術師としての芙蓉の未熟さをわかってたからだと思うよ。…外を見てごらん」
五条に対しての信頼や尊敬といったものが崩れてしまいそうな思いの中、芙蓉は家入がカーテンを開け放った窓から外を見た。医務室からはグラウンドが見下ろせた。
「…見えるかい?恵と野薔薇は2年を相手に鍛錬を始めた。…結構厳しめな事言ったけど、ココはそういう世界だよ。弱ければ死に、生き残るには強くなるしかない。芙蓉はこれからどうするつもりかな?」
「…はい…」
要領を得ない返事に、家入は小さく息を吐いた。医務室のベッド、身体を起こした芙蓉の表情は、暗い。昨日の光景が網膜に焼き付いてしまったように、どうあっても頭から離れない。昨夜は眠れなかったようで、家入が睡眠導入剤を飲ませた程だった。
「とりあえず身体の状況を説明しておくぞ。とりあえず治せる傷は全部治しておいた。が、首の痣…、これは時間が経たない事にはどうにもならない。頚動脈を締め付けるどころか、首を握り潰されてもおかしくないくらいの力がかかったようだからな、この程度で済んで御の字だな。動かすだけでも痛みがあると思うが、多少は我慢してくれ。時間が経てば痣も自然に消えるだろう。それと…、腹部の傷。単なる裂傷ー引っ掻き傷のようなんだが、どうやっても消えなくてな。もし高峰が嫌じゃなければ、五条に見てもらおうと思うが、どうする?」
アイツは目が良いからな、という家入の言葉。腹部の傷というのは、宿儺に捕まった際につけられたものを言っているのだろう。
「…お願い、します」
芙蓉の返事を聞くと家入は手早くスマホを取り出して五条へと連絡を入れた。珍しく近くにいたのだろう、彼はすぐ医務室に姿を見せた。
「お疲れ。…で、何?見てほしいものって?」
普段なら冗談のひとつくらい口にするはずの彼も、さすがにこの日はそんな気にならないようで言葉少なに用件だけを口にした。
「高峰の身体の傷だ」
家入に促され、芙蓉は身体を横たえた。五条は傷を目にしてもその経緯を聞く事もなく、余計な事も言わずー何かを考える事に意識が向いている様に見えた。
「はいよ〜どれどれ…?」
それでも五条はアイマスクをずらし、真剣な表情で芙蓉の傷を検める。ややあって口を開く。
「…僅かに宿儺の呪力が籠ってるみたいだね。残穢、みたいなものだと思ってくれて良いかな。もしかしたら今後、宿儺の呪力が増幅する時なんかは共鳴みたいな反応をするかもしれない。…けど、それが芙蓉の身体に何かしら影響を及ぼすくらいの力は無いと思うから、その辺は安心して良いよ」
「消せないのか?」
「うーん、宿儺本人なら消せると思うけど」
五条はアイマスクを戻しながら、ちょっと難しいかな、女の子の身体に傷を付けるなんて最低だね、と肩を竦めた。五条の言葉を聞きながら家入は芙蓉の服を整えてやった。その間も芙蓉はじっと黙ったままで、まるで家入の着せ替え人形の様だった。
「…硝子、悪いけどちょっと外してくんない?」
「高峰にはまだ休養が必要だ」
柔らかさの抜けた、何処か冷たさを感じさせる五条の声。家入は怯む事なく毅然とした声で言い切る。
「大丈夫、少し話をするくらいだから」
家入はため息に似た息を吐いた。芙蓉に何かあったらすぐ呼ぶように言い置き、書類を抱え医務室を出て行った。家入を見送り、五条は近くの椅子を引き寄せて腰を下ろした。芙蓉は上体を起こして顔を伏せ、じっと押し黙っていた。沈黙が立ち込める。
「…芙蓉はさ、今どんな気持ち?」
沈黙を破った五条の言葉は無垢な子供の質問のようだった。前日にクラスメイトを亡くした人間に何を言っているのだろうと、デリカシーが無さすぎるのではないかと五条の言葉に芙蓉は少々苛立ちを覚えた気がした。が、今はそんな自分の感情を表現する気にもなれなかった。
「…悲しい、辛い」
「ふむ。思わしくない状況になって心が痛んで耐え難い…って思ってるんだね。じゃあ今度は質問を変えようか。…今芙蓉が感じている気持ち…、悲しさ、辛さを回避する方法はあったと思う?」
「…回避する、方法…?」
「そう。どうすれば芙蓉が悲しくて辛い気持ちにならなかったと思う?」
何を言いたいのだろうー芙蓉は五条と会話をするのが億劫に感じられた。
「…それって、今、必要…?」
「勿論。授業と同じくらいにね」
言い方はともかく、五条の顔は大真面目だった。仕方なく芙蓉は思考を巡らせる。
「…虎杖くんが、無事、だったら、」
「そうだね。今の芙蓉の気持ちは悠仁が死んだ事から来てるワケだね。じゃあ、悠仁が死んだのはどうして?」
「…呪霊、のせいで、」
「違うよ」
たった、一言。五条の一言に、辺りのもの全てが凍り付いたような空気になった。
「…悠仁が死んだのは弱かったからだよ」
「…!」
なんて残酷な言葉だろう。芙蓉は自分の頭の奥が冷えていくような感覚と、腹の底で熱く煮え滾るような感覚を覚えた。だいぶ呪力が揺れてるね、と五条は笑った。そんな彼の様子に芙蓉は怒りのあまり、喉の奥から獣の唸るような声が出そうになるのを必死に堪えていた。
「…いいかい、芙蓉は術師としてやっていくにはまだまだ弱いし、考えが甘過ぎる」
怒りに支配されそうになっている芙蓉を諭すように、五条は落ち着いた声で話し始める。
「どんな状況でも最善を尽くす、可能性を探るのは大いに結構。けどそれは自分に見合った能力があればの話。
…まぁ確かに今回は任務に当たった全員にとって手に有り余るくらいの任務だったワケだけど、芙蓉が現場に同行を許されなかったのは、恵も術師としての芙蓉の未熟さをわかってたからだと思うよ。…外を見てごらん」
五条に対しての信頼や尊敬といったものが崩れてしまいそうな思いの中、芙蓉は家入がカーテンを開け放った窓から外を見た。医務室からはグラウンドが見下ろせた。
「…見えるかい?恵と野薔薇は2年を相手に鍛錬を始めた。…結構厳しめな事言ったけど、ココはそういう世界だよ。弱ければ死に、生き残るには強くなるしかない。芙蓉はこれからどうするつもりかな?」