呪胎戴天、そして
恵の幼馴染のお名前は?
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「避難区域、10kmまで広げて下さい」
伊地知の指示に従い、虎杖を除く一行は一旦祓除の現場から離れた。まず釘崎への処置をする為に彼女を車の後部座席に乗せ、病院へ向かいますと伊地知がハンドルを握る。伏黒と芙蓉が車を見送るように並んで立つ。
「伏黒くんは、」
「残ります。…もしもの時、俺にはアイツを始末する責任があります」
そこまで言って、伏黒は傍らに立つ芙蓉を振り返る。伏黒の視線を受けた芙蓉は固い表情のまま首を振った。
「高峰さん、」
「私も残ります。何か役に立てるかもしれません」
反転術式が使える芙蓉。虎杖が戻ってきた時には彼女の術式が必要になるだろう事は予想できる。
「…釘崎さんを病院へ送り届けたら、私もなるべく早く戻ります」
伏黒はそう言う伊地知を制止した。もし戻ってくるなら1級以上の術師と一緒に来るよう伝えれば、伊地知は苦い表情をした。この業界は人手不足が常ー伏黒に良い返事が出来ないまま、伊地知は車を走らせた。
「…!」
伊地知を見送った後、呪力の変動が感じられ、2人は建物を振り返った。伏黒は先程対峙した呪霊を思い浮かべ、虎杖の言葉を思い出す。雨が降り続ける中、2人が虎杖を案じていると。
「虎杖なら戻らんぞ」
聞いた事のない声、今まで感じた事がないくらいの禍々しい気配。ぞくり、とうなじの辺りを逆撫でされているような、全身が粟立つ感覚、表現し難い不快な感覚が全身を伝う。身体は雨で濡れているのに、背中に冷や汗が流れる感覚がハッキリと感じられた。伏黒も芙蓉もその場に縫い止められたように動く事が出来ず、突如現れた虎杖の姿をした存在の声を背後に聞くしか出来ない。
「そう脅えるな。今は機嫌がいい。…少し話そう」
そう声が言うと、身体を縛り付けていたような気配が緩んだ気がして、伏黒と芙蓉はゆっくりと振り返った。
「…虎杖、くん、…?」
容姿は虎杖なのだが纏う空気がいつもと違う。アイツは虎杖じゃない、という伏黒の声が芙蓉を制止する。
「…宿儺だ」
芙蓉は息を飲んだ。そんな彼女の様子を嘲るように、宿儺はふん、と鼻で笑った。
「なんの縛りもなく俺を利用したツケだな。俺と代わるのに少々手こずっている様だ。…しかしまぁ」
時間の問題だー宿儺は着ていた服を破り捨てた。伏黒と芙蓉の見ている前で、自身の胸へと指先を突き立てる。
「っ、」
おぞましい光景に芙蓉は思わず顔を背けた。肉を裂き、引き千切る音。見た事のないくらいの紅が宿儺の足元を染め上げていく。胸に埋めた腕を漸く引き抜いた宿儺の手には深紅の塊が蠢いている。その塊を見せつけるように、宿儺は伏黒と芙蓉に向けて手を伸ばした。
「虎杖を人質にする。俺はコレなしでも生きていられるがな、虎杖はそうもいかん。俺と代わることは死を意味する」
言いながら宿儺は塊ー虎杖の身体から引き摺り出した心臓を投げ捨てた。
「っ、芙蓉!」
考えるよりも身体が動く、というのはこういう事かと、伏黒の声を聞きながら、芙蓉は他人事のように感じていた。芙蓉は先程宿儺が放り出した心臓を押し戻し、自身の反転術式で虎杖の身体を治す事が出来ないかとー冷静に考えれば砂上の楼閣、しかし今の彼女にはそんな冷静さは持ち合わせておらず、ただ突発的に動いただけに過ぎない。とにかく心臓を手にしなくてはと駆け出し、まだ温かさの残る心臓を手に取った。
「ほぉ…、なかなか肝が据わった女だ」
宿儺の声を背後に聞いて、芙蓉は我に返ったように顔を上げた。宿儺と目が合った、と思ったのも束の間、突然呼吸が苦しくなったー宿儺が芙蓉の首元を掴んでいた。芙蓉が抵抗する間もなく、宿儺はそのまま信じられない程の力で彼女を引き上げていく。
「っぐ…、ぅ…、」
芙蓉の足は地面から離れ、気道が狭められて取り込める酸素が少なくなる。芙蓉は必死に自身の首を掴んでいる腕に抗う。伏黒の声が遠くに聞こえる。身体は思うように動かない、意識が遠くなっていく。それでも芙蓉は気力を振り絞り、心臓を持った震える手を宿儺の胸元へ伸ばそうとする。
「…しぶとい女だな。一興だ」
宿儺の言葉が聞こえると同時に、芙蓉は自身の身体が強い力で引かれるのを感じた。引く力から解放された時、芙蓉は服が引き裂かれたのだと理解した。普段晒される事のない白い肌が露わになる。宿儺は伏黒に見せつけるように、上品とは言い難い不快な笑い声を上げながら芙蓉の鳩尾辺りに爪を滑らせる。鋭利な刃物で切り付けられたように数本の赤い線が引かれた。
「…鵺…!」
怒りを押し殺したような声で伏黒は召喚し、宿儺に向かって駆けていく。宿儺は口元に笑みを浮かべると、オモチャに飽きた子供のように芙蓉を軽々と放り出し、伏黒に対峙した。
「折角外に出たんだ…、広く使おう」
濡れた地面に倒れ込んだ芙蓉は、突然体内に入り込んできた酸素に肺が対応出来ず、激しく咳き込んだ。声が聞こえるが、酸欠からだろう、意識が朦朧とする上に身体も痺れたように、思うように動かない。先程手にした虎杖の心臓は何処かへ行ってしまったようで見当たらなかった。自分の無力さに涙が滲みそうになるが、泣いている場合ではないと自身を奮い立たせる。少しずつ呼吸が整い、身体の感覚が戻ってくると、芙蓉は奥歯を噛み締めて上体を起こした。裂かれた服の代わりとなるものは何もなく、腕で胸元を隠して辺りを窺う。と、伏黒が宿儺に投げ飛ばされたのが見えた。
「っ、恵!」
よろよろと立ち上がり、伏黒の呪力を辿る。何も出来ないと思うが、ここでじっとしているワケにはいかないという一心で伏黒を追った。
伊地知の指示に従い、虎杖を除く一行は一旦祓除の現場から離れた。まず釘崎への処置をする為に彼女を車の後部座席に乗せ、病院へ向かいますと伊地知がハンドルを握る。伏黒と芙蓉が車を見送るように並んで立つ。
「伏黒くんは、」
「残ります。…もしもの時、俺にはアイツを始末する責任があります」
そこまで言って、伏黒は傍らに立つ芙蓉を振り返る。伏黒の視線を受けた芙蓉は固い表情のまま首を振った。
「高峰さん、」
「私も残ります。何か役に立てるかもしれません」
反転術式が使える芙蓉。虎杖が戻ってきた時には彼女の術式が必要になるだろう事は予想できる。
「…釘崎さんを病院へ送り届けたら、私もなるべく早く戻ります」
伏黒はそう言う伊地知を制止した。もし戻ってくるなら1級以上の術師と一緒に来るよう伝えれば、伊地知は苦い表情をした。この業界は人手不足が常ー伏黒に良い返事が出来ないまま、伊地知は車を走らせた。
「…!」
伊地知を見送った後、呪力の変動が感じられ、2人は建物を振り返った。伏黒は先程対峙した呪霊を思い浮かべ、虎杖の言葉を思い出す。雨が降り続ける中、2人が虎杖を案じていると。
「虎杖なら戻らんぞ」
聞いた事のない声、今まで感じた事がないくらいの禍々しい気配。ぞくり、とうなじの辺りを逆撫でされているような、全身が粟立つ感覚、表現し難い不快な感覚が全身を伝う。身体は雨で濡れているのに、背中に冷や汗が流れる感覚がハッキリと感じられた。伏黒も芙蓉もその場に縫い止められたように動く事が出来ず、突如現れた虎杖の姿をした存在の声を背後に聞くしか出来ない。
「そう脅えるな。今は機嫌がいい。…少し話そう」
そう声が言うと、身体を縛り付けていたような気配が緩んだ気がして、伏黒と芙蓉はゆっくりと振り返った。
「…虎杖、くん、…?」
容姿は虎杖なのだが纏う空気がいつもと違う。アイツは虎杖じゃない、という伏黒の声が芙蓉を制止する。
「…宿儺だ」
芙蓉は息を飲んだ。そんな彼女の様子を嘲るように、宿儺はふん、と鼻で笑った。
「なんの縛りもなく俺を利用したツケだな。俺と代わるのに少々手こずっている様だ。…しかしまぁ」
時間の問題だー宿儺は着ていた服を破り捨てた。伏黒と芙蓉の見ている前で、自身の胸へと指先を突き立てる。
「っ、」
おぞましい光景に芙蓉は思わず顔を背けた。肉を裂き、引き千切る音。見た事のないくらいの紅が宿儺の足元を染め上げていく。胸に埋めた腕を漸く引き抜いた宿儺の手には深紅の塊が蠢いている。その塊を見せつけるように、宿儺は伏黒と芙蓉に向けて手を伸ばした。
「虎杖を人質にする。俺はコレなしでも生きていられるがな、虎杖はそうもいかん。俺と代わることは死を意味する」
言いながら宿儺は塊ー虎杖の身体から引き摺り出した心臓を投げ捨てた。
「っ、芙蓉!」
考えるよりも身体が動く、というのはこういう事かと、伏黒の声を聞きながら、芙蓉は他人事のように感じていた。芙蓉は先程宿儺が放り出した心臓を押し戻し、自身の反転術式で虎杖の身体を治す事が出来ないかとー冷静に考えれば砂上の楼閣、しかし今の彼女にはそんな冷静さは持ち合わせておらず、ただ突発的に動いただけに過ぎない。とにかく心臓を手にしなくてはと駆け出し、まだ温かさの残る心臓を手に取った。
「ほぉ…、なかなか肝が据わった女だ」
宿儺の声を背後に聞いて、芙蓉は我に返ったように顔を上げた。宿儺と目が合った、と思ったのも束の間、突然呼吸が苦しくなったー宿儺が芙蓉の首元を掴んでいた。芙蓉が抵抗する間もなく、宿儺はそのまま信じられない程の力で彼女を引き上げていく。
「っぐ…、ぅ…、」
芙蓉の足は地面から離れ、気道が狭められて取り込める酸素が少なくなる。芙蓉は必死に自身の首を掴んでいる腕に抗う。伏黒の声が遠くに聞こえる。身体は思うように動かない、意識が遠くなっていく。それでも芙蓉は気力を振り絞り、心臓を持った震える手を宿儺の胸元へ伸ばそうとする。
「…しぶとい女だな。一興だ」
宿儺の言葉が聞こえると同時に、芙蓉は自身の身体が強い力で引かれるのを感じた。引く力から解放された時、芙蓉は服が引き裂かれたのだと理解した。普段晒される事のない白い肌が露わになる。宿儺は伏黒に見せつけるように、上品とは言い難い不快な笑い声を上げながら芙蓉の鳩尾辺りに爪を滑らせる。鋭利な刃物で切り付けられたように数本の赤い線が引かれた。
「…鵺…!」
怒りを押し殺したような声で伏黒は召喚し、宿儺に向かって駆けていく。宿儺は口元に笑みを浮かべると、オモチャに飽きた子供のように芙蓉を軽々と放り出し、伏黒に対峙した。
「折角外に出たんだ…、広く使おう」
濡れた地面に倒れ込んだ芙蓉は、突然体内に入り込んできた酸素に肺が対応出来ず、激しく咳き込んだ。声が聞こえるが、酸欠からだろう、意識が朦朧とする上に身体も痺れたように、思うように動かない。先程手にした虎杖の心臓は何処かへ行ってしまったようで見当たらなかった。自分の無力さに涙が滲みそうになるが、泣いている場合ではないと自身を奮い立たせる。少しずつ呼吸が整い、身体の感覚が戻ってくると、芙蓉は奥歯を噛み締めて上体を起こした。裂かれた服の代わりとなるものは何もなく、腕で胸元を隠して辺りを窺う。と、伏黒が宿儺に投げ飛ばされたのが見えた。
「っ、恵!」
よろよろと立ち上がり、伏黒の呪力を辿る。何も出来ないと思うが、ここでじっとしているワケにはいかないという一心で伏黒を追った。