呪胎戴天、そして
恵の幼馴染のお名前は?
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梅雨明けが目前に迫る7月。暑さと湿度でじっとりと纏わりつく鬱陶しい雨が降るのが常であるはずが、この日は朝から薄ら寒く冷たい雨がしとしと降り続いていた。
西東京市、英集少年院。特級仮想怨霊の呪胎が確認され、緊急事態の為高専1年が派遣された。冷たい雨の中、補助監督の伊地知が淡々と状況の説明を始めた。
「我々の“窓”が呪胎の確認をしたのが3時間程前、避難誘導9割の時点で現場の判断により施設を閉鎖。…受刑在院者第二宿舎、5名の在院者が現在もそこに呪胎と共に取り残されておりー呪胎が変態を遂げるタイプの場合ー特級に相当する呪霊に成ると予想されます」
傘もささず、無機質な伊地知の最後の言葉に一際緊張が走る。高専生として初めて現場に来た芙蓉の顔が普段よりも白く見えるのは雨の寒さのせいか、恐怖のせいか。そんな張り詰めた空気の中、俺特級とかわかってねぇんだけど、という虎杖の言葉に釘崎がため息をつく。伊地知が嫌な顔をせず丁寧に呪霊の等級について説明をすれば、虎杖も今回の任務の重さを理解したようで、ヤッベェじゃん、と声を上げた。その声を受けて伏黒が呪霊を祓除するには同等級の術師が任務に当たる事を付け加える。今回のケースで言えば五条が出張るのが妥当だが、彼は今出張中で不在との事だ。
「この業界は人手不足が常、手に余る任務を請け負う事は多々ありますーただ今回は緊急事態で異常事態です」
そこまで言って、伊地知は眼鏡を押し上げた。
「絶対に戦わないこと。特級と会敵した時の選択肢は“逃げる”か“死ぬ”かです。自分の恐怖には素直に従ってください。君たちの任務はあくまで生存者の確認と救出である事を忘れずに」
改めて今回の任務の確認をしたところで、少し離れたところからちょっとした騒ぎが聞こえてきた。何事かと5人がそちらを向けば、1人の女性がこちら側へ来ようとするのを高専関係者に止められているところだった。
「あの…正は…息子は大丈夫なんでしょうか」
この少年院に収監されている受刑者の母親らしかった。罪を犯した罪人であろうとも、母親にとってはかけがえのない存在である子供、涙ながらに安否を問う様子が酷く痛々しく映る。
それぞれがそれぞれに、己の成すべき事を再確認すると、伊地知の先導で現場の入り口へ向かった。
異変が起きているだろう建物へ入る直前、入り口をじっと見据えたままの伏黒が口を開く。
「…芙蓉は残った方が良いな」
「…え…?」
伏黒の言葉に面食らったのは芙蓉だけでなく、虎杖と釘崎も驚いた顔を見せる。言葉を失った芙蓉に代わって虎杖が口を開いた。
「オイ伏黒、何言ってんだよ」
「言葉のままだ。芙蓉の術式はまだ不安定、今の状態ではリスクが大き過ぎる」
「っ、でも、」
「…私も、伏黒くんと同意見です」
反論しようと口を開いた芙蓉を遮ったのは伊地知だった。芙蓉が伊地知を振り返ると、普段から温厚で人が良い伊地知の真剣な眼差しが突き刺さる。
「高峰さん、」
「…わかり、ました。…あの、伊地知さん」
俯いた芙蓉は小さく返事をし、伊地知を振り返った。
「帳は、私に下ろさせてください」
雨の降り注ぐ空を仰ぐ芙蓉は涙を堪えているようにも見える。伊地知は黙って頷いた。
“闇より出でて闇より黒く その穢れを禊ぎ祓え”
芙蓉が唱えた呪詞を合図に、建物を覆うように漆黒の闇が流れ落ちてくる。それを確認した伏黒は入り口に向かいながら、佇む芙蓉を労うように彼女の肩を叩いた。
「! 夜になってく!」
「“帳”、今回は住宅地が近いからな、俺たちを隠す結界だ」
経験の少ない虎杖に説明しながら伏黒は自身の影から式神ー玉犬を召喚し、先頭に立って虎杖、釘崎と共に建物へと姿を消した。
「…風邪をひいてしまいますよ」
どれくらいそうしていたか、伊地知から声をかけられるまで、芙蓉はずっと雨に打たれたまま建物を見つめていた。屋根のある場所へ促され、漸く場所を移動した。自身から滴る水滴が足元を少しずつ濡らしていく。じわじわと水滴が広がっていく様はまるで自身の未熟さ、情けなさ、悔しさと、様々な想いが入り混じった芙蓉の胸中を表しているように見えた。
改めて芙蓉は入り口を見る。扉はぴったりと閉じられているはずなのに、どこかに隙間があってそこから呪力が漏れ出ているのではないかと思うくらい、ねっとりと纏わりつくような濃い呪力が感じられる。気を抜くと頭痛がするようだった。視線を外し、小さく深呼吸をする。
「…!」
建物の中から何かがこちらに向かってくる気配が感じられ、芙蓉は身構える。が、その気配は慣れた呪力だとわかり、伊地知を振り返る。彼も気が付いたようで、芙蓉に頷き返した。
次の瞬間、扉が勢いよく開かれた。伏黒、彼の肩に担がれた釘崎、玉犬。芙蓉と伊地知は転がるように出てきた2人を受け止めるので精一杯だった。釘崎は呪力を使い切ったようで気を失っていて、伏黒は釘崎程ではないが呪力を消耗し、酷く疲れた様子だった。芙蓉は応急処置として釘崎の傷を癒し、伊地知に託す。続いて伏黒の手当をと、彼の下へ向かうー玉犬が何かを知らせるように遠吠えをした。それが何の意味を持つのか理解出来ないが、虎杖の不在に芙蓉は酷い胸騒ぎを覚えた。
西東京市、英集少年院。特級仮想怨霊の呪胎が確認され、緊急事態の為高専1年が派遣された。冷たい雨の中、補助監督の伊地知が淡々と状況の説明を始めた。
「我々の“窓”が呪胎の確認をしたのが3時間程前、避難誘導9割の時点で現場の判断により施設を閉鎖。…受刑在院者第二宿舎、5名の在院者が現在もそこに呪胎と共に取り残されておりー呪胎が変態を遂げるタイプの場合ー特級に相当する呪霊に成ると予想されます」
傘もささず、無機質な伊地知の最後の言葉に一際緊張が走る。高専生として初めて現場に来た芙蓉の顔が普段よりも白く見えるのは雨の寒さのせいか、恐怖のせいか。そんな張り詰めた空気の中、俺特級とかわかってねぇんだけど、という虎杖の言葉に釘崎がため息をつく。伊地知が嫌な顔をせず丁寧に呪霊の等級について説明をすれば、虎杖も今回の任務の重さを理解したようで、ヤッベェじゃん、と声を上げた。その声を受けて伏黒が呪霊を祓除するには同等級の術師が任務に当たる事を付け加える。今回のケースで言えば五条が出張るのが妥当だが、彼は今出張中で不在との事だ。
「この業界は人手不足が常、手に余る任務を請け負う事は多々ありますーただ今回は緊急事態で異常事態です」
そこまで言って、伊地知は眼鏡を押し上げた。
「絶対に戦わないこと。特級と会敵した時の選択肢は“逃げる”か“死ぬ”かです。自分の恐怖には素直に従ってください。君たちの任務はあくまで生存者の確認と救出である事を忘れずに」
改めて今回の任務の確認をしたところで、少し離れたところからちょっとした騒ぎが聞こえてきた。何事かと5人がそちらを向けば、1人の女性がこちら側へ来ようとするのを高専関係者に止められているところだった。
「あの…正は…息子は大丈夫なんでしょうか」
この少年院に収監されている受刑者の母親らしかった。罪を犯した罪人であろうとも、母親にとってはかけがえのない存在である子供、涙ながらに安否を問う様子が酷く痛々しく映る。
それぞれがそれぞれに、己の成すべき事を再確認すると、伊地知の先導で現場の入り口へ向かった。
異変が起きているだろう建物へ入る直前、入り口をじっと見据えたままの伏黒が口を開く。
「…芙蓉は残った方が良いな」
「…え…?」
伏黒の言葉に面食らったのは芙蓉だけでなく、虎杖と釘崎も驚いた顔を見せる。言葉を失った芙蓉に代わって虎杖が口を開いた。
「オイ伏黒、何言ってんだよ」
「言葉のままだ。芙蓉の術式はまだ不安定、今の状態ではリスクが大き過ぎる」
「っ、でも、」
「…私も、伏黒くんと同意見です」
反論しようと口を開いた芙蓉を遮ったのは伊地知だった。芙蓉が伊地知を振り返ると、普段から温厚で人が良い伊地知の真剣な眼差しが突き刺さる。
「高峰さん、」
「…わかり、ました。…あの、伊地知さん」
俯いた芙蓉は小さく返事をし、伊地知を振り返った。
「帳は、私に下ろさせてください」
雨の降り注ぐ空を仰ぐ芙蓉は涙を堪えているようにも見える。伊地知は黙って頷いた。
“闇より出でて闇より黒く その穢れを禊ぎ祓え”
芙蓉が唱えた呪詞を合図に、建物を覆うように漆黒の闇が流れ落ちてくる。それを確認した伏黒は入り口に向かいながら、佇む芙蓉を労うように彼女の肩を叩いた。
「! 夜になってく!」
「“帳”、今回は住宅地が近いからな、俺たちを隠す結界だ」
経験の少ない虎杖に説明しながら伏黒は自身の影から式神ー玉犬を召喚し、先頭に立って虎杖、釘崎と共に建物へと姿を消した。
「…風邪をひいてしまいますよ」
どれくらいそうしていたか、伊地知から声をかけられるまで、芙蓉はずっと雨に打たれたまま建物を見つめていた。屋根のある場所へ促され、漸く場所を移動した。自身から滴る水滴が足元を少しずつ濡らしていく。じわじわと水滴が広がっていく様はまるで自身の未熟さ、情けなさ、悔しさと、様々な想いが入り混じった芙蓉の胸中を表しているように見えた。
改めて芙蓉は入り口を見る。扉はぴったりと閉じられているはずなのに、どこかに隙間があってそこから呪力が漏れ出ているのではないかと思うくらい、ねっとりと纏わりつくような濃い呪力が感じられる。気を抜くと頭痛がするようだった。視線を外し、小さく深呼吸をする。
「…!」
建物の中から何かがこちらに向かってくる気配が感じられ、芙蓉は身構える。が、その気配は慣れた呪力だとわかり、伊地知を振り返る。彼も気が付いたようで、芙蓉に頷き返した。
次の瞬間、扉が勢いよく開かれた。伏黒、彼の肩に担がれた釘崎、玉犬。芙蓉と伊地知は転がるように出てきた2人を受け止めるので精一杯だった。釘崎は呪力を使い切ったようで気を失っていて、伏黒は釘崎程ではないが呪力を消耗し、酷く疲れた様子だった。芙蓉は応急処置として釘崎の傷を癒し、伊地知に託す。続いて伏黒の手当をと、彼の下へ向かうー玉犬が何かを知らせるように遠吠えをした。それが何の意味を持つのか理解出来ないが、虎杖の不在に芙蓉は酷い胸騒ぎを覚えた。