進境
恵の幼馴染のお名前は?
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芙蓉が高専に入学して1週間。時刻は21時を回ったところ、暗くなった校庭。都心から離れ、梅雨の雨で洗い流されて澄み切った空を見上げれば無数に散りばめられた星々。寮棟から出てすぐの芝生に座り、芙蓉は夜空を見上げていた。こんなに綺麗な星空はプラネタリウムでしか見た事がないかもしれないと思ったのはつい最近の事ー不意に人の気配がして振り返る。
「…あれ、恵。…どうしたの?」
「いや…、芙蓉が出て行くのが見えたから」
伏黒は先程自販機で買ったカフェオレのボトルを差し出す。芙蓉はありがとう、と柔らかな笑みで受け取った。2人ともラフな服装、後はもう寝るだけの状態だ。
「…大丈夫か?」
伏黒は芙蓉の隣に腰を降ろしながら、彼女の顔に出来た痣、口元の絆創膏に眉を顰めた。少なくとも女の顔には相応しくないー男だから女だからと線引きをするつもりはないがー傷が痛々しい。伏黒は芙蓉に渡したものと同じボトルの封を切った。
「ん…、やっぱりなかなか上手くいかないなって」
困ったように笑う芙蓉が言う事はすぐにわかった。鍛錬は5日目を終えた。五条の手引きで高専に入ったものの、とりあえず今の芙蓉が出来るのは反転術式しかないー校医の家入のアドバイスもあって、だいぶ安定して使えているらしいが。過去に一度だけ発動させた術式に関してはもう全く駄目、という状況だった。
授業が終わり、寮へ戻ろうと参考書の類をまとめていた時、ちょっといいかい、と伏黒は五条に呼び止められた。五条に従えば高専の職員が使う小さな会議室まで連れて行かれ、何の話かと思えば芙蓉の事なんだけど、と五条は椅子に座りながら口を開いた。
「恵はさ、今の芙蓉の状態、どう思う?」
「…まだ術式の発動が上手くいっていないようですが」
「そーなのよ。そこで恵、何か芙蓉にアドバイスしたり色々相談に乗ってあげてよ」
相変わらず唐突だなーアドバイスをするのはともかく、相談に乗ると言うのはこちらから声をかけるものではないだろうと思ったが伏黒は黙っておく事にした。
「正直なところ、芙蓉は反転が出来るからすぐ術式使えるようになると思ってたんだよね。…反転に関しては硝子からは高評価なんだけど、このまま術式が扱えないとなると…、祓除に出る術師としては厳しいかな。良くて硝子の補助か、補助監督…で、最悪、窓かな。… 高専来るように芙蓉に声かけたのは僕なんだけど、術式が使えないなら仕方ないよね」
五条にしては珍しくキッパリとした物言いだった。自身の教え子、そしてそれ以前に自身の血縁ともなれば、危険な目に遭わせたくないと思うのは至極当然と言えた。なるほどそうだな、と伏黒が得心したのも束の間。
「じゃ、そーゆー事でよろしくぅ!恵と芙蓉は幼馴染だし、僕より恵相手の方が話しやすいでしょ」
そう言われてそのまま部屋を追い出されたのが2日前、伏黒はそのやり取りをぼんやりと思い出していた。
「…なぁ芙蓉。…そこまで術式に拘らなくてもいいんじゃないか?反転も使えるし、」
「反転術式じゃ呪いは祓えないんだよ」
伏黒の言葉を遮るように、芙蓉は彼に対して珍しく強い口調で、毅然とした表情を見せた。引き結んだ口元が僅かに震えているのを伏黒は見て取った。
「…1人で抱え込むなって言ったろ」
「…うん、…っ、」
芙蓉は必死に涙を堪えていた。膝を抱えている両の拳を震える程に握り締め、嗚咽を堪えている口元からはしゃくり上げるような声が聞こえ始めた。
伏黒が芙蓉を労わるように彼女の背を撫でれば、堰を切ったように芙蓉は泣き出した。これ程までに自身を追い込み、追い詰めていたのかと伏黒は驚きながらも彼女の背を撫で続けた。
「…っ、ごめん、ね」
「気にすんな。…落ち着いたか?」
伏黒は頷く芙蓉の目元を着ている服の袖で優しく拭う。
「明日の鍛錬は休んだ方がいいな」
芙蓉は驚き、ゆっくりと伏黒を振り返った。
「根を詰めるより休む方が大事だ」
「っ、でも」
「早く術式をコントロール出来るようになりたいのはわかる。けど気持ちが不安定だと呪力のコントロールも安定しない。…呪力操作の基本だろ」
芙蓉は伏黒に反論も出来ずー彼の言う事に間違いはなく、黙って俯いた。さすがにこれで話は終わり、というわけにもいかないなと、伏黒は少し考えて口を開く。
「…なんかあったんだろ?」
芙蓉は黙ってポケットからスマホを取り出し、メッセージアプリを開く。ささっと操作した後、伏黒に手渡した。受け取って表示されている画面を見ると、伏黒にとって聞いた事のない名前ー芙蓉が通っていた普通高校での友人だろうーとのやり取りだった。最新のメッセージは3日前、芙蓉でメッセージを止めている状態だった。
遡って読んでみると、芙蓉が呪霊に襲われた際、一緒にいた友人という事がわかった。
呪霊に襲われた1件以来、芙蓉はずっと学校を休んでいたという。メッセージの内容を見れば、相手側はとにかく芙蓉を心配しているようで、特に芙蓉が気に病むような事はないように見受けられた。
「…良い友達じゃねぇか」
「…うん…」
俯いたままの芙蓉を見て、女はホント難しいなと、スマホを芙蓉に返しながら伏黒は思った。
「…あれ、恵。…どうしたの?」
「いや…、芙蓉が出て行くのが見えたから」
伏黒は先程自販機で買ったカフェオレのボトルを差し出す。芙蓉はありがとう、と柔らかな笑みで受け取った。2人ともラフな服装、後はもう寝るだけの状態だ。
「…大丈夫か?」
伏黒は芙蓉の隣に腰を降ろしながら、彼女の顔に出来た痣、口元の絆創膏に眉を顰めた。少なくとも女の顔には相応しくないー男だから女だからと線引きをするつもりはないがー傷が痛々しい。伏黒は芙蓉に渡したものと同じボトルの封を切った。
「ん…、やっぱりなかなか上手くいかないなって」
困ったように笑う芙蓉が言う事はすぐにわかった。鍛錬は5日目を終えた。五条の手引きで高専に入ったものの、とりあえず今の芙蓉が出来るのは反転術式しかないー校医の家入のアドバイスもあって、だいぶ安定して使えているらしいが。過去に一度だけ発動させた術式に関してはもう全く駄目、という状況だった。
授業が終わり、寮へ戻ろうと参考書の類をまとめていた時、ちょっといいかい、と伏黒は五条に呼び止められた。五条に従えば高専の職員が使う小さな会議室まで連れて行かれ、何の話かと思えば芙蓉の事なんだけど、と五条は椅子に座りながら口を開いた。
「恵はさ、今の芙蓉の状態、どう思う?」
「…まだ術式の発動が上手くいっていないようですが」
「そーなのよ。そこで恵、何か芙蓉にアドバイスしたり色々相談に乗ってあげてよ」
相変わらず唐突だなーアドバイスをするのはともかく、相談に乗ると言うのはこちらから声をかけるものではないだろうと思ったが伏黒は黙っておく事にした。
「正直なところ、芙蓉は反転が出来るからすぐ術式使えるようになると思ってたんだよね。…反転に関しては硝子からは高評価なんだけど、このまま術式が扱えないとなると…、祓除に出る術師としては厳しいかな。良くて硝子の補助か、補助監督…で、最悪、窓かな。… 高専来るように芙蓉に声かけたのは僕なんだけど、術式が使えないなら仕方ないよね」
五条にしては珍しくキッパリとした物言いだった。自身の教え子、そしてそれ以前に自身の血縁ともなれば、危険な目に遭わせたくないと思うのは至極当然と言えた。なるほどそうだな、と伏黒が得心したのも束の間。
「じゃ、そーゆー事でよろしくぅ!恵と芙蓉は幼馴染だし、僕より恵相手の方が話しやすいでしょ」
そう言われてそのまま部屋を追い出されたのが2日前、伏黒はそのやり取りをぼんやりと思い出していた。
「…なぁ芙蓉。…そこまで術式に拘らなくてもいいんじゃないか?反転も使えるし、」
「反転術式じゃ呪いは祓えないんだよ」
伏黒の言葉を遮るように、芙蓉は彼に対して珍しく強い口調で、毅然とした表情を見せた。引き結んだ口元が僅かに震えているのを伏黒は見て取った。
「…1人で抱え込むなって言ったろ」
「…うん、…っ、」
芙蓉は必死に涙を堪えていた。膝を抱えている両の拳を震える程に握り締め、嗚咽を堪えている口元からはしゃくり上げるような声が聞こえ始めた。
伏黒が芙蓉を労わるように彼女の背を撫でれば、堰を切ったように芙蓉は泣き出した。これ程までに自身を追い込み、追い詰めていたのかと伏黒は驚きながらも彼女の背を撫で続けた。
「…っ、ごめん、ね」
「気にすんな。…落ち着いたか?」
伏黒は頷く芙蓉の目元を着ている服の袖で優しく拭う。
「明日の鍛錬は休んだ方がいいな」
芙蓉は驚き、ゆっくりと伏黒を振り返った。
「根を詰めるより休む方が大事だ」
「っ、でも」
「早く術式をコントロール出来るようになりたいのはわかる。けど気持ちが不安定だと呪力のコントロールも安定しない。…呪力操作の基本だろ」
芙蓉は伏黒に反論も出来ずー彼の言う事に間違いはなく、黙って俯いた。さすがにこれで話は終わり、というわけにもいかないなと、伏黒は少し考えて口を開く。
「…なんかあったんだろ?」
芙蓉は黙ってポケットからスマホを取り出し、メッセージアプリを開く。ささっと操作した後、伏黒に手渡した。受け取って表示されている画面を見ると、伏黒にとって聞いた事のない名前ー芙蓉が通っていた普通高校での友人だろうーとのやり取りだった。最新のメッセージは3日前、芙蓉でメッセージを止めている状態だった。
遡って読んでみると、芙蓉が呪霊に襲われた際、一緒にいた友人という事がわかった。
呪霊に襲われた1件以来、芙蓉はずっと学校を休んでいたという。メッセージの内容を見れば、相手側はとにかく芙蓉を心配しているようで、特に芙蓉が気に病むような事はないように見受けられた。
「…良い友達じゃねぇか」
「…うん…」
俯いたままの芙蓉を見て、女はホント難しいなと、スマホを芙蓉に返しながら伏黒は思った。